プログラム可能な電源モジュールを使用してDC/DCレギュレータ設計をスピードアップ

DigiKeyの北米担当編集者の提供

スイッチングDC/DC電圧レギュレータは電源を高効率化できます。高品質なモノリシックレギュレータには幅広い種類がありますが、いずれも幅広い用途のニーズを満たすように設計されており、エンジニアが独自に設計した固有の仕様を満たすように設計されていません。また、特定のアプリケーション用に電源を最適化する際には、時間と費用をかけて設計を繰り返す必要があります。

設計者に必要なのは、電源ベンダーへのウェブベースのインターフェースを利用して、必要な性能パラメータに基づいた電源設計を構成し、最終的に設計が固まった時点でそれを量産化に持ち込むことができる環境です。

この記事では、構成可能な電源モジュールを使用した場合のそのような設計プロセスの1つについて説明します。具体的には、MPS(Monolithic Power Solutions)の評価キット(EK)およびウェブベースのソフトウェアを使用して、DC/DCコンバータのシンプルな設計から高度な設計までの設計プロセスをスピードアップする方法について説明します。

DC/DCコンバータ設計を始める

降圧(バック)スイッチング電圧レギュレータを比較的少数の部品を使用して一から設計することはもちろん可能です。たとえば基本的な設計には、トランジスタ1個(基本的にスイッチとして使用)、ダイオード1個、インダクタ1個、出力と入力に1個ずつ配置するコンデンサといった部品が含まれます。しかし実用的なソリューションには、電圧リファレンス、誤差アンプ、コンパレータ、発振器、スイッチドライバなど、いくつかの追加要素が必要になる可能性があります。実際には、ディスクリート部品から設計する工程を選ぶエンジニアはほとんどいません。なぜなら、実績ある各種の高集積化モノリシックDC/DC電圧レギュレータが低価格で提供されているからです。

多くの場合、入出力電圧、最大負荷電流、最大電圧リップルなどの仕様要件に基づき、高度な設計に影響する効率性、過渡応答、周波数応答などの要素も勘案しながら、定評あるサプライヤが提供しているレギュレータを選ぶ方が簡単です。チップメーカーは仕様の大部分を満たすきわめて幅広いソリューションを提供している場合が多いですが、あらゆる事象に完璧に適合するデバイスを提供することは不可能です。そこに設計者がしなければならない作業があります。

作業量はモノリシックソリューションの集積度によって異なりますが、低電流(10A未満)の設計の出発点として一般的なのは、パルス幅変調(PWM)コントローラ、スイッチングエレメント(MOSFETパワートランジスタ)、バイパスダイオードを集積したチップで、設計者は外付けインダクタ、バイパスコンデンサ、その他入出力フィルタ回路に必要な受動部品を指定することです。

メーカーなどの調達先からモノリシックレギュレータをベースに電源を設計する方法については多くの情報がありますが(末尾のお勧めの記事など)、そのプロセスは、理論上の回路が実際にどのように機能するかを確認するために計算を行い、その後ハードウェアの試作を数サイクル繰り返して、さらに調整を重ねて仕様に適合させるという、難しくて厄介なプロセスであることに変わりはありません。

MPSは、このように時間のかかる電源設計プロセスに対して、構成可能な電源モジュールを使用した代替手法を提供します。

構成可能な電源モジュールのご紹介

MPSのmEZDPD3603A構成可能電源モジュールの中核には、高周波数、同期整流式降圧コンバータがあり、I2C制御インターフェース、マルチページワンタイムプログラム可能な(OTP)ROMメモリ、および3A連続出力電流機能を備えています。このコンバータは、ハイサイドおよびローサイドのパワーMOSFET、補償ネットワーク、およびフィードバックデバイダを統合しています。I2Cインターフェースを介して、出力電圧レベル、電圧スルーレート、スイッチング周波数、イネーブル、電力節約モードはプログラム可能で、設計者は各出力を所定の設計に最適化できます。

電流モード動作は、高速過渡応答を提供し、ループ安定化を容易にします。完全な保護機能には、不足電圧ロックアウト(UVLO)、過電圧保護(OVP)、過電流保護(OCP)、過温度保護(OTP)が含まれます。

mEZDPD3603Aモジュールは、実用設計に必要な周辺機器の部品のほぼすべてをこの降圧コンバータに追加しています(図1)。

MPSのmEZDPD3603Aモジュールの図図1:MPSのmEZDPD3603Aモジュールの内部回路図。設計者の仕事は、入力(CIN)コンデンサと出力(COUT)コンデンサの値を指定することのみ(画像提供:MPS)

完全に機能するDC/DC降圧レギュレータ電源設計を完成させるために設計者が追加する必要があるのは、入力(CIN)コンデンサおよび出力(COUT)コンデンサのみです。一から設計する場合、これらのコンデンサの値を計算するのは簡単ではなく、出力電圧、負荷、デューティサイクル、電圧リップルの影響を受けます(DigiKeyの技術記事、「優れた電圧レギュレータ設計のカギとなるコンデンサの選択を参照してください)。しかし、MPSモジュールでは、メーカーが設計者用に値を計算済みです。最終的な選択に影響するのは、出力電圧のみになります(図2および表1)。

