ゼロ電圧スイッチングおよび電圧安定化の重要性に関する考察
Electronic Products の提供
2014-08-05
降圧(「バック」)DC/DC電圧レギュレータ回路設計は、電力密度(W/m3)が高まり、DC電源電圧レベルが上昇し、効率を向上させるためにシリコン電圧要求が低下していることから、困難になっています。 電源電圧と、シリコンが必要とする電圧の差により、レギュレータにわたって大きな降下が生じるため、スイッチング損失が増大し、最終的にはデバイスのスイッチング周波数が制限されます。
たとえば、プロセス制御システムは、24~3.3Vの安定化を求める可能性があり、この24~3.3Vの差は一般的に2つの安定化ステージを使用してカバーされる必要があるため、基板スペース、コスト、および信頼性の問題が増大します。 さらに、制限されたスイッチング周波数は短所となります。その理由は、制限されたスイッチング周波数により、技術者は、フィルタリング回路のためにより大きな磁気およびその他の受動部品を使用することを余儀なくされ、ソリューションサイズが増大し、電力密度に不利に作用するためです。
より高い入力電圧および電圧降下でスイッチング周波数の高速化を可能にする1つのソリューションとして、ゼロ電圧スイッチング(ZVS)があります。 このテクニックは、実質的にすべての現代スイッチング電圧レギュレータと同様に、パルス幅変調(PWM)ベースの動作を使用しますが、ZVS動作を実現するために、PWMタイミングへの付加的な別々の位相を備えています。 ZVSにより、電圧レギュレータは「ソフトスイッチング」を行うことができ、従来のPWM動作およびタイミング中に一般的に発生するスイッチング損失を回避します。
この記事は、ZVSについて述べ、その利点を説明します。
ハードスイッチング損失
ほとんどの現代非絶縁型降圧電圧レギュレータは、ターンオンおよびターンオフ遷移中のレギュレータの統合型金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)スイッチに与えられる高電流および電圧ストレスが同時に発生することにより、高スイッチング損失を受けます。 これらの損失は、スイッチング周波数および入力電圧とともに増大し、最大周波数動作、効率、および電力密度を制限します。
ハードスイッチングは、MOSFETをオンやオフに切り替える際の電圧と電流間の重複中に発生します。 電圧レギュレータのメーカーは、スイッチング波形で電流の変化率(di/dt)および電圧の変化率(dv/dt)を増加させることでスイッチング損失を最小化するために、この重複の最小化を試みています。 図1および2は、スイッチング損失が発生する場所と、これらの損失を最小化するように設計された高速変化電圧を持つ実際のスイッチング波形を示します。

図1:電圧レギュレータ損失は、MOSFETの切り替わりの際の電圧/電流重複中に発生します(Infineon Technologiesの提供)。

図2:メーカーは、重複を最小化し、効率を向上させるために、dv/dtを増加します(Infineon Technologiesの提供)。
高速スイッチングの短所は、電圧レギュレータ回路から生じる電磁妨害(EMI)の増大です。
効率を高めるために高速スイッチングを依然として活用しながらEMIの影響を最小化する1つの方法として、擬似共振スイッチング(「バレー」スイッチングとしても知られる)と呼ばれる向上したハードスイッチングテクニックを採用するスイッチングレギュレータを選択することがあります。Infineon Technologiesは、擬似共振フライバックスイッチング電圧レギュレータ向けにCoolMOSなどの各種パワーMOSFETを提供します。
擬似共振スイッチング中、スイッチング損失を最小化するために、ドレインおよびソースにわたる電圧が(バレーで)最小である時にMOSFETがターンオンされます。 これにより、デバイスは、電圧または電流のより穏やかな変化率で動作することができ、したがってEMIを低減します。 擬似共振スイッチングのもう1つの好ましい副次的影響として、固定周波数ではなくバレーが検出される時にスイッチングがトリガされるため、周波数ジッタがもたらされ、RF発光スペクトルを拡散し、さらにEMIを低減することがあります。
擬似共振スイッチングには、軽負荷でより高い損失を引き起こすという短所がありますが、最大動作周波数を制限するために周波数クランプ回路を採用することで、その問題は現代のデバイスにおいて排除されます。 図3は、MOSFETがバレーで切り替わるフライバックコンバータ向けの擬似共振スイッチング波形を示します。

図3:フライバックコンバータ向けの擬似共振スイッチング波形(Infineon Technologiesの提供)。
ゼロ電圧でのソフトスイッチング
擬似共振スイッチングは、電圧コンバータの効率を高めるための優れたテクニックですが、完全なソフトスイッチングを実装することでさらに動作を向上させることができます。 ソフトスイッチング中、MOSFETがターンオンまたはオフされる前に電圧は(最小値ではなく)ゼロに降下し、電圧と電流の間のいかなる重複をも排除して損失を最小化します。 (このテクニックはまた、電圧ではなく電流がゼロに達する時のMOSFETの切り替えに使用することができます。 これは、ゼロ電流スイッチング(ZCS)として知られています。) さらなる利点として、滑らかなスイッチング波形がEMIを最小化することがあります(図4)。

