F-RAMを使用した超低消費電力長期ストレージ搭載電池駆動デバイスの開発
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2019-12-11
民生用、産業用、その他の市場向けの電池駆動モバイルデバイスに重要度の増している要件として、信頼性の高い長期データストレージが登場してきました。フラッシュメモリやEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)など、従来の不揮発性メモリ(NVM)技術は、以前の製品世代においてはこのニーズを満たしてきました。
しかし最近の先進的なモバイル製品の場合、ユーザーが電池寿命の長時間化を常に望み続けていることから、設計性能や電力バジェットを落とさずに信頼性の高いストレージを提供できる選択肢はかなり限られています。
この記事では、Cypress SemiconductorのF-RAM(Ferroelectric Random-Access Memory、強誘電体ランダムアクセスメモリ)であるExcelonファミリを紹介し、電池駆動デバイスにおける高信頼性長期ストレージの要件を満たすための使用方法を説明します。
ポータブルデバイスにおけるストレージの課題
ウェアラブル、IoTデバイス、その他のポータブル製品の設計において、製品機能の増加は、そのまま大容量不揮発性ストレージの必要性の高まりにも繋がります。ユーザーがより包括的な情報を求めていることから、これらの設計に、より高い分解能および更新速度で動作する、より多種類のセンサを搭載することが推し進められてきました。それと同時に、ユーザーはこれらの洗練された製品に対して、現在の一時点のセンサデータだけでなく、広範な履歴や傾向を表示できることも期待します。特に、こうしたデバイスはクラウドやスマートフォン、その他の外部デバイスへのアクティブな接続なしに、オンデマンドでそうした一揃いのデータを生成できる必要があります。
これらの最小限の要件を従来のNVM技術で満たそうとすると、特に電力が制限される設計においては多数の困難に直面することになります。多くのNVM技術では、書き込み処理に長いサイクルを要するため、書き込み速度がRAMよりも大幅に遅くなります。従来のEEPROMでは書き込みに数ミリ秒かかる場合があります。最新のフラッシュメモリの場合でも、書き込みサイクル中の「ソーク時間(soak time)」が余分に必要になるため、性能が低くなります。また、書き込みサイクルが長いと、データ更新速度が低下すると同時に総電流消費量が増します。最後に、従来のNVMデバイスには通常、書き込み耐久性仕様に制限があります。日常的なデータ記憶に必要な反復的な書き込み頻度で使用した場合、これらのデバイスは製品寿命以内に使用不能になる恐れがあります。
ますます増加しつつある電池駆動設計に対して、F-RAM NVMデバイスは、必要な速度、耐久性、低消費電力動作の組み合わせを実現する長期ストレージのシンプルなソリューションになります。典型的なF-RAMデバイスは、書き込み耐久性および書き込みサイクルタイムでEEPROMやフラッシュメモリュメモリより数桁分勝り、速度ではSRAM(Static RAM、静的RAM)にも迫るほどです。実際、F-RAMは従来のRAMの性能上の利点と他のNVM技術の不揮発性ストレージ機能を併せ持っています。F-RAMソリューションの中でも、Cypress Semiconductorが提供するF-FRAMのExcelon LP(Low Power)シリーズは、電池駆動のウェアラブルおよび他のモバイル製品における超低消費電力の基本的要件を満たせる点で抜きんでています。
超低消費電力F-RAM
CypressのExcelon LP F-RAMデバイスは、F-FRAMアレイ、抵抗器、制御およびインターフェース論理回路、さらに3回までのリフローはんだサイクルで内容を維持できるように設計された特殊セクタを組み合わせた、統合型不揮発性メモリサブシステムです(図1)。
図1:Cypress SemiconductorのExcelon LP F-RAMデバイスは、F-RAMアレイとサポート回路を内蔵し、SPIポートからアクセスできる完全なメモリサブシステム。(画像提供:Cypress Semiconductor)
Excelon LP F-FRAMデバイスは、一般的なEEPROMやフラッシュメモリをはるかに凌ぐレベルの長期信頼性を実現しています。これらのデバイスは読み書き1015回の耐久性とデータ保持期間151年を実現し、あらゆる実用的なウェアラブルやIoTデバイスの現実的なライフサイクルを超越しています。
これらのデバイスの書き込み性能もアプリケーションの全般的信頼性を高めます。これらのデバイスはバス速度で不揮発性F-RAMアレイにデータを書き込むため、他の種類のNVMデバイスに比べてデータ喪失の可能性が大幅に下がります。他のNVMデバイスでは、書き込み時間が大幅に長くなり、それに付随して内部にデータをバッファリングする必要があることから、書き込みシーケンス完了前に電源の不具合が発生した場合にデータを喪失するおそれのある脆弱な時間が長くなります。
