IIoTアセットトラッキング向けRFIDの仕様規定と使用方法

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

アセットトラッキングとサプライチェーン管理は、製造工場、物流・配送センター、データセンター、病院・ヘルスケア、農業、建設、輸送など、さまざまな産業用モノのインターネット(IIoT)アプリケーションで重要な活動となっています。パッシブ型無線自動識別(RFID)アセットトラッキングシステムの仕様規定は、複雑な作業です。貴重な資産は、輸送/保管時に衝撃、振動、高温、冷温、湿潤環境など、さまざまな非制御条件にさらされる可能性があるため、アプリケーション特有のさまざまなRFID規格を考慮する必要があります。

設計者は、産業、建設、製造環境の厳しい条件に耐える堅牢で信頼性の高いタグを必要としています。それらのタグは、特定の資産タイプとクラスのニーズに合わせて、さまざまな標準サイズと読み取り範囲で利用できます。この記事では、パッシブ型RFID技術および、RFIDタグとデータに関連するいくつかの業界標準について簡単に考察します。その後、MolexMurata ElectronicsThingMagicが提供するRFIDタグ、リーダ、システムソリューションを紹介します。

パッシブ型RFIDタグは、変調器、復調器、RF環境発電ユニット、コーダ/デコーダ付きコントローラ、制御電子回路、クロック、メモリを備えたアナログフロントエンド(F/E)およびアンテナを含む集積回路で構成されます(図1)。パッシブ型RFIDタグでは、電池を使用しません。多くのパッシブ型RFIDタグではメモリの書き換えが可能で、バーコードなどの代替手段よりも大容量のデータを交換できます。

アンテナとICで構成されるパッシブ型RFIDタグの図図1:パッシブ型RFIDタグは、アナログフロントエンド(F/E)、コントローラ、メモリを含むICとアンテナで構成されます。(画像提供:Murata)

パッシブ型超高周波(UHF)RFIDタグは、最大数メートルの距離で読み取ることができ、複数のタグを同時に読み取ることも可能です。RFIDはバーコードと異なり、ワイヤレス通信を利用するため、梱包箱を開けることなく外からタグを読み取れます(図2)。さらに、RFIDタグは、汚れ、湿気、振動など、バーコードの使用に支障をきたす環境要因の影響を受けません。RFIDタグには、特定の用途向けに設計されたさまざまな形式があります。一部のタグは、金属アイテムをトレースおよびトラッキングするために設計されており、金属表面をブースタアンテナとして使用し、動作範囲を拡大しています。パッシブ型RFIDタグ向けに、さまざまな通信規格やデータフォーマット規格が開発されています。

最大数メートルの距離で読み取り可能なRFIDタグの画像図2:RFIDタグは、最大数メートルの距離で読み取り可能です。設計によっては、複数のタグを同時に読み取ったり、箱や他の梱包を通してタグを読み取ったりすることができます。(画像提供:Murata)

RAIN RFID

RAIN RFIDアライアンスは、ISO/IEC 18000-63 GS1 UHF Gen2プロトコルの使用を推進しています。RAIN(RAdio frequency IdentificatioN)は、UHF RFIDタグとクラウドをリンクするために設計されています。また、インターネットを使用してRFIDデータの保存、管理、共有も可能にします。RAINソリューションを利用したシステムには、RFIDタグとリーダに加え、ローカルネットワークへのリンクとそこからクラウドへのリンクを提供できるソフトウェアが含まれます(図3)。RAINアライアンスは、ISOの番号方式をベースとして、企業識別番号(CIN)を使用したエンコーディングを簡略化しました。ISOに基づく番号方式は、RAIN RFIDタグのコリジョンフリーな識別をサポートするために設計されています。これは、独自またはベンダー定義の既存データフォーマットに対し、干渉のない代替手段を提供することを目的としています。

単一の世界標準で規定されているRAIN RFIDの図図3:RAIN RFIDは、EPC UHF Gen2v2またはISO/IEC 18000-63と呼ばれる単一の世界標準で規定されています。(画像提供:RAIN Alliance)

電子製品コードとRFID

RAINが採用している電子製品コード(EPC)Gen 2v2は、パッシブ型UHF RFIDタグのエアインターフェースプロトコル規格です。EPC Gen2v2には、タグとリーダの認証を可能にすることで、セキュリティの向上、偽造の抑止、プライバシーの強化を実現する機能が盛り込まれています。Gen2v2タグのメモリは複数のファイルに分割することが可能で、対応するタグは電子商品監視機器(EAS)に使用できます。

