USB Type-CアプリケーションをパワーアップさせるUSB PD 3シンクコントローラ

著者 Pete Bartolik(ピート・バートリック)

DigiKeyの北米担当編集者の提供

各国の規制当局が各デバイスに共通の充電端子として標準的なUSB Type-C®のケーブルやコネクタの搭載を義務付ける方向に進んでいるため、プロプライエタリのデバイス充電器を実現するチャンスは急速に閉ざされつつあります。この規格を満たすために地域別要件への対応を急ぐ製品設計者は、デバイスと充電器間の電力供給をネゴシエートするUSB Power Delivery(PD)シンクコントローラを採用することにより、この新時代のアプリケーションを最適化することができます。

2024年12月以降、EU(欧州連合)圏内では、最大100Wに対応する有線充電機器(ラップトップは2026年まで一時的に移行が猶予され、2026年から対象)は、USB PDの仕様に準拠したUSB Type-C充電ポートの搭載が義務付けられます。インドとサウジアラビアで2025年に、次に米国カリフォルニア州で2026年に、この規格の採用を義務付ける規則が施行されます。

USB Type-C単体の給電能力は5Vで3A、合計15Wしかありません。100Wを達成するにはUSB PD 3.0またはUSB PD 3.1仕様が必要で、それによりType-Cコネクタで高速データ転送と同時により高い電圧のネゴシエーションが可能になります。

USB PD 3.0は、固定電圧5V、9V、15V、20V、最大電流5Aで、最大100W出力に対応しています。USB PD 3.0からアップデートされたUSB PD 3.1仕様では、拡張パワーレンジ(EPR)により給電能力が最大240Wに大幅にアップし、可変電圧供給(AVS)により28V、36V、48Vの3種類の固定電圧を新たに選択できるようになりました。

USB PD 3.xの各仕様は、初期のPD 2.0バージョンを改良してシンク(電力を受け取るデバイス)とソース(電力を供給するデバイス)間で交換される情報量を増やし、デバイスバッテリの充電状態、バッテリ温度、故障、過電圧など、アプリケーションに影響を与える可能性のある情報が含まれるようになりました。

USB PD 3.0経由で供給される100Wの電力は、ノートパソコンやモニタ、さらには一部のテレビを充電するのに十分な電力です。USB PDは、DisplayPortやHDMIなどのビデオオーディオ出力やThunderbolt 3などのデータ転送プロトコルにも対応しています。

拡張アプリケーションの提供

製品設計者はUSB PD 3.xを活用して急速充電、高速データ転送、デバイスの互換性を1本のケーブルやコネクタで実現することができ、より優れた体験をユーザーに提供できます。複数のデバイスを充電する際に複数のケーブルと充電器を使用する必要がないため、消費者や企業によって排出される大量の電子機器廃棄物の低減をアピールできます。

この技術を活用すればポート数と部品数を減らすことができ、設計を簡素化できます。さらに、充電器の重量と包装を減らせることで製造コストや輸送コストを削減できるほか、新しいデバイス固有の充電器をアップデートするのに必要な時間と労力も削減できる可能性があります。

1本のケーブルやコネクタを複数の機能に使用することで、設計者はUSB Type-C PDの高い電力供給能力と高速データ転送能力を活用した新しいアプリケーションや改良されたアプリケーションの開発に集中することができます。また、ドッキングステーション、ハブ、コンバータなど、デバイスの接続性と互換性を拡張する追加機能によって、製品のユーザーエクスペリエンスと機能性を向上させることもできます。

USB PD 3.0を利用した新しいアプリケーションの開発では、製品設計者はUSB PD仕様の準拠や、他のデバイスや充電器との相互運用性の確保といった課題に直面します。

過電圧、過電流、逆極性による破損や怪我の防止も重要な課題で、この技術を使用したソリューションではそれ以前の世代よりも複雑な回路やファームウェアが使用されているためなおさらです。このような課題を克服するのに役立つのが、複数のプロトコルと構成に対応した給電コントローラと、迅速な試作と検証を可能にする評価用ボードです。

USB Type-C PDの実用化

USB PD 3.0の鍵となるのは、標準化されたプロトコルを使用してシンクと電源間の給電をネゴシエートし、管理する能力です。USB PDシンクコントローラは、充電器などのUSB PDソース機器とネゴシエートしてデバイスの電力プロファイルを取得します。準拠デバイスはニーズと能力に応じて異なる電圧と電流を要求し供給でき、動作中に電力レベルを動的に調整できます。

給電ネゴシエーションと管理のプロセスには、4つの段階があります。

  • 検出の段階では、シンクとソースが互いにUSB PD互換デバイスであることを認識し、USB Type-CコネクタのCC(configuration channel)ピンを介してデータ通信チャンネルを確立します。
  • 容量情報の交換の段階では、ソースが対応可能な電力プロファイル(電圧レベルと電流レベル)をシンクに対して明らかにし、シンクはその要件に合致するプロファイルを要求します。
  • 電力パラメータの取り決めの段階では、ソースがシンクの要求を受け入れるかどうかを決定します。要求が受け入れられると、ソースは合意された電力パラメータを使って、要求された電力をシンクに供給し始めます。
  • 電力ルールのアップデートの段階では、バッテリレベルやシンクの負荷の変化、またはソースの入力電力の変化に対応する新しい電力ネゴシエーションをシンクまたはソースが開始することができるようになります。

