健康管理用ウェアラブルにおける高精度デジタル温度センサの活用法
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2022-08-02
高精度デジタル体温/温度測定は、ウェアラブル、医療用モニタ機器、ヘルス/フィットネストラッカー、コールドチェーン監視や環境モニタリング、産業用コンピューティングシステムなど、さまざまなアプリケーションで重要な役割を担っています。高精度デジタル体温/温度測定は広く応用されていますが、通常、温度センサの校正や線形化を伴うだけでなく高い電力を消費します。後者は、複数の温度測定モードを持つ小型・超低消費電力のアプリケーションで問題となる場合があります。このような設計上の問題はすぐに山積し、コストオーバーやスケジュールの遅延を起こす可能性があります。
さらに問題が複雑になるのは、複数の温度センサが1つの通信バスを共有するようなアプリケーションです。また、一部の製造テスト設備は米国国立標準技術研究所(NIST)規格に準拠するように校正される必要があり、検証設備はISO/IEC-17025認定機関による校正が必要です。このように、単純そうな機能が突然、足もすくむ、コストのかかるものになるのです。
本稿では、携帯式や電池駆動式の健康管理アプリケーションにおける高精度体温測定の要件について簡単に説明します。その後で、校正や線形化が不要なams OSRAMの低消費電力・高精度デジタル温度センサICを紹介します。さらに締めくくりとして、統合に関する推奨事項、評価ボード、およびBluetooth対応デモキット(搭載:センサの設定を変更することで消費電力への影響を観察できるコンパニオンアプリ)を紹介します。
高精度体温監視の要件
健康管理アプリケーションでは精度が求められます。デジタル体温/温度センサは製造中、部品ごとに性能のばらつきがあり、その対策が必要です。社内校正はコストが高くつくため、また、だからといって、校正されていないセンサを使用すると、求める精度を実現するためのコストが増大するため、設計者は完全に校正・線形化されているセンサを選定する必要があります。ただし、センサメーカーが、NIST規格への準拠可否を追跡できる校正装置を使用していることを確認してください。追跡可能な校正装置を使用することで、基本的なNIST規格に校正可能な、切れ目のないチェーンが保証されます。具体的には、チェーンの各リンクにおける不確かさが特定・文書化されるので、装置メーカーの品質保証システムで対処することが可能になります。
認定・校正機関に使用される主要規格は、ISO/IEC 17025「General requirements for competence of testing and calibration laboratories」です。ISO/IEC 17025は、特に校正・認定機関に焦点を当てた技術的原則に基づいており、それらの機関による認定に使用されるとともに、継続的改善計画を策定するための基礎となるものです。
NIST規格への準拠可否を追跡できる製造テスト機能を備えたデジタル温度センサ
設計者は、ams OSRAMのAS6211デジタル温度センサを利用することで、多くの設計/認定要件を満たすことができます。このセンサは、最大±0.09℃の精度を実現しており、校正や線形化が不要です。AS6211の製造テストは、高精度の体温情報を必要とするヘルスケア機器やウェアラブルなどのアプリケーション向けに設計されており、NIST規格に準拠するようにISO/IEC-17025認定機関によって校正されます。製造テストで校正が行われることで、EUで医療用体温計に求められるEN12470-3準拠認定を得るプロセスを効率化することができます。
AS6211は、6ピン、1.5 x 1.0ミリメートル(mm)のウェハーレベルチップスケールパッケージ(WLCSP)に収納された、完備したデジタル温度センサで、システム統合に対応しています。注文可能な品番例として、AS6221-AWLT-Sがあり、テープやリールで500個単位に納入されます。AS6211の測定値は標準的なI²Cインターフェースを介して提供されます。このインターフェースは、8つのI²Cアドレスをサポートしているので、マルチセンサ設計におけるバス競合の問題を解消することができます。
高精度と低消費電力
AS6221は、1.71~3.6VDCの電源電圧範囲全体において低消費電力で高精度を実現しております。これは、単一電池で駆動するアプリケーションでは特に重要なことです。AS6221には、高感度・高精度のシリコン(Si)バンドギャップ温度センサ、A/Dコンバータ、デジタル信号プロセッサ、および関連するレジスタと制御ロジックが搭載されています。組み込みのアラート機能は、レジスタの値を設定することでプログラムした特定の温度閾値において、割り込みを発生させます。
AS6221は、1秒間に4回の測定を行う場合には6マイクロアンペア(μA)を消費し、スタンバイモードではわずか0.1μAの電力を消費します。システムの消費電力をさらに削減するには、組み込みのアラーム機能を使って、ある温度閾値に達したときだけアプリケーションプロセッサを起動させるようにします。
ウェアラブル組み込みオプション
ウェアラブルアプリケーションでは、センサと皮膚との熱的接続が良好なほど、より正確な体温測定が可能になります。設計者が熱的接続を最適化できる方法がいくつかあります。一つは、皮膚とセンサの間に熱伝導性の高いピンを入れる方法です(図1)。安定した結果を得るには、ピンをAS6211のケースなどの外部熱エネルギー源から隔離する必要があるので、ピンとAS6211の間にはサーマルペーストまたは熱粘着剤を使用する必要があります。この方法では、AS6221センサを搭載するPCB(プリント回路基板)にフレキシブル(フレックス)PCBを使用することで、AS6221センサを配置する位置の自由度を高めることができます。
