堅牢な車両制御用リニア位置センサの選択および適用

著者 Kenton Williston氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

ファクトリオートメーションのためのモノのインターネット(IoT)や、車両におけるエレクトロニクスの需要の増加に伴い、設計者はセンサの選択を慎重に検討しなければなりません。トラクタやフォークリフトのような乗り物には、制御用のリニアセンサに関して独特の設計上の課題があります。これらの制御には、極端な温度、衝撃、振動、ほこり、湿気に対応し、最小限のメンテナンスで長年にわたって使用できることが必要で、さらに精密で応答性が良く、信頼性が高く、耐久性のあるものでなければなりません。

このようなアプリケーションの要件を満たすオプションのひとつが、リニアホール効果センサです。非接触のオプションとして、これらのセンサは過酷な動作条件に耐えるように堅牢にすることができます。

この記事では、車両のセンシング要件と、リニアホール効果センサが良い選択肢である理由について説明します。続いて、 Vishay のリニアホール効果センサを紹介し、その特性と上手な選択および適用方法について説明します。

堅牢な車両に特殊で高精度な制御が必要な理由

堅牢な車両は、正確な操作が要求される危険な環境で運転されることが多いです。そのため、これらの車両の制御には、高い精度と応答性が求められます。さらに、これらのオペレータ制御には、多くの場合、車載の複数のIoTセンサや自動制御システムとのインターフェースが必要です。用途例としては、以下のようなものがあります。

  • フォークリフトのレバー:レバーの角度(すなわち、メインコントロールハンドル)を正確に検出することにより、安全で効率的な操縦が可能になります。これは、狭い空間において特に重要になります。
  • トラクタのギアシフト:スムーズなギアチェンジにより、トランスミッションの摩耗や損傷を最小限に抑え、燃費を向上させます。
  • ペダル変位システム:正確な測定により、最適な車両制御を可能にし、自動減速や緊急停止などの安全機能を強化します。

信頼性もまた、設計要件のひとつです。倉庫や製造施設などの環境では、制御は汚染物質、極端な温度、物理的な酷使にさらされる可能性があります。

最後に、堅牢な車両は設計上、スペースに制約があることが多くなります。たとえば、フォークリフトは倉庫の通路での操縦性を最適化するために非常に小型になっています。したがって、堅牢な車両制御用のセンサは、通常、可能な限り小型である必要があります。

リニアホール効果センサが堅牢な車両制御に最適な理由

耐久性、長いストローク距離、小型の必要性から、堅牢な車両制御に適したセンサを選ぶのは難しいことです。リニアホール効果センサは、調整なしで何百万サイクルも使用できる非接触技術であるため、良い選択肢となります。さらに、小型で取り付けやすいパッケージで提供され、短距離の位置検出に優れた精度を発揮します。

これらの利点を理解するためには、まずホール効果を検証することが役に立ちます。ホール効果センサは、1つの軸に沿って、ホール素子と呼ばれる金属または半導体の薄片に固定DCバイアス電流を印加します。電流の流れに垂直に磁界をかけると、電荷キャリアはローレンツ力によって偏向され、ホール素子の反対側に蓄積され、ホール電界と呼ばれる横電界と、ホール電圧と呼ばれる素子全体の電位が生じます。ホール電圧は、電流、磁界、ホール係数として知られる材料依存定数の積に比例します。

リニアセンサでは、ホール効果はホール素子と磁石間の距離に比例した出力電圧を作り出すことができます。この結果、短い距離で高精度の位置検出が可能になり、応答時間も速くなります。

堅牢な車両制御用に設計されたリニアホール効果センサ

Vishayの 20LHE シリーズ 位置センサ(図1)は、リニアホール効果センサの利点を例示しています。ストロークは10ミリメートル(mm)と短く、追従速度は毎秒60ミリメートル(mm/s)です。これらの製品は、±1%まで指定できる直線性により、高精度の車両制御にたいへん適しています。

Vishay 20LHEシリーズ リニアホール効果位置センサの画像図1:20LHEシリーズ リニアホール効果位置センサの直線性は±1%です。(画像提供:Vishay)

20LHEシリーズのセンサは、過酷な環境でも動作するように設計されており、メンテナンス不要の寿命は1,000万サイクル以上です。このセンサは、校正や初期化なしで、電源投入直後でも正確な測定が可能です。さらに、これらのセンサは直線性のドリフトがなく、優れた安定性を提供します。静的ヒステリシスは電源電圧の0.1%に制限され、動的ヒステリシスはわずか0.25%です。

図2に示すように、センサは取り付けが容易なフランジ取り付けで、シャフトは制御機構との接続を容易にするため、取り付け面から30mm伸ばすことができます。同時に、20LHEシリーズのセンサの全体寸法は、わずか46 x 20.8 x 37mmで、狭い車室にも収まるようになっています。