他のNVM技術とは異なり、Excelon LP F-FRAMデバイスは、ポータブル製品の電池寿命を延ばすのに必要な最小限の電流レベルで動作します。20MHzで動作する、Cypressの8メガビット(Mb)F-RAM LPシリーズであるCY15x108QIの消費電流はわずか1.3mA、また、4Mb F-RAM LPシリーズであるCY15x104QIの消費電流はわずか1.2mAです。後で詳述しますが、このデバイスにはさらなる電流消費低減を達成するための複数の選択肢が開発者に用意されています。
幅広いシステム要件に対応できるように設計されたExcelon LPファミリには、商用と産業用の両方の温度範囲、また電源電圧の異なる製品があります。たとえば、4MbのCY15V104QIおよび8MbのCY15V108QIは1.71V~1.89Vの電源電圧で動作するのに対し、4MbのCY15B104QIおよび8MbのCY15B108QIは、1.8V~3.6Vで動作するように設計されています。
シンプルなシステム設計
各種アプリケーションの動作要件に適したものを選択できるだけでなく、このデバイスを使用するとシステム設計がシンプルになります。通常の設計では、開発者はシリアルペリフェラルインターフェース(SPI)バスを使用し、1つ以上のExcelon LP F-RAMデバイスをSPIスレーブとしてマイクロコントローラなどのSPIマスターに接続します(図2)。
図2:開発者はCypress Semiconductorの1つ以上のExcelon LP F-RAMデバイスをマイクロコントローラなどのSPIマスターが制御するSPIバスに接続するだけで、長期ストレージを設計に組み込むことができる。(画像提供:Cypress Semiconductor)
相互接続SPIバス上でのやり取りはシンプルで高速です。メモリへの書き込み時のExcelon LPの動作には、フラッシュやEEPROMの場合に述べた余分な書き込み遅延がありません。このデバイスでは、SPIバスを通して各バイトが届くごとに即座にF-RAMアレイに書き込まれるため、突然の電源不具合によるデータ喪失のリスクが大幅に低減しています。
システム開発者の立場からみると、書き込みプロセスは業界標準のSPI命令コードを含んだシンプルなSPIプロトコルに従います。ホストプロセッサは、チップセレクト(ØCS)ラインをHIGHにしてからLOWにしつつ、ライトイネーブル(WREN)の命令コード(06h)を送信することで各書き込みシーケンスを開始します。この短い初期化フェーズの後、ホストプロセッサはライトの命令コード(02h)に続けて24ビットアドレスを送信し、書き込み動作を開始します。(アドレスの上位4ビットは、これらのデバイスでは無視されますが、将来の高密度F-RAMデバイスとの互換性を保証しています)アドレス送信後、即座にホストプロセッサはデータバイトの送信を開始できます(図3)。
図3:標準SPIによる書き込みシーケンス時、Cypress SemiconductorのExcelon LP F-RAMデバイスは、従来のNVM技術にあったバッファリングやソーク時間による遅延がまったくなく即座にデータをF-RAMアレイに書き込む。(画像提供:Cypress Semiconductor)
ホストプロセッサがØCSラインをLOWにしてクロック信号を送信しつづけている限り、ホストプロセッサがデータバイトを送信すると、このF-RAMデバイスは内部的にアドレスを自動でインクリメントします。そのため、設計者はシングルバイト書き込みとブロック書き込みのどのような組み合わせが必要な設計にもExcelon LP F-RAMデバイスを使用できます。
読み出し動作は同様のSPIプロトコルに従います。ØCSをLOWにした後、ホストプロセッサはリードの命令コード(03h)と24ビットアドレスを送信します。Excelon LP F-RAMデバイスは即座にデータバイトをSCKクロックサイクルごとにSOラインに送信して応答します。書き込み動作と同様に、ホストプロセッサがØCSラインをLOWに維持してSCKクロックを送信しつづける限り、読み出し動作も継続します。
電池寿命を延ばす
シンプルなシステム設計要件とともに、これらの低消費電力F-RAMは、開発者に電流消費を低減して電池寿命を延ばすための選択肢を提供しています。特に電池駆動アプリケーション向けに設計されたCypressのCY15x10xQIデバイスは、NVMデバイスの電源投入時に決まって発生する比較的大きな電流を低減する、内蔵の突入電流制御回路を備えています。
またCypressのExcelon LP F-RAMデバイスを用いることで、比較的進行の遅い実世界の事象追跡にセンサを使用するウェアラブルおよびIoT設計における電池寿命を延ばすために、さまざまな戦略を採ることができます。そうした設計では、CypressのExcelon LP F-RAMデバイスは通常、電流消費が低減する低いクロック周波数で動作させることができます。たとえば、8MbのCY15V108QIは1MHzのクロックで動作させると、電流消費が20MHz時の1.3mAから300µAに低下します。同様に、4MbのCY15V104QIは20MHz時の1.2mAに対して、1MHz時にはわずか200µAしか必要としません。
