スマートシティや産業用ビルにおけるワイヤレスLED照明制御の展開方法
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2022-11-11
スマートシティやインダストリ4.0の環境において、ワイヤレス制御のLED照明システムの利用が拡大しているのは、エネルギーコストの低減(およびそれに伴う炭素排出量の削減)、照明レベルの制御、LED照明器具の高い信頼性と長い動作寿命によるメンテナンスコストの削減など、複数の利点をもたらすためです。これらのLED照明システムで最大の効果を発揮するためには、さまざまな動作モード、センシングおよび保護機能を備えた照明コントローラに加え、高効率、90~300VACの広い動作電圧範囲、高い力率(PF)、低い全高調波歪み(THD)が必要となります。さらに、システムを完成させるためには、マイクロコントローラ(MCU)、データコンセントレータ、ワイヤレストランシーバも必要です。ワイヤレスLED照明制御システムをゼロから設計することは、複数の専門分野にまたがる作業であり、大きなリスクレベルを伴うため、市場投入が遅れる可能性があります。
その代わりに、設計者はあらかじめ設計されたコネクテッドLED照明制御の開発プラットフォームを利用できます。これらのプラットフォームは、高いエネルギー効率、高PF、包括的なワイヤレス制御(オン/オフ、調光、その他のモード)、複数の独立制御LEDチャンネルを備え、最大限の設計柔軟性を提供します。また、Bluetooth Low Energy (BLE)、Zigbee、6LoWPANなどのプロトコルに対応したワイヤレス通信モジュールを搭載しています。さらに、カスタマイズ可能なファームウェア、Free RTOS、さまざまなユースケースを含む開発環境にも対応します。
この記事では、まず基本的なLED動作と照明器具の構造および、LEDと照明器具の効率を測定するための指標について説明します。また、スマートシティやインダストリ4.0のアプリケーションにおいて、照明器具の信頼性と性能を最大化するためのシャントの使用について解説します。その後、STMicroelectronicsとonsemiのコネクテッドLED照明駆動および制御開発プラットフォームと関連部品について、設計と展開の考慮事項とともに紹介します。
LED照明のスマートな制御は、照明器具の性能を最適化するために、各ストリングのLED間の相互作用を制御することから始まります。この制御にはスマートなパワー変換も含まれ、ハードウェアとソフトウェアの両方を含む複数の照明器具のワイヤレス制御にまで及びます。これにより、街路照明や産業用照明ネットワークの性能を最大限に引き出します。
一般的なLED照明器具では、複数のLEDを1つ以上のストリングに直列に配置しています。各LEDには、約3.5Vの駆動電圧が必要です。1本のストリングに通常10~30個のLEDが搭載されているため、40~100Vの電源で動作し、個々のLEDの輝度に応じて約0.35~1.0Aの電流を消費します(図1)。
図1:スマート照明器具で使用するために各16個のLEDを搭載した2本のストリング。(画像提供:onsemi)
光源の輝度は、人間の目に見える明るさを測定するルーメン(lm)で数値化され、可視光のさまざまな波長に対する目の感度を考慮したものとなっています。光源がルーメンを生成する効率は発光効率と呼ばれ、1ワットあたりのルーメン(lm/W)で測定されます。LEDは、他の一般的な照明技術よりも高い発光効率を備えています。しかし、すべてのLEDが同じ効率であるわけではなく、中には他のLEDよりも大幅に発光効率が高いものもあります。さらに、特定のLEDをより多くの電流で駆動すれば、より多くの光を生成できます。
LEDは他の照明技術に比べて信頼性が高いのですが、完璧ではありません。LEDは、特に街路照明や産業用照明で使用するような高性能な照明器具で激しく駆動させると、故障することがあります。LEDの故障には、短絡と開回路があります。ストリング内のあるLEDが短絡状態で故障した場合、そのLEDは暗くなりますが、ストリング内の残りのLEDは動作を継続します。短絡したLEDに電流が流れ続け、発熱して開回路になると、ストリング全体が暗くなります。
シャントLED