図4:ソフトスイッチングMOSFET電流および電圧波形(Infineon Technologiesの提供)。
ソフトスイッチング(ZVS)は、MOSFETのオン時間中の従来のPWMパワー変換として最もよく定義されることができますが、「共振」スイッチング遷移を備えています。 このテクニックは、出力電圧の安定化を維持するために変換周波数またはオン時間を変化させる一定のオフ時間制御を利用するPWMパワーとみなされることができます。 特定の時間単位では、この方法は、調整可能なデューティサイクルを使用する固定周波数変換に類似しています。
出力電圧の安定化は、変換周波数の変化によって得られる実効デューティサイクル(およびしたがってオン時間)を調整することで達成されます。 ZVSスイッチオフ時間中、レギュレータのL-C回路は、スイッチにわたる電圧をゼロからそのピークまで横断して共振し、スイッチを再アクティブ化して無損失のZVSを促進できる時に再びゼロに戻ります。 動作周波数や入力電圧に関わらずMOSFET遷移損失はゼロで、電力の大きな節約、そして効率の大幅な向上を表します(図5)。 このような属性により、ZVSは、高周波数、高電圧コンバータ設計向けに優れたテクニックとなります。¹

図5:従来のPWMは固定周波数を採用しますが、安定化を達成するためにデューティサイクルを変化させます。それと対照的に、出力電圧を維持するために、ZVSは(オン時間を変化させる)変換周波数を変化させます(Texas Instrumentsの提供)。
ZVSが持つその他の2つの利点には、(ZVSをスイッチング周波数の中心に置く)すべてのEMIの高調波スペクトルを低減し、より高い周波数動作を可能にする結果、低減された、フィルタしやすいノイズを実現し、より小さなフィルタコンポーネントを使用できることがあります。
1つの短所として、(特に高周波数で)MOSFETがオフに切り替わる前にすべてのエネルギーを消費したという保証がないことがあります。 長期的に、この「蓄積」エネルギーは、特に高速スイッチング電圧レギュレータにおいてコンポーネント障害を引き起こす可能性があります。 パワーモジュールのメーカーは、トランジスタからすべてのエネルギーが排出されることを確認するために、スイッチと並列に高速ボディダイオードを追加することで、この問題を克服します(図6)。²

図6:ZVSトポロジには一般的に、トランジスタからすべてのエネルギーが排出されることを確保するために、MOSFETと並列の高速ボディダイオードが含まれます(Infineon Technologiesの提供)。
動作中のゼロ電圧スイッチング
図7は、ZVS降圧トポロジの回路図を示します。 この回路は、出力インダクタにわたって接続された追加のクランプスイッチを除いて、従来の降圧レギュレータと同じです。 このスイッチは、ZVSの実装に使用される出力インダクタで蓄積されたエネルギーを許容するために追加されます。