USB PD 3.0は、拡張メッセージを利用してバッテリの状態、温度、メーカー固有のデータなどのシンクとソース間の情報交換を管理します。また、プログラマブル電源(PPS)モードにも対応しており、ソースの出力電圧と電流の細かな制御が可能で、データ通信を中断することなくシンクとソース間で給電側と受電側の役割をシームレスに切り替えることができます。

USB PD 3.0のもう一つの重要な機能が逆充電で、これにより、給電側か受電側かにかかわらず、バッテリ容量の大きいデバイスがバッテリ容量の小さいデバイスを充電することができます。たとえば、同じUSB Type-Cケーブルを使ってラップトップでスマートフォンを充電したり、同じスマートフォンでヘッドセットを充電したりすることが可能です。ケーブル1本を持ち歩くだけで複数のデバイスを充電できるため、デバイスユーザーにとってメリットがあるのは明らかです。

逆充電は、すべてのデバイスや充電器で可能だというわけではありません。また、ソースとして機能するデバイスのバッテリ寿命が短くなり、回路設計が複雑化し、コストが増大する可能性があります。そのため、すべての電子機器アプリケーションと同様に、製品設計者は、USB PD 3.x仕様に準拠していることを確認し、さまざまなデバイスや充電器との相互運用性を評価して、逆充電実装のメリットとデメリットを慎重にはかりにかける必要があります。

USB 3シンクコントローラ

デバイスでUSB PD 3.xの機能を有効にするために、製品設計者はプロトコルに対応しソースデバイスとの通信を処理する専用のシンクコントローラを使用することができます。

Diodes Incorporatedは、急速充電、逆充電、PPSモードなどのUSB PD 3.xの機能を備えた、高度に統合されたコスト効率の高いソリューションを提供しています。こうしたソリューションはQualcomm Quick Charge 4+やHuawei FCP/SCPといった従来のプロトコルにも対応しており、幅広い充電器やアダプタとの互換性を確保しています。

AP33771(図1)は、USB PD 3.0準拠のファームウェアと電源メニューがプリロードされたインターフェースによりさらに使いやすくなったUSB PD 3.0コントローラです。同製品は、最大27Wの電力を供給できる出力チャンネルを1つ提供します。

Diodes Incorporated製AP33771シンクコントローラの図図1:AP33771シンクコントローラのピン配置(画像提供:Diodes Incorporated)

AP33772(図2)は、I²Cインターフェースと内蔵ファームウェアを使用して電力と電圧のネゴシエーションを行うUSB PD 3.0コントローラです。これにより、設計者はすべてのPDシンク機能をより柔軟に実装することができます。また、最大45Wの電力を供給できる2つの出力チャンネルを備えており、各チャンネルに過電圧保護(OVP)回路を内蔵しているため、充電器やケーブルに不具合があった場合でもデバイスへのダメージを防ぐことができます。

Diodes Incorporated製AP33772シンクコントローラの画像図2:DiodesのAP33772シンクコントローラはAP33771と同じサイズのパッケージングですが、ピン配置は異なります。(画像提供:Diodes Incorporated)

Diodesはこのほか、EPR/AVSで最大28V、標準パワーレンジ(SPR)/PPSで最大21Vの出力に対応しているUSB PD 3.1シンクコントローラ、AP33771Cも提供しています。

これらの各コントローラは、スタンバイ時の消費電力が低く、高効率で、熱保護機能が実装されています。これらの製品は、フットプリントの小さいW-QFN4040-24(4mm x 4mm)パッケージで提供されるため、小型のポータブルデバイスに適しています。

さらに、Diodesは、同社製USB PD 3.0コントローラ向けの評価用ボードを2種類提供しています。AP33771-EVBおよびAP33772-EVBはどちらも、Type-Cコネクタ搭載デバイスとType-Cコネクタ搭載のPD充電器またはアダプタを使用した充電アプリケーション向けに設計されています。USB-PDネゴシエーションには、AP33771-EVBの場合はシンプルな抵抗値設定を使用し、AP33772-EVBの場合はI²Cを使用します。

まとめ

USB Type-Cは、デバイスデータ接続の世界標準規格になりつつあります。USB PD 3.xプロトコルは、デバイス固有の充電器を必要とすることなく、世界的に認められたコネクタとケーブルを使用してデバイスの大電力化、急速充電、高速データ転送を可能にするアプリケーションを作成する経路を製品設計者に提供します。Diodes Incorporatedのソリューションを使用することで、製品設計者はUSB PD 3.0またはPD 3.1をデバイスに容易に統合し、性能とユーザーエクスペリエンスを向上させることができます。

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著者について

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Pete Bartolik(ピート・バートリック)

Pete Bartolikはフリーライターで、20年以上にわたってITとOTの問題や製品について研究し、執筆してきました。それ以前は、IT管理専門誌『Computerworld』のニュース編集者、エンドユーザー向け月刊コンピュータ誌の編集長、日刊紙の記者を務めていました。

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