高性能RF信号チェーンにおけるSWaPの最適化方法

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

スマートフォンからラップトップ、タブレット、ウェアラブル、ドローン、アクセスポイント、スマートホーム、モノのインターネット(IoT)対応家電に至るまで、幅広い用途で高性能のワイヤレス接続への需要が高まり続けています。これらの機器の設計者にとって、重要な差別化要因はエンドユーザー体験です。そして、その大きな決め手は、ワイヤレス信号の品質・スループット・信頼性、そしてバッテリ寿命です。また、機器のサイズや重量も重要な差別化要因です。特にウェアラブルではそうです。設計者がこれらのパラメータを最適化するには、RF信号チェーンのあらゆる側面を綿密に調べる必要があります。これは、専門家にとってもRF初心者にとっても同様に困難な課題です。

そこで、本稿では、RF信号チェーンのさまざまな側面を概説し、アンテナチューナ、RFクロススイッチ、アンテナダイバーシティスイッチ、低ノイズアンプ(LNA)、および低ノイズRFトランジスタが高性能ソリューションにどのように貢献するかを説明するとともに、制御インターフェースオプションについても見ていきます。次に、Infineonが提供している代表的なコンポーネントを紹介し、それらのコンポーネントが、どのように高性能RF設計をサポートするかとともに、ますます厳しくなるサイズ・重量・電力(SWaP)の要件をも満たしているかを示します。最後に、小型RFソリューション向けのTSNP(2つの小型ノーリードパッケージ)オプションを比較します。

アンテナの基本

今日のコネクテッドデバイスにおいて、アンテナの性能は非常に重要です。一つのアンテナでも、チューニングすることで、複数の周波数帯域で良好な性能を発揮できるようになり、ソリューション全体をよりコンパクトで効率的なものにすることができます。設計者は、RF信号チェーンのアンテナチューナセクションにスイッチを使用することで、アンテナへの電力伝送を最大化し、特定のアプリケーション要件に求められる性能を最適化できます(図1)。

図:チューナセクションに使用されるアンテナチューニングスイッチ図1:アンテナチューニングスイッチは、アンテナ性能を最適化するためにチューナセクションで使用されます。(画像提供:Infineon)

RFクロススイッチ

アンテナのチューニングは、多くのアプリケーションにおいて最適な性能を確保するために、必要条件ではありますが、十分条件ではありません。その目的では複数のアンテナが必要になることがあるためです。各状況下で最高の性能を発揮するアンテナに切り替えられるようにするには、送信電力や受信感度を上げられるようにするRFクロススイッチを信号チェーンに追加します(図2)。RFクロススイッチは、役に立つアンテナに切り替えるために、効果的で高速なスイッチングを実現する必要があります。また、効率的で信頼性の高いシステム動作をサポートするために低い高調波を生成し、絶縁性は高く、挿入損失は低くすることも必要です。

図:RFクロススイッチの使用(クリックして拡大)図2:RFクロススイッチを使用することで、アップリンクまたはダウンリンクに最適な性能を発揮するアンテナに切り替えることができます。(画像提供:Infineon)

ダイバーシティスイッチとLNA

必要な帯域幅をサポートするには、最適なアンテナに切り替えるだけではまだ不十分な場合があります。そのような場合は、ダイバーシティパスと呼ばれる新しいチャンネルをRF信号チェーンに追加します。アンテナのダイバーシティにより、送受信の品質と信頼性が向上します。ダイバーシティスイッチは、Wi-Fiネットワーク機器からスマートフォンやタブレット端末まで、さまざまな用途で使用されています。このスイッチは、信号受信におけるマルチパス干渉を補正するために使用することができます。受信機(レシーバ)は着信信号を監視し、相対的な信号強度に基づいてアンテナを切り替えます。RFクロススイッチの場合と同様に、ダイバーシティスイッチにも、低い高調波を生成することと、絶縁性は高く、挿入損失は低くすることが必要とされます。

