受動部品の慎重な選択と使用による自動車システムの信頼性向上

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

車載用エレクトロニクスは、車載用電子制御ユニット(ECU)、インフォテイメントシステム、先進運転支援システム(ADAS)など、様々なアプリケーションで需要が拡大しています。車載用電子システムは、信頼性と堅牢性を実現するために、フィルタリングやエネルギー貯蔵のためのコンデンサ、回路保護用のバリスタ、ECUを小型化するためのコネクタ、コネクティビティを実現するRF/マイクロ波の受動部品/アンテナなど、様々な高性能部品に依存しています。

車のどの部分に搭載されるかによって、温度、衝撃・振動、湿度、過渡電圧、静電気放電(ESD)など、対応すべき環境要件が異なる場合があります。しかし、いずれの場合も、AEC-Q200の要求事項を満たす受動部品が求められます。

設計者は、自動車設計全般の課題、特にAEC-Q200準拠の性能基準に確実に対応するために、数ある部品の中から慎重に選択する必要があります。この選択は、関係する部品の数や種類によっては、困難で時間がかかる場合があります。

高度な車載用電子システムに関する課題に確実に対応し、開発期間を最短にするために、既に車載用規格に準拠した広範な部品を持つ、実績あるサプライヤ1社を利用することを設計者にはお勧めしております。このような部品としては、コンデンサ、回路保護デバイス、コネクタ、RF/マイクロ波の受動部品/アンテナなどがあります。

そこで本稿では、設計者が利用可能ないくつかのコンデンサ技術(含む:Kyocera AVXの代表的なデバイス)の動作特性とそのアプリケーション適合性を手短に比較します。次いで、車載用ソリューションで使用される回路保護デバイス、コネクタ、RF/マイクロ波の受動部品/アンテナの例を紹介します。

車載用コンデンサ

10ボルト(V)以下の電圧、100マイクロファラッド(μF)までの静電容量といった一般的なアプリケーションニーズに対する能力の点で、大きく重複しているコンデンサ技術がいくつもあります(図1)。しかし、だからといって、それらのコンデンサ技術がすべてのアプリケーションに同じように適しているわけではありません。設計者が選択時に考慮しなければならないのは、性能の微妙な違いです。そのように必要な考慮事項としては、印加電圧による静電容量の変化(電圧係数)、温度による静電容量の変化(温度係数)、周波数による等価直列抵抗器(ESR) の変化(インピーダンス曲線)などがあります。

グラフ:類似性がある複数のコンデンサ技術図1:電圧と静電容量の定格から見ると、複数のコンデンサ技術には類似性があります。(画像提供:Kyocera AVX)

高いCV積(静電容量と電圧の積)定格を持つ積層セラミックコンデンサ(MLCC)は、小さなパッケージに高い静電容量を蓄えることができます。高CVのMLCCとフットプリントが共通なものとして、一部の固体タンタル/タンタルポリマーコンデンサがあります。しかし、その中でも、酸化ニオブコンデンサは、体積静電容量定格が高CVのMLCCよりもやや低くなっています。高CVのMLCCが搭載する誘電体は、以下の2種類からお選びいただけます。

  • X5R誘電体:高CVのMLCCにおいて、最大100μFという高い静電容量定格を実現することができます。
  • X7R MLCC:通常、最大約22µFに制限されていますが、優れた温度安定性を備えています。

たとえば、X7R MLCC 12103C106K4T4Aは、10μFおよび25Vの定格を有しています。また、-55~+125℃において、静電容量の非線形温度変動を±15%以内に抑えることができています。さらに、X7Rの静電容量は電圧や周波数によって変化します。誘電体X7Rを搭載したMLCCは、印加電圧による静電容量の変化が既知で許容できるアプリケーションに特に適しています。

電圧係数と温度係数

高CVのMLCCは比較的安定していますが、バイアス電圧が定格電圧(RV)に向かって高くなると、静電容量が減少します。タンタルコンデンサ、酸化ニオブコンデンサ、ポリマーコンデンサは電圧係数がフラットです。また、高CVのMLCCは高温と低温で静電容量が減少しますが、タンタルコンデンサ、酸化ニオブコンデンサ、ポリマーコンデンサの温度係数は小さな変化幅にとどまっています(図2)。

画像:タンタルコンデンサは電圧係数がフラットで、温度係数の変化幅が小さくなっています。図2:タンタルコンデンサはMLCCと比較して、電圧係数がフラット(左2つのグラフ)で、温度係数の変化幅が小さくなっています(右のグラフ)。(画像提供:Kyocera AVX)

周波数によるESRの変化

インピーダンス曲線も重要です。高CVのMLCCは鋭い共振特性と低ESR特性を示すのに対し、タンタルコンデンサや酸化ニオブコンデンサは広帯域インピーダンス曲線を示します(図3)。タンタルコンデンサおよび酸化ニオブコンデンサは、低温でESRが高くなります。ポリマーコンデンサは、広帯域インピーダンス特性を持ち、タンタルコンデンサや酸化ニオブコンデンサに比べESRが低いのが特徴です。ESRは、低温では、ポリマーコンデンサの場合、低いままであるのに対し、タンタルコンデンサや酸化ニオブコンデンサの場合、高くなります。

