シングルボードコンピュータとしてのマイクロコントローラ開発ボードの使用

著者 Bill Giovino

DigiKeyの北米担当編集者の提供

半導体サプライヤは、自社のマイクロコントローラを評価ボードやデモボードなどの開発ボードでサポートしています。これらのボードの使用目的には、まずエンジニアがターゲットのマイクロコントローラを熟知できるようにすること、そしてマイクロコントローラのハードウェアおよびファームウェアの開発に役立つことがあります。これらのボードには、ヘッダコネクタによって利用できる汎用入出力(GPIO)を備えた最もシンプルなものから、キーパッドおよびLCDディスプレイを備えた高機能なものまで幅広い種類があります。このように多種多様な開発ボードが提供されている中で、エンジニアによっては、これらのボードを大量購入して産業用アプリケーションに採用している場合もあります。

しかし、産業向け品質のシングルボードコンピュータ(SBC)とは異なり、開発ボードは多くの場合、産業環境に使用するための継続的な動作を保証するための、メーカーによる厳密な品質保証(QA)テストを受けません。一般的に開発ボードは、単に室温および低い湿度でQAテストを受けます。このため、継続使用するアプリケーションでの信頼性および適合性が問題になります。開発ボードに使われる半導体およびハードウェア部品は、商用または産業用途向けにQAテスト済みではありますが、エンジニアは、開発ボードの仕様が産業用SBCとはどのように異なり、継続使用を許可する前にボードにどのようなレベルのテストが必要かを理解する必要があります。

本記事ではこれらの課題に対応するため、このような開発ボードの制約、目的の用途への適合性を正しく判断する方法、および継続使用するアプリケーション向けに開発ボードを選ぶときに考慮すべき課題について説明します。さらに、STMicroelectronicsおよびInfineon Technologiesから提供される2つの開発ボードについて考察し、それらを継続使用アプリケーションにどのように適用できるかについて解説します。

産業用SBCの品質保証

すぐに入手可能な(オフザシェルフ)産業用SBCの利用は、産業用エレクトロメカニカル装置を制御し、モノのインターネット(IoT)および産業用IoT(IIoT)ノードを管理するための最も一般的な方法です。SBCには試験済みの部品があらかじめ組み込まれており、SBCの使用に必要なドキュメント一式が付属しています。購入数量がそれなりに多く、必要な機能を備えた適正価格のオフザシェルフSBCがない場合は、カスタム設計のSBCも選択肢になります。それでも、開発と市場投入までの所要時間がより短い点で、試験済みのオフザシェルフソリューションはカスタムSBCに勝ると言えるでしょう。

SBCのメーカーは、新しいボードに一連の厳しい品質管理テストを実施した上で、その設計を本生産に向けてリリースします。産業用途専用に設計されたSBCは、厳密な品質管理テストを経て、目的の用途で確実に動作することが保証されます。-40°C~+85°Cの温度定格をともなう一般的な産業用アプリケーションには、その範囲の温度定格を持つ産業グレードの半導体およびハードウェアが採用されます。それらの部品は、同様の定格温度範囲に対応する材料を使用してプリント基板上に実装されます。用途によっては、SBC上にコンフォーマルコーティングを適用して、湿気、埃、環境中の粒子、および化学物質の飛沫などから基板を保護する場合もあります。

新しい産業用SBCで最初に実施されるQAには、電流/電圧の電気定格上限および下限のベンチテストが含まれます。新しいSBCはこれらの基本的なテストの後、時間のかかるQAがすべて実施され、対象温度範囲の最高温度と最低温度、および極端な湿度と振動の条件下であらゆる動作テストが行われます。新しい産業用SBCを提供するメーカーによってはストレステストを実施する場合もあり、新たなSBCが過酷な環境で数日にわたりテストされます。些細な不具合でも記録され、その原因が入念に追跡されます。テストに合格しなければ、部品の交換やSBCの再設計にもつながります。QAテストには数週間または数か月かかることもあります。SBCの設計が完全適格であると認められた場合に限り、メーカーはようやく基板の本生産に乗り出します。本生産される個々のSBCには、製造ラインの最後に通常1分未満のクイックテストが行われます。

本生産されるSBCでも、テストがなくなるわけではありません。産業用SBCのメーカーは、四半期または年に1回の間隔でSBCを生産ラインから抜き打ちで取り出し完全なQAを実施して、品質が維持されていることを確認します。

多くの場合、このようなQA結果は購入者に公表されます。さらにSBCメーカーは、基板部品の交換など何らかの変更が生じた際に、SBCの購入者に設計変更通知(ECN)を送付します。