LNAは、RF信号チェーンのもう一つの重要側面です(図3)。LNAは、アンテナ管理のさまざまなアプローチと同様に、使用すれば、受信品質とデータ転送速度が向上するものです。LNAには、ゲインを固定したものと、ゲインを複数段階にして性能を微調整できるものがあります。LNAは、モノリシックマイクロ波集積回路MMIC)技術をベースにしており、これまではガリウムヒ素(GaAs)技術を使って製造されてきました。最近開発されたシリコーンゲルマニウム(SiGe)LNA MMICは、必要な周波数を低コストでサポートすることができます。LNAは極めてコンパクトなデバイスであり、非常に小さなパッケージにも容易に組み込むことができます。また、LNA MMICには静電気放電(ESD)保護機能を内蔵しているものがあり、低消費電力であるため、SWaPが重要視されるモバイル機器やウェアラブルに適しています。

図:ダイバーシティスイッチとLNA図3:ダイバーシティスイッチとLNAを使用することで、受信品質とデータ転送速度を向上させることができます。(画像提供:Infineon)

制御インターフェース

アンテナチューニングスイッチ、クロススイッチ、ダイバーシティスイッチには通常、システムコントローラとのインターフェースが必要です。シンプルな実装では、汎用入出力(GPIO)インターフェースがよく使用されます。GPIOは、未確定でソフトウェア制御可能な、IC上の信号ピンであり、必要に応じて入力または出力、あるいはその両方として動作するようにプログラミングすることができます。

より複雑な制御が必要な場合は、Mobile Industry Processor Interface(MIPI)規格が一般に使用されています。MIPIのRFフロントエンド(RFFE)制御インターフェースは、高性能RF信号チェーン用に最適化されており、半自動化された広範な高速の制御機能を提供します。MIPIのRFFEには、1バスあたり最大19個の素子(最大で4個のリーダー素子と15個のフォロワー素子)を搭載することができます。RFFEはアンテナチューナ、スイッチ、パワーアンプ、フィルタで使用できるように設計されています。MIPIのRFFEは、RF信号チェーンの設計、構成、統合を容易にし、さまざまなサプライヤのコンポーネントをサポートします。

MIPIで制御可能なLNA

設計者は、高性能RF信号チェーンでInfineonのLNA BGA9H1MN9E6329XTSA1を使用することができます。MIPIのインターフェースは、8つのゲインモードと11のバイアスモードを制御して、変化するRF環境の条件に積極的に対応することで、システムのダイナミックレンジを拡張することができます(図4)。このインターフェースは、1.4~2.7ギガヘルツ(GHz)の3GPPバンド(主にバンドB1、B3、n41、B21)で使用するように設計されています。5.8ミリアンペア(mA)の電流で最大20.2dBのゲインと0.6デシベル(dB)のノイズ指数を実現します。本インターフェースは、1.1~2.0Vの電源電圧で動作し、JEDEC47/20/22に準拠する産業用アプリケーションに適合しています。

図:本LNAのMIPIインターフェース図4:本LNAのMIPIインターフェースは、性能最適化のために8つのゲインモードと11のバイアスモードでの動作を制御することができます。(画像提供:Infineon)

本インターフェースには、厳しいSWaP要件への対応を可能にする以下のような特長があります。

  • サイズ:9ピンのTSNP-9は1.1×1.1ミリメートル(mm)で、高さが0.375mmなので、スペースに制限のあるアプリケーションに適しています。
  • 重量:TSNP-9パッケージは、軽量化が求められる用途に最適化されています。
  • 電力:LNA BGA9H1MN9E6329XTSA1のバイパス電流はわずか2マイクロアンペア(μA)のため、バッテリ駆動時間を延ばすことができます。

