ロジスティクスにおける荷物追跡アプリケーションに最新のRFIDの進歩内容を導入する方法

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

ロジスティクスおよびサプライチェーンの管理では、品目や部品の所在地や数量をリアルタイムで把握できるRFID(電波による個体識別)技術の導入が進んでいます。RFIDタグを使用することで、在庫管理プロセスのスピードアップ、ヒューマンエラー発生率の削減、棚卸減耗損の低減を実現することができます。RFIDタグを読み取るには必ずしも人間が目視する必要はなく、箱などのエンクロージャの中に入ったままの状態で構いません。また、離れた場所から一人で数百枚のRFIDタグを一度に読み取ることも可能です。

設計者は、RFIDタグの電源アーキテクチャとデータ形式の選択と、コンパクトで正確なRFIDリーダが必要です。また、タグやリーダは必要に応じてEPC(Electronic Product Code) UHF Gen2v2技術規格やRAIN RFIDデータ形式の要件も満たしていなければなりません。

本稿では、アクティブタグとパッシブタグを含むRFID技術について解説するとともに、環境発電が加わることでパッシブタグの性能を向上させることができる点についても述べます。さらに、RFIDを用いたロジスティクスにおける荷物追跡システムを導入する際に設計者が留意すべきさまざまな業界標準をまとめて紹介します。最後に、STMicroelectronicsMurata ElectronicsMelexis TechnologiesのRFIDタグおよびリーダの選択肢、ならびにRFIDロジスティクスソリューションの設計を加速する評価プラットフォームを紹介します。

RFIDのプラットフォームは、動作周波数帯、電源アーキテクチャ、データ通信形式によって分類することができます。主な動作周波数帯は、低周波(LF)帯、高周波(HF)帯、超高周波(UHF)帯の3つです。LF帯は30~300キロヘルツ(kHz)をカバーし、大半のLFタグは125kHzで動作します。LFタグは高周波タグと比較すると、読み取り範囲が10~30センチメートル(cm)程度と短く、読み取り速度も遅いが、電磁妨害(EMI)の影響を受けにくいという特長があります。LFタグは、ケーブル識別、手術器具、医療機器トラッキング、工具在庫管理に使用されています。

近距離無線通信(NFC)タグは、HF帯RFIDのサブセットです。つまり、すべてのNFCタグはHF帯で動作しますが、HF帯のすべてのタグがNFCプロトコルを使用するわけではありません(図1)。NFCタグは一般に伝送距離が数センチメートル(cm)に制限されているのに対し、NFCタグ以外のHFタグの設計では最大30cmまで伝送が可能です。また、NFCタグは13.56メガヘルツ(MHz)でのみ動作するよう規定されています。どの周波数帯のRFIDタグもロジスティクスアプリケーションで使用されますが、UHF帯のRFIDタグは「サプライチェーン」タグと呼ばれることがあります。これは、読み取り範囲が広く、読み取り速度が速いのと、ロジスティクスアプリケーションに最適なデータ形式が利用できるためです。

画像:NFCタグはLF RFID技術のサブセットです。図1:NFCタグはLF RFID技術のサブセットであり、通常125kHzで動作します。(画像提供:STMicroelectronics)

RFIDタグは、その電源アーキテクチャによって分類することができます。

  • アクティブタグは電池を持ち、ポーリングされることなく定期的に送信を行うことができ、最大100mまで読み取り可能です。
  • パッシブタグには、リーダによるポーリングが必要です。リーダのRF信号が持つエネルギーがタグの電源を入れ、情報をリーダに反映させます。
  • 環境発電タグは、パッシブタグの一種で、リーダから伝送されるRFエネルギーを捕捉し、そのエネルギーを使って他のシステム部品を駆動させることができます。
  • セミパッシブタグは電池付きタグとも呼ばれ、電池を搭載しながらもパッシブタグと同様に動作し、リーダからポーリングされたときのみデータを送信するタグです。

パッシブタグは、UHF設計やNFC設計を含み、ロジスティクスソリューションにおいて主流のRFIDです。アクティブタグは、建設、輸送、ヘルスケア産業などの高額資産を追跡するために使用されるのが一般的で、パッシブタグよりも高価です。セミパッシブタグ、特にNFC技術を使ったものは、携帯電話など特定のアプリケーションにしか見られません。

ISO/IEC 14443およびISO/IEC 15693規格は、NFC対応デバイスの相互運用性を実現するためのものです。NFCの動作は誘導結合に基づくもので、アンテナの向きに敏感です(図2)。NFCデバイスは、他のNFCデバイスから発生するRFフィールドにより電源を供給されるパッシブ設計、または電池電源を持つセミパッシブ設計とすることが可能です。NFCタグは、伝送距離が短いため、本質的に安全性が高くなります。また、NFCタグは1枚ずつ読み取る必要があります。これに対し、UHFタグなどの他のRFID技術では、大量のタグの同時読み取りが可能です。NFCタグは、他のLF RFID技術よりも多くの情報を保存・送信できるため、ロジスティクスアプリケーションでの有用性が高まっています。ダイナミックNFC RFIDタグは、デュアルインターフェースで高速転送の環境発電タグであり、設定可能な割り込み機能、RF管理機能、および低電力動作モードを備えています。

