熱電発電機の基礎
2025-09-03
物理学では、エネルギーを生成したり消滅させたりすることはできず、形態を変えるだけであると学びます。この「エネルギー保存の法則」と呼ばれる概念が、技術者に、エネルギーをより有用な形態へ変換する方法を模索させる原動力となっています。
その好例が、熱電発電であり、熱を直接電気エネルギーに変換する技術です。トーマス・ゼーベックによって初めて発見され、現在「ゼーベック効果」と呼ばれるこの現象は、熱電発電機(TEG)と呼ばれる装置で利用されています。これらのソリッドステートデバイスは20世紀まで実用的な進展が見られず、最初の商用モデルは1960年代に登場しました。それ以来、TEGはさまざまな用途に応用されるようになりました。
TEGモジュールの基礎
熱電発電モジュール(TEGとも呼ばれる)は、温度差を電圧に変換する、あるいはその逆の働きを行います。この熱電効果として知られる現象は、3 つの関連した部分で構成されています。温度差から発電を行うゼーベック効果、2種類の異なる物質に電流を流すことで熱を吸収または放出されるペルチェ効果、そして電流の方向に応じて熱が発生または吸収されるトムソン効果です。
熱電技術に関してよく混同される点として、熱電発電機(TEG)と熱電クーラー(TEC)の違いがあります。TEGはゼーベック効果を利用して熱から発電しますが、TECはペルチェ効果を利用して冷却や温度の安定化を行います。どちらも同様な半導体材料を使用していますが、その設計は異なります。TEGは高い温度差と発電効率のために設計されていますが、TECはセラミックや銅などの材料を使用して熱伝導に最適化されています。
実際には、熱からエネルギーを生成することが目的であれば、TEGモジュールが適切な選択となります。冷却や温度安定化には、TECまたはペルチェモジュールの方がより効果的です。Same Skyは、TEGモジュールとペルチェモジュールの両方を提供しており、設計のニーズに最適なデバイスを簡単に選択できます。
最新の熱電発電機(TEG)では、高温側と低温側の間に温度差がある場合に発電が行われます。モジュール内部には、2枚のプレートの間にn型半導体とp型半導体(多くの場合ビスマステルルから作られる)が複数組配置されています(図1)。n型材料では、電子が高温側から低温側に向かって流れますが、p型材料では、正孔(電子の抜け殻)が同じ方向に移動します。これらの流れが合わさることで電圧が発生し、温度差が大きいほど出力も大きくなります。
TEGは、産業活動など、熱が無駄になるような状況で、失われたエネルギーを回収するのに特に有用です。また、遠隔地や過酷な環境での運用にも適しています。たとえば、太陽光が不十分な宇宙探査機では、放射性崩壊による熱を電気に変換して動力源として利用しています。
図1:TEGモジュールの一般的な構造です。(画像提供:Same Sky)
TEGの利点および欠点
熱電発電機(TEG)モジュールの主な利点は、廃熱を使用可能な電気に変換し、本来ならば失われてしまうエネルギーを回収できる点にあります。これにより実用性だけでなく、環境への配慮も実現しています。
TEGはソリッドステートデバイスであるため可動部品がなく、静粛性、耐久性に優れ、メンテナンスもほとんど必要ありません。小型設計により、狭いスペースにも設置可能で、多様な電圧および電流オプションが用意されているため、従来の電力網に頼ることなく安定した電力供給を実現します。この特性から、TEGは遠隔地での設置や、バッテリ駆動システムの効率的な代替手段として最適です。
熱電発電機(TEG)は信頼性の高い電力源を提供しますが、設計上の制約もあります。その性能は、温度差の大きさに大きく依存するため、熱勾配が得られる特定の用途に限定されます。さらに、TEGは一般的に変換効率が比較的低く(多くの場合約10%)、他の多くのエネルギー発電技術と比較すると低い数値となります。
TEG選定の主要な基準
熱電発電(TEG)モジュールをシステムに組み込む際には、性能に直接影響する重要な仕様を考慮することが重要です。動作における最も重要な要素は、高温側と低温側の温度差(しばしばΔTと呼ばれる)です。これはTEGの発電量を決定する要素ですが、データシートには必ずしも記載されているわけではありません。その代わり、メーカーは通常、安全な最大動作温度であるTmaxを記載しています。これは限界値を定義するのに役立ちますが、必ずしも最良の動作条件を示すものではありません。
