MOSFETを内蔵した理想ダイオードの活用

著者 Pete Bartolik(ピート・バートリック)

DigiKeyの北米担当編集者の提供

理想ダイオード技術は、電圧降下の低減、システム制御の強化、堅牢な保護機能など、電子アプリケーションに多くの利点をもたらします。 製品設計者は、これらの高度なソリューションの可能性を最大限に活用することで、より効率的でコンパクトかつ堅牢な製品を開発することができます。 しかし、アプリケーションに適した理想ダイオードを選択するには、電気的性能、熱に関する考慮事項、信頼性、コスト、コンプライアンスなど、さまざまな要素のバランスを見極める必要があります。

従来のダイオードでは、電圧降下は0.6Vから0.7Vの範囲で、ショットキーダイオードの電圧降下は0.3V程度です。 高電流アプリケーションでは、これらの電圧降下は大きな電力損失につながる可能性があります。 理想ダイオード(図1)は、低オン抵抗のパワースイッチ(通常はMOSFET)を使用して、ダイオードの一方向電流動作を模倣しますが、損失の多いダイオードの電圧降下のペナルティはありません。

図:ダイオード(上)と理想ダイオード回路の違い図1:この図は、ダイオード(上)と理想ダイオード回路の違いを示しています。(画像提供:Analog Devices, Inc.)

たとえば、1Aの負荷における10mΩのMOSFETでは、標準的なダイオードの600mVの電圧降下に比べ、わずか10mVの電圧降下しか発生しません。 この電圧降下の低減は、電力損失の大幅な低減にもつながります。 1Aの負荷における10mΩのMOSFETでは、10mWの電力損失が発生しますが、標準的なダイオードでは600mWの電力損失が発生します。

バックツーバックMOSFETと制御回路を追加することで、統合された理想ダイオードソリューションは、優先電源選択、電流制限、突入制限など、より高度な機能を提供し、電源管理に洗練されたレイヤを追加することができます。 従来は、異なるコントローラが必要であったため、完全なシステム保護を実現するのは複雑で手間のかかる作業でした。しかし、理想ダイオードソリューションにバックツーバックMOSFETを追加することで(図2)、1つまたは両方のMOSFETのオン/オフ切り替えや電流制限が可能になり、システム全体の制御が可能になります。

図:バックツーバックMOSFETを利用した理想ダイオードソリューション図2:理想ダイオードソリューションは、先進的な機能と制御を実現するために、バックツーバックMOSFETを使用します。(画像提供:Analog Devices, Inc.)

統合ソリューションは、一般的なシステム障害に対する強固な保護を提供し、システムのダウンタイムを削減します。 調整可能な不足電圧ロックアウト(UVLO)および過電圧ロックアウト(OVLO)閾値、プログラム可能な電流制限、およびサーマルシャットダウン保護などの機能により、不利な条件下でもシステムの動作が維持されます。 統合ソリューションは、必要な部品数と基板スペースを最小限に抑えることもできます。

従来のショットキーダイオードをMOSFET内蔵ソリューションに置き換えることで、電力損失を大幅に削減できるため、産業用電源、バッテリ駆動システム、通信およびデータセンターアプリケーションの冗長電源OR接続に最適です。 また、逆入力保護も確保でき、偶発的な極性反転による損傷を防ぐことができます。

理想ダイオードの選択における課題

統合された理想ダイオードソリューションは、アプリケーションにおいて信頼性と効率性の高い動作を確保するように設計されています。

しかし、設計者は、理想ダイオードを選択する際に、熱管理、電流処理、電圧定格、統合の複雑さ、コスト、部品の入手可能性など、さまざまな課題に直面します。

  • 理想ダイオードは電力損失を低減しますが、熱管理は依然として重要な考慮事項です。 設計者は、性能を損なうことなくダイオードが熱負荷を処理できることを確認する必要があります。 過熱を防ぐには、適切なヒートシンクと熱設計が不可欠です。
  • ダイオードの電流処理能力は、定格限界を超えることなく、アプリケーションで予想される電流負荷を管理できるものでなければなりません。 これには、ダイオードのRDS(ON)を評価し、最大負荷条件下で許容範囲内に収まることを確認することが含まれます。
  • ダイオードの電圧定格は、アプリケーションの最大電圧レベルに耐えるのに十分なものでなければなりません。 設計者は、信頼性の高い動作を確保するために順方向電圧降下と逆電圧定格の両方を考慮する必要があります。
  • 統合ソリューションには多くの利点がありますが、設計プロセスが複雑になる可能性もあります。 設計者は、UVLO、OVLO、電流制限など、すべての統合機能が適切に構成されていることを確認する必要があり、そのためには設計とテストに追加の時間が必要になる可能性があります。
  • 設計者は、統合によるメリットとコスト増を比較検討し、追加機能がそのコストに見合うものであるかどうかを判断しなければなりません。
  • 設計者は、選択したダイオードがすぐに入手可能であること、そして生産スケジュールに影響を与えるようなサプライチェーンの制約がないことを確認する必要があります。

