実践技術者のためのVOYAGER4振動監視基本ガイド
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2025-09-18
自動化から産業用システムまで、電気モータは幅広いアプリケーションにおける重要なプロセスを駆動する上で不可欠です。モータの故障や性能低下は、予期せぬダウンタイムを引き起こす可能性があります。これにより工場現場の生産性を低下させ、メーカーのサプライチェーンに重大な遅延や混乱が生じ、企業に多大な損失をもたらす恐れがあります。時間と利益の損失に加え、望ましくないダウンタイムは市場におけるメーカーのイメージを損ないます。
従って、システムのライフサイクル全体を通じてモータが適切に機能することを保証するためには、これらの機械が導入されているシステムにおいて、その健全性と性能を常に監視する必要があります。このような機械の予知保全は、故障を最小限に抑え、信頼性を向上させ、工場現場の生産性を高めます。これらはすべてが、企業にとって大幅な節約につながります。
監視すべき回転機械のパラメータはいくつかありますが、振動は回転機械の健全性を調査および判断するために最も重要かつ有用な特性です。振動は、回転機械内部のソフトフッティング、ベアリング、その他類似の問題などの潜在的な故障を監視および検出するために使用できる重要な予測変数です。振動の監視は難しくないものの、データを収集し、それを意味のある形で報告することは容易なことではありません。それには、データ分析、新しいアルゴリズム、ワイヤレス接続が必要です。
モータ振動の監視
このようなアプリケーション向けに、Analog Devices, Inc(ADI)は、微小電気機械システム(MEMS)加速度センサによるセンシング技術を用いたワイヤレス振動監視センサを開発しました。MEMSセンサは、その小型、低消費電力、8kHzまでの幅広い周波数応答が評価され、多様な産業用回転機械において最適な技術として採用されています。
ADIの新世代MEMSセンサ「VOYAGER4」は、ロボティクスおよび産業用アプリケーションにおける状態ベース監視(CbM)向けに設計されており、センサレベルでより高度なデータ解析を行うため、エッジ人工知能(AI)を組み込んでいます。実際、本製品は、加速度センサ、プロセッサ、電源管理IC(PMIC)などのIC、コンポーネント、その他のデバイスをサポートする完全なソリューションとなっています(図1)。
図1:VOYAGER4の完全なシステムブロック図。 (画像提供:Analog Devices, Inc)
VOYAGER4評価キット
ワイヤレス状態監視システムの理解を容易にするために、ADIはVOYAGER4ワイヤレス振動監視評価キット、EV-CBM-VOYAGER4-1Zを用意しました。このキットは、電気モータや類似の試験装置向けにワイヤレス監視ソリューションを迅速に導入できる、完全な低消費電力振動監視プラットフォームです。これには、以下の機能が備えられています。
- エッジにおけるインテリジェントでスマートかつセキュアな意思決定
- エッジで意思決定するためのAIアルゴリズム
- 機械的取り付けと最大8kHz帯域幅の測定能力
- 3軸超低消費電力、超低ノイズMEMS加速度センサ技術
- 超低消費電力マイクロコントローラおよび堅牢な低消費電力Bluetooth low energy(BLE)技術
キットのプリント回路基板(PCB)に搭載されているADIのICやその他の部品(図2)には、3軸デジタル出力MEMSセンサのADXL382およびADXL367、BLEのMAX32666、AIマイクロコントローラのMAX78000、PMICのMAX20335、電源デバイスのMAX17262、MAX38642などがあります。実装済みのPCBはアルミニウム製ベースに垂直に取り付けられ、バッテリはスタンドオフに取り付けられています。また、モータケースにネジスタッドで取り付けるためのM6ネジ穴がベースに設けられています。ユニット全体は、直径46mm、高さ77mmのアルミニウム製エンクロージャに収められています。
図2:アルミニウムベース上のEV-CBM-VOYAGER4-1Z実装済みプリント回路基板。(画像提供:Analog Devices, Inc.)
BLE接続のアンテナを遮蔽しないように、筐体にはABS樹脂製カバーを採用しています(図3)。電波信号を最小限の干渉で通過させる強度の高い非金属材料です。
図3:アルミニウム製筐体とABS樹脂製カバーを備えたVOYAGER4センサユニットのアセンブリ構成(画像提供:Analog Devices, Inc.)
ADIの技術者はモーダル解析を活用し、VOYAGER4センサが試験対象のモータや回転機械から高感度の振動データを正確に抽出できるよう、堅牢なエンクロージャを設計しました。そのために、エッジAIアルゴリズムを使ってモータの異常な挙動を検出し、機械の診断とメンテナンスを実施するトリガとして機能します。しかし、ソフトウェアが診断プロセスを開始する前に、16ビット、8kHzの3軸MEMS加速度センサADXL382が振動データを収集するために使用されます。収集された生の振動データは、MAX78000 AIプロセッサを使用して処理されます。AIアルゴリズムが故障を検出、または振動データに異常があると判断した場合、システムはMAX32666ワイヤレスBLE無線を介してユーザーに振動異常の警告を送信します。
センサシステムの動作
基本的には、VOYAGER4センサシステムは初期振動データを明確に定義された方法で処理します(図4)。図に示す通り、MEMSセンサが収集した生データは、経路(a)を経てBLEプロセッサへ送られます。しかし、BLE無線またはFT234XD-R USBシリアルUARTインターフェースICを介したUSB接続でユーザーに送信する前に、このMEMSデータは経路(b)を経由してエッジAI搭載プロセッサに送られ、故障した機械のデータの予測が行われます。AIアルゴリズムが振動データに故障を予測または疑った場合、システムは経路(c)を経由して、BLE無線を介して異常データについてユーザーに警告を発します。故障または異常なしと予測された場合、VOYAGER4システムは経路(d)を経由し、次の検知イベントまでMEMSセンサをスリープモードに移行させます。
図4:VOYAGER4システムの動作原理。 (画像提供:Analog Devices, Inc.)
