炎検知とガス分析に薄膜焦電センサを活用する

環境中の温室効果ガスに対する関心の高まりに加え、大気汚染の測定や火災の検知の必要性から、多くの人々がガスの識別と測定に大きな関心を寄せています。これに対して、設計者は何ができるでしょうか。ここでは、ガスや炎の検知に適したパッシブな焦電型センサを使用した対処方法をご紹介します。

赤外線(IR)の感知

環境中のガスを感知する機能はとても便利です。特に、二酸化炭素(CO2)や一酸化炭素(CO)のような環境に影響を与えやすいガスの検知に役立ちます。これらは炎に含まれる主なガスでもあるため、同じ技術を炎検知に応用できます。これらのガスは、水蒸気、メタン(CH4)などの炭化水素(H-C)、および他のいくつかのガスとともに、中赤外線領域に強い吸収スペクトルを持っています。

IRは、マイクロ波と可視光線の間のスペクトル成分を持っており、波長範囲は0.76µm~1mmです。この範囲は、3つの異なるサブ領域に分割できます。波長0.76~3µmの短波が近赤外線(NIR)、波長3~14µmの中波が中赤外線(MIR)、波長14µm~1mmの長波が遠赤外線(FIR)です。

対象となるガスのほとんどは、MIR領域に吸収スペクトルを持っています(図1)。

図1:MIRのスペクトル領域に出現する様々なガスのIR吸収ピーク。(画像提供:Broadcom)

炎から放出される主なガスはCO2とCOであるため、同じIR技術を炎の検知にも応用できます。

IRの検知

IRはいくつかの方法で検知できます。NIR領域にはフォトダイオードを使用できます。従来からあるその他の方法として、サーモパイルも使用できます。これは多数の熱電対を接続したもので、熱放射に反応し、IRエネルギーによる温度変化に比例した電圧を発生させます。

最近では、焦電効果を利用したセンサがMIR~FIRのスペクトル領域に使用されています。焦電効果とは、特定の結晶性物質が加熱または冷却されたときに、その結晶の表面全体に電圧を発生させることです。焦電型センサは、IRにさらされると自動充電を行うコンデンサとも表現できます。焦電型センサには、サーモパイルに比べて様々な利点があります。速い応答時間、高い信号対雑音比(S/N比)、優れた応答性による高い感度などです。フォトダイオードは、特に長いIR波長を測定する場合、良好なS/N比を確保するために冷却する必要があります。一方、焦電センサは、MIR~FIRのスペクトル領域で冷却を必要としないため、フォトダイオードよりも優れていると言えます。

ジルコン酸鉛(PZT)やタンタル酸リチウム(LiTaO3)などの焦電材料は、IRセンサの作成に使用できます。これらの材料は、バルク形状または薄膜ハイブリッド構造として使用可能です。バルク型の焦電デバイスは一般的に、薄膜技術を用いたデバイスに比べて応答性が劣り、S/N比も低くなります。

薄膜焦電センサには一般的に、焦電デバイスのバッファとして高ゲインアンプが内蔵されています(図2)。

図2:薄膜焦電センサパッケージには、センサチップ、高ゲインアンプ、内蔵型光学IRフィルタが含まれます。(画像提供:Broadcom)

アンプは、最大10GΩのフィードバック抵抗を備えた低ノイズCMOSオペアンプとして実装されています。出力信号は電源電圧の半分を中心としています。このセンサは、広い周波数範囲で動作し、安定した高速応答を提供します。

光学フィルタは、センサが応答する波長範囲を制限するために使用されます。これらのフィルタは基本的に、センサを特定のIR波長に調整します。

薄膜焦電センサの用途

MIR領域の薄膜焦電センサは、炎検知やガス分析だけでなく、燃料・オイル分析、食品安全、環境監視など、幅広い用途に使用されています。

炎検知の用途では、IRセンサは炎から放出されるIR放射を測定します。炎は、CO2やCOなどの高温ガスで覆われています。炎とその周囲のガスは静止しておらず、通常1~15Hzの周波数帯で明滅しています。IRセンサは、放出されたガスのスペクトル範囲をフリッカレートで監視するため、炎の正確な検知が可能になります。

炎感知の重要な特性は、S/N比で示される視野(FoV)とダイナミックレンジです。これらのパラメータをできるだけ大きくする必要があります。炎検知器は火源から自動で火災を感知するもので、一般的にはシングルチャンネルのIRセンサのみが使用されます。

IRガス分析は、選択されたガスによるIR光源の吸収に基づいて行われます。このプロセスは非分散型赤外線(NDIR)分光法と呼ばれます。IRエミッタは、吸収波長を含む広帯域のIRエネルギーの供給源です。IRセンサが2つ使用されており、1つは選択したガスの吸収波長でフィルタリングされ、その波長を測定します。もう1つは非吸収波長でフィルタリングされ、基準信号を提供します(図3)。

図3:薄膜焦電センサを使用したガス分析装置の簡略図。(画像提供:Broadcom)

ガスチューブに、適切な範囲のIR波長を伴う30~100Hzのレートで変調されたパルス状の黒体光源が流れ込みます。チューブ内のガスは、その原子構造に基づいてIRエネルギーを吸収します。たとえば、CO2は波長4.26µmのエネルギーを吸収します。CO2に吸収されない周囲の波長3.9µmは、基準波長として選択されています。この基準チャンネルは、IR光源の光強度の変動を監視します。干渉を低減するために、ブロッキング光学フィルタを使用して、センサが確認できる波長範囲をガスの吸収に関連する波長と基準チャンネルの波長に制限します。

