FPGAとASIC向けの小さなフォームファクタで低ノイズ、高密度の電力を実現する方法
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2023-04-06
車載用、医療、電気通信、産業、ゲーム、民生用オーディオ/ビデオなどのアプリケーションにおいて、FPGAやASICなどの大電流を必要とするデジタルICが、組み込みシステムの中心となってきています。これらの多くのアプリケーションは、自動車運転支援システム(ADAS)のようなミッションクリティカルなものや、データセンターのような高信頼性を必要とするものです。
電流要件に加え、このような低電圧デバイスでは、電源レールの許容差の仕様も厳しくなっています。この電力を提供しながら、効率、精度、高速過渡性能、安定性、低ノイズを実現することが、システムのパフォーマンスとインテグリティにとって重要です。
従来のスイッチングレギュレータコントローラや電源サブシステムは、出力レール上および放射される電磁妨害(EMI)や無線周波数干渉(RFI)、不十分な過渡応答、レイアウトの制限など、潜在的なノイズの問題を抱えています。ノイズを最小限に抑えるために、一部のアプリケーションでは、初期の低ドロップアウト(LDO)レギュレータよりも効率性の高い、小型で静かなLDOが使用されています。しかし、このようなLDOでもなかなかシステムの効率要件を満たすことができず、熱放散が懸念材料となっています。
LDOに代わる効率的なデバイスとしてスイッチングレギュレータがありますが、これらのデバイスはクロックとスイッチング機能を備えているため、本質的にノイズが大きくなります。このノイズを軽減しなければ、このようなスイッチングデバイスを最大限に活用することはできません。
幸いなことに、ノイズと効率のバランスをとる新たな方法が生まれています。この記事では、高効率で最小限のスペースしか必要とせず、スイッチングレギュレータのノイズも大幅に低減できる、最近の革新的なパワー変換設計技術を紹介します。革新的なスイッチングレギュレータが、1桁電圧、10アンペア(A)以下の負荷に対する複数の目標をどのように達成できるのかを探ります。その例としてAnalog DevicesのLTC33xxファミリの小型Silent Switcher ICを紹介します。
電流・電圧の必須事項
20世紀後半にトランジスタやICが発明され、発展していたとき、その長所は主として、機能ごとの電力要件が真空管に比べ非常に小さく、100分の1未満にもなることでした。 しかし、この進歩に伴い、デバイスや回路基板あたりの機能密度が高まり、ICは1レールあたり数十アンペア、しかも複数のレールを必要とするようになりました。
このような大電流を必要とし、最終的に大電力を熱として放散する必要があるICとして、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)や特定用途向けIC(ASIC)が挙げられます。どちらも、車載用、医療、産業、通信、ゲーム、民生用オーディオ/ビデオ機器など、エレクトロニクス業界全体にわたり、組み込みデバイスに広く使用されています。
FPGAやASICが必要とする電流は、ライン電源駆動デバイスの場合はAC/DCコンバータ、バッテリ電源駆動の場合はDC/DCコンバータを介して供給することができます。いずれの場合も、必要な電流レベルで負荷に1桁のレール電圧を供給・管理するために、後続のDC/DC降圧(バック)レギュレータが必要です。
必要な電力を供給する1つの方法として、単一のDC/DC降圧レギュレータを使用してすべての回路基板デバイスをサポートし、その配置をプリント基板の端や隅にすることで熱放散の問題を管理し、DC/DCシステムレベルのアーキテクチャを単純化する方法が挙げられます。
しかし、この単純に聞こえるソリューションにも問題があります。
- まず、レギュレータと負荷の間には、その距離と高い電流レベルのために回避不可能なIRドロップがあります(ΔVドロップ = 負荷電流I x トレース抵抗(R))。その解決策として、プリント基板のトレース幅や厚みを増やしたり、スタンドアップバスバーを使ったりすることが考えられますが、これらは貴重な基板面積を使い、構成部品(BOM)を増やすことになります。
- IRドロップを克服する1つの方法は、負荷の電圧をリモートセンシングすることですが、これは一点集中で分散していない負荷にしか有効ではありません。また、電源レールやセンシングリードが長くなると、そのインダクタンスがレギュレータやレールの過渡性能に影響するため、潜在的な発振の問題も新たに発生します。