画像:タンタルコンデンサは広帯域インピーダンス曲線を示します。図3:タンタルコンデンサは広帯域インピーダンス曲線(オレンジ色)を示すのに対し、高CVのMLCCは低ESR(青色)を示します。(画像提供:Kyocera AVX)

タンタルコンデンサはECU向け

車載用ECUの設計者は、Kyocera AVXのAEC-Q200準拠F97シリーズ タンタルコンデンサを利用することができます。このコンデンサは、定格電圧6.3~35ボルト、動作温度範囲-55~125℃、最大容量150μFとなっています。たとえば、F971A107MCCは10ボルトおよび100μFの定格です。

ポリマーコンデンサはボディエレクトロニクス向け

ポリマーコンデンサでは、動作温度範囲はタンタルコンデンサと同じく-55〜+125℃ですが、RV(定格電圧)は50Vまで対応可能なものが用意されています(タンタルコンデンサでは35V)。AEC-Q200認定のTCQポリマーコンデンサシリーズは、最大470μFの静電容量と、125℃でAEC-Q200規格の2倍である2,000時間という定格寿命を有しています。これらのコンデンサの車載用アプリケーションとしては、ボディエレクトロニクス、インフォテイメント、車室制御、快適性向上システムなどがあり、4ボルトおよび330µFを定格とするTCQD337M004R0025Eのようなコンデンサが有効であると言えます。

酸化ニオブコンデンサは車載用システム向け

OxiCap NOJシリーズなどの酸化ニオブコンデンサは、最大1000μFの容量値と最大10ボルトのRVを有しています。これらのコンデンサは、シート位置モジュール、エアバッグコントローラ、インフォテイメントシステムなど、動作電圧が7ボルトまでのアプリケーションに使用できるように設計されています。動作温度範囲は-55~+105℃です。たとえば、NOJC107M004RWJの場合、定格は100μFと4ボルトです。酸化ニオブコンデンサは、高抵抗で不燃性の故障モードを持つ、基本的に安全な技術です。また、故障率は85℃での1,000時間の動作あたり0.5%と、高い信頼性を有しています。

高電圧MLCC

MLCCには、高CVの設計があるだけでなく、定格電圧が最大5,000Vのバージョンも用意されています。Kyocera AVXの1825CC154KAT2Aは、630Vおよび0.15μF定格、AEC-Q200認定で、自動車用高周波パワーコンバータのスナバや共振子、および高電圧カップリングやDCブロッキングに使用できるように設計されています。これらの高電圧チップ設計は、高周波での低ESRを実現しています。

スーパーキャパシタ

スーパーキャパシタは、バックアップ電源の供給、バッテリの延命、瞬時電力パルスの供給などの目的で、自動車システムに使用されています。AVXのSCCシリーズは、2.7ボルトと3.0ボルト定格のコンデンサで、1~3,000ファラド(F)の静電容量からお選びいただけます。SCCV40E506SRBは、定格が50Fと3ボルトで、最大ESRが20ミリオーム(mΩ)です(図4)。この低ESRは、アセトニトリル(ACN)電解質技術によって実現しています。およそ10℃または0.2ボルトのディレーティングは、ACNデバイスの耐用年数を約2倍にするので、長寿命アプリケーションにうってつけです。さらに低いESRを実現した、特別に最適化されたSCC LEシリーズの部品も用意されています。

画像:Kyocera AVXのスーパーキャパシタSCCV40E506SRB図4: SCCV40E506SRBなどのスーパーキャパシタは、バックアップ電源の供給、バッテリの延命、瞬時電力パルスの供給が可能です。(画像提供:Kyocera AVX)

ESD保護

ほとんどの車載システムには、ESD保護が必要です。Kyocera AVXの低クランピング積層バリスタTransGuardは、AEC-Q200認定を受けており、動作電圧に対するクランピングの比を低くする必要がある用途向けに設計されています。ECU、インフォテイメントシステム、車載ディスプレイなどのアプリケーション向けに、双方向のESD過電圧保護、EMI/RFI(電磁妨害/無線周波数干渉)減衰を1つの部品で実現します。VLAS080516C350RPは、動作電圧が直流16ボルト(VDC)/交流11ボルト(VAC)、降伏電圧が19.5ボルト+12%、クランピング電圧が35ボルト、静電容量が900ピコファラッド(pF)です(図5)。

画像:Kyocera AVXのVLAS080516C350RPは、低クランプの積層バリスタです。図5:VLAS080516C350RPは、低クランプの積層バリスタであり、双方向のESD保護とEMI/RFI減衰を提供します。(画像提供:Kyocera AVX)