最もよく監視される4つのガスは、酸素(O)、CO、CO2、窒素酸化物(NO)です。IRセンサには、長寿命、高速応答、較正不要、広範なガスの検知および識別機能など、他の方法と比べて非常に多くの利点があります。

薄膜焦電センサ

この情報を活用して、焦電センサの設計を始めてみるのはどうでしょうか。ご利用いただけるデバイスについてですが、Broadcomは独自のPZT薄膜赤外線技術を用いたすぐに入手可能なIRセンサを提供しています。シングルチャンネルとデュアルチャンネルのアナログ式IR検知器を取り揃えており、個別のMIR波長を感知します。炎検知とガス分析の両方の用途に最適です。

センサはTO-39缶に収められており、重工業、石油・ガス、インフラ、森林保護などの各産業における屋外での使用に適しています。これは、FoVやS/N比とならび、このセンサの重要な特性です(図4)。

図4:TO-39パッケージのシングルチャンネルおよびデュアルチャンネル薄膜焦電センサの例。(画像提供:Broadcom)

センサの応答性は150,000V/W定格で、S/N比は10,000です。すべてのセンサが2.7~8ボルトの単一電源レールを使用し、-40°C~+85°Cの動作温度範囲を備えています(表1)。

薄膜焦電シングルチャンネルセンサ

Broadcom品番 フィルタ中心波長(µm) フィルタ半値幅(nm) カットオン波長(µm) カットオフ波長(µm) 用途
AFBR-S6PY3200 2.77 -- 2.425 3.115 炎検知
AFBR-S6PY2341 4.64 -- 4.55 4.73 炎検知
AFBR-S6PY0211 4.64 180 -- -- ガス感知
AFBR-S6PY0573 4.35 -- 4.05 4.65 炎検知
AFBR-S6PY1601 5 -- 5 -- 炎検知
AFBR-S6PY0574 4.55 -- 4.34 4.76 炎検知
AFBR-S6PY0575 3.91 -- 3.865 3.955 炎検知

薄膜焦電デュアルチャンネルセンサ

Broadcom品番 フィルタ中心波長(µm) フィルタ半値幅(nm) カットオン波長(µm) カットオフ波長(µm) 用途
AFBR-S6PY1943 3.91(基準) 90 -- -- ガス感知
  4.3(CO2狭) 110 -- -- ガス感知
AFBR-S6PY2486 3.91(基準) 90 -- -- ガス感知
3.33(H-C) 160 -- -- ガス感知
AFBR-S6PY2572 4.9(基準) 130 -- -- ガス感知
4.26(CO2医療) 180 -- -- ガス感知
AFBR-S6PY0234 3.91(基準) 90 -- -- ガス感知
4.26(CO2 180 -- -- ガス感知
AFBR-S6PY3151 3.70(基準) 110 -- -- ガス感知
4.26(CO2 180 -- -- ガス感知
AFBR-S6PY2626 3.91(基準) 90 -- -- ガス感知
3.3(CH4) 160 -- -- ガス感知

表1:Broadcomのシングルおよびデュアルチャンネル薄膜焦電センサの主なスペクトル特性。(表提供:Art Pini)

使用される光学フィルタの限界波長は、中心波長および、フィルタの半値幅またはバンドパスフィルタのカットオン波長とカットオフ波長によって定義されます。ガス分析用途向けのデュアルチャンネルモデルは、特定のガスとともに周囲の基準波長を検知するようにフィルタリングされています。たとえば、デュアルチャンネルのAFBR-S6PY0234センサには、4.26µmにフィルタリングされたCO2検知用分析ウィンドウと、3.91µmの基準ウィンドウがあります。3.91µmは、図1に示したCOとCH4の吸収ピーク間のギャップに該当します。また、12msの高速時定数を備え、素早く炎を検知できます。

センサの接続は比較的簡単です。シンプルな非反転アンプがバンドパスゲインを提供し、その後に接続される回路に十分な駆動力をもたらします(図5)。

図5:デュアルチャンネル薄膜焦電型IRセンサのシンプルなアンプインターフェースの回路図。(画像提供:Broadcom)

このアンプは、1~50Hzのバンドパス周波数帯にわたり、センサ出力信号のAC成分に対して25dBの電圧ゲインを提供します。DC(0Hz)のとき、アンプはユニティゲインの電圧フォロアになります。50Hzを超えると、出力レベルはゆっくりと減少してユニティゲインに戻ります。

まとめ

ガス感知ソリューションをお探しなら、Broadcomのアナログセンサがおすすめです。シンプルで部品点数の少ないセンサをシングルチャンネルまたはデュアルチャンネル構成からお選びいただけます。薄膜焦電型PZT構造特有の高性能仕様で、150kV/Wの応答性を持つ電流モード感知、3~15Hzの炎フリッカ全範囲にわたる安定した応答、迅速な炎検知を可能にする12msの高速時定数、10,000の高S/N比などの特長があります。高い応答性によって動作電力レベルを低く抑え、IR光源の長寿命化を実現しているため、ガスおよび炎の検知システムに最適な部品です。

著者について

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Arthur(Art)PiniはDigiKeyの寄稿者です。ニューヨーク市立大学の電気工学学士号、ニューヨーク市立総合大学の電気工学修士号を取得しています。エレクトロニクス分野で50年以上の経験を持ち、Teledyne LeCroy、Summation、Wavetek、およびNicolet Scientificで重要なエンジニアリングとマーケティングの役割を担当してきました。オシロスコープ、スペクトラムアナライザ、任意波形発生器、デジタイザや、パワーメータなどの測定技術興味があり、豊富な経験を持っています。

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