LED照明器具の設計者は、より小さな照明器具でより多くのルーメンを提供するという課題に直面しています。そのため、LEDを高温で長時間動作させる必要がある場合が多く、LEDの故障につながる可能性があります。特に街灯用照明器具は、15年程度の動作寿命が期待されています。バイパスシャントは、動作温度の上昇と寿命の延長という相反する要求を両立させるのに役立ちます。LEDがオープン状態で故障した場合は、ストリングが暗くなるのではなく、シャントがLEDをバイパスするため、故障したLEDだけが暗くなり、ストリングは正常に動作し続けます(図2)。
図2:バイパスシャントがない場合、1つのLEDの故障でストリング全体が暗くなります(左)。バイパスシャントがある場合は、故障したLEDだけが暗くなり、ストリング内の残りのLEDは動作を継続します(右)。(画像提供:onsemi)
照明器具設計のニーズに応じて、1個または2個のLEDをバイパスするために使用できるシャントが用意されています(図3)。LEDが故障した場合、各LEDをバイパスすると輝度の低下を最小限に抑えられます。一方、2個のLEDをバイパスさせると、シャントの数を半分に減らし、よりコスト重視のソリューションを実現できます。たとえば、onsemiのNUD4700SNT1Gは、ストリング内の個々のLEDをバイパスするために使用できます。LEDが動作を再開したり交換されたりすると、自動的にリセットされます。STMicroelectronicsのLBP01-0810Bは、1個または2個のLEDをバイパスできるため、設計の柔軟性を高め、部品点数を減らすことが可能になります。LBP01-0810Bは、IEC 61000-4-2およびIEC 61000-4-5で定義されているサージに対する過電圧保護機能も提供します。
図3:1個(左)または2個(右)のLEDをバイパスできるLEDシャント(点線枠内)が利用可能です。(画像提供:onsemi)
スマート街路灯
スマート街路照明システムの設計者は、STMicroelectronicsのSTEVAL-LLL006V1ボードを利用して、高電力LED照明のオプションを評価できます(図4)。統合されたHVLED001A LED照明コントローラは、さまざまな動作モード、センシングおよび保護メカニズムを搭載し、STP21N90K5 MOSFETを使用してインテリジェントで効率的なパワーコンバータを実現します。このLEDドライバボードは、VIPER012LSTRオフライン高電圧コンバータICを使用し、0.7Aの定電流で60~110Vの直流電流を出力します。スマートな街路照明アプリケーションのニーズを満たすため、このドライバの入力範囲は90~300VAC、PFは0.97以上、THDは15%以下となっています。組み込みのSPSGRFCサブ1GHzトランシーバモジュールは、オン、オフ、調光のコマンドを受信し、内蔵のSTM32L071KZマイクロコントローラに送信するために使用できます。また、5段階のアナログ調光に対応しています。
図 4:STEVAL-LLL006V1 LED照明開発ボードは、電源管理とワイヤレス接続を含むプラットフォームの一部です。(画像提供:STMicroelectronics)
開発ツール
STEVAL-LLL006V1評価ボードの開発プロセスを迅速化して機能を強調するために、データコンセントレータユニット(DCU)とAndroidモバイルアプリケーションが利用可能です。DCUは、NUCLEO-F401REプラットフォーム上に構築された統合評価環境です。これには、STEVAL-LLL006V1とのサブ1GHz通信用のX-NUCLEO-IDS01A4ボードと、モバイル機器とのBluetooth通信用のX-NUCLEO-IDB05A2ボードが搭載されています。STMicroelectronicsは、スマート街灯コントローラのメッシュ形成やネットワーク機能の評価に利用できる6LoWPAN Smart Streetlightモバイルアプリケーションも提供しています。
産業用LED照明
産業用LED照明のコネクテッドソリューションは、onsemiのLIGHTING-1-GEVKコネクテッド照明プラットフォームを使用して試作することができます。この開発プラットフォームは、ワイヤレス制御、オフラインのAC/DC電源またはオプションのPoE(Power over Ethernet)電源の使用選択、LEDモジュール、LEDドライバモジュールに加え、すべてを結びつけるBLE接続モジュールなどの機能も備えています。利用可能な制御オプションには、onsemiのRSL10 Sense and Controlモバイルアプリやウェブクライアントの使用が含まれます。この開発プラットフォームには、Free RTOS、カスタマイズ可能なファームウェアを備えたCMSIS-Packおよび、産業用LED照明のコネクテッドソリューションの利用を検討開始するためのいくつかのユースケースが含まれています。