MPS mEZDPD3603Aの代表的な応用回路の図図2:MPSのmEZDPD3603Aの代表的な応用回路では、R2を使用してI2Cアドレスを設定し、システム内で複数モジュールの識別が可能(画像提供:MPS)

VOUT(V) CIN COUT
<3.3 4.7μF 22μF
5に準拠したアクティブモードでの最小4点平均効率 4.7μF 22μF x 2
12 10μF 22μF x 2

表1:図2の応用回路で異なる出力電圧に対して推奨されるコンデンサ値(画像提供:MPS)

厳しい電磁妨害(EMI)規制の対象となる製品に使用される電源の場合、入力コンデンサをコンデンサ3個とインダクタ1個で構成されるL-Cフィルタ回路に置き換えることができます(入出力フィルタ回路設計について詳しくは、DigiKeyの技術記事「低EMIスイッチングレギュレータを使用した高効率電源設計の最適化」を参照してください)。これらの部品の値は前述と同様に出力電圧に応じて異なりますが、ここでもその回答がメーカーから提供されています(図3および表2)。

EMIフィルタリング付きMPSのmEZDPD3603A応用回路の図図3:EN55022クラスB規格準拠のEMIフィルタリング付きMPSのmEZDPD3603Aの応用回路(画像提供:MPS)

VOUT(V) C1 C2 C3 COUT
<3.3 4.7μH 10μF 10μF N/A 22μF
5に準拠したアクティブモードでの最小4点平均効率 4.7μH 10μF 10μF N/A 22μF x 2
12 4.7μH 10μF 10μF 100μF電解コンデンサ 22μF x 2

表2:上記応用回路の異なる出力電圧に対して推奨されるコンポーネントの値(画像提供:MPS)

モジュールの入力電圧範囲は4.5~36V、出力電圧範囲は0.6~12Vです。電圧精度は±1%で、ラインおよび負荷安定化(VIN = 24V、VOUT = 5V)は±1%です。最大電流は3A、出力電圧リップル(VIN = 24V、VOUT = 5V、全負荷)は30mVです。表3に、モジュールの性能と効率性の数値をまとめています。図4では、異なる効率と負荷電流の値に対するVOUTを示します。

パラメータ 条件 数値
入力電圧 4.5V~36V
出力電圧 VIN = 4.5V~36V、単一出力、IOUT = 0A~3A 0.6V~12V
出力電流 VIN = 4.5V~36V、単一出力、VOUT = 6V~12V 0A~3A
標準効率 VIN = 12V、VOUT = 5V、IOUT = 3A 90%
ピーク効率 VIN = 24V、VOUT = 12V、全負荷、Fsw = 800kHz 93.2
デフォルトスイッチング周波数 標準スイッチング周波数 500kHz

表3:MPSのmEZDPD3603Aの性能パラメータ(画像提供:MPS)

MPSのmEZDPD3603Aの効率数値のグラフ図4:VIN = 24VおよびVOUT = 3.3、5、12VでのMPS mEZDPD3603Aの効率数値。(画像提供:MPS)

構成可能な電源モジュール用評価キット

MPSのモジュールにはデジタル論理回路が含まれるので、ソフトウェアパラメータを変えることでその動作性能を変更できます。パラメータにはモジュールのI2Cインターフェースを介してアクセスし、そこでデバイスのRAMの設定を識別して変更できます。目的の最適な設定に達したら、OTP ROMメモリに設定を恒久的に保存できます。

MPSは、構成可能な電源モジュールを使用した設計をサポートするハードウェアおよびソフトウェアツールを提供しています。その主なツールは、PKT-MEZDPD3603Aハードウェア評価キット(EK)です。このEKは64 x 64mmのサイズに入出力コンデンサ(および必要に応じてオプションのEMIフィルタ)とコネクタ(構成可能な電源モジュール差し込み用)を搭載しています。電源モジュールを接続したら、適切な負荷と、必要な入力電圧(4.5~36V)を供給する電源をEKに接続する必要があります(図5)。

MPSの構成可能な電源モジュール用評価キットの図図5:モジュール差し込み用ソケットを含み、外部電源と負荷を必要とする構成可能な電源モジュール用評価キット(画像提供:MPS)

このEKは、PCに接続してMPSのVirtual Bench V3.0ソフトウェアから構成できるようにする必要があります。MPSはこの接続用に、USBコネクタ(PC側)とI2Cコネクタ(EK側)を備えたドングルを提供しています。USBケーブルでドングルをPCに接続し、10ピンリボンケーブルでEKに接続します。EKのI2CインターフェースがモジュールのI2Cピンに直接接続することで、PCからの構成が可能になります(図6)。

MPSの構成可能な電源モジュール用EK接続の図図6:電源、負荷、およびUSB-I2Cドングルを介したPCへの接続を要する構成可能な電源モジュール用EK(画像提供:MPS)