マイクロコントローラ開発ボード

マイクロコントローラをサポートするために使われる開発ボードは、マイクロコントローラのメーカーとサードパーティのツールプロバイダの双方から提供されています。評価ボードはシンプルなボードで、マイクロコントローラ全般の調査と基本的な動作の試験に使われます。デモンストレーション用ボード(一般的な呼称はデモボード)は、マイクロコントローラ動作のデモに使われるボードであり、その多くは点滅するLED、スイッチ、LCDディスプレイを備えた高機能なボードです。開発ボードは、ハードウェアおよびファームウェアの開発に使用されます。

実際には、評価、デモ、開発というボードの名称に正式な規格はなく、それぞれの使用方法が重なる部分も多くあります。ボードの名称よりも機能が重要であり、「開発ボード」という呼び方に統一すれば、より分かりやすいと言えるでしょう。

産業用途に使用される開発ボードのテスト

マイクロコントローラのメーカーからリリースされる開発ボード、またはサードパーティから供給される開発ボードでは、産業用SBCほど厳格ではないテストが実施されます。通常、部品は商用グレードですが、ボードによっては産業グレードの部品が含まれる場合もあります。開発ボードは、室温でのみ動作するように設計されています。開発ボードの最初の試作では、数日または数週間かけて室温でテストを行いますが、実状はメーカーに応じて大きく異なります。開発ボードの目標となる唯一の品質要件は、それらが室温で動作することです。開発ボードは、極端な高温や低温、高い湿度、振動や衝撃などの条件下でテストされていないことを前提にするのが安全と言えます。

産業用アプリケーションに使用する開発ボードを決める際の主な目標は、リスクを減らすことです。そのため、まずボードのメーカーについて調べることが重要であり、具体的にはメーカーの生産終了(EOL)ポリシーと開発ボードの生産実績に目を向けるべきです。最適なボードを大量購入するにあたりエンジニアにとって最も困るのは、単にEOLの規定に従うという理由でそのボードが生産中止になってしまうことです。開発ボードの生産を継続させている実績を持つメーカーであれば、そのメーカーからボードを調達しても安全でしょう。しかし、過去にボードを定期的に生産中止している経緯があるメーカーであれば、ボードの調達にはかなりのリスクが伴います。

産業用アプリケーションに開発ボードを採用するかどうかを決めるときは、ボードに搭載されている部品にも注目し、目的の用途に対して部品が適切な温度グレードであることを確認します。ボードが作業員と同じ産業環境に置かれる用途の場合は、その用途に対して商用グレードの部品であれば適切でしょう。コネクタなどあらゆる関連ハードウェア部品についても、それらがしっかり実装されていることを確認してください。はんだ付けされていないネジは、試しにドライバーで軽く回してみます。遊びが多すぎる場合は注意が必要で、QAプロセスとは矛盾する可能性があります。

ボードの部品と構造が許容基準に合う場合は、3枚以上のボードを数日間かけて、高い気温で同時にストレステストするとよいでしょう。生産の一貫性を適切に把握するには、テストする個々のボードを所定の期間に分けて購入し、異なるボード生産ロットをサンプリングすることを強くお勧めします。どのような不具合も不可のため、その不具合が例外的なものであるという適切な説明をメーカーから得られない限り、別の開発ボードを選ぶ必要があるでしょう。

ボードを高い湿度の環境で使用する場合は、該当する湿度環境でテストする必要があります。開発ボードは、高い湿度で使うように設計されていません。プリント基板をコンフォーマルコーティング処理して湿度から保護する方法もありますが、その場合はコネクタおよび電気接点をコーティングから慎重に保護することが条件になります。

また、ボードに変更が加えられるたびにECN(設計変更通知)が送付されるかどうかをメーカーに確認してください。開発ボードでは通知されない場合も多いため、安全のために、購入して納入されるすべてのボードを目視で点検し、部品の変更がないか確認することも必要でしょう。

ボードを振動の多い環境で使用する場合は、ボードをテストフレームに取り付けて振動テストを実施する必要があります。テストの最後に、亀裂や変形がないかを目視で必ず検査します。ネジとタブ付き取り付け具の遊びを確認することも必要です。不具合または欠陥があればすべて不可のため、そのボードは候補対象から外すべきです。

継続使用向けの開発ボード

以下に、産業用アプリケーションでの継続使用に適すると考えられる2つの開発ボードを示します。メーカーは、これらのボードを産業用途で継続使用することを認定していません。特定のエンドアプリケーションについてボードの適格性を検証するテストは、エンジニアの責任において独自に行うものとします。

広く利用されているArduinoフォームファクタによる多くの派生ボードが、メーカー各社から提供されています。たとえば、STMicroelectronicsのNUCLEO-L4P5ZGは、Arm® Cortex®-M4マイクロコントローラをベースにしています。基板レイアウトの外観図を見ると、その多機能さがわかります(図1)。NUCLEO-L4P5ZGには一連のヘッダコネクタがあり、マイクロコントローラのすべてのGPIOをアプリケーションに利用できるようになっています。

