エンクロージャ素材の長所と短所を比較する
2024-10-03
エンクロージャにはさまざまなスタイル、サイズ、形状がありますが、新製品を調達する際に最初に検討するのは、多くの場合、素材です。素材がエンクロージャの性能を左右する最大の要因であることは間違いありません。電気・電子アセンブリの計画、調達、保守には、一般的な素材に関する知識が不可欠です。
大まかに言えば、エンクロージャの素材は金属製と非金属製のカテゴリに分けられます。
非金属
非金属エンクロージャの大半はプラスチック製で、ABSやポリカーボネートが一般的ですが、このカテゴリにはガラス繊維も含まれます。
非金属は無線周波数(RF)波を透過するため、信号の送受信が容易な無線通信デバイスに適しています。裏を返せば、デバイスを電磁干渉(EMI)や無線周波干渉(RFI)から隔離しておく必要がある場合、この機能は不利に働く可能性があります。
ABS
アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)は、加工や成形が容易で安価なサーモプラスチックです。ABSは屋内での使用に適したプラスチックで、比較的経済的であるにもかかわらず、耐衝撃性、耐熱性、汎用性に優れています。汎用ABS(GPABS)は最も経済的なタイプですが、中高レベルの難燃性(UL 94V-0)を備えている難燃性ABS(FRABS)も利用できます。
ABSのエンクロージャは黒、グレー、白が多いものの、黄色、赤、青などカラフルなバリエーションも珍しくありません。ABSは加工や改良が容易です。残念ながら、衝撃の強い用途には不向きで、また、ABSを透明にするのは困難です。
図1:Hammondの1551MINIシリーズのABSプラスチックエンクロージャ。ABSでは完全な透明化は不可能なので、半透明または「つや消し」ABSが一般的です。(画像提供:Hammond Manufacturing)
ポリカーボネート
ポリカーボネートはプラスチック界のスターです。優れた耐衝撃性、広い動作温度範囲、UVによるダメージへの耐性を備え、多くの屋外、高衝撃、海洋用途に選ばれています。UV安定化ポリカーボネートは、日焼けによる変色やもろさに強く、自然な透明感があります。そのため、メガネレンズやレーシングカーのフロントガラス、高品質エンクロージャなどによく使われています。ポリカーボネートは高い難燃性を有しています。ご想像のとおり、ポリカーボネートはABSよりもコストがかかります。プロジェクト開始時にはなおさらですが、過酷な条件下でも長持ちするため、長期的にはコスト削減につながります。
図2:Hammondの1591Tシリーズの透明ポリカーボネートプラスチックエンクロージャ。(画像提供:Hammond Manufacturing)
ガラス繊維
ガラス繊維強化ポリエステル(略称FRPまたはGRP)は、ガラス繊維で強化されたポリエステルプラスチックで構成されています。FRPはポリカーボネート同様、屋外での使用に適しており、耐衝撃性に優れ、動作温度範囲もポリカーボネートより広くなります。ただし、UVにさらされると変色する可能性があります。FRPはその構造上、切断するとガラス粒子が飛散する可能性があり、改良には専用のPPEやツールが必要となります。
ポリカーボネートもFRPも耐薬品性に優れ、塩分の多い環境での使用に適しています。FRPは溶剤や希酸・希塩基に耐性があります。ポリカーボネートには、酸や一部の溶剤、アルカリに強いという特性があります。素材を選ぶ前に、必ず特定の危険性について調べてください。
図3:ガラス繊維強化ポリエステル製エンクロージャ、Hammond部品番号1590ZGRP084。(画像提供:Hammond Manufacturing)
金属
非金属製とは反対に、金属製のエンクロージャはRFIやEMIに対して高いシールド性を備えています。金属同士の接触は、完全なシールドとアースのために不可欠であり、エンクロージャ内の電気デバイスを扱う際の安全のために必要なプロセスです。金属は一般的に屋外での使用が可能で、耐衝撃性に優れています。
金属の場合、異種金属腐食とも呼ばれるガルバニック腐食に注意することが重要です。2つの異なる金属が互いに接触している場合、より「卑」の方、つまりより容易に電子を放出する方は、加速度的に腐食し始め、構造上だけでなく美観上の損傷も引き起こします。たとえば、亜鉛メッキのネジや亜鉛メッキ鋼板のジョイナをステンレス鋼のエンクロージャに使用しないように注意する必要があります。