EPC規格はEPCglobalによって開発され、ISO18000-6C規格として承認および採用されました。EPCに関連する一連の規格は、タグとリーダの通信方法の規格を定めるだけでなく、EPCデータをさまざまなユーザー間で共有する方法も確立しています。EPCは、物理的対象に対する世界共通の識別子です。EPCはRFIDタグで広く使用されているため、EPCタグのデータ規格には、EPCの要件に加え、Gen 2 RFIDタグに格納されるデータの要件も含まれます。EPCとRFIDタグには重複部分も多いのですが、RFIDはデータキャリア技術、EPCは識別子とデータフォーマットであるため、本質的に異なっています。

医療機器におけるEASおよびUDI規制

各国の機器固有識別子(UDI)規制では、EPCと同様に、医療機器の安全な使用と保管のためにEASをサポートすることを目的として、医療機器に個別の識別子を付与することが義務付けられています。UDIシステムは多くの種類の医療機器に適用されますが、外科用器具の場合は、手術のために誤った器具を準備するリスクが大きいため、特に重要となります。

何百種類もの外科用器具があるため、経験の浅い担当者は間違った器具を選択する可能性があります。UDIおよびRFIDタグを使用することで、そうした心配を解消できます。また、RFIDタグを使用することで、個々の器具の使用履歴や医療施設内での使用回数の確認も容易になります。

外科用器具や産業用ツール向けのパッシブ型RFIDタグ

RFIDシステムの設計者は、Murataの小型オンメタルUHF RAIN RFIDタグであるLXTBKZMCMG-010を使用して、外科用器具や産業用ツールなどの金属物をトラッキングできます(図4)。LXTBKZMCMG-010は金属表面を使用し、ブースタアンテナとして読み取り範囲を拡大します。このタグは、寸法が6.0 x 2.0 x 2.3mmで、UHF帯全域で動作し、動作温度範囲が-40~+85℃であるため、産業環境や医療施設における金属物のトレースやトラッキングに適しています。

MurataのLXTBKZMCMG-010 UHF RAIN RFIDタグの画像図4:LXTBKZMCMG-010 UHF RAIN RFIDタグは、外科用器具や産業用ツールなどの金属表面に対して最適化されています。(画像提供:Murata)

アセットトラッキング用の薄型RFIDタグ

資産や在庫のトラッキングアプリケーションは、産業、農業、建設、輸送システムなどで見られる高い振動や衝撃、幅広い温度変化に耐えられるように設計されたタグの恩恵を受けることができます。薄型のフットプリントは、より少ないスペース、より少ない損傷、より低いコストを意味します。たとえば、Molexの0133580821 RFIDタグは、厚さ1.8mmで、IP68定格を備え、濡れた環境でも使用でき、-50℃~85℃で動作します(図5)。0133580821は、読み取り範囲が4.5mで、金属やプラスチックなど、さまざまな素材で使用できるように設計されています。

Molexが提供する厚さ1.8mmのRFIDタグの画像図5:この厚さ1.8mmのRFIDタグは、資産や在庫のトラッキング用に最適化されており、読み取り範囲は4.5mで、プラスチックや金属など複数の表面で使用できます。(画像提供:Molex)

プラグアンドプレイRAIN RFIDリーダ

ThingMagic のElara RAIN RFID完成品リーダは、最大2mの読み取り距離を必要とするあらゆるアプリケーションにおいて、設計労力を最小限に抑え、RFID実装を高速化するインターフェースと運用機能を備えています(図6)。Elaraは、865~868MHz帯で動作するPLT-RFID-EL6-ULB-4-USBと、915~928MHz帯で動作するPLT-RFID-EL6-UHB-4-USBの2モデルで提供されています。どちらのリーダも、ヘルスケア用途に適合したプラスチック製のエンクロージャで提供されます。

ThingMagicのElara RAIN RFID完成品リーダの画像図6:Elara RAIN RFID完成品リーダは、最大2mの読み取り距離を必要とするあらゆるアプリケーションにおいて、設計労力を最小限に抑え、RFID実装を高速化することができます。(画像提供:ThingMagic)

設計者はElaraを使用することで、プラグアンドプレイのデスクトップまたは固定マウントリーダの恩恵を受けるアプリケーションに対し、RFID機能を簡単に追加できます。自律的ワークフローをサポートしているため、設計者にRFIDの専門知識がなくとも、ソフトウェア開発キットや統合ツールを必要とせず、迅速にソリューションを作成できます。Elaraアプリケーションの例としては、医療施設におけるUDI規制の導入、倉庫や配送センターにおける返品処理やトラッキング、RFIDタグのコミッショニングなどが挙げられます。Elaraの機能は、以下の通りです。

  • あらかじめ組み込まれた自律的ワークフローを使用した、システム統合の簡素化とソフトウェア不要の運用。
  • RAIN技術規格とRAIN通信インターフェースに対応。
  • EPCglobal Gen 2v2プロトコルに対応。
  • 外科用器具や組立ラインの部品キットのようなセットアイテムの一括読み取り。
  • 返品処理や棚卸のための商品数のカウントと確認。
  • RFIDタグのコミッショニング
  • 利用状況などの情報を用いたタグデータの更新。

