回路の安定性を確保するためのボード線図の活用法
1930年代、ヘンドリック・ウェイド・ボードは、回路の安定性を唯一の目的として、直感的なゲイン/位相のアプローチを生み出しました。これが現在のボード線図と呼ばれるもので、回路やアンプのゲイン、位相、フィードバックシステムを周波数ごとに直感的に図示したものです。
その有用性と重要性を踏まえて、ボード安定性解析の手法を応用し、開ループアンプと回路のフィードバックファクタのゲイン(単位:dB)と位相応答(単位:度)を見てみましょう。このブログでは、これらの概念に注目し、周波数安定性を第一の目的とする場合に、「ゆらぐ」回路の設計を回避する方法を提案します。
この手法を実践するために、オンラインのDigiKeyイノベーションハンドブックのリソースから印刷可能なボード線図をダウンロードすることができます。
シングルポールのボード線図
シングルポール回路の構成により、直流のVIN信号はVOUTに直接送られ、入力周波数が高くなると、VOUTは0dBになります。ボード線図の作成は簡単です。X軸の単位は対数周波数、直線のY軸はゲイン(単位:dB)または位相(単位:度)です。ボード線図を設計する際に適用できる公式は相当数ありますが、ここでは手っ取り早く解決する方法をご紹介します。
ボード線図のシンプルさは、グラフを描くのに必要なのが直線を引くためのツールといくつかのルールの知識だけだという点にあります(図1)。
図1:ゲインと位相のシフトを示すシングルポールのボード線図は、回路の周波数と位相応答を直線で表したものです。(画像提供:ボニー・ベイカー氏)
図1に示す2つの図は、シングルポールの抵抗器とコンデンサのペアの周波数対ゲインと位相を表しています。上下の図のX軸の周波数範囲は、1Hzから10MHzまでです。上の図のY軸の範囲は0dBから100dBまでであり、1Hzの信号値は100dBに相当します。この値は、100,000 x VINのゲインファクタと一致します。青色の曲線は、fPまたは100Hzでのシングルポールのゲイン応答であり、Rは159kΩ、Cは10nFに相当します。
ポール周波数(fP)を超えて周波数が上昇すると、青色の曲線は-20dB/ディケードまたは-6dB/オクターブの割合で下降します。この減衰率は、最初に覚えておくべきボード線図の目安です。回路内のすべてのポールは、ポール周波数を起点として、-20dB/ディケードの割合で減衰します。したがって、2つのポールが同じ周波数範囲でVOUTを減衰させる場合、その減衰率は-40dB/ディケードとなります。
図1の下の図は、このシングルポール回路の位相を表しています。1Hzにおいて、R/Cネットワークの位相は0°です。fPの1ディケード前(この場合は10Hz)になると、シングルポールの位相は目標の-90°に向かって-45°/ディケードで下がり始めます。
ポールの位相応答には、いくつかのルールがあります。ポール回路に対する2つ目のボード線図の目安は、fPで位相が-45°になることです。3番目と4番目のボード線図のルールは、減衰と補完の位相点を表しています。シングルポールの位相は、ポール周波数(fP)の1ディケード前から下がり始め、最終的にはfPの1ディケード後に-90°で落ち着きます。
シングルゼロのボード線図
シングルゼロのボード線図は、シングルポールのボード線図とは逆の法則を反映しています。RとCの値を同じにしてポジションを切り替えることで、直流のVIN電圧を防ぎつつ、高い周波数をコンデンサに通すことができます(図2)。
図2:ゲインと位相の変化を示すシングルゼロのボード線図。(画像提供:ボニー・ベイカー氏)
fZを超えて周波数が高くなると、青色の曲線は+20dB/ディケードで上昇します。図2の下の図は、このシングルゼロ回路の位相を表しています。fZの1ディケード前になると、シングルゼロの位相は、目標の+90°に向かって+45°/ディケードで上がり始めます。ゼロ回路の位相は、fZで+45°となります。
図1の値をまとめると、ポールの位置はfPで、fP以降のゲインの大きさは-20dB/ディケードの傾きを持っています。位相はfPを通して-45°/ディケードの傾きを持ち、0.1 x fPで位相の減衰が始まり、10 x fPで-90°に落ち着きます。図2の値をまとめると、ゼロの位置はfZで、fZ以降のゲインの大きさは+20dB/ディケードの傾きを持っています。位相はfZを通して+45°/ディケードの傾きを持ち、0.1 x fZで位相の減衰が始まり、10 x fZで+90°に落ち着きます。
アンプの開ループボード線図
標準的なオペアンプ製品の周波数動作では、サブヘルツからゼロdBのカットオフ周波数までの伝達関数に複数のポールとゼロが存在します。アンプのボード線図には不思議なことはなく、ルールに従うだけです(図3)。
図3:ゲインと位相のシフトを示すオペアンプのボード線図の例。(画像提供:ボニー・ベイカー氏)
図3は、伝達関数に2つのポール(f1とf2)を持つオペアンプの例です。2つのポールがあることで、ゲインは毎回-20dB/ディケード下がり、位相は合計で-180°まで下がります。
ここまでで、ボード線図の作成方法を理解できましたが、ここから先は、フィードバックシステムが存在する現実の世界へと進んでいきます。
閉ループのアンプシステムの安定性
オペアンプ回路をじっくり見てみると、必ずフィードバックネットワークが存在します。古典的なオペアンプのフィードバックネットワークは、ゲインフォワード要素(AOL(jω))とフィードバック要素(β(jω))を持っています。