Kyocera AVXのAEC-Q200認定低容量コンデンサASPGuardは、RFシステム、センサ、高速データラインなど、静電容量が重要な役割を果たす回路を高電力から保護する必要があるアプリケーション向けに設計されています。ESD保護デバイスASPGuardは、低リーク電流、動作温度範囲-55~+150℃、動作電圧18~70VDCを特長としています。たとえば、VCAS04AP701R5YATWAは、定格が70VDCで、静電容量が1.55±0.13pF、リーク電流が0.1マイクロアンペア(μA)です。

ECUに必要なカードエッジコネクタ

高密度車載ECUには、図6に示す12極カードエッジコネクタ009159012651916のような高密度相互接続ソリューションが必要です。2列のコネクタシリーズ9159-650は、4~12極あり、同サイズの単列設計に比べて2倍の極数を実現する千鳥状のコンタクト列を特長としています。これらのカードエッジコネクタには、有極性バージョンと無極性バージョンがあります。有極性コネクタの場合、誤挿入防止のため、プリント基板にキーが必要です。1.6ミリメートル(mm)厚のプリント基板で使用できるように設計されています。金メッキコンタクトを採用しています。また、プリント基板上の金メッキパッドと嵌合させることで、高い信頼性と信号の完全性を実現し、2.5Aの電流を流すことが可能です。

画像:Kyocera AVXの12極カードエッジコネクタ009159012651916図6:12極カードエッジコネクタ009159012651916は、高密度ECUのコネクティビティニーズを満たすことができます。(画像提供:Kyocera AVX)

車載用コネクティビティ

RFおよびマイクロ波の方向性カプラ、インダクタ、アンテナが必要とされるアプリケーションは、位置システム、キーレスエントリ、V2X(クルマとあらゆるモノの間の)コネクティビティなど、ますます増えています。方向性カプラは、多くのRF信号チェーンで重要な役割を担っています。信号とサンプリング用ポート間の高絶縁と低挿入損失でRF信号をサンプリングし、分析、測定、処理を行うために使用されます。たとえば、CP0603A0836ANTRは、824~849メガヘルツ(MHz)帯で動作するRF方向性カプラであり、結合係数20.0デシベル(dB)、最大挿入損失0.25dB、リターンロス28dB、指向性22dBを有しています。

ADAS、V2X通信、車載用コネクティビティなどの高性能な車載用RFアプリケーションでは、RFアンテナのチューニングが重要です。RFチューニングインダクタL0201R39AHSTR500は、450MHzで0.39(±0.05)ナノヘンリー(nH)の固定インダクタンスを有するとともに、最大抵抗100ミリΩ(mΩ)で550mAの定格を有して います。自動組み立て可能で頑丈な薄膜積層構造を使って製造されています。

小型で高効率のアンテナは、RFシステムの重要な部品です。AEC-Q200はアンテナには直接適用されませんが、Kyocera AVXではAEC-Q200の手続きと要求事項に忠実に従って車載用としての認定を受けるアンテナをテストしています。テストに合格したWi-Fi、Bluetooth、ZigbeeアンテナA1001013などのAシリーズ アンテナは、車載用アプリケーション向けとして推奨されています(図7)。

画像:Kyocera AVXの車載用アンテナA1001013図 7:車載用アンテナA1001013は、Wi-Fi、Bluetooth、Zigbeeのアプリケーションに使用できるように設計されています。(画像提供:Kyocera AVX)

まとめ

自動運転車やコネクテッドカーがますます増えている中で、AEC-Q200認定の広範な受動部品を洗い出して選択し、頑丈で信頼性が高く、効率的な動作を実現することが設計者に求められています。このプロセスを迅速化するには、車載用コンデンサ、回路保護デバイス、コネクタ、RF/マイクロ波の受動部品、およびアンテナを供給できる、知名度の高い信頼できるパートナー1社を活用することをお勧めします。

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著者について

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Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

ジェフ氏は、パワーエレクトロニクス、電子部品、その他の技術トピックについて30年以上にわたり執筆活動を続けています。彼は当初、EETimes誌のシニアエディターとしてパワーエレクトロニクスについて執筆を始めました。その後、パワーエレクトロニクスの設計雑誌であるPowertechniquesを立ち上げ、その後、世界的なパワーエレクトロニクスの研究グループ兼出版社であるDarnell Groupを設立しました。Darnell Groupは、数々の活動のひとつとしてPowerPulse.netを立ち上げましたが、これはパワーエレクトロニクスを専門とするグローバルなエンジニアリングコミュニティで、毎日のニュースを提供しました。また彼は、教育出版社Prentice HallのReston部門から発行されたスイッチモード電源の教科書『Power Supplies』の著者でもあります。

ジェフはまた、後にComputer Products社に買収された高ワット数のスイッチング電源のメーカーであるJeta Power Systems社を共同創設しました。ジェフは発明家でもあり、熱環境発電と光学メタマテリアルの分野で17の米国特許を取得しています。このように彼は、パワーエレクトロニクスの世界的トレンドに関する業界の情報源であり、あちこちで頻繁に講演を行っています。彼は、定量的研究と数学でカリフォルニア大学から修士号を取得しています。

出版者について

DigiKeyの北米担当編集者