2021年度InnovateFPGAコンテスト - クリエイティブな設計者の持続可能性への取り組み
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2021-12-16
読者の方々はどうかわかりませんが、私は人類共同体の未来に不安を強めています。最近は「持続可能性」という言葉をよく耳にしますが、実のところ、どんな意味でしょう?ひとつの見方ですが、持続可能性とは、人間と地球の生物圏が共存する能力を指します。1987年10月に国連で発表された「ブルントラント報告」として知られる「Our Common Future(我ら共有の未来)」の中で、持続可能性は「未来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、現在の世代のニーズを満たすこと」と強い調子で定義されています。
持続可能性を達成するにあたっては、人口増加と利用可能な資源の非効率な使い方が課題となっています。これを受けて、Intel、Analog Devices Inc.(ADI)、Microsoftと共同でTerasicが開催する「InnovateFPGA設計コンテスト2021-22」のテーマは、「持続可能な未来のためにエッジを接続する(グローバルな課題に対処するためのテクノロジーの適用)」です。
このコンテストの目的は、環境への影響を軽減するための持続可能なソリューションを触発し、創造することです。その中からいくつかのアイデアをご紹介します。自分に何ができるかを考えるきっかけになるはずです。
人口と資源の戦い
持続可能性に悪影響を及ぼすもののひとつに、地球上の人口の多さがあります。たとえば、有名なギザのピラミッドは、紀元前2550年~2490年頃に築造されたと言われていますが、これは今から約4500年前のことです。当時、地球上の人類の数は、2,000万人ほどでした。それに対して、この記事を書いている時点での地球の総人口は79億人と推算されており、この数は2030年には85億人1、2040年には92億人2、2050年年にはほぼ100億人3になると予測されています。
一方、明るい面では、持続可能性にプラスの影響を与えるものとして、問題に対する社会的および技術的な解決策を考案して、実行する能力を挙げられます。
私は、SFやSFファンタジーが大好きです。1960年代後半から1970年代前半にかけて少年だった私は、アメリカのSF作家にして航空エンジニア、かつ海軍士官でもあったロバート・A・ハインラインが1952年に発表したSF小説『The Rolling Stones(宇宙の呼び声)』(イギリスでの出版タイトルは『Space Family Stone』)を読んだことを覚えています。この物語では、月の住人であるストーン一家が中古の宇宙船を購入して改造し、太陽系を巡る宇宙旅行に出かけます。旅の途中で訪れたカリフォルニアのゴールドラッシュ(1848〜1855年)を思わせる小惑星帯では、小惑星の採掘者たちが放射性鉱石を含む様々な物質を探査していました。
これは多くの人にとって未だにSF世界の出来事のように思えるかもしれませんが、興味深いことに、つい最近の2017年、コロラド鉱山大学では、小惑星の採掘に関するポストバカロレア(学士取得後の研究)証明書、科学修士号、博士号を提供する学際的な大学院プログラムを立ち上げられています(彼らは「宇宙資源」と呼んでいますが、おふざけではありません。私たちはその意味を知っています)。
問題は、地球が閉鎖系であることです。利用できる資源の量には限りがあります。人類が今日持っているものは、明日になっても明後日になっても変わりません。月や地球の近傍天体、小惑星から原材料(鉄、ニッケル、イリジウム、パラジウム、プラチナ、金、マグネシウム、ひょっとしたら水など)を採掘するという話がまことしやかに語られていますが、実際にそれを行うのは少なくとも20年先のことになるでしょう。仮にそれが実現したとしても、これらの物質を地球地球に搬送するためのエネルギー、時間、リソースなどのコストを考えると、その量は多年に渡って微々たるものになるでしょう。言わんとするのは、当面の間、大量の原材料を地球外から受け取ることは期待できないので、今あるものを最大限に活用するのが得策ということです。
流れを変える: InnovateFPGA設計コンテスト2021-22
国連開発基金(UNDF)が実施している地球環境ファシリティ(GEF、Global Environment Facility)小額助成プログラムなどによって特定された課題やニーズに触発され、「InnovateFPGA設計コンテスト」が開催されることになりました(図1)。
図1:持続可能性にプラスの影響を与えるもののひとつは、課題に対する社会的・技術的解決策を考え、実行する能力です。(画像提供:DigiKey)
Terasic、Intel、ADI、Microsoftの4社は、「InnovateFPGA設計コンテスト2021-22」を立ち上げました。これは、地球上の資源に対する需要の削減に向けて、エッジでFPGAをインテリジェントに使用することを目的としています。