- 最後に、多くの場合、最も管理が難しい問題ですが、電源レールが長いと、EMI/RFIノイズのピックアップが多くなります。あるいは、アンテナのように、ノイズをその長さに沿って放射するようになります。通常、バイパスコンデンサの追加やインラインフェライトビーズなどの対策が必要です。このノイズは、その大きさや周波数によっては、負荷の信頼性の高い動作に悪影響を及ぼすため、ノイズ放射に関するさまざまな規制を満たすことが難しくなる可能性があります。
ノイズ対効率という難問
DC/DCレギュレータの「ノイズ対効率」という難問は、通常のエンジニアリング設計のトレードオフとは異なるシナリオであることに注意する必要があります。そのような状況では、トレードオフを評価し、有利な属性と不利な属性のバランスをとる「スイートスポット」を見つけるシナリオがよく見られます。
この状況はどう違うのでしょうか。トレードオフのシナリオの多くは、設計者が、あるパラメータ値を少なくする代わりに、別のパラメータ値を多くすることを意図的に受け入れ、連続的にトレードオフに対応するものです(図1、上段)。
図1:ほとんどの設計状況では、エンジニアがトレードオフを評価し、連続的にさまざまな性能のトレードオフを行うことができます(上)。しかし、スイッチングレギュレータ対LDOのノイズ/効率については、「妥協点」がほとんどなく、最終的にどちらかに傾くことになります(下)。(画像提供:Bill Schweber)
たとえば、高いスルーレート(良い)を実現するために、他のオペアンプと比較してより多くの電流を消費する(悪い)オペアンプを選択することがあります(トレードオフ)。つまり、トレードオフはアプリケーションで許容できるものか、もしくは必要なものです。
しかし、スイッチングレギュレータやLDOの場合、ノイズや効率の特性はその構造にほとんど「織り込まれています」。たとえば、効率が10%向上する代わりに、ノイズが20%増加するLDOを設計者が受け入れるというようなトレードオフは存在しないのです。その代わり、属性トレードオフのスパンにはギャップがあります(図1下段)。
トレードオフのジレンマを解消するSilent Switcherレギュレータ
代わりのソリューションであり、通常、より優れた解決策となるのが、DC/DCレギュレータを負荷ICのできるだけ近くに設置する方法です。これにより、IRドロップ、プリント基板のフットプリント、レールノイズのピックアップと放射を最小化することができます。しかし、この方法を実現するには、負荷の横に置いても電流の要件をすべて満たすことができる、小型で効率的な低ノイズのレギュレータが必要です。
これで、数多くのSilent Switcherレギュレータが問題を解決できます。数アンペアから10Aまでの電流レベルで1桁の電圧出力を実現するだけでなく、複数の設計革新により極めて低いノイズを実現します。
こうしたレギュレータは、Silent Switcher 1(第1世代)やSilent Switcher 2(第2世代)といったデバイスにより、従来のLDO対スイッチングレギュレータのギャップの概念を覆しています。これらのデバイスの設計者は、さまざまなノイズの発生源を特定し、それぞれのノイズを減衰させる方法を考案したのです。
なお、Silent Switcherのレギュレータは、クロック信号に擬似ランダムノイズを加えるという、よく知られた王道の「スペクトラム拡散」技術を使用していません。これにより、ノイズのスペクトルが広がり、クロック周波数とその高調波での振幅が小さくなります。スペクトラム拡散クロッキングを使用することで、規制値をクリアすることは可能ですが、ノイズエネルギーの総量が減るわけではありません。実際には、回路性能に影響を与えるノイズがスペクトラムの一部に含まれる可能性があります。
Silent Switcher 1の利点は、低EMI、高効率、高いスイッチング周波数により、残りのノイズの多くを、システム動作の妨げになったり規制上の問題になったりするスペクトル部分から遠ざけられることです。Silent Switcher 2は、Silent Switcher 1の技術特長に加え、高精度コンデンサの内蔵、ソリューションサイズの縮小、プリント基板レイアウトの影響を受けにくいなどの利点を備えています。
これらのスイッチャは、その小さなフォームファクタ(わずか数平方mm)と効率性から、負荷となるFPGAやASICのごく近くに配置することができ、それによって性能を最大限に引き出し、データシートの性能仕様と実際の使用時との間の不確実性を排除することができます。ノイズが多いか、効率が悪いかという「二律背反」のジレンマを解消し、ノイズと効率のどちらも妥協しない設計を可能にします。