画像:誘導結合を可能にするには、アンテナの向きを適切にする必要があります。図2:NFC デバイスに必要な誘導結合を可能にするには、アンテナの向きを適切にする必要があります。(画像提供:STMicroelectronics)

RAINとEPCによるロジスティクス管理

RAIN(RAdio Frequency IdentificatioN:電波による個体識別) RFID Allianceでは、ISO/IEC 18000-63 GS1 UHF Gen2プロトコルの使用を奨励しています。RAINは、UHF帯のRFIDタグをインターネットによってクラウドにリンクさせる技術として開発されました。RAINのEPC gen2(v2)は、パッシブ型RFIDタグ用のプロトコルであり、タグとリーダを認証することでセキュリティとプライバシーを実現しています。RAINでは、ISO番号体系を変更して、企業識別番号を簡単に使用できるようにしました。

EPCは、GS1 US(旧Uniform Code Council, Inc)とGS1(旧EAN International)のジョイントベンチャーであるEPCglobalによって開発された、物体用の汎用識別子規格です。EPCは、ISO18000-6Cの規格として採用されています。リーダやタグの通信方法、およびユーザー間でのEPCデータの共有方法を標準化したものです。EPCは識別子とデータ形式です。これに対し、RFIDはRFキャリヤ技術です。

ダイナミックNFCタグ

ダイナミックNFCタグを活用するロジスティクスソリューションとしては、STicroelectronicsのST25DVxxKCファミリをご利用いただけます。このファミリのデバイスは、4Kビット(キロビット)、16Kビット、64KビットのEEPROM(電気的に消去可能なプログラム可能メモリ)を搭載しています。たとえば、ST25DV04KCは4KビットのEEPROMを搭載したデバイスです。すべてのST25DVxxKCデバイスはISO/IEC 15693 NFCプロトコルを使用し、2つのインターフェースを備えています。1つ目のインターフェースであるI2Cシリアルリンクは、電池などの直流電源から作動させることができます。2つ目のインターフェースであるRFリンクは、受信したキャリヤのRFエネルギーがデバイスに電源を供給すると作動します。また、ダイナミックNFCタグは、外部部品に電源を供給できる環境発電機能を備えています(図3)。これはアナログ出力(V_EH)です。環境発電モードが有効で、かつRFフィールド強度が十分なときに利用できる、アナログ電圧V_EHを出力します。環境発電の電圧出力は安定化されません。

STMicroelectronics ST25DVxxKCデバイスがISO/IEC 15693 NFCプロトコルを使用する場合の構成図図3:ST25DVxxKCデバイスは、ISO/IEC 15693(NFC)プロトコル(中央のブロック)、I2Cインターフェース(右下)、および環境発電(ENERGY HARVESTING)機能(「アナログフロントエンド」および「デジタルユニットコントローラ」ブロックの両方にあり)を使用します。(画像提供:STMicroelectronics)

NFCリーダの評価ボード

STMicroelectronicsのX-NUCLEO-NFC03A1は、ST25R95-VMD5TをベースにしたNFCカードリーダ評価ボードであり、RFIDソリューションの開発を加速させることができます(図4)。ST25R95-VMD5Tは、NFCなどの標準的なアプリケーション向けにフレームの符号化および復号化を管理します。X-NUCLEO-NFC03A1は、ISO/IEC 14443 Type AおよびB、ISO/IEC 18092、ISO/IEC 15693(シングルまたはダブルサブキャリヤ)の各プロトコルに対応しています。NFC Forum Type 1、2、3、4タグによる検出、読み取り、書き込みが可能です。また、本評価ボードはST Arduino™ UNO R3コネクタのピン配置に対応しています。

画像:STMicroelectronicsのカードリーダ評価ボードX-NUCLEO-NFC03A1図4:カードリーダ評価ボードX-NUCLEO-NFC03A1は、NFC用にSTM32 Nucleoボードを拡張でき、近接型 & 近傍型タグ規格をサポートします。(画像提供:STMicroelectronics)

金属面のRFID

Murata Electronicsの UHF RAIN RFIDオンメタルタグ LXTBKZMCMG-010は、手術器具に貼り付けて使用するために設計されており、金属面をアンテナブースタとして使用し、読み取り範囲を最大150cmまで伸ばします。LXTBKZMCMG-010は、UHF周波数帯全体で動作し、寸法はわずか6.0 x 2.0 x 2.3ミリメートル(mm)、動作温度範囲は-40~+85℃です。EPC global Gen2(v2)およびRAIN RFIDプロトコルに準拠しています。