Vishay 20LHEシリーズ センサの構成図図2: 20LHEシリーズ センサは小型で、取り付けが容易なフランジ取り付けデザインを採用しています。(画像提供:Vishay)

リニアホール効果センサの機械設計上の考慮点

堅牢な車両制御は、制御されない環境において高い信頼性を提供しなければなりません。したがって、車両制御センサが荒い扱いに耐える能力を考慮することは極めて重要です。過酷な条件下では、エンジンやサスペンションなどからの振動と同様に、物理的な衝撃が加わる可能性があります。20LHEシリーズセンサは、最大20 g の振動と最大50 gの衝撃に耐える堅牢な物理設計になっています。

20LHEシリーズのセンサは、耐久性のある熱可塑性プラスチック製エンクロージャに収納されており、ほこりや液体、-40°C~+85°Cの極端な温度にも対応します。スプリングリターン付きモデルの環境保護等級(IP)はIP51ですが、より高い等級もあります。

IP等級は、エンクロージャが固体(1桁目)および液体(2桁目)の侵入に対して提供する保護レベルを示します。IP51の場合、5は、筐体が装置の正常な動作に影響を及ぼすのに十分な量の塵埃の浸入から保護されていることを示し、1は、筐体が垂直に落下する水滴から保護されていることを示します。

リニアホール効果センサを使用する際の電気設計上の考慮点

過酷な環境では、静電気放電やさまざまな電気および電子システム間の不注意な相互作用など、電磁的な危険も存在します。20LHEシリーズは、このようなさまざまな危険に耐えることができます。特に、+20ボルトの過電圧と-10ボルトの逆電圧に耐えることができます。その他の環境仕様を表1に示します。

環境仕様 定格
放射電磁妨害に対する耐性 200V/m
150kHz~1GHz
IEC 62132-2 part 2(level A)
電源周波数磁界への耐性 200A/m
50Hz/60Hz
EN 61000-4-8
放射電磁妨害波 <30dBμV/m
30MHz~1GHz
EN61000-6-4
静電気放電 接触放電:±4kV
空気放電:±8kV
EN 61000-4-2
放射RFフィールドの耐性 10V/m
80MHz~1GHz
EN6100-4-3

表1:20LHEシリーズは、物理的および電磁波的な危険に耐えるように設計されています。(画像提供:Vishay)

リニアホール効果センサを正しく動作させるには、負荷抵抗と組み合わせる必要があります。20LHEシリーズでは、Vishayは最小負荷1キロオーム(kΩ)を推奨します。

リニアホール効果センサの選択

センサは必要な制御精度を保つ必要があるため、精度は考慮すべき最初のパラメータです。20LHEシリーズの場合、 20LHE1XWA1P30 で±2%の直線性、または 20LHE1AWA1P30で±1%の直線性のいずれかを選択できます。

また、出力は他の制御システムのニーズにも合致していなければなりません。代表的なオプションには、アナログのレシオメトリックまたはパルス幅変調(PWM)があります。20LHEシリーズは、センサ位置に応じて出力が増加または減少する両方の構成があります。たとえば、 20LHE1AWB1P30 は、アナログ減少出力を持ち、これはセンサシャフトが完全に押し込まれたときに出力が最小になることを意味します(図3)。

アナログ減少出力を有するVishay 20LHE1AWB1P30のグラフ図3:20LHE1AWB1P30はアナログ減少出力が利用可能で、センサシャフトが完全に押し込まれたときに最小になります。(画像提供:Vishay)

シャフトそのものを考慮する必要があります。たとえば、20LHEシリーズのシャフトは3.175 mmで、オプションでM3 x 6mmのネジを切ることができます。このような構成にすることで、設置が簡単になり、制御機構への接続がより安全になります。

20LHEシリーズのほとんどのモデルにはスプリングリターンが標準装備されています。このスプリングはセルフセンタリング機構を提供し、センサを変位させた力が取り除かれたときにセンサが元の位置に戻ることを保証します。この機能は、スロットルポジションセンサなどの、オペレータが頻繁に入力力を加えたり離したりする車両制御アプリケーションに役立ちます。20LHE2AWA1P30ようなスプリングなしのモデルもあります。

まとめ

非接触オプションとして、リニアホール効果センサは堅牢な車両制御に最適です。20LHEシリーズは、小型なフォームファクタで、フランジ取付式なので簡単に設置できます。また、過酷な動作環境にも耐えうる耐久性を備え、物理的および電磁的な危険に直面してもメンテナンス不要の安定した精度を実現します。

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著者について

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Kenton Williston氏

Kenton Williston氏は2000年に電気工学の学士号を取得し、プロセッサベンチマークアナリストとしてキャリアをスタートさせました。その後、EE Timesグループの編集者として、エレクトロニクス業界を対象とした複数の出版物やカンファレンスの立ち上げや指導に携わりました。

出版者について

DigiKeyの北米担当編集者