統合ソリューションの活用

Analog Devices, Inc.(ADI)は、電源管理ソリューションのリーダー企業であり、MOSFETベースの設計を活用した理想ダイオードコントローラの製品ラインアップを提供しています。 同社の統合ソリューションは、電力損失を最小限に抑え、熱性能を向上させ、システムの信頼性を高めるため、産業、自動車、通信、バッテリ駆動アプリケーションに不可欠です。

統合ソリューションは、理想ダイオードの機能と、過電圧、不足電圧、ホットスワップ、電子ヒューズ保護などの追加のシステム保護機能を単一IC内に統合します。 従来は、これらの機能はさまざまなコントローラに分散していたため、完全なシステム保護を実現するのが困難でした。

ADIの理想ダイオードコントローラであるMAX17614(図3)は、高度な逆入力保護、高速スイッチオーバー機能、高電圧処理能力を組み込んでおり、シームレスな電力冗長性とエネルギー効率の向上を実現します。 MAX17614は、電源システムを完全に保護するために、高性能理想ダイオードと他の複数の機能を単一の集積回路で提供する高集積ソリューションです。

MAX17614は140nsの逆電流遮断保護を提供し、優先電源セレクタアプリケーションでより小さな出力ホールドアップコンデンサを使用できるため、システム全体の効率を高めることができます。 理想ダイオード/優先電源セレクタ機能と、調整可能な電流制限、ホットスワップ、電子ヒューズ、不足電圧(UV)、過電圧(OV)保護を兼ね備えています。

画像:Analog DevicesのMAX17614理想ダイオード/電源セレクタデバイス図3:ADIの理想ダイオード/電源セレクタデバイス「MAX17614」。(画像提供:Analog Devices, Inc.)

ソリューションサイズの縮小

統合された理想ダイオードソリューションは、必要な部品数と基板スペースを最小限に抑えます。 たとえば、2つのNチャンネル電界効果トランジスタ(NFET)を統合したMAX17614は、ソリューションサイズを最大40%縮小できます。

統合されたNFETは、130mΩの低い累積標準RDS(on)で直列に接続されます。 これにより、システム効率の向上と逆入力電圧および逆電流保護を備えた理想ダイオード機能を実現できます。 入力UV保護は4.5Vから59Vの間でプログラムでき、OV保護は5.5Vから60Vの間で個別にプログラムできます。さらに、このデバイスには、4.2V(標準)に設定された内部デフォルトUVLO立ち上がり閾値があります。

MAX17614のコンパクトさは、スペースが限られている用途において特に有益です。 高速応答時間、高電圧対応、最小限の電力損失により、効率的な電源管理と信頼性が重要な太陽エネルギーシステム、USB-C電源供給、産業用オートメーション、医療機器での使用に最適です。

ディスクリートMOSFETと比較すると、統合NFETは熱管理に最適化されており、追加の冷却部品の必要性を低減します。 また、NFETは、通信およびデータセンターソリューションで採用されている冗長電源OR接続アプリケーションにおいて、電源間の高速スイッチングを可能にします。 NFETは逆入力保護も提供しており、誤った電圧接続や逆電圧による損傷を防止します。

NFETを統合することで、設計者は外付けMOSFETを調達・選択する必要がなくなるため、部品表(BOM)とPCBレイアウトが簡素化されます。 また、部品数の削減により、小型でコンパクトな設計を実現できます。

ADIはまた、設計者がMAX17614理想ダイオードコントローラをテストし、電源管理ソリューションに統合するためのMAX17614EVKIT評価キットも提供しています。 この評価ボードは、統合NFETベースの理想ダイオードの効率、スイッチング動作、保護機能を評価するためのプラットフォームを提供します。

EVKITは、産業用電源、バッテリ管理システム、通信およびサーバアプリケーションにおける冗長電源OR接続などの用途に向けた効率的なパワーパスソリューションのプロトタイプ作成を可能にします。 このキットを使用することで、異なる負荷条件下における電圧および電流の挙動を分析し、最適な部品選択と設計レイアウトを確実に行うことができます。これにより、設計者は本格的なPCB開発に取り掛かる前に回路の性能を検証することができます。

まとめ

理想ダイオード技術は、電力損失の低減、電圧降下の最小化、熱性能の向上など、アプリケーションに高効率で低損失のパワーパス制御を提供します。 理想ダイオードは、エネルギー効率の向上、発熱の低減、大型ヒートシンクの不要化により、PCB設計を簡素化しながらシステムの信頼性を向上させます。 ADIのMAX17614とその評価用ボードを使用することで、設計者は幅広いアプリケーションにおいて、より小型で効率的かつ非常に堅牢な電源ソリューションを構築することができます。

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著者について

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Pete Bartolik(ピート・バートリック)

Pete Bartolikはフリーライターで、20年以上にわたってITとOTの問題や製品について研究し、執筆してきました。それ以前は、IT管理専門誌『Computerworld』のニュース編集者、エンドユーザー向け月刊コンピュータ誌の編集長、日刊紙の記者を務めていました。

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