FPGAは柔軟性があり、再構成可能であるため、このようなアプリケーションに特に有効です。また、このコンテストの設計の多くは、AI(人工知能)やMV(マシンビジョン)などの高度なアルゴリズムを使用しており、膨大な計算力が必要となります。FPGAのプログラマブルファブリックは、大規模な並列処理を行うように構成することができるため、計算集約型のアルゴリズムをリアルタイムに、かつ比較的少ない消費電力で実行することができます。
出場者は、同じ地域に住む1人~3人で構成されるチームとして登録するよう招待されます。各チームには、人気の高いTerasic社のP0496 DE10-NanoキットとP0499 RFSドーターカードを組み合わせたP0685 DE10-Nano FPGAクラウド接続キットを使用してもらことになりました(図2)。
DE10 Nanoは、IntelのCyclone V SE FPGAをベースに、1ギガバイトのDDR3 SDRAM、Arduino拡張ヘッダ(Uno R3互換)、フルHD HDMI出力、UART対USB、USB OTG(On-the-Go)ポート、マイクロSDカードソケット、ギガビットEthernet、GPIOヘッダなどの機能を備えています。Cyclone V SoC(システムオンチップ)FPGAは、プログラマブルファブリック(110,000ロジックエレメント(LE))とデュアルの32ビットArm® Cortex®-A9プロセッサコアの組み合わせを特長としています。
図2:FPGAクラウド接続キットは、Intel Cyclone V SoC FPGAの豊富な機能と汎用性に、クラウド接続の利点を組み合わせたものです。追加のセンサは、Arduino互換のヘッダまたはADI QuikEvalヘッダを使用して接続できます。(画像提供:Terasic)
一方、RFSドーターカードには、Wi-FiとBluetoothの通信機能に加え、9軸加速度センサ、ジャイロスコープ、地磁気センサ、周囲光センサ、温度センサ、湿度センサなどの各種センサが搭載されています。
もちろん、DE10-Nano FPGAクラウド接続キットがパワフルであっても、それだけでは意味がありません。17世紀にイギリスの詩人ジョン・ダンが残した有名な言葉「なんぴとも一島嶼にてはあらず(No man is an island)」は、誰もが自給自足ではなく、他の人との付き合いや快適さに頼らなければ繁栄できないことを意味します。つまりこの場合は、DE10-Nano FPGAクラウド接続キットには、追加のセンサが必要になるかもしれませんし、クラウドとの通信が必要になるかもしれません。
そこで、「InnovateFPGA設計コンテスト2021-22」を支援するために、これらのキットに加えて、Analog Device社のプラグインカード(少量)と、Microsoft社のAzureクラウドサービスのクレジット/期間限定のアクセス権が、選ばれた参加チームに無償で提供されます。
Analog Device社は、開発者が抱えるシステムレベルのアプリケーションの課題を解決するために、評価ボードとリファレンス設計の幅広いポートフォリオを用意しています。たとえば、EVAL-CN0398-ARDZ(土壌水分、pH、温度測定)、EVAL-CN0397-ARDZ(スマート農業用の3チャンネル光検出)、DC1338B(I²Cの温度、電流、電圧モニタ)などがその中にあります。これらのボードは、Arduino互換のヘッダまたはADI QuikEvalヘッダを使用してDE10 Nanoに接続できます。
持続可能性のカタチ:応募のあった261件のプロジェクトから一部を紹介
もちろん、多彩な企画応募作品を見て回らないわけにはいきません。261ものプロジェクトがあり、その範囲は非常に多岐にわたっています。自分の足で見て回るなら、飲み物やおやつを用意したほうがいいでしょう。なぜなら、一時の間、夢中になること間違いなしだからです。
サンゴ礁の回復とゴミの自動収集:すぐ私の目に留まったプロジェクトは、サンゴ礁の生息地回復のための水中ディープラーニング(深層学習)型インテリジェント微生物供給システムを提案するEM043(図3)と、物を識別分類してリサイクルできるものとできないものを判断できるスマートゴミ箱のAS034でした。
図3:EM043プロジェクトは、サンゴ礁の生息環境を回復させるシステムで、サンゴのプロバイオティクスを提供し、その効果をモニタすることができます。サンゴの色の変化を監視するディープラーニングネットワークによって、送配が厳密に制御されます。(画像提供:InnovateFPGA)
プロジェクトEM043では、気温の変化によってサンゴ礁の組織内に生息する藻類が排出されることで起こる、サンゴ礁の白化現象を回復させることに焦点を当てています。藻類は、色を与えるだけでなく、サンゴが生きていくために必要な光合成を行い、生態系を維持する役割を果たしています。
白化のプロセスを遅らせたり、止めたりすることができる、サンゴにとって様々な有益な微生物がありますが、どの微生物をどのように配合するかは、現場での長い試作とテストを経て決定する必要があります。プロジェクトEM043では、前出のクラウド接続キットに、モバイル4Gルータ、ソーラーパネル、カメラ、温度センサ、レベルセンサ、ディープラーニングアルゴリズムを組み合わせて解析を行い、専用モジュールを使ってサンゴにとって有益な微生物の送配を調節しています(図4)。