Excelon LP F-RAMデバイスで使用できる特別な低消費電力モードを使うと、ウェアラブルおよびIoTアプリケーションで日常的に発生する変動アイドル期間中のシステムの電力消費をさらに低減できます。これらのF-RAMデバイスは、応答時間と引き換えに電流消費を低減できる3種類の省電力モードを備えています。
SPIシーケンスを終了するためØCSがHIGHにされると、これらのデバイスは必ず自動的に第1の低消費電力モードであるスタンバイモードに入ります。逆に、新たにSPIシーケンスを開始するためØCSがLOWにされると、デバイスは自動的にスタンバイモードを終了します。スタンバイモードの間、8MbのCY15V108QI Excelon LP F-RAMではわずか3.5µA、4MbのCY15V104QIでは2.3µAしか必要としません。
スタンバイモードは自動的かつ即座に電流を低減し、通常のアクティブモードへの復帰に余分な遅延を要することもありません。しかしアイドル期間の長いアプリケーションでは、こうした電流消費でも長期間の内には不必要に電池寿命を縮めてしまいます。そのような場合に備えて、Excelon LP F-RAMデバイスには、ディープパワーダウンモードとハイバネートモードという、さらに2つの低消費電力モードがあります。
デフォルトのスタンバイモードとは異なり、ディープパワーダウンモードとハイバネートモードには、特殊なSPI命令コードを使用して明示的に入ります。読み書きのSPI動作と同様、SPIマスターがディープパワーダウン(DPD)の命令コード(BAh)またはハイバネート(HBN)の命令コード(B9h)を発行し、対応する低消費電力モードに入るようF-RAMデバイスに命令します(図4)。
図4:開発者は、標準SPIプロトコルを使用して、Cypress SemiconductorのExcelon LP F-RAMデバイスを電力消費が劇的に低減するディープパワーダウンモード(DPD)またはハイバネートモード(HIB)に入れることができるが、それぞれの低消費電力モードに入るとき(tENTxxx)および復帰するとき(tEXTxxx)に発生する遅延は異なる。(画像提供:Cypress Semiconductor)
これらの低消費電力モードの効果は劇的で、電流消費が1µA未満に低下します(表1)。これらのモードはデバイスの電流を大幅に低減しますが、時間が重要であるデータ操作に悪影響をおよぼす恐れもあります。命令コードに基づくDPDおよびHIBという低消費電力モードには、そのモードに入るのに要する時間(tENTDPDまたはtENTHIB)とそのモードを終了するのに要する時間(tEXTDPDまたはtEXTHIB)に関係する遅延が余分に発生します(表1および図4)。
|
表1:Excelon LP F-RAMの電力モードにおける電流消費と、命令コードを使用したディープパワーダウンモードおよびハイバネートモードに入るとき(tENTDPDまたはtENTHIB)または各モードを終了するとき(tEXTDPDまたはtEXTHIB)に関係する遅延。数値は、電源範囲が1.71V~1.89V、動作温度範囲が0°C~+70°Cの商用版に関するもの。(データ出典:Cypress Excelon LP F-RAMのデータシート)
命令コードに基づく低消費電力モードを使用する場合、開発者はこれらのモードでの電流消費低減の利点を、モードに入るときとモードを終了するときに要する消費電流および時間と比較検討する必要があります。長いアイドル期間に入るどのようなシステムも、いずれかのモードを利用する候補になる可能性がありますが、各モードの具体的な選択は、F-RAMデバイスのアクティブ期間中の動作に期待されるデューティサイクルに決定的に依存します。高デューティサイクルで動作する必要があるF-RAMデバイスの場合、低消費電力モードの開始と終了を繰り返すコストは逆効果になりかねません。たとえば、Cypressでは、10秒以上のアイドル期間のあるアプリケーションはすべてハイバネートモードの使用に適した候補であると提案しています。
まとめ
電池駆動のウェアラブルおよびIoTデバイスにおける長期データストレージのニーズの高まりによって、開発者は、EEPROMやフラッシュメモリなど従来のNVM技術に関連した性能の制限なしに低消費電力を達成するNVMデバイスを見つけることが求められています。F-RAM技術固有の速度と信頼性を土台として開発された、Cypress SemiconductorのExcelon低消費電力(LP)F-RAMデバイスはもともと持っている電流低減の必要機能と併せて、電流消費を1mA未満に抑えられるプログラム可能な低消費電力モードを備えています。CypressのExcelon LP F-FRAMを使用すれば、開発者は、従来のRAMの速度を持ちながら高い信頼性で150年以上データを保持できる長期データストレージを手早く電池駆動設計に追加することができます。
免責条項:このウェブサイト上で、さまざまな著者および/またはフォーラム参加者によって表明された意見、信念や視点は、DigiKeyの意見、信念および視点またはDigiKeyの公式な方針を必ずしも反映するものではありません。