図1:フレックスPCBと熱粘着剤を使用することで、皮膚とセンサの間に低熱抵抗経路を確保することができます。(画像提供:ams OSRAM)
センサをメインPCBに配置できる設計では、コンタクトスプリングやサーマルパッドを用いて熱的接続を行うことができます。センサをPCBの底面に実装する場合、コンタクトスプリングを使って、センサが接合されているPCBにあるサーマルビアをコンタクトピンと熱的に接続することができます(図2)。この方法では、センサと皮膚間の距離が大きいのに対応する、費用対効果の高いデバイスを実現できます。ただし、高い感度を得るには、いくつかの熱界面について注意深く考慮する必要があります。
図2:PCBの底面に実装したセンサは、サーマルビアとコンタクトスプリングを使ってコンタクトピンと接続することができます。(画像提供:ams OSRAM)
第三の方法は、PCB上面に実装されたセンサをサーマルパッドでピンと接続する方法です(図3)。この方法では、熱伝導率の高いパッドが必要になるほか、コンタクトピンとセンサ間の熱抵抗を最小にするための綿密な機械設計が必要となりますが、これらはいずれもスプリングコンタクトやフレックスPCBを使用する場合には必要とならないものです。この第三の方法では、高い性能を維持しつつ、よりシンプルなアセンブリを実現することができます。
図3:上面実装のセンサをサーマルパッドでコンタクトピンと接続することができます。これにより、高い性能を維持しつつ、よりシンプルなアセンブリを実現しています。(画像提供:ams OSRAM)
熱応答時間の短縮
熱応答時間を短くするには、測定に対する外部からの影響、特にPCBのうち、センサに直接隣接する部分による影響を最小限にする必要があります。これに対する2つの有効な設計案は、PCBとセンサの間の銅プレーンを最小化するために切り込みを入れる案(図4上)、およびPCB全体の質量を減らすためにセンサの下に切り欠き領域を作成してPCBの下面からの熱負荷を軽減する案(図4下)です。
図4:PCBの上面と下面に切り込みを入れることで、センサ周辺のPCB質量を最小化し、応答時間を短縮することができます。(画像提供:ams OSRAM)
PCBの影響を最小限に抑える技術以外にも、測定のスピードや性能を向上させるための以下のような技術もあります。
- 肌との接触面積を最大化することで、センサが感知できる熱量を増加させる技術
- 薄い銅トレースを使用することで、電源プレーンとグランドプレーンのサイズを最小にする技術
- できるだけ小さい電池と、ディスプレイなどの部品を使用することで、デバイスの性能要件を実現する技術
- PCB上のセンサを周囲の部品や外部環境から熱的に隔離するためのパッケージを設計する技術
環境温度の感知
皮膚温と周辺環境の温度の両方を利用する設計などで複数の温度センサを使用する場合には、さらに考慮すべき点があります。測定を行うたびに異なるセンサを使用する必要があります。デバイスの熱設計では、2つのセンサ間の熱抵抗を最大化する必要があります(図5)。センサ間の熱抵抗が高いほど、センサ間の絶縁性が向上し、測定値が互いに干渉しなくなることが担保されます。デバイスのパッケージを熱伝導率の低い材料で製作するとともに、2つのセンサ部の間に熱絶縁バリアを挿入する必要があります。
図5:環境温度を高精度に感知するには、皮膚と環境温度センサとの間に高い熱抵抗が必要です。(画像提供:ams OSRAM)
AS6221の開発を推進する評価キット
ams OSRAMは、アプリケーションの開発と市場投入までの時間を短縮するために、評価キットとデモキットの両方を設計者向けに販売しています。AS62xx評価キットは、AS6221デジタル温度センサを素早くセットアップできるので、その能力を手短に評価するのに使用することができます。この評価キットは、体温/温度測定を行う利用できる外部マイクロコントローラ(MCU)に直接接続します。
図6:AS62xx評価キットを使用して、AS6221をセットアップおよび評価することができます。(画像提供:ams OSRAM)
AS6221のデモキット
基本的な評価が完了したら、設計者はアプリケーション開発プラットフォームとしてAS6221のデモキットを利用することができます。このデモキットには、AS6221温度センサボタンとCR2023コイン電池が含まれています。App StoreまたはGoogle Play Storeからコンパニオンアプリをダウンロードすると、一度に最大3つのセンサボタンにアクセスできます(図7)。コンパニオンアプリはBluetoothでセンサボタンと通信することで、測定頻度などセンサの設定をすべて変更したり消費電力への影響を監視したりすることができます。このアプリは測定シーケンスを記録することができるので、さまざまな温度センサの設定による性能間で比較を行うことができます。また、設計者はデモキットをアラート(警告)モードで試用してみることで、ソリューションの性能向上にデモキットをどのように利用できるかを学ぶことができます。
図7:AS6221デモキットは、AS6221の温度センサアプリケーション開発プラットフォームとして使用できます。(画像提供:ams OSRAM)
まとめ
ヘルスケア/フィットネスデバイスなどのウェアラブル向けの高精度なデジタル体温センサシステムの設計は、設計、テスト、認定のためのプロセスが複雑です。このプロセスを簡素化し、コストを下げ、市場への投入時間を短縮するには、高集積、低消費電力、高精度のセンサを使用します。
AS6221こそ、そのようなデバイスの一つであることは、これまで見てきたとおりです。AS6221は校正や線形化が不要な製造テスト設備であり、ISO/IEC-17025認定機関によりNIST規格に準拠するように校正されており、医療機器の設計・承認プロセスを効率化することができます。
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