どのようにして、これらのSilent Switcherの利点は実現したのでしょうか。次のような、多面的なアプローチによってです。
- スイッチング電源のノイズの主な原因は、定常電流ではなく、スイッチング電流です。従来のスイッチングレギュレータのトポロジでは、ホットループと呼ばれる電流の経路が存在します。このホットループは独立した電流ループではなく、2つの実電流ループを構成要素とする仮想の電流ループにすぎません(図2)。
図2:通常のスイッチングレギュレータのトポロジには、ホットループと呼ばれる仮想の電流ループがあります。これは2つの実電流ループを構成要素としており、電流が切り替えられます。(画像提供:Analog Devices)
Analog DevicesのSilent Switcher 2テクノロジーは、入力コンデンサをICパッケージに統合することで、クリティカルホットループを可能な限り小さくしています。また、ホットループを左右対称に2分割することで、逆極性の2つの磁界が発生し、放射ノイズが大きく打ち消されます。
- 第2世代のアーキテクチャは、高速スイッチングエッジをサポートし、高いスイッチング周波数での高効率を実現すると同時に、良好なEMI性能も実現しています。DC入力電圧(VIN)上の内部セラミックコンデンサは、すべての高速AC電流ループを小さく保ち、EMI性能を向上させます。
- Silent Switcherアーキテクチャは、独自の設計とパッケージング技術により、非常に高い周波数での効率を最大化し、超低EMI性能を可能にします。非常に小型の堅牢な設計を用いることにより、CISPR 25 Class 5ピークEMI制限を容易にクリアします。
- 出力電圧が負荷電流に依存するアクティブ電圧ポジショニング(AVP)方式を採用しています。軽負荷時には出力電圧を公称値以上に調節し、全負荷時には出力電圧を公称値以下に調節します。DC負荷レギュレーションを調節することで、過渡性能を向上させ、出力コンデンサの要件を低減しています。
Silent Switcherの数多くのファミリ
Silent Switcherレギュレータには、多くのファミリやモデルがあり、各ファミリ内で電圧/電流の定格が異なります。また、出力が固定か調節可能かなど、モデルによって考慮すべき点が異なります。LTC33xxファミリのさまざまなメンバーの中には、以下のようなものがあります。
- LTC3307:2mm x 2mm LQFNパッケージの5V、3A同期式降圧Silent Switcher
- LTC3308A:2mm x 2mm LQFNパッケージの5V、4A同期式降圧Silent Switcher
- LTC3309A:2mm x 2mm LQFNパッケージの5V、6A同期式降圧Silent Switcher
- LTC3310:3mm x 3mm LQFNパッケージの5V、10A同期式降圧Silent Switcher 2
LTC3310は、2.25~5.5Vの入力電源から最大10Aの出力電流を供給できる超小型、低ノイズ、モノリシック、降圧DC/DCコンバータで、VOUTの範囲は0.5V~VINです。スイッチング周波数は、500キロヘルツ(kHz)から5メガヘルツ(MHz)までです。必要な外部受動部品はわずかで、出力負荷範囲の大部分で約90%の効率を実現します(図3)。
図3:LTC3310降圧DC/DCレギュレータは、外部能動部品が必要で、その負荷範囲のほとんどで高効率を実現します。(画像提供:Analog Devices)
4つの基本バージョンが入手可能です。デバイスは、最大5MHzのスイッチング周波数で低EMIと高効率の両方を実現します。また、LTC3310ファミリの中には、AEC-Q100の車載用規格に適合したバージョンもあります。なお、第1世代(SS1)デバイスのLTC3310と第2世代(SS2)デバイスのLTC3310SおよびLTC3310S-1には、出力調節型と出力固定型があります(表1)。
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表1:LTC3310は、第1世代と第2世代の設計を代表する4つの基本バージョンと、固定出力と調節可能出力バージョンが提供されています。(画像提供:Analog Devices)
調節可能なバージョンでは、正しい抵抗値を決定するための簡単な方程式を使用して、出力とフィードバック(FB)ピン間の抵抗分割器により出力電圧がハードプログラミングされています(図5)。
図5:調節可能なLTC3310デバイスの出力電圧を確立するには、簡単な方程式に基づく基本的な抵抗分割器のネットワークが必要なだけです。(画像提供:Analog Devices)
