産業アプリケーション用フレキシブル多芯ケーブルを理解する

著者 Art Pini

DigiKeyの北米担当編集者の提供

産業オートメーション、重機械、ロボット、発電などのアプリケーションで電力や制御に使用される多芯ケーブルは、連続的な屈曲やねじれ、幅広い温度変化、油、水、工業用化学薬品にさらされます。このような状態は、ケーブル寿命の短縮、動作信頼性や安全性の低下につながる可能性があります。シグナルインテグリティも問題であるため、ケーブルには電磁妨害(EMI)を最小限に抑えるシールドが必要になる場合があります。

このようなアプリケーションのシステム設計者は、過酷な産業環境にも耐えられる材料に精通し、導体のレイアウトと配置について理解している必要があります。また、環境性能や安全性に関する国際規格への準拠も確保しなければなりません。

この記事では、産業アプリケーションのケーブル要件について簡単に説明します。次に、LAPPの超柔軟連続フレックスケーブルの例を取り上げ、これらの仕様への適合を実現するケーブル材料と特殊構造についてご紹介します。

産業用モーション

自動化された工場は常に稼働しています。ロボットアームは伸長、回転、引き出しを行い、加工ステーションは機械加工やピックアンドプレース作業のために製品を回転、位置決めし、工作機械はツールヘッドを回転、移動させます(図1)。

画像:自動化された工場図1:自動化機械には、数百万サイクルに耐える、曲げやねじれに強い信頼性の高いケーブルが必要です。(画像提供:LAPP)

これらのアプリケーションや、クレーン、風力タービン、大型車両などの用途には、数百万サイクルの曲げやねじりに耐えられるフレキシブルケーブルが求められています。ケーブルの代表的な動きには、連続屈曲、ねじれ屈曲、曲げ屈曲があります(図2)。

画像:連続、ねじれ、曲げ屈曲運動図2:ケーブルの典型的な屈曲運動には、連続、ねじれ、曲げ屈曲があります。(画像提供:LAPP)

一般的にケーブルトラックでは、ケーブルが直線的に往復運動することで、連続的な屈曲が生じます。ロボットマシンで一般的なねじれ屈曲は、ケーブルを時計回りまたは反時計回りに、90°から360°の範囲で縦方向にねじった場合に生じます。曲げ屈曲は、振り子の動きに似ていることから「tick-tock flexure」とも呼ばれ、ケーブルが固定点を中心に前後に曲げられることによって生じます。いずれの場合も、最も大きな応力が発生するのは、固定曲げ点と駆動点です。

ケーブルが特定の種類の曲げに対応するためにどのように設計されているかを理解することは、信頼性と長い機能寿命を確保する上で非常に重要です。

フレキシブルケーブル

ケーブルの柔軟性は、その内部構造によって決まります。その構造は、絶縁体で囲まれたワイヤ導体から始まります。最も一般的に使用される導体は銅で、アルミと銀のオプションがそれに続きます。絶縁体は、さまざまな熱可塑性プラスチックやエラストマから選択され、押出成形によって被覆されます。

一般的に、より細いワイヤを複数使用することで、ケーブルの柔軟性を高めることができます。ケーブルの抵抗はワイヤの断面積に比例するため、ケーブルの直列抵抗を維持するには、複数の細いワイヤを使用する必要があります。DIN VDE 0295/IEC 602258では、産業用ケーブルにいくつかの柔軟性クラスを規定しています(図3)。

画像:LAPP DIN VDE 0295/IEC 602258クラス図3:フレキシブルケーブル構造のDIN VDE 0295/IEC 602258クラスは、固定アプリケーションのソリッドワイヤから、エクストラフレキシブルケーブル用の極細より線まであります。(画像提供:LAPP)

クラス1導体は、通常銅製のソリッドワイヤを使用します。これらは、固定された堅牢なリジッドケーブルが必要な建物への設置を目的としています。

クラス2導体には、個々の直径が小さい複数のより線が含まれます。このケーブルクラスは、より柔軟性がありますが、曲げ、巻き取り、あるいは最初にケーブルの位置を決めて配線するときなど、時折移動が必要なアプリケーションでの固定設置を想定しています。

クラス5のフレキシブル導体は、柔軟性の高いケーブルを製造するために、より細いワイヤを使用します。これらのケーブルは、柔軟性が役立つものの、繰り返し必要とされない、ポータブル電動工具のラインコード、延長コード、その他のアプリケーションに使用されます。

クラス6のエクストラフレキシブル導体は、さらに細いワイヤを使用します。この導体タイプは、ロボットや産業機械などの可動式電気機器に設置されるケーブルに使用されます。また、ケーブルが頻繁に動きやねじれを受ける場所にも使用されます。

マルチワイヤケーブルのワイヤは、円形断面を実現し、直径を最小にし、柔軟性を高めるために撚られたり、敷設されたりします(図4)。

図:ユニレイまたはバンチ、同心逆らせん、同心ユニレイのケーブル敷設構成図4:直径を小さくし、円形断面を確保し、柔軟性を高めるための一般的なケーブル敷設方法を示します。(画像提供:LAPP)

バンチ敷設ケーブルには、同じ方向に撚り合わされたランダムパターンのワイヤが何本か入っています。バンチ構造は幾何学的な構成が明確ではなく、断面が変化する可能性があります。関連するユニレイ構造は、明確に定義された形状と断面を持ちます。