図4:フィードフォワード要素(AOL(jω))とフィードバック要素(β(jω))を持つ古典的なオペアンプのフィードバックネットワーク。(画像提供:ボニー・ベイカー氏)
図4では、オペアンプ(AOL)の開ループゲインが比較的大きく、フィードバック係数が比較的小さくなっています。この構成では、出力が反転端子に戻されて負のフィードバック状態となり、このフィードバックによって出力が制御されます。ここでは、βの逆数(1/β)を用いて、オペアンプ回路の安定性を判断します。
1/βを計算する最も簡単な方法は、オペアンプの非反転入力にVSTABILITYと呼ばれる電源を置くことです。この計算方法は、回路の安定性を判断するための優れた方法となります(図5)。
図5:非反転オペアンプ回路a.)と反転オペアンプ回路b.)はいずれも、回路の1/β係数(ノイズゲイン)を正確に計算できるように、非反転入力に架空のVSTABILITY電源を設けています。(画像提供:ボニー・ベイカー氏)
図5の回路を見てみると、非反転端子から出力へのフィードバック回路が同じであることがわかります。また、VSTABILITY電源の位置によって、回路の1/β係数(ノイズゲイン)を正確に計算することができます。
1/βの安定性解析には、VSTABILTIYを使用します。オペアンプの開ループゲインを無限大とすると、両回路の伝達関数は等しくなります。
式1
式2
式3
式3の周波数成分jωがゼロに等しいとき:
式4
式3でjωが無限大に近づくと:
式5
1/βのゼロ(fZ)とポール(fP)の周波数は:
式6
式7
以上のルールに則った1/βの安定性解析曲線のボード線図を、図6に示します。
図6:図5のa.)とb.)における1/βの周波数応答は同じです。ゼロは低い周波数で、ポールは高い周波数で発生します。(画像提供:ボニー・ベイカー氏)
図6は、オペアンプ回路の1/β(ノイズゲイン)の周波数と位相応答を説明しています。この図は、式4~7を図式化したものです。式4と式5では、DCゲインと\ゲインを包括的に定義しています。式6と式7は、回路のゼロとポールを包括的に特定しています。図3と図6の情報は、システムの伝達関数およびポールとゼロの位置を定義することで、オペアンプ回路の安定性を確立するための最初のステップとなります。最終的には、図3と図6を重ね合わせて1つのグラフにします。
システムの安定性判断
開ループと閉ループのゲインの交点または閉塞率によって、回路の位相差が決まります。一般的に、閉塞率が30dB以下であれば、回路が安定していることを示します。閉塞率が30dB超になると、回路が不安定な状態に向かっていることになります(図7)。
図7:オペアンプのAOLゲインおよび位相応答と、1/βゲインおよび位相応答を重ね合わせたもの。(画像提供:ボニー・ベイカー氏)
図7では、AOLと1/βのゲイン曲線間の閉塞率が40dBに等しくなっています。閉塞率が40dBの場合、位相シフトは135°超となり、回路が不安定であることを示します。この構成では、閉塞率を180°にすると回路が発振します。
上記の問題に対する解決策は、数多くあります。ポールとゼロの周波数を動かすことで、抵抗値や容量値を変化させることができます。また、別のオペアンプを選択するという方法もあります(図8)。
図8:ゼロとポールの周波数を変えずに、図7のオペアンプよりも高い帯域幅のオペアンプを使用します。(画像提供:ボニー・ベイカー氏)
図8では、1/βネットワークに変更を加えなくても、オペアンプの帯域幅が約2ディケード向上しています。緑色の破線は実際の計算値を反映したもので、より現実的なボード線図となっています。アンプの帯域幅を広げることで、閉塞率が40dBから20dBに変化します。その結果、位相シフトは約105°となり、回路が安定していることがわかります。
図8における緑色の点線は、実世界の応答を含むため、定規と鉛筆で描いたボード線図を超えています。
回路のゲインと位相の測定
アンプ回路のゲインや位相を測定するには、入力信号を供給するファンクションジェネレータとネットワークアナライザが必要です(図9)。Tabor Electronicsの3GHz RFアナログスイープファンクションジェネレータ「LS3081B」を示しています。
図9:図5のb.)に示す反転アンプ回路のゲインと位相の測定構成。(画像提供:ボニー・ベイカー氏)
図9において、ファンクションジェネレータの入力信号の印加は、ポート1からVSTABILITYノードで行われます。信号はアンプ回路を通って回路の出力(VOUT)に伝わり、ネットワークアナライザはポート2で信号をとらえ、それをファンクションジェネレータのポート1の信号と比較します。
まとめ
安定したオペアンプ回路を設計する上で、ボード線図は非常に有効なツールとなります。ボード線図の背後にある力は、マルチポールおよびマルチゼロの回路を見始めたときに明らかになります。アンプの開ループゲインとフィードバックネットワークの間の閉塞率によって、回路の安定性が迅速に決定されます。
このブログでは、ボード線図の使い方をマスターするために、グラフ用紙に直線を引いて、1次のポールおよびゼロ回路のゲインと位相を推定する簡単な方法を紹介していますが、習得するためには実践することが一番です。繰り返しになりますが、オンラインのDigiKeyイノベーションハンドブックのリソースから印刷可能なボード線図をダウンロードして、作業を始めることができます。
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