米国の規制では、手術器具に機器固有識別子(UDI)を付けることが義務化されています。UDI規制は、EPCと同様、医療機器の安全な使用と保管を支援するために策定されました。UDIの識別子体系は多くの種類の医療機器に適用されますが、手術器具の場合は必須となります。手術のために誤った器具を準備した場合のリスクが甚大となるためです。欧州でも今後、手術器具へのUDI貼り付けが義務化されることが予想されます。手術器具には、ロジスティクス上の課題があるほか、準備に時間がかかって経験者でもミスをしやすいという問題もあります。

画像:Murata ElectronicsのUHF RAIN RFIDオンメタルタグLXTBKZMCMG-010図5:手術器具の金属面は、Murata ElectronicsのUHF RAIN RFIDオンメタルタグLXTBKZMCMG-010がアンテナブースタとして使用し、読み取り範囲を伸ばします。(画像提供:Murata)

LF RFIDトランシーバICとその評価ボード

LF RFIDトランシーバを活用するロジスティクスソリューションとしては、Melexisのシングルチップ125kHz RFIDトランシーバMLX90109をご利用いただけます。MLX90109は、最小限のシステムコストと消費電力の両方を実現した非常に柔軟なデバイスです。リーダのキャリヤ周波数と発振器周波数は、並列共振回路として接続した外部のコイルとコンデンサを使用して決定されるため、外部発振器が必要なくなり、アンテナチューニングが完璧になるため、ゼロ変調の効果を排除することができます。復号化されていないトランスポンダ信号は、最も簡単な実装では1線式インターフェースで伝送することができます。あるいは、MLX90109はトランスポンダ信号をオンチップで復号化し、復号化された信号を2線式インタフェース経由でクロックとデータと共有することもできます。MLKX90109の特長は以下のとおりです。

  • SO8パッケージに収納された高集積化ソリューションである
  • 外部クォーツリファレンスは不要、抵抗2本とアンテナのみが必要
  • オンチップ復号化により、使いやすさと高速なシステム設計をサポート
  • クロック出力とオープンドレインデータ出力により、2線式シリアル通信を実現

MelexisのEVB90109により、設計者はMLX90109 ICの性能を評価することができます(図6)。また、コンパクトで費用対効果の高いRFIDアプリケーションの開発を加速させることができます。評価ボードMLX90109のどのピンも、外部マイクロコントローラに簡単に接続できるように、デュアルインライン(DIL)ソケット上にあります。EVB90109は、トランスポンダからデータを読み取ったり、オン/オフキーイング変調を使用してトランスポンダに情報を送信したりするのに使用できます。アンテナに外付けのトランジスタとダイオードを並列に配置した「高速減衰」回路により、高速なプロトコル操作をサポートしています。

画像:Melexisの評価ボードEVB90109図6:設計者は、評価ボードEVB90109を使用してMLX90109 ICの性能を測定することができます。(画像提供:Melexis)

まとめ

RFIDタグがロジスティクスにおける荷物追跡アプリケーションで使用されるケースが増えています。RFIDタグでは、さまざまな周波数帯、電源アーキテクチャ、通信・データプロトコルなど、多様な技術が利用できます。これは、ロジスティクスにおける広範な荷物追跡ニーズを満たすことのできるタグが揃っているということです。RFID技術の中には、離れた場所から一人で数百枚のRFIDタグを一度に読み取ることで、在庫管理のスピードアップを図ることができるものもあります。手術器具の場合は、RFIDタグを使用することで、ヒューマンエラーの原因の一つをなくし、より安全な手術が可能になります。ロジスティクスソリューションにおけるRFIDタグはUHFタグやNFCタグが主流ですが、125kHz LFタグは、使用する外付け部品が最小限になるので、低コストかつシンプルな設計を支援することができます。

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著者について

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Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

ジェフ氏は、パワーエレクトロニクス、電子部品、その他の技術トピックについて30年以上にわたり執筆活動を続けています。彼は当初、EETimes誌のシニアエディターとしてパワーエレクトロニクスについて執筆を始めました。その後、パワーエレクトロニクスの設計雑誌であるPowertechniquesを立ち上げ、その後、世界的なパワーエレクトロニクスの研究グループ兼出版社であるDarnell Groupを設立しました。Darnell Groupは、数々の活動のひとつとしてPowerPulse.netを立ち上げましたが、これはパワーエレクトロニクスを専門とするグローバルなエンジニアリングコミュニティで、毎日のニュースを提供しました。また彼は、教育出版社Prentice HallのReston部門から発行されたスイッチモード電源の教科書『Power Supplies』の著者でもあります。

ジェフはまた、後にComputer Products社に買収された高ワット数のスイッチング電源のメーカーであるJeta Power Systems社を共同創設しました。ジェフは発明家でもあり、熱環境発電と光学メタマテリアルの分野で17の米国特許を取得しています。このように彼は、パワーエレクトロニクスの世界的トレンドに関する業界の情報源であり、あちこちで頻繁に講演を行っています。彼は、定量的研究と数学でカリフォルニア大学から修士号を取得しています。

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