アルミ
アルミは非鉄金属で、比較的軽いにもかかわらず強度があります。アルミ板、押出アルミ、アルミダイカストなど、さまざまな形状があるほか、使用する合金によって特性も異なります。合金は、母材(アルミ)に他の金属や元素を加えたものです。他の合金より強い合金、より引っ張り強い合金、特定の仕上げを許容しやい合金などがあります。
アルミは加工や成形が容易で、エンクロージャの金属材料としては最も低コストです。
アルミダイカスト
アルミダイカスト製エンクロージャは、成形された金型(キャビティとも呼ばれる)に溶融金属を流し込んで製造されます。ダイカストは小型から中型のエンクロージャに最適であるため、大型の製品では鋳造金属の代わりにシートメタルを使用する傾向があります。迅速な工程で、安定した製品ができます。ダイカスト製エンクロージャや射出成型プラスチック製エンクロージャには、抜き勾配と呼ばれる特性があります。エンクロージャを鋳型から適切に取り外せるように、ボックスの壁はわずかに外側に角度をつけなければなりません。そのため、アルミダイカスト製エンクロージャの壁には数度の傾斜があります。
図4:肉厚のアルミダイカスト製エンクロージャ、Hammond部品番号1590Z110。(画像提供:Hammond Manufacturing)
押出アルミ
押出成形にも溶融アルミと金型が使用されますが、空洞を埋めるのではなく、押出成形されたアルミを金型に押し込んで特定の形状にし、非常に長い押出成形品を作り、それをサイズに合わせて切断します。押出アルミエンクロージャは通常、押出チューブと金属製またはプラスチック製のエンドキャップで構成されています。切断が可能な大きなピースを押出成形することは、メーカーにとって有益です。メーカーはチューブの在庫を手元に置き、要求に応じてさまざまな長さのエンクロージャを提供できます。
Hammondの押出アルミエンクロージャは陽極酸化処理を施して供給されます。陽極酸化処理とは、エンクロージャの酸化皮膜の厚みを増し、表面の耐久性を高める処理です。陽極酸化処理にはさまざまな色があります。アルミ合金には、陽極酸化処理に適したものとそうでないものがあります。Hammondの押出成形エンクロージャは陽極酸化処理できますが、アルミダイカストのエンクロージャは陽極酸化処理できないため、代わりにパウダーコーティングが施されます。
図5:ブルーの陽極酸化処理を施した押出アルミエンクロージャ(アセンブリ済み)。Hammond品番1455L1201BU。(画像提供:Hammond Manufacturing)
図6:ブルーの陽極酸化仕上げの押出アルミエンクロージャ(図5)を分解して示しています。(画像提供:Hammond Manufacturing)
アルミ板
アルミ板を切断したり折り曲げたりして、エンクロージャやパネルを作ることができます。ツーリングの特長や寸法によって制限される押出材や金型とは異なり、折り加工のシートメタルから無数のエンクロージャ設計を行うことができます。アルミ板は、特に薄いゲージでは、並外れた重さを支えることができず、過負荷がかかると曲がったり反ったりすることが予想されます。
図7:Hammondの1444シリーズの折り加工のアルミシャーシの内部。(画像提供:Hammond Manufacturing)
鋼
鋼は多くの産業で広く使用されている信頼性の高い素材です。鋼は鉄の合金(鉄と炭素が結合したもの)です。鋼板はエンクロージャやパネルを構成するために使用され、用途に応じてさまざまな種類の鋼板から選択することができます。鋼はアルミよりも重く、特にステンレス鋼はコストがかかることがあります。
軟鋼
「低炭素鋼」とも呼ばれる軟鋼は、標準的な鋼よりも炭素含有量が低く、成形や溶接が容易です。軟鋼は低コストで汎用性が高い一方、仕上げを施さないと風雨で酸化します。そのため、自然な仕上げまたは仕上げの少ないステンレス鋼製やアルミ製エンクロージャと異なり、軟鋼製エンクロージャにはパウダーコーティングが施されます。風雨にさらされることがないため、インナーパネルには天然軟鋼を使用できます。