ノイズレベルは通常、数十マイクロボルト程度です。LTC3310デバイスの低ノイズ性能を示す2つの重要な指標は、関連するCISPR25 Class 5のピークリミットに準拠して実施されたノイズ試験です。伝導ノイズ(図6)、水平面・垂直面の放射ノイズ(図7)などがあります。
図6:LTC3310Sをベースに適切に配置されたレギュレータは、厳しいCISPR25伝導EMIエミッション(Class 5ピーク)制限を満たしています。(画像提供:Analog Devices)
図7:放射エミッション試験において、LTC3310SはCISPR25の水平面(左)と垂直面(右)の両方のEMI指令に適合しています。(画像提供:Analog Devices)
LTC3310ファミリのもう1つの特長は、他の多くのスイッチングレギュレータがサポートしていない(または辛うじてサポートしている)多相大電流動作でのデバイスの並列使用が容易であることです。最もシンプルな並列化は、最大20Aまでの電流が得られる2相動作向けです(図8)。この方法は、3相、4相、またはそれ以上の相や、それに対応する大電流に簡単に拡張することができます。
図8:いくつかの部品を追加することで、2つ以上のLTC3310デバイスを組み合わせて、多相大電流動作を実現することができます。表示されているのは2相/20Aの構成です。(画像提供:Analog Devices)
評価ボードで設計サイクルを短縮
LTC3310デバイスのようなレギュレータは、初期化レジスタ、ソフトウェア制御機能、その他の複雑なセットアップがないため、直接的に応用することができます。しかし、最終的なレイアウトや部品表を決定する前に、静的・動的性能を評価し、受動素子の値を最適化することは、技術的に理にかなっています。LTC3310の評価ボードがあれば、この作業は非常に簡単になります。Analog Devicesでは、LTC3310のバージョンや構成に合わせて、次のようなボードを用意しています。
- DC3042Aは、出力調節可能なLTC3310デバイスをサポートしています(図9)。
図9:DC3042A評価ボードは、出力電圧がユーザー設定可能なLTC3310用に設計されています。(画像提供:Analog Devices)
基本的な設定や操作方法に関するユーザー向けの説明のほか、回路図、基板レイアウト、部品表(BOM)などが含まれています。また、さまざまな試験点や接続、出力リップルやステップ応答を測定するためのプロービング配置も記載されています(図10)。
図10:DC3042Aのユーザー向けデモマニュアルには、試験点や接続(上)、出力リップルやステップ応答を測定するためのプロービング設定や構成が明確に記載されています。(画像提供:Analog Devices)
- 出力電圧が固定されているLTC3310S-1向けには、DC3021Aという評価ボードがあります(図11)。
図11:出力電圧をユーザーが調節できないLTC3310S-1の場合、DC3021A評価ボードが適切な選択となります。(画像提供:Analog Devices)
- 最後に、やや複雑な多相並列配置のために、DC2874A-Cも用意されています(図12)。この評価ボードでは、LTC3310Sを多相2.0MHz、3.3-1.2ボルトの降圧レギュレータとして動作させています。DC2874Aは、2相/20A、3相/30A、4相/40Aの出力ソリューションを提供する3つの構築オプションがあります。
図12:LTC3310S用評価ボードDC2874A-Cには、2相/20A、3相/30A、4相/40A出力の3つの構築オプションがあります。(画像提供:Analog Devices)
LTC3310Sを使用し、適切な評価ボードとそれに対応するユーザーマニュアルに時間をかけることで、設計者はDC/DCレギュレータの性能に費やす時間を最小限に抑えることができます。
まとめ
従来、エンジニアは相反する特性を持つ2つのDC/DCレギュレータトポロジから選択する必要がありました。LDOは非常に低ノイズのDC出力が可能ですが、効率が低く、1A程度の出力を超えると熱的な問題が発生します。一方、スイッチングレギュレータは90%台の効率を実現しますが、DC出力レールにノイズが加わり、伝導ノイズ、特に放射ノイズの発生源となるため、規制当局から義務付けられている試験に合格できない可能性が高くなります。
幸い、Analog DevicesのSilent Switcherファミリは、この「どちらかを選ぶ」というジレンマを克服するさまざまな革新的設計技術を採用しており、高効率、超低ノイズ、小型フォームファクタのレギュレータオプションを実現しています。

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