アンテナダイバーシティスイッチ

Infineonの広帯域SPDT(単極双投)ダイバーシティスイッチBGS12WN6E6327XTSA1は、160ナノ秒(ns)の標準スイッチング速度を持つとともに、制御ロジック(デコーダ)とESD保護機能も内蔵しています(図5)。2つのポートのどちらも、Wi-Fi、Bluetooth、超広帯域RF信号チェーン用に設計されており、ダイバーシティアンテナに接続でき、1ミリワット(dBm)を基準に最大26dBまで処理することができます。このダイバーシティスイッチは、MOS技術で製造され、GaAsデバイスの性能を備えていますが、RFポートに外付けDCブロッキングコンデンサを取り付ける必要がありません(ただし、外部DC電圧の印加が予想される場合を除く)。

このチップは、CMOS/TTL互換の1つの制御信号で駆動されるCMOSロジックを搭載しています。ポート間の高い絶縁と、9GHz以下での低い挿入損失が特長です。このデバイスは、0.7 × 1.1mm、最大高さ0.375mmと小型軽量化されたPG-TSNP-6-10パッケージで提供されます。動作電源電圧が最大4.2ボルト、標準的な電源電流が36μA、制御電流が2ナノアンペア(nA)のため、バッテリ駆動デバイスの駆動時間を最大限延ばすことができます。

図:InfineonのSPDTダイバーシティスイッチBGS12WN6E6327XTSA1図5:SPDTダイバーシティスイッチBGS12WN6E6327XTSA1は160 nsで切り替え可能で、制御ロジックとESD保護機能を内蔵しています。(画像提供:Infineon)

RFクロススイッチ

InfineonのRF CMOSクロススイッチBGSX22G6U10E6327XTSA1は、GSM、WCDMA、LTE、5Gアプリケーション専用に設計されています。本製品は、双極双投(DPDT)スイッチであり、7.125GHz以下の周波数での低挿入損失、低い高調波の生成、およびRFポート間の高絶縁を特長としています。スイッチング時間が1.3マイクロ秒(μs)のため、5Gのサウンディング参照信号(SRS)アプリケーションをサポート可能です。GPIO制御インターフェースを備え、1.6~3.6ボルトの電源電圧で動作します。PG-ULGA-10パッケージは、縦1.1 × 横1.5mm x 厚さ0.60mmで、スペースや重量に制限のあるアプリケーションに最適です。この低電力デバイスは、標準的な電源電流が25μA、制御電流が2nAです。

アンテナチューニングスイッチ

7.125GHz以下のアプリケーション向けに最適化された単極4投(SP4T)アンテナチューニングスイッチが必要な設計には、InfineonのBGSA14M2N10E6327XTSA1をご利用いただけます。高Qのチューニングアプリケーション用に設計された0.85Ω(オーム)のオン抵抗ポートを4個搭載しています。MIPI RFEEデジタル制御インターフェースは、RF信号チェーンの容易な実装を可能にします。ピーク電圧が45V、静電容量がオフ状態で160フェムトファラド(fF)と低いため、大幅な損失なしにRFアンテナ整合回路でインダクタとコンデンサの切り替えを行うのに適しています(図6)。縦1.3 × 横0.95 mm x 高さ0.375mmのTSNP-10-9パッケージと22µAの消費電流により、要件の厳しいSWaPアプリケーションをサポートすることができます。

図:インダクタとコンデンサの切り替えを効率的に行うことができるInfineonのBGSA14M2N10E6327XTSA1図6:RFアンテナ整合回路でインダクタとコンデンサの切り替えを効率的に行うことができるBGSA14M2N10E6327XTSA1(画像提供:Infineon)

RFトランジスタ

高性能のRF信号チェーンは、トランシーバとRFアンプのセクションから開始されます。これには、Infineonの広帯域NPN RF HBT(ヘテロ接合バイポーラトランジスタ)BFP760H6327XTSA1のようなRFパワートランジスタが必要です。同HBTの特長は以下のとおりです。