基本的なLIGHTING-1-GEVKキットには、デュアルLEDドライバ、2本のLEDストリングを搭載したLEDボード、AC/DC電源、BLE通信モジュールが含まれます(図5)。また、最大90Wを提供可能なPoE電源モジュールも別途用意されています。キットに含まれるさまざまなボードの主な仕様は、以下の通りです。
- デュアルLEDドライバ:最大96%の効率、4,000ステップで0.6%まで調光可能な最大25WのFL7760 LEDドライバ2個、各LEDドライバの電流・電圧測定などのテレメトリデータ、ワイヤレス接続をサポートするプラグ式MCUモジュール用ヘッダが搭載されています。
- LEDボード:各チャンネルに16個のLEDを搭載する独立したデュアルチャンネル。1チャンネルには121lm定格のLED、もう1つのチャンネルには95lm定格のLEDを搭載しており、合計7,000lmの輝度が得られます。
- AC/DC電源:PFCを備えたFL7740 1次側安定化フライバックコントローラを2個搭載し、入力範囲90~270VACで動作します。55Vで70Wの出力を生成してLEDドライバボードに給電し、0.99以上のPF、91%以上の効率を備えています。
- BLEモジュール:コネクテッド照明プラットフォームは、次の3つのBLEサービスを使用します。コネクテッドデバイスがLEDの状態をリモートで読み取り、変更するために使用する照明制御サービス。コネクテッドデバイスがLEDドライバの電圧と電流を監視するために使用するテレメトリサービス。PoEパワーインジェクタによってデバイスに課せられたPoE電力の制限に関する情報を提供するPoE電力供給サービス。
図5:基本開発キットには、デュアルLEDドライバ、デュアルLEDストリング、AC/DC電源、BLE接続モジュールが含まれます。(画像提供:onsemi)
拡張ボード
LIGHTING-1-GEVKキットには、BLE-SWITCH001-GEVB環境発電BLEスイッチとMULTI-SENSE-GEVBマルチセンサボードという2種類の拡張ボードが用意されています(図6)。LEDの輝度はBLEスイッチでコントロールできます。スイッチを長押しすると、輝度が増加します。スイッチを離したり、最大輝度に達したりした場合は、光度が一定に保たれます。スイッチをもう1回押すと、輝度が減少します。マルチセンサボードは、周囲光センサ、環境センサ、慣性モーションセンサを含むシステムの試作をサポートします。
図6:LIGHTING-1-GEVKキットには、BLEスイッチとマルチセンサボードという2種類の拡張ボードが用意されています(上部の緑色の枠内)。(画像提供:onsemi)
設計と展開のオプション
LED街灯や産業用照明器具は、照明ネットワークの設計や展開を見直す新たな機会をもたらしています。通常置き換えられる技術とは異なり、LEDは調光可能であるため、交通/利用パターン、時間帯、さらには一連のセンサなどのさまざまな要素を統合し、必要に応じて照明レベルを最適化するスマートシティやスマートインダストリ4.0の施設を設計する機会を生み出します。
スマートシティでは、ワイヤレスメッシュネットワークが自然な選択肢となりますが、インダストリ4.0の施設では、ワイヤレスまたはEthernet接続で制御を実装できます。Ethernetには、通信だけでなく電力も供給できるという利点があります。いずれの場合も、温度センサ、湿度センサ、さらにはカメラセンサを照明器具に組み込むことができるため、機能性が向上します。さらに、内部温度やLEDの短絡または開放など、照明器具自体の動作状況を監視することで、予防的メンテナンスの予定を立て、運用コストを削減できるようになります。
まとめ
上述のように、信頼性の高い効率的なコネクテッドLED照明システムの設計は、照明器具の設計から始まります。LEDは最適なレベルのルーメンを提供できるように選択する必要があり、シャントを使用することで照明器具の信頼性と性能を大幅に向上できます。スマートシティやインダストリ4.0の施設において、有線またはワイヤレスで接続されたLED照明を使用することにより、エネルギー消費の削減に加え、継続的なメンテナンスコストと運用コストの削減が可能になります。スマートコネクテッドLED照明ソリューションの設計と展開を加速化するのに役立つ包括的な開発プラットフォームが用意されています。

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