ヒートスプレッダとギャップフィラーで熱管理を最適化する方法
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2022-02-02
電子機器の性能と信頼性を確保するためには、優れた熱管理が重要です。熱管理の概念はシンプルで、まず不要な熱を発生源から逃がし、より広い範囲に拡散させて効果的に放熱および冷却します。しかし多くの場合、実装には困難が伴います。
熱発生デバイスの表面は一般的に十分滑らかではなく、優れた熱伝達を確保するために必要な低い熱インピーダンスを備えていません。デバイスによっては、表面が平面でないため、熱管理の課題が増大します。また、冷却が必要な部品はシステムの奥深くにあることがあり、損傷を与える可能性のある熱の抽出がさらに複雑になります。
熱伝導性を向上させるためにサーマルペーストおよびグリースを使用することができますが、優れた熱伝導を確保するために必要な範囲をカバーすることや、回路基板トレースを汚染して短絡を引き起こす可能性のある過剰な塗布を避けることは、一筋縄ではいきません。加えて、サーマルペーストおよびグリースは、熱源から横方向に熱を拡散させることができません。
その代わりとして、設計者はギャップフィラーやヒートスプレッダなどのさまざまな熱伝導材料(TIM)を利用することで、効果的な熱伝達に必要な低い熱インピーダンスを安定的に提供しつつ、汚染の懸念も解消できます。特定のシステム要件を満たすために、熱を縦方向に伝達したり、横方向に拡散したりするようなTIMの構成が可能です。TIMは、特定のアプリケーションの要件を満たすさまざまな厚さで使用できます。また、高い動作温度でも機械的に安定するため信頼性が高く、高い電気的絶縁を実現し、塗布も容易です。
この記事では、熱管理について説明し、一般的なTIM選択のガイドラインを提供します。その後、Würth Elektronikが提供するいくつかのTIMオプションを紹介し、それぞれの用途と設計上の考慮事項を考察します。
TIMの概要
TIMは熱源と冷却アセンブリの間に配置され、熱的結合と熱流を向上させます。熱的結合の効率を高める要因が2つあります。1つ目は、TIMが表面の微細な凹凸に適合するため、界面の熱伝導率を低下させる絶縁性の空気ポケットをすべて排除できることです(図1)。2つ目は、熱源から冷却アセンブリに効果的に熱を伝達するために必要な熱伝導性をTIMが備えていることです。熱伝導率(K)は、ワット毎メートル毎ケルビン(W/mK)で表されます。これは、ASTM D5470「熱伝導性電気絶縁材料の熱伝導特性の標準試験法」を用いて測定されます。
図1:TIM(青)は、部品や冷却アセンブリの表面に存在する微細な凹凸を埋めて、熱的結合を向上させるために使用されます。(画像提供:Würth Elektronik)
熱伝導率の他にも、TIMを選択する際にはいくつかの考慮事項があります。
- 動作温度範囲が重要(さまざまなTIMが異なる温度範囲で指定されているため)。
- 嵌合面間の距離および、最適な熱伝達を実現するためにTIMを圧縮する必要があるかどうか。
- TIMの圧縮圧力耐性。
- TIMの中には、表面に接着剤を塗布して機械的に固定できるものもある。
- TIMの電気絶縁特性(一部の材料は電気的絶縁を提供する目的で使用されるため)。
- 一部のTIMは、最小発注量や金型費が不要な標準部品として提供されるが、他のTIMは、特定のアプリケーション要件に合わせて最適化できるカスタム形状で提供される。
ギャップフィラーの選択肢
WE-TGFシリコーンギャップフィラーは、電気的絶縁の恩恵を受ける低圧アプリケーションで使用するように設計された汎用材料で、TIMがその厚さの10%~30%の間で圧縮されます。推奨される圧縮レベルを超えると、シリコーンオイルが排出され、材料の耐用年数が短くなり、プリント回路基板を汚染する可能性があります。これらのTIMは、機械的に固定された2つの表面の間で使用するように設計されており、自然な粘着性を超える追加の接着剤はありません。厚さは0.5~18mm、熱伝導率は1~3W/mKです。0.5~3mmの厚さで、より高いレベルの熱伝導率に対応します(図2)。
図2:Würthのサーマルギャップフィラーは、さまざまなアプリケーションのニーズに対応します。(画像提供:Würth Elektronik)
たとえば、品番40001020は、400 × 200mmのパッドで、厚さ2mm、K値は1W/mK、絶縁耐力または電気的破壊の定格(EBR)は8kV/mmです。WE-TGFギャップフィラーは、柔らかく電気絶縁特性があるため、1つまたは複数の電子部品と冷却アセンブリの間で使用するのに適しています(図3)。
図3:シリコーンエラストマギャップフィラーパッドは、1つまたは複数の電子部品と、ヒートシンク、冷却プレート、金属ハウジングといった冷却アセンブリとの間のギャップを埋めるように設計されています。(画像提供:Würth Elektronik)
電気的絶縁と薄型化を必要とする熱管理アプリケーションに対し、設計者はK値1.6~3.5W/mK、厚さ0.23mmのWE-TINS熱伝導性シリコーン絶縁パッドを使用することができます。品番404035025のK値は3.5W/mK、EBRは6kV/mmです。404035025は、WE-TINSシリーズの他のすべての部品と同様に、熱伝導性シリコーンゴムとファイバグラスメッシュを組み合わせたものです。メッシュは機械的強度を高め、貫通や剪断に対して耐性があります。この構造の機械的特性により、これらのTIMは必要に応じて圧縮することができ、高い引張強度も備えています。