同心敷設ケーブルは、らせん状に敷設された導体の明確な層に囲まれたコアワイヤを使用します。同心円状の各層は敷設方向が逆になっています。ねじれのため、後続の各コースの敷設長は長くなります。同心敷設ケーブルは、連続フレックスアプリケーションに使用されます。

同心ユニレイ導体は、らせん状に敷設された1層以上の導体で単線コアを取り囲んでいます。後続層は同じ敷設方向に巻かれ、後続の各コースの敷設長は長くなります。このケーブル敷設は通常、ねじれ屈曲や連続屈曲を必要とする設計で使用されます。

ケーブル構造

ケーブルは、潤滑材と絶縁材の層で囲まれた複数のワイヤで構成されています。最も一般的に使用されている絶縁材はポリ塩化ビニル(PVC)です。複数のワイヤが敷設され、保護層で囲まれてケーブルが形成されます。たとえば、LAPP ÖLFLEX FD 890およびFD 890 CY連続屈曲制御ケーブル(図5)は、特別に配合されたPVC絶縁材を使用した複数の銅導体を使用しています。

画像:シールド付き、シールドなしフレキシブルケーブルの構造図5:シールド付きとシールドなしのフレキシブルケーブルの構造には、PVC絶縁の銅導体が含まれます。(画像提供:LAPP)

FD 890ファミリのケーブル(図5、上)は3~50本のワイヤで、ワイヤサイズは20AWG~2AWGです。一方、FD 890 CYファミリのケーブル(図5、下)は3~34本のワイヤで、ワイヤサイズは20AWG~6AWGです。シールド編組が追加されていることを除けば、構造は似ています。

FD 890 CYシリーズ ケーブルには、EMIシールドが必要なアプリケーション用に錫メッキ銅編組が含まれています。シールド付きケーブルは、工場現場など、限られたスペースにアクティブパワーケーブルや制御ケーブルが密集する場所において必要です。シールド付きケーブルは、シールドなしケーブルと同様のコア構造を持ち、コアのワイヤから絶縁するために編組の下にPVCジャケットが追加されています。追加の層があるため、ケーブルの直径は同等のシールドなしケーブルより大きくなります。外部ジャケットはシールドなしケーブルと同じ特性を持ちます。

ÖLFLEX FD 890シリーズの例として、20AWGワイヤの4芯シールドなしケーブル8920044があります。メトリック規格の相当値は、導電性断面積0.5mm2です。組み立てられたケーブルの直径は7.4mmです。シールド付きÖLFLEX FD 890 CYファミリの例として、14AWGワイヤの4芯ケーブル8914044Sがあります。このケーブルの導電性断面積は2.5mm2、ケーブル直径は14mmです。シールド編組は、コアワイヤの表面を85%カバーします。

どちらのケーブルファミリも、クラス6の柔軟性規格を上回っています。600Vまでの動作電圧に対応し、2000Vまでの絶縁破壊試験済みです。両ケーブルシリーズの温度仕様は、アプリケーションによって異なります。たとえば、連続的な屈曲が必要なアプリケーションでは-5°C~+90°C、固定用途では-25°C~+90°Cです。

最小曲げ半径は、ケーブルの柔軟性を示す数値です。これは、ケーブルが損傷することなく維持できる最小の曲げ半径を示し、通常、ケーブル直径(D)の倍数で表されます(図6)。

図:最小曲げ半径は、ケーブル直径(D)の倍数で定義図6:最小曲げ半径は、ケーブル直径(D)の倍数で定義されます。(画像提供:LAPP)

図6に示すケーブルの最小曲げ半径は、ケーブル直径の3倍です。FD 890ケーブルの曲げ半径は、ケーブル直径の7.5倍です。内側ジャケットとシールド層が追加されているため、FD 890 CYシールド付きケーブルの最小曲げ半径は、ケーブル直径の10倍となっています。たとえば、14mm FD 890 CYケーブルの最小曲げ半径は140mmです。

FD 890およびFD 890 CYケーブルは、動き、難燃性、耐油性、耐日光性に関するUL、CSA、CE、RoHS規格の認証を取得しています。

まとめ

LAPP ÖLFLEX FD 890およびFD 890 CY多芯ケーブルは、産業オートメーション、重機械、ロボット、発電を含むアプリケーションでの連続フレックス用に設計されています。これらのケーブルは、細いより線と特別に配合されたコンパウンドを使用して屈曲寿命を最適化し、油、水、工業用クーラントや溶剤に対する高い耐性を備えています。EMIが懸念されるアプリケーションには、シールド付きバージョンも用意されています。

DigiKey logo

免責条項:このウェブサイト上で、さまざまな著者および/またはフォーラム参加者によって表明された意見、信念や視点は、DigiKeyの意見、信念および視点またはDigiKeyの公式な方針を必ずしも反映するものではありません。

著者について

Image of Art Pini

Art Pini

Arthur(Art)PiniはDigiKeyの寄稿者です。ニューヨーク市立大学の電気工学学士号、ニューヨーク市立総合大学の電気工学修士号を取得しています。エレクトロニクス分野で50年以上の経験を持ち、Teledyne LeCroy、Summation、Wavetek、およびNicolet Scientificで重要なエンジニアリングとマーケティングの役割を担当してきました。オシロスコープ、スペクトラムアナライザ、任意波形発生器、デジタイザや、パワーメータなどの測定技術興味があり、豊富な経験を持っています。

出版者について

DigiKeyの北米担当編集者