  • 低い最小ノイズ指数(NFmin)0.95dB(@5.5GHz、3V、10mA)を実現
  • 高い最大電力ゲイン(Gms)16.5dB(@5.5GHz、3V、30mA)を実現
  • 27dBm(@5.5GHz、3V、30mA)のOIP3(出力3次インターセプトポイント)で高直線性を実現

このパワートランジスタは産業用として認定されています。ワイヤレス通信システムと衛星通信システム、GPSナビゲーションデバイス、携帯マルチメディア機器などの高性能RFアプリケーションでの使用を想定しています。

TSNPパッケージオプション

TSNPパッケージは小型であるため、PC基板上の幾何公差が安定している必要があり、NSMD(はんだマスク非限定型)パッド設計を行う必要があります。NSMDパッドの幾何公差は、はんだレジストパッドの幾何公差よりも小さくなります。NSMDの場合、PC基板上のトレースは100マイクロメートル(μm)以下であることが必要です。底面のみ終端したTSNPのためのPC基板パッドは、LNA BGA9H1MN9E6329XTSA1、アンテナダイバーシティスイッチBGS12WN6E6327XTSA1、および前述のアンテナチューニングスイッチBGSA14M2N10E6327XTSA1で使用されています。PC基板パッドは通常、パッケージパッドの四辺を25µm大きくして外形を変更することで設計されています。

設計者は、TSNPパッドのスタイルが複数あることに注意する必要があります。パッドには、標準的なパッドのほかにも、光学式LTI(リードチップ検査)用に設計されたパッドがあるのです(図7)。LTIデバイスの場合、PC基板のパッドがパッケージの外形から最低でも400μmは大きくする必要があり、標準パッドより広い実装面積が必要となります(図7)。LTI設計は、光学検査には対応していますが、可能な限り小さなソリューションサイズを必要とするSWaP対応設計には適していません。

図:標準パッドを使用したTSNPパッケージと、大型パッドを使用したTSNPパッケージがある図7:TSNPパッケージには、標準パッド(左)を使用したものと、光LTI向けに最適化された大型パッド(右)を使用したものがあります。(画像提供:Infineon)

まとめ

さまざまなポータブルおよびウェアラブルのワイヤレスデバイスで、アンテナチューナ、RFクロススイッチ、アンテナダイバーシティスイッチ、LNA、低ノイズRFトランジスタを指定する場合は、SWaPを考慮することが重要です。ご説明してきたように、Infineonは、高性能RF信号チェーンアプリケーションで使用でき、厳しいSWaP要件も満たすことができるさまざまなデバイスを設計者に提供しています。これらのデバイスを使用することで、設計者はRF信号チェーンの信頼性と帯域幅を最適化し、バッテリ寿命を延ばすことができるのです。

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著者について

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Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

ジェフ氏は、パワーエレクトロニクス、電子部品、その他の技術トピックについて30年以上にわたり執筆活動を続けています。彼は当初、EETimes誌のシニアエディターとしてパワーエレクトロニクスについて執筆を始めました。その後、パワーエレクトロニクスの設計雑誌であるPowertechniquesを立ち上げ、その後、世界的なパワーエレクトロニクスの研究グループ兼出版社であるDarnell Groupを設立しました。Darnell Groupは、数々の活動のひとつとしてPowerPulse.netを立ち上げましたが、これはパワーエレクトロニクスを専門とするグローバルなエンジニアリングコミュニティで、毎日のニュースを提供しました。また彼は、教育出版社Prentice HallのReston部門から発行されたスイッチモード電源の教科書『Power Supplies』の著者でもあります。

ジェフはまた、後にComputer Products社に買収された高ワット数のスイッチング電源のメーカーであるJeta Power Systems社を共同創設しました。ジェフは発明家でもあり、熱環境発電と光学メタマテリアルの分野で17の米国特許を取得しています。このように彼は、パワーエレクトロニクスの世界的トレンドに関する業界の情報源であり、あちこちで頻繁に講演を行っています。彼は、定量的研究と数学でカリフォルニア大学から修士号を取得しています。

出版者について

DigiKeyの北米担当編集者