このシステムが2つのMEMS加速度センサを使用する理由があります。高性能ADXL382 MEMS加速度センサが振動データ取得に用いられる一方、超低消費電力、14ビット、100HzのADXL367は、重大な振動または衝撃イベント発生時にBLE無線をディープスリープモードから起動させるために使用されます。このウェイクアップデバイスの消費電流はわずか180nAで、大幅な省電力化によるバッテリ寿命延長に貢献します。同時に、MEMSの生の振動データは、単極両投(SPDT)アナログスイッチであるADG1634BCPZ-REEL7を介して、MAX32666 BLE無線機またはMAX78000 AIマイクロコントローラのいずれかに送られます。このアナログスイッチは、BLEマイクロコントローラによって制御されます。
MAX32666 BLEマイクロコントローラに接続された他の周辺デバイスには、MAX17262マルチセル残量ゲージIC、MAX3207EAUT+T過渡電圧サプレッサ(TVS)ダイオードアレイ、DS28C40ATB/VY+Tセキュア認証デバイスがあります。Liイオン残量ゲージICは、Maxim ModelGauge m5 EZアルゴリズムを実装してバッテリ電流を監視し、低入力容量のTVSダイオードアレイは、人体モデルおよびエアギャップモデルごとに±15kVのESD保護を提供します。同様に、データの安全性については、セキュア認証デバイスが、統合された非対称(ECC-P256)および対称(SHA-256)セキュリティ機能から派生した、暗号化ツールのコアセットを提供します。
消費電力とバッテリ寿命の管理
消費電力を最小限に抑えるため、VOYAGER4はBLEマイクロコントローラおよびエッジAIプロセッサの動作モードに応じて、搭載されたPMICの動作をインテリジェントに管理します。具体的には、BLEマイクロコントローラが、VOYAGER4の各動作モードに応じて、MAX20335 PMICの個々の出力を有効化または無効化します。MAX20335は、2つの超低静止電流降圧レギュレータと3つの超低静止電流低ドロップアウト(LDO)リニアレギュレータを備えています(図5)。各出力電圧の値は、PMICのI2Cインターフェースを使用してプログラムできます。追加電源が必要な場合、本キットには調整可能な単一出力の正電圧降圧レギュレータMAX38642AELT+Tが搭載されており、最大350mAの電流を供給できます。
図5:MAX20335のブロック図。(画像提供:Analog Devices, Inc.)
消費電力を最小限に抑えるため、VOYAGER4センサは、BLEおよびAIの動作モードに応じて、アクティブ状態と非アクティブ状態の間で電力モード機能を調整します。たとえば、トレーニングモードでは、BLEマイクロコントローラはまずBLEネットワーク内で自身の存在をアドバタイズし、その後ネットワークマネージャとBLE接続を確立する必要があります。その後、VOYAGER4はADXL382 MEMSの生データをBLEネットワーク経由でストリーミングし、ユーザーのPC上でAIアルゴリズムをトレーニングします。通常のAIモードでは、BLE無線のアドバタイジング、接続、ストリーミング機能はデフォルトで無効化されています。同時に、MAX78000は一定の間隔で起動し、AI推論を実行します。異常が検出されない場合、VOYAGER4はディープスリープモードに戻ります(図6)。
図6:イベント間におけるVOYAGER4センサの平均消費電力。(画像提供:Analog Devices, Inc.)
図6は、センサがBLE無線を介して生データを送信しない場合、消費電力が最大50%低減されることを示しています。トレーニングモードでは、BLE無線が1時間ごとにアドバタイジング、接続、データ送信を行う状態で、約0.65mWの電力が消費されます。センサが通常のAIモードで動作する場合、たとえセンサが1時間に1回アクティブになっても、システムは0.3mWの電力を消費します。データ解析によれば、0.3mWの消費電力であれば、1,500mAhの単一電池で2年間の動作が可能です。ただし、標準的な単3電池2本(2.6Ah)を使用することで、電池寿命を約7年間まで延ばすことができます。より長時間の使用には、低ベース電流と、周期的なパルス動作を特徴とするバッテリセルの使用をお勧めします。
VOYAGER4 GUIおよびファームウェア
VOYAGERグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)はPythonで記述されており、bleak、asyncio、Tkinterなどの主要ライブラリを活用し、BLE無線を介してVOYAGER4センサに接続する対話型インターフェースを実現しています。
VOYAGER4評価キットには、2つのマイクロコントローラと、センサ、PMIC、フラッシュメモリ、通信インターフェースなどの複数の周辺デバイスが含まれています。ADIは、ホストPCの制御と通信に必要なコードを開発するためのツールを提供しています。たとえば、技術者は組み込み開発全体にはCodeFusion IDEを、AIアプリケーションの展開にはVOYAGER SDKを活用することができます。特に、MAX32666およびMAX78000マイクロコントローラについては、これらのデバイスをプログラムするための専用の開発者リソースが利用可能です。
まとめ
ADIのワイヤレス振動監視センサVOYAGER4は、産業システム内のロボットやその他の回転機械におけるモータの状態ベース監視に効果的なツールです。ADIの評価キットは、ワイヤレス振動監視の迅速な導入を可能にする完全な低消費電力プラットフォームを提供することで、技術者がMEMSセンサを理解し、応用することを可能にします。
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