優れた数学教師への道
カリフォルニア州では、教員資格を持っていない教師の雇用をめぐって騒動が起きています。特に数学教師の不足が懸念されています。カリフォルニア州の高校で数学の授業を行っている人の大部分は、実は数学科以外の学科の教育を受けていたり、持っている資格が「基準を満たしていなかったりするそうです。カリフォルニア州で認められる完全な資格としては、通常、何らかの学士号の取得、大学の教職課程の修了、教育実習生としての勤務、そしておそらくいくつかの試験への合格や追加の教科の学習が必要です。
このような資格認定があることを念頭に置いて、間違いなく「資格を満たしていない」フロリダ州の高校のゴルフ部教師が数学教師になったときに何が起こったかを考察するのは興味深いことです。この教師はWill Frazer(ウィル・フレーザー)という方です。フレーザー氏は、高校で数学チームを設立し、そのチームを率いて過去14 回の米国全国数学選手権大会で13回優勝してきたため、ここ数年絶賛されています。
フレーザー氏を採用しているブッフホルツ高校は、フロリダ州ゲインズビル近郊にあり、決してエリート校ではないため、この成果はより注目に値します。生徒数は約2,200人で、『U.S. News and World Report』誌のランキングでは全国17,843校中1,172位と、決して悪くはありませんが、かといって一部の特権階級のための学校というわけでもありません。
(画像提供:DigiKey)
「TIMSS(国際数学理科教育動向調査)」と呼ばれるテストで、米国の子供たちの成績が永年にわたって芳しくないことをご存じでしょう。何十年もの間、米国の生徒のTIMSSの点数は、十数カ国の生徒の点数を下回ってきたのです。そのため、優秀とは言えない高校で数学を学ぶ生徒たちが賞を取り続けるようにフレーザー氏がなぜ指導できているのかに関心が集まっています。
ブッフホルツ高校の舞台裏は、フレーザー氏の名声が高まるとともに登場した報道記事から知ることができます。ゴルフ部の元監督ということもあり、フレーザー氏がTIMSSのことを常時戦略的に考えてきたことは明らかです。同氏は、生徒たちが小学生の頃から数学チームのメンバー候補を育成し、中学生になると数学の上級クラスに誘導しています。サッカーの監督が有望な選手をスカウトするように、学区内の生徒のテストの点数まで調べて成績優秀者をスカウトしているのです。
また、報道では、フレーザー氏が運営する数学の授業は、優等生の数学コースであっても、従来のコースとは似ても似つかないものであることが明らかにされています。数学チームのメンバーは1つのクラスにまとめられ、1学年で2年分の数学が学べます。しかし、授業は、ただ早いだけではなく、厄介な問題にどうアプローチするかに重点を置いています。また、フレーザー氏は、宿題で扱った問題に近い問題を多くこなすよりも、パターン認識や対称性を利用してスピーディに答えを出すことを重視しています。さらに、フレーザー氏の授業では、正確な問題解決を教えるだけでなく、スピードを重視しています。競争の激しいテストでは時間が限られているためです。
また、数学の上級生が後輩の指導に当たるというのも、フレーザー氏の授業に見られる斬新な試みです。講師を務めた高校生は、その報酬として時間数を社会奉仕の時間数としてカウントしてもらうことができます。ある報道記事によると、このようなやり方は、数歳年上の人と一緒にいることの「格好良さ」を利用したもので、「安上がりなのに、革新的で、しかも非常に効果的」だそうです。
また、フレーザー氏の数学チームのメンバーたちもこの国際テストのことを常時考えていることがよくわかります。夏休みの1カ月間、平日に4時間ずつ、何百人もの生徒たちが学校にやってくるのです。学校が閉鎖されたパンデミックの最中、フレーザー氏は教会の空いている棟で、子供たちに教えるボランティア活動をしていました。145人の生徒を招待したところ、なんと、140人が参加したのです。
そこで、カリフォルニアの学校が求めている教員資格に話を戻します。フレーザー氏が教職に就いた当初に、それらの生徒たちに出会えたかどうかは定かではありません。同氏の主な学歴は会計学の学士号です。1990年代後半に、ウォール街の債券トレーダーを辞め、教職に就きました。「ゴルフに飽きたから教えるようになった」という噂です。
もちろん、フレーザー氏は破天荒です。彼は記者団に、「自分の成功は制度、フロリダ州、学区を無視したおかげだ」と言っています。彼は「州の授業計画を使わない」と主張し、「州の勧告にすべて従うくらいなら辞める」と発言してきました。
フレーザー氏が最初の教職の面接を受けたときには、同氏の不適合者としての傾向が既に明白だったのではないかと推察されるでしょう。そうだったにもかかわらず、彼が採用されたのは事実です。そして、学区の誰かが、ゴルフを教えるために雇われた彼が数学を教えるようになることを、問題視することもなかったということです。
これらの出来事から描かれるのは、オーブンマインドを持った学校関係者の姿です。資格や手続きをもっと厳しく追及していればフレーザー氏が教職に就けなかったことを考えるべきです。このようなことが起きないようにすることこそが、数学教師不足に悩む学区が考えるべきポイントでしょう。
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