STMicroelectronicsのArduino対応NucleoボードNUCLEO-L4P5ZGの画像図1:STMicroelectronicsのNUCLEO-L4P5ZGは、基本的な開発ボード機能を備えたArduino対応のNucleoボードで、すべてのGPIOピンがヘッダコネクタに引き出されています。ユーザープログラム可能な3つのLED、ユーザー押ボタン、リセットボタンを搭載しています。(画像提供:STMicroelectronics)

NUCLEO-L4P5ZGの重要な長所は、そのGPIOがSTMicroelectronicsのArduino対応ボード、Nucleoシリーズの多くと互換であることです。つまり、このボードが生産中止になっても、互換性のある別のNucleoボードを代替品として調達できるのです。このボードには、ファームウェアで制御される3つのLEDと押ボタン、およびハードワイヤードされたリセットボタンが搭載されています。LEDは簡単なステータスを示し、ハードリセットボタンはファームウェアのロックアップ状態からボードをすばやく回復します。ファームウェアで制御されるUSB On-The-Go(OTG)フルスピードコネクタ、およびプログラム/デバッグ用のマイクロUSBコネクタも備えています。白いプリント基板は、高温の環境で熱を逃がしやすくします。NUCLEO-L4P5ZGは、センサ、スイッチ、アクチュエータなどでI/Oを管理する必要がある用途に適しています。

アプリケーションに使用できる開発ボードのもう1つの例は、Infineon TechnologiesのKITXMC47RELAXV1TOBO1リラックスキットです。このボードもArmのCortex-M4をベースにしており、ヘッダコネクタなしでフルセットのArduinoパッドを備えています(図2)。このリラックスキットは、ネットワーク接続される用途、またはEthernetネットワーキング用RJ45コネクタを備えたベーシックなIIoTノードに適しています。ファームウェアで制御される2つの押ボタンと2つのLED、およびリセットボタンを備えています。

Infineon TechnologiesのKITXMC47RELAXV1TOBO1リラックスキットの画像図2:Infineon TechnologiesのKITXMC47RELAXV1TOBO1リラックスキットでは、すべてのGPIOがプリント基板のコンタクトホールに引き出されています。搭載済みのEthernetコネクタとUSBコネクタによりシリアルインターフェースをサポートし、microSDカードスロットを使用してメモリを拡張できます。(画像提供:Infineon Technologies)

Infineonのリラックスキットには、microSDカードスロットも搭載されています。これにより、別のmicroSDフラッシュメモリカードに差し替えるだけで、異なるボード向けにファームウェアやアプリケーションデータを簡単に変更できます。このキットは、センサやスイッチのモニタリング、アクチュエータの制御などを必要とする堅牢なネットワークアプリケーションに適しています。microSDカードは、ファームウェアやデータの変更が定期的に必要な場合に便利で、しかもボードを再プログラミングするより効率的です。

まとめ

マイクロコントローラ開発ボードは、ボードを慎重に選びテストしてから目的の用途に利用するのであれば、産業用アプリケーションのボードとして採用できます。エンジニアに必要なのは、使用前にハードウェアの厳密なテストを行い、メーカーにEOLポリシーなどを含む供給面での信頼性があるかどうかを慎重に見極めることです。多くの開発ボードが選択肢として提供されている中で、エンジニアは、産業用アプリケーション向けに社内QAにもパスするボードを容易に見つけることができるでしょう。

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著者について

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Bill Giovino

Bill Giovino氏は、シラキュース大学のBSEEを持つエレクトロニクスエンジニアであり、設計エンジニアからフィールドアプリケーションエンジニア、そしてテクノロジマーケティングへの飛躍に成功した数少ない人の1人です。

Billは25年以上にわたり、STMicroelectronics、Intel、Maxim Integratedなどの多くの企業のために技術的および非技術的な聴衆の前で新技術の普及を楽しんできました。STMicroelectronicsでは、マイクロコントローラ業界での初期の成功を支えました。InfineonでBillは、同社初のマイクロコントローラ設計が米国の自動車業界で勝利するように周到に準備しました。Billは、CPU Technologiesのマーケティングコンサルタントとして、多くの企業が成果の低い製品を成功事例に変えるのを手助けしてきました。

Billは、最初のフルTCP/IPスタックをマイクロコントローラに搭載するなど、モノのインターネットの早期採用者でした。Billは「教育を通じての販売」というメッセージと、オンラインで製品を宣伝するための明確でよく書かれたコミュニケーションの重要性の高まりに専心しています。彼は人気のあるLinkedIn Semiconductorのセールスアンドマーケティンググループのモデレータであり、B2Eに対する知識が豊富です。

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