その他の有用な仕様には、開放電圧、適合負荷電圧、適合負荷電流、適合負荷抵抗、適合負荷電力などがあります。これらの値は、実際の熱負荷および電気負荷下でのデバイスの性能に関する知見を提供します。Same Skyなどのデータシートでは、通常、この情報を表(図2)と性能グラフ(図3)の両方で提示し、システムレベルの設計を容易にしています。
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図2:Same SkyのデータシートによるTEG仕様表。(画像提供:Same Sky)
性能グラフは、電気出力を高温側の温度(Th)および対応する低温側条件に対してプロットしたものです。一般的なグラフには以下が含まれます。
- 開回路電圧対Th - 無負荷時の最大電圧を表示
- 適合負荷抵抗対Th - 与えられたΔTにおける内部抵抗を表示
- 適合負荷電圧対Th - デバイスに負荷がかかっているときの出力電圧を表示
- 適合負荷電流対Th - 負荷時に供給される電流を表示。
- 適合負荷出力電力対Th - 生成される利用可能な電力を表し、オームの法則を用いて電圧と電流から求めることも可能
これらのグラフにより、技術者は、通常最適負荷抵抗点におけるピーク性能点を特定し、効率が異なる熱的および電気的条件でどのように変化するかを理解することができます。設計者はこれらのプロットを分析することで、TEGをアプリケーションに最適に適合させたり、異なるモジュールを比較したり、実際のシステムで性能をトラブルシューティングを行ったりすることが可能になります。
図3:X軸に高温側温度、Y軸に低温側温度の各種性能曲線および分析指標をプロットした標準的なTEG性能グラフ。(画像提供:Same Sky)
適切な熱電発電機(TEG)を選択するには、設計者はまず、想定される高温側と低温側の温度を決定します。これらの値を用いることで、データシートに記載された適合負荷電圧、適合負荷電流、適合負荷電力、適合負荷抵抗の対応チャートから性能を推定できます。たとえば、Same SkyのSPG176-56モジュールはTh=200°C、Tc=30°Cの条件下で、約5.9V、1.553Aの電流、9.16Wの電力を発生し、抵抗値は約3.8 Ωとなります。これらの値は、各性能グラフにおいて、X軸上のTh=200°CからTc=30℃の曲線と交わる点まで垂直線を引くことによって取得できます。この点からY軸まで水平線を引いて、予想される出力を取得します。繰り返しになりますが、TEGはオームの法則に従うため、グラフの組み合わせと電力計算式を用いることで、設計者はTEGからの予想出力を求めることができます。
実際には、このプロセスは理想的な条件下では単純明快ですが、設計者は性能曲線間の補間を用いて、完全とは言えない温度差や負荷の不整合の調整を行う必要が生じることが多々あります。
まとめ
熱電発電機(TEG)は、遠隔地からの電力供給が必要なアプリケーションや、エネルギー回収によってシステム全体の効率を高めることができる場面で有用です。一般的に産業用途向けに数ワットから数百ワットまで供給可能な大型TEGと、小規模なニーズ向けに数ワットからミリワットを供給するマイクロTEGの2形態で供給されます。現在の用途は、幅広い分野に及んでおり、ウェアラブル機器などの民生機器、宇宙探査機や航空宇宙システム、産業廃熱回収、太陽エネルギー変換、IoTセンサ、自動車エンジン、産業用電子機器、HVAC設備、医療用監視装置、軍事システム、科学機器、通信インフラなどが含まれます。
幅広い電力と効率を実現するTEGは、携帯性、遠隔操作、エネルギー回収をサポートすることで、システム設計に価値をもたらします。選定にあたり、Same Skyは、さまざまな設計要件に対応するため、多様なサイズと出力定格のTEGモジュールを提供しています。
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