図4:プロジェクトEM043は、DE10を中央処理プラットフォームとして、ディープラーニングによる分析に、センサ、太陽光発電、4Gルータ、サンゴにとって有益な微生物の送配メカニズムを組み合わせたものです。(画像提供:InnovateFPGA)
4Gルータを使ってMicrosoft Azureのクラウドに接続し、送配システムの遠隔操作やサンゴの状態を視覚的に監視します。
提案されたシステムにより、海洋研究者は対サンゴ有益微生物の白化現象抑制効果について、精密で信頼性の高いモニタリング実験を行うことが可能となり、サンゴ礁の生態系の回復に大きな影響を与えることになるでしょう。
有機的なCO2CO:シンプルで拡張性のあるプロジェクトとして、私が気に入っているもうひとつのプロジェクトがEM003です。南米原産の低成長熱帯植物で、「祈りを捧げる植物」として知られる学名マランタレウコネウラという特殊な観葉植物を利用しています。他の屋内植物と比較して、温室効果ガスを非常に効率的に吸収することが、様々な研究や実験で証明されています。実際、このプロジェクトの制作者は、この植物が1鉢あるだけで、1室のCO2の量を24時間で14.40%減少させることができると述べています。
このプロジェクトの背後にある考え方は、「祈りを捧げる植物」にCO2を最大限に吸収させることです。これは、センサ観測できるデータ(温度、湿度、環境光、土壌水分)をクラウドに記録し、灌漑サイクルの実験を行い、その結果を分析することで実現します。最終的な目標は、何百万人もの人にこのような植物を使用させ、できるだけ多くの人からデータを収集して分析することです。このプロジェクトでは、DE10-Nano FPGAクラウド接続キットに加えて、土壌水分センサとDCアクチュエータ付きウォーターポンプを使用しています(図5)。
図5:プロジェクトEM003では、すべてのセンサ観測データがFPGAで前処理され、植物の灌漑サイクルも制御されます。処理されたデータはクラウドに送信され、他の植物のデータと組み合わせて分析されます。(画像提供:InnovateFPGA)
農業用水の応力解析用ドローン:読者の方々はどうか知りませんが、私はドローン関連のものはなんにでも興味があります。そこで気になったのが、AP008というプロジェクト。これは「Agri-Bird」と呼ばれるドローンを使用して、農業環境での水の応力検出を支援するものです(図6)。このチームは、パキスタンのイスラマバードを拠点としています。
チームによれば、パキスタンの水資源の約90%は農業に使われています。このままでは、2040年には水資源が枯渇する可能性があるのです。これを回避し、一般の農家にソリューションを提供するために、プロジェクトAP008では、気象データ、地上に設置されたセンサのデータ、ドローンで集めた空撮データを組み合わせて、水の応力予測モデルを作成することを提案しています。
図6:ドローンから収集したデータと他のソースからのデータを併用し、結果として得られる水の応力モデルを使用することで、(a)水不足による農産物の損失、(b)過剰な散水による土壌養分の損失、(c)灌漑の調節不良、(d)野火などを防ぐことができます。(画像提供:InnovateFPGA)
プラスチック廃棄物を取り除く:まだまだありますが、個人的に関心を惹いたものの中で最後にご紹介するプロジェクトは、AP080です。このプロジェクトは、小型のスマートロボットが街の通りを走り回り、廃プラスチック品を見つけて集め、それをリサイクルするというものです。最近、どこに行ってもプラスチックゴミを目に付きますが、これには本当に心が痛みます(図7)。
図7:プロジェクトAP080のスマートロボットが実現すれば、こんなことにはならないでしょう。このプロジェクトは、はじめは街路を対象としていますが、将来的にはプラスチック廃棄物の問題を解決することができるかもしれません。(画像提供:The Nature Conservatory)
子供の頃、両親が私を休暇に連れて行ってくれたものです。ビーチで1日を過ごした後、我が家のルールは、すべてを来た時よりもきれいにしておくことでした。これは、自分のゴミだけでなく、周りに落ちているゴミも集めるということでした。歩きながらゴミを落としたり、車の窓からゴミを投げたり、無造作にゴミを捨てて行く人を見ると、私はうんざりします。そのような人にやめるように説得するのは難しいでしょうが、このプロジェクトで提案されているようなロボットが背後を掃除してくれれば、そんな振る舞いも緩和されるでしょう。
ここで紹介したプロジェクト例は、興味深く、多様性に富んでいますが、コワイのは、今回のコンテスト応募作品の可能性をほんの少しかいま見たに過ぎません。ハイレベルなプロジェクトに目を通すだけでも、「おお、光ってる!」と思わず声が出るほどで、どっぷりはまってしまいました。実は、このコラムを書き終えたら、すぐまたはまりに行くつもりです。
まとめ
「InnovateFPGA設計コンテスト2021-22」の応募作品がすべて揃いました。各チームは、2022年3月に開催される地区決勝、そして6月に予定されている最終決勝に向けて、し烈な勢いでプロジェクトを進めています。私は、このタイムリーで示唆に富むチャレンジの結果を見るのが待ちきれません。
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