電源モジュールのプログラミング

ハードウェアをPC(Windows XP、7以降)に接続し、Virtual Bench V3.0をコンピュータにインストールして起動すると、「シミュレーションとプログラム」(開発者の構成をEKハードウェアではなくソフトウェアシミュレータで実行できる)および「ダイレクトプログラミングモード」の2つのオプションが表示されます。以下ではダイレクトプログラミングのオプションを取り上げますが、その理由は開発者がEKハードウェアの中核にあるモジュールを直接構成できるためです。

Virtual Bench V3.0で利用できる設定には、「基本(Basic)」と「高度(Advanced)」の2種類があります。基本設定では、開発者が出力電圧(V)、インダクタ値(μH)、スイッチング周波数(kHz)、動作モード(ピーク電流モードなど)の既存の設定を読み取ることができます。さらに、これらの設定に変更を加えて、改訂した数値を使ってモジュールのRAMをプログラムし、モジュールに電力を投入して性能に対する変更の影響を確認できます。

同様に[Advanced]タブでは、設計者は次のグループごとに、より詳細な性能パラメータの設定を識別して変更できます。

  • Light-Load mode(軽負荷モード):利用できるモードは、高度な非同期変調(AAM、Advanced Asynchronous Modulation)および強制的な連続電流モード(CCM、Continuous Current Mode)です。AAMは軽負荷または無負荷の状態でコンバータの効率を最適化します。一方、強制CCMはより小さな出力リップルでスイッチング周波数を一定に保ちます(ただし軽負荷の状態ではAAMより低効率になります)。
  • Compensation(補償):このグループの設定はレギュレータの周波数応答を変更するものですが、これによりデバイスの過渡応答、精度、安定性が決まり、さらに入力電圧、負荷、デューティサイクルが変化する状況下で設定済みの電圧出力がどの程度維持されるかが決定づけられます。補償が適切であれば、広い周波数範囲にわたり安定した電源になりますが、過剰補償されていないためダイナミック応答が不十分になります。
  • Switching(スイッチング):このグループの設定により、レギュレータが切り替わるときの立ち上がり/立ち下がり電圧スルーレート、および周波数ディザリング時間と振幅を変更します。スルーレートとディザリングの両方とも、EMIの最小化に重要です。
  • VIN/EN threshold(VIN/EN閾値):このグループの設定により、入力電圧UVLOおよびEN動作の閾値限界(値およびヒステリシス)が決まります。
  • Power good(パワーグッド):このグループの設定により、「パワーグッド」の上限/下限の立ち上がり閾値とヒステリシスが決まります。
  • SS Time(SS時間):ソフトスタートを設定します。ソフトスタートは、出力がオンになったときにレギュレータが入力に過剰な負荷をかけるのを防ぎます。
  • Protection(保護):このグループの設定により、設計者は保護モードと、ピーク電流、OVP、OTPなどの閾値を実装できます(図7)。

MPSのVirtual BenchのGUIの画像図7:MPSが提供するVirtual BenchのGUIには、構成可能なモジュールの高度なプログラミングが含まれており、モジュールの性能を最適化して設計者の仕様を満たすことが可能(画像提供:MPS)

用途に最適な設定を選択すると、その情報がモジュールの内蔵RAMに書き込まれます。次に、異なる負荷条件でEKを実行してその性能を確認できます。設定を変更してRAMに上書きするのは簡単で、これにより電源の性能を最適化できます。

RAMは揮発性なので、モジュールの電源をオフにするたびに設定が失われます。再起動時には、工場出荷時のデフォルト設定でモジュールが始動します。電源を切る前にRAMの情報をVirtual Benchにエクスポートすることで、その情報を後から参照できます。

最適な設定が決定したら、設計者はそれらをOTP ROMにプログラムできます。これにより電源をオフにしてもそのデータが保持され、次回モジュールを起動するとき使用できます。EKではI2CインターフェースとRAMを使用して引き続き設定を試行できますが、ROMの初回の使用以降はそれ以上の設定を保存できません。

まとめ

優れたモノリシック電圧レギュレータが幅広く提供されていますが、設計者は、特定の用途で設計性能を最適化する周辺回路の設計とテストに膨大な作業を抱えた状況であることに変わりありません。モジュールの完全なハードウェア設計とプログラム可能なデジタル論理回路を組み合わせることで、MPSの構成可能でプログラム可能なモジュールは、このような設計ループを容易にするとともにスピードアップします。

これまで述べたように、PCベースのGUIと組み合わせて利用するEKでは設定が簡素化されており、設計者は出力電圧や電流などの基本項目を設定し、残りを工場出荷時のデフォルトのままにするか、より高度なスイッチングコンバータ設計を設定することで、EMIと過渡応答を最小化して安定性と効率を最大化できます。

設計が最終的に決まれば、試作データから構成するために、プログラムされていない状態でモジュールを量産化することが可能です。または、設定情報をMPSに提供すれば、工場出荷時にプログラム済みのすぐに使えるモジュールが供給できます。

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