図7:ZVS降圧トポロジ(Vicorの提供)。
ZVS降圧コンバータは、3つの主な状態で動作します。 それらは、Q1オンフェーズ、Q2オンフェーズ、およびクランプフェーズとして定義されます。 Q1は、ゼロ電流で、およびドレインソース間電圧がほぼゼロである時にターンオンします。 電流は、Q1のオン時間、インダクタにわたる電圧、およびインダクタ値によって決定されるピーク電流に対してMOSFETおよび出力インダクタで上昇します。 Q1オンフェーズ中に、エネルギーが出力インダクタに蓄積され、電荷が出力コンデンサに供給されます。 Q1オンフェーズ中、Q1での消費電力は主にMOSFETオン抵抗によって生じ、スイッチング損失はごくわずかです。
次に、Q1は急速にターンオフし、その後に(ごくわずかな消費電力を追加する)非常に短いボディダイオード伝導時間が続きます。 ボディダイオードへの電流転流中、Q1は、ピークインダクタ電流に比例してターンオフ損失を受けます。 次に、Q2はターンオンし、出力インダクタに蓄積されたエネルギーは負荷および出力コンデンサに提供されます。 インダクタ電流がゼロに達すると、同期MOSFET Q2は、出力コンデンサからの出力インダクタでのいくらかのエネルギーを蓄積するのに十分長い間オンを保持します。
インダクタに蓄積された十分なエネルギーがあるとコントローラが決定すると、同期MOSFETがターンオフし、クランプスイッチがターンオンして、VSノードをVOUTにクランプします。 このクランプスイッチは出力インダクタ電流を出力から絶縁するとともに、ほぼ無損失の方法で、蓄積されたエネルギーを電流として循環させます。 (非常にわずかな)クランプフェーズ時間中、出力コンデンサによって出力が供給されます。
クランプフェーズが終わると、このクランプスイッチが開きます。 出力インダクタに蓄積されたエネルギーは、Q1およびQ2出力静電容量の並列の組み合わせと共振し、VSノードはVINに向かって呼び出します。 この呼び出しは、Q1の出力静電容量を放電し、Q1のゲートドレイン間(ミラー)容量を減らし、Q2の出力静電容量を充電します。 これにより、Q1は、VSノードがVINにほぼ等しい時に、無損失の方法でターンオンすることができます。³
ZVSを備えたパワーモジュール
Vicorは、ZVSトポロジを採用してきた企業の主要な例です。 同社は、非絶縁型ポイントオブロード(POL)降圧レギュレータアプリケーションにおいてZVSがどのように動作するかを説明するホワイトペーパーを作成しました。
同社のCool-Power ZVS降圧レギュレータは、高密度、絶縁型DC/DC ZVSコンバータモジュールのファミリを形成します。これらの製品群は、コントローラ、パワースイッチ、プレーナ磁気、およびサポートコンポーネントを高密度面実装パッケージに統合しています。
これらのパワーモジュールは、通信アプリケーション向けの48V、堅牢な高温アプリケーション向けの28V、および産業用アプリケーション向けの24Vの3つの入力電圧動作範囲で提供されます。 これらのモジュールは、出力電圧トリミングおよびプログラム可能ソフトスタート能力を含むさまざまなプログラム可能機能を装備しています(図8)。

図8:VicorのCool-Power ZVS降圧レギュレータは、高密度、絶縁型DC/DC ZVSコンバータモジュールのファミリを形成します。
ZVSは、競合デバイスと比べて、効率を最大12%向上させると同社は主張しています(図9)。

図9:競合他社のデバイスと比較した、VicorのPicor PI13312 ZVSトポロジの効率曲線。
その他のメーカーは、フルブリッジコンバータ向けのZVS制御戦略に使用できるモジュラーコントローラを提供します。 たとえば、Linear Technologyは、この目的でLTC3722を供給しています。 この位相シフトPWMコントローラは、高効率ZVSフルブリッジパワーコンバータの実装に必要なすべての制御および保護機能を提供します。 適応型ZVS回路は、内部および外部コンポーネントの許容誤差に関係なく各MOSFETに対してターンオン信号を遅延させます。 このチップは、最大93%の効率を備えた電圧レギュレータの基礎として使用することができます。
Texas Instruments(TI)は、ZVS安定化用のDC/DCスイッチングコントローラであるUCC28950を提供します。 このコントローラは、同期整流器出力段のアクティブな制御を備え、フルブリッジコンバータの管理を行うことができます。 1次側の信号は、広い負荷電流および入力電圧範囲にわたってZVS動作を確保するために、プログラム可能な遅延を実現するとともに、負荷電流は、2次側同期整流器のスイッチング遅延を調整し、システム効率を最大化します。
エネルギー密度の上昇
高密度レギュレータは、主に、レギュレータMOSFET内での性能を妨げるスイッチング損失により、現代の電子システムの需要に遅れずについていくのに奮闘しています。 ZVSは、これらの損失に対処し、ほとんどのパワー変換設計に適用可能ですが、高電圧入力で動作するパワー変換設計に最も有利です。 PWM制御の同等のアプリケーションと比較すると、効率の大幅な向上は、高電圧、ハーフブリッジおよびフルブリッジZVSアプリケーションで得られることができます。
さらに、ZVS技術により、より低い電圧定格でスイッチを使用することが可能になります。その理由は、過渡過電圧がなく、そして1次スイッチに適用される逆電圧は多くてもピーク入力電圧に制限されるためです。 これにより、伝導損失の低減、駆動電流の低減、そしてエネルギー密度の向上などの優れた特性を持つコンポーネントを技術者が使用することができます。
この記事で扱っている部品の詳細については、このページにあるリンクを使用して、DigiKeyウェブサイトの製品情報ページにアクセスしてください。
リファレンス:
- 「ゼロ電圧スイッチング共振パワー変換」、 Bill Andreycak、Texas Instruments、1999年。
- 「ハードとソフトの両方のスイッチングのSMPSトポロジにおけるCoolMOS™の利点」、Infineon Technologies、2011年11月。
- 「高性能ZVS降圧レギュレータは、広い入力範囲のポイントオブロードアプリケーションでのパワースループット増大に対する障壁を排除」、C. R. Swartz、Vicor、2012年8月。
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