インダストリー4.0 RFIDリーダとエッジサービスデバイス

複数のRFIDリーダおよび、エッジサーバを介したクラウドへの接続を必要とするインダストリー4.0アプリケーションの場合は、4ポートのエンタープライズクラスパッシブ型UHF RFIDタグリーダとエッジサービスコントローラを搭載したMolexのALR-F800-Xを利用できます(図7)。ALR-F800-Xを使用することで、RFIDデータをソースで処理し、リアルタイムに評価することが可能になります。ALR-F800には、DC電源アダプタまたはPower-over-Ethernet(PoE)電源を使用して給電できます。そのため、大規模なインダストリー4.0 RFIDシステムの展開を簡素化することが可能となります。

4ポートのエンタープライズクラスUHFパッシブ型RFIDタグリーダを搭載したMolex ALR-F800-Xの画像図7:ALR-F800-Xは、インダストリー4.0アプリケーションに対応するために、4ポートのエンタープライズクラスUHFパッシブ型RFIDタグリーダとエッジサービスコントローラを搭載しています。(画像提供:Molex)

ALR-F800の動的自己調整(DSA)技術は、RF環境をリアルタイムで監視し、複数のパラメータ、フィルタ、チューニングメトリックを制御してRFIDタグの読み取りを最適化します。メモリはマイクロSDカードを使用して増設でき、USBポートを使用してWi-Fiやセルラーモデム接続を追加することも可能です。

内蔵のEmissaryソフトウェアにより、専用エッジサーバを必要とせずに、追加のリーダや読み取りポイントのサポートと設定が可能です(図8)。Emissaryソフトウェアにより、あらかじめ設計されたアクティビティ(タグの読み取り、ライトの点灯、データの送信など)を使用して完全なワークフローを開発できるため、新しいアプリケーションのコミッショニングを簡略化および迅速化できます。Emissaryには、以下が含まれます。

  • 機能、デバイス、読み取りポイントの構造的および直感的な表示。
  • 「wrap station」や「door #1」といった常識的な命名規則の使用。
  • ワークフロー作成用のWindowsベースのツールセット。
  • デバイスに接続されたすべてのローカルリーダのセットアップ、制御、およびメンテナンス。
  • 受信データを正確に解釈するための正しいタグデータ規格の使用。
  • タグ読み取りデータのレポートを管理し、クラウドへ転送するためにの複数リーダからのレポートを統合。

ALR-F800-Xに内蔵されているMolex Emissaryソフトウェアの画像(クリックして拡大)図8:ALR-F800-Xに内蔵されているEmissaryソフトウェアにより、専用エッジサーバを必要とせず、追加のリーダや読み取りポイントの設定とサポートが可能になります。(画像提供:Molex)

まとめ

パッシブ型RFIDタグとリーダにより、製造、物流、データセンター、ヘルスケア、農業、建設、輸送など、IIoTにおけるさまざまなアセットトラッキング活動をサポートできます。RFIDシステムの選定や仕様規定にあたっては、RAIN、EPC Gen 2v2、ISO/IEC 18000-63、UDI規制など、さまざまな業界標準に注意する必要があります。さまざまな種類のタグは、オンメタルの設置やアセットトラッキングアプリケーション用の薄型設計など、特定のアプリケーションに対して最適化されています。タグに加えて、デスクトップ設計やエンタープライズレベルのリーダ/エッジサービスコントローラを含むRFIDリーダも入手できます。これにより、インダストリー4.0 RFIDアプリケーションの展開を加速させることが可能となります。

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著者について

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Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

ジェフ氏は、パワーエレクトロニクス、電子部品、その他の技術トピックについて30年以上にわたり執筆活動を続けています。彼は当初、EETimes誌のシニアエディターとしてパワーエレクトロニクスについて執筆を始めました。その後、パワーエレクトロニクスの設計雑誌であるPowertechniquesを立ち上げ、その後、世界的なパワーエレクトロニクスの研究グループ兼出版社であるDarnell Groupを設立しました。Darnell Groupは、数々の活動のひとつとしてPowerPulse.netを立ち上げましたが、これはパワーエレクトロニクスを専門とするグローバルなエンジニアリングコミュニティで、毎日のニュースを提供しました。また彼は、教育出版社Prentice HallのReston部門から発行されたスイッチモード電源の教科書『Power Supplies』の著者でもあります。

ジェフはまた、後にComputer Products社に買収された高ワット数のスイッチング電源のメーカーであるJeta Power Systems社を共同創設しました。ジェフは発明家でもあり、熱環境発電と光学メタマテリアルの分野で17の米国特許を取得しています。このように彼は、パワーエレクトロニクスの世界的トレンドに関する業界の情報源であり、あちこちで頻繁に講演を行っています。彼は、定量的研究と数学でカリフォルニア大学から修士号を取得しています。

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