熱相変化材料や熱転写テープは、厚さがわずか0.02mmとさらに薄くなっています。たとえば、WE-PCMシリーズの相変化TIMは、特定の温度で固体から液体に変化し、こぼれたりあふれたりすることなく、界面を完全なウェット状態にすることができます。これらのTIMは、高性能集積回路やパワーコンポーネント、冷却アセンブリなどで使用するように設計されています。たとえば、品番402150101020のサイズは100mm平方で、両面に接着剤を使用し、K値は5W/mK、EBRは3kV/mm、相変化温度は55℃となっています。
WE-TTT熱転写テープは、両面の接触表面を機械的に固定できる両面テープです。このテープのK値は1W/mK、EBRは4kV/mmで、低圧アプリケーション向けに設計されています。幅は8mm(品番403012008)と50mm(品番403012050)があり、25mのロール状になっています。
黒鉛熱拡散ソリューション
合成黒鉛ベースのTIMは、最高レベルの熱伝導性を提供します(図4)。WE-TGSファミリの品番4051210297017は、サイズ297 × 210mm、K値1800W/mKの合成黒鉛ヒートスプレッダで、電気的絶縁は提供しません。この黒鉛シートは、高い熱伝導性、軽量、薄さ(0.03mm)を兼ね備えているため、高電力半導体モジュールからハンドヘルドデバイスまで、幅広いアプリケーションに役立ちます。
図4:黒鉛ヒートスプレッダは、多次元的に高い熱伝導率を提供しつつ、0.03mmという薄さを実現しています。(画像提供:Würth Elektronik)
WE-TGFGシリーズは、黒鉛シートとフォームパッドを組み合わせることで、K値が400W/mK、EBRが1kV/mmという独自の熱管理ソリューションを提供します。長いガスケットは、熱源からシステムの別の部分にある冷却アセンブリへと横方向に熱を伝達するヒートスプレッダの役割を果たすように組み付けることができます(図5)。たとえば、部品407150045015は、長さ45mm、幅15mm、厚さ1.5mmで、ギャップ充填と横方向の熱伝導の恩恵を受けるアプリケーションに使用できます。
図5:高温部品の上に配置されたTIMは、部品から横方向に熱を伝達させるヒートスプレッダとして機能します。(画像提供:Würth Elektronik)
WE-TGFギャップフィラーのようなシリコーンパッドで高い熱伝導率を実現するには、パッドを薄くする必要があります。設計者は、WE-TGFGのTIMを利用することで、最大25mmのギャップをシリコーンパッドよりもはるかに高い熱伝導率で埋めることができます。また、WE-TGFGの部品は、非平面的な空間にフィットするようにカスタム形状で製造することができます(図6)。
図6:黒鉛フォームガスケット(中央)は、さまざまな形状で製造可能で、熱源(下)と非平面的な放熱素子(上)の間を結合するために使用することができます。(画像提供:Würth Elektronik)
TIMの組み合わせによる性能向上
TIMを組み合わせることで、より高いレベルの性能を発揮できます。たとえば、WE-TGS黒鉛ヒートスプレッダは、WE-TGFシリコーンギャップフィラーと組み合わせることで、熱源よりも大きなフットプリントを備えたヒートシンクの使用を可能にし、アセンブリ全体の冷却機能を向上させることができます(図7)。
図7:WE-TGS黒鉛ヒートスプレッダ(TIM1)とWE-TGFシリコーンギャップフィラー(TIM2)を組み合わせることで、高温部品のフットプリントよりも大きなヒートシンクを使用することができ、冷却効果が向上します。(画像提供:Würth Elektronik)
一般的なアプリケーションガイドライン
使用するTIMに関わらず、設計者が考慮しなければならない一般的なアプリケーションガイドラインがいくつかあります。
- 部品と冷却アセンブリの表面は、清潔で乾燥している必要があります。糸くずのでない綿棒や拭き取り繊維とイソプロピルアルコールを使用して、表面の汚れを除去してください。
- 圧縮が必要なTIMを使用する場合は、材料の表面全体を均等な圧力で圧縮する必要があります。掛ける圧力が規定の定格を超えると、材料が破損する可能性があります。
- 最高の熱伝導率を実現するには、表面の気泡や隙間をすべてなくす必要があります。
- TIMの動作温度は、周囲温度と冷却される部品の温度上昇の組み合わせに対応できる必要があります。
まとめ
熱管理は、幅広い電子システム設計において重要な問題です。この記事で示したように、設計者は、シリコーン、相変化材料、黒鉛、フォームパッドなど、さまざまな材料で製造されたTIMを活用することができます。TIMを使用することで、効果的な熱伝達に必要な低い熱インピーダンスを安定して実現しつつ、サーマルペーストやグリースを使用する際に生じる汚染の懸念を解消することができます。
ペーストやグリースは縦方向にしか熱を伝達しませんが、設計者は縦方向に熱を伝達するギャップフィラーTIMや、横方向に熱を伝達するヒートスプレッダを選択することができます。最後に、多くのTIMは最小発注量や金型費なしで入手できるため、熱管理設計のための経済的な選択肢となっています。
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