図8:ライトグレーのパウダーコートで仕上げられた軟鋼エンクロージャ、Hammond部品番号ST12126LG。(画像提供:Hammond Manufacturing)
亜鉛メッキ鋼
亜鉛メッキ鋼は、鋼鉄を亜鉛の皮膜に浸して作られます。これにより、鉄分を多く含む鋼鉄の表面がすぐに腐食しないように保護されます。亜鉛メッキ鋼は、超腐食性の化学物質や海洋環境には耐えられません。亜鉛メッキ鋼は、インナーパネルや汎用の屋内業務向けエンクロージャでよく使用される素材です。パウダーコーティングを施せば、条件が厳しくない屋外でも使用できます。
ステンレス鋼
ステンレス鋼はクロムを含む鉄の合金で、耐腐食性に優れています。ステンレス鋼は、追加の元素の含有によってさまざまなグレードを作り出すことができます。ステンレス鋼は錆びにくく、仕上げの必要がありません。酸、アルカリ、溶剤に強く、屋外でも優れた性能を発揮し、洗浄も簡単なので、エンクロージャを頻繁に水洗いするような医療や食品・飲料用途などの衛生的な環境に最適です。
ステンレス鋼の最も一般的なグレードは2つあります。
- 304 - ステンレス鋼の最も一般的なグレードです。
- 316 - この鋼種はより特殊で、上記のステンレス鋼の利点に加え、モリブデン元素による耐食性も備えています。316ステンレスは海洋環境に適しています。
図9:自立型ステンレス鋼エンクロージャ、Hammond部品番号HN4FS726036SS。(画像提供:Hammond Manufacturing)
等級と素材
NEMA、UL、IPのような等級システムは、さまざまな条件下での性能に基づいてエンクロージャを判断します。そのため、エンクロージャの等級とその材質は密接に関係しています。
NEMA - 産業用および電気用エンクロージャの最も一般的な等級システムであるNEMAタイプは、エンクロージャが屋内用か屋外用か、耐腐食性かどうか、水や汚れなどの危険に対する性能はどの程度かを示します。一般的なNEMAタイプには以下のようなものがあります。
- 12と13 - 屋内使用、汚れや水滴から保護
- 3R - 屋内または屋外での使用、汚れおよび雨天(雨、みぞれ、雪)から保護
- 4 - 屋内または屋外での使用、汚れ、雨天、水しぶきやホースからの水に対する保護に優れている
- 4X - 4に似ているが、耐食性が追加
図10:HammondのHYWシリーズのステンレス鋼エンクロージャのドアには、衛生的な青いシリコーンガスケットが使用されています。(画像提供:Hammond Manufacturing)
侵入保護(IP) - IP等級は国際電気標準会議(IEC)によって決定されます。電子エンクロージャではIPが一般的ですが、IPとNEMAの等級には共通項があります。IP等級の1桁目は防塵性、2桁目は防水性を表します。一般的なIP等級には以下のものがあります。
- IP54 - 防塵・防滴構造
- IP65 - 防水とみなされる最低等級、屋外での使用に推奨される最低等級、防塵、および噴流水に対する保護
- IP66 - 防塵、および強力な噴流水に対する保護
- IP67 - 防塵、および一時的な水没に対する保護
- IP68 - 防塵、および連続浸水に対する保護
UL認証済 - UL認証済の製品は、独立した試験機関によってテストされています。エンクロージャは、UL 508Aの規格に準拠しています。試験と試験の間に水の浸入があってはなりません。あった場合、製品はUL認証済にはなりません。その他、素材の一貫性、工場での工程、耐UV性能、難燃性なども考慮されます。UL認証済は、性能、品質、安全性を示す貴重な指標です。
図11:UL認証済のポリカーボネートエンクロージャ内のULステッカーラベル、Hammond部品番号1554C2GYCL。(画像提供:Hammond Manufacturing)
まとめ
電気または電子アセンブリの設計には多くの考慮事項が伴いますが、このエンクロージャの材料と等級の概説がエンクロージャの合理的な選択に役立つことを願っています。
ハンドヘルドスイッチ用のシンプルなプラスチックボックスであれ、桟橋で塩分を含んだ空気に耐えなければならない堅牢なステンレス製キャビネットであれ、ハウジングがアセンブリの重要な一部であることは間違いありません。
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