医療向けポータブル/ウェアラブルデバイス設計に迅速な統合が可能な臨床グレード温度センシング
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2020-06-24
COVID-19に対する世界的な懸念を受けて、温度センシング用のポータブルデバイスやウェアラブルデバイスの設計者は、デバイスのサイズ、コスト、消費電力の削減という課題に迫られながら、精度、感度、信頼性も向上させなければなりません。この課題に対応できるように、センサはその性能面だけでなく全般的な使いやすさの面でも向上しており、設計や統合プロセスを簡素化しています。
この記事では、まず温度センサの基本的なタイプについて説明し、次にデジタルICセンサと、設計者が注視すべき各種のコア機能にスポットを当てます。また、amsとMaxim Integratedのデジタル温度センサ、さらに非接触温度センシングの例としてMelexis Technologies NVの赤外線温度計を紹介します。さらに、これらの機器が次世代システムのニーズにどのように適応するかを示し、関連する評価ボードとプローブキットを取り上げ、設計作業を始めるにあたり役立つそれらの使用方法についても解説します。
温度センサの選択
設計者が温度センシング用に選択できる一般的な温度センサには、熱電対、測温抵抗体(RTD)、サーミスタ、および温度センサICの4種類がありますが、その中で温度センサICは、接触型の医療/ヘルスケアデバイス設計に適したセンサです。これは主に、温度センサICが線形化を必要とせず、優れたノイズイミュニティを備えており、ポータブルやウェアラブルのヘルスケアデバイスに統合しやすいことが理由です。非接触センシングには、赤外線温度計が使用できます。
手首に装着するデバイス、衣服に埋め込むデバイス、医療用粘着パッチなど、特にウェアラブル用途の場合、設計者が考慮すべき重要なパラメータには、サイズ、消費電力、そして熱感度などがあります。中でも感度は重要ですが、その理由は、臨床グレードの精度を考慮して設計する際には、マイクロワット(μW)レベルの過渡電力であってもセンサ自体の温度が上昇し不正確な測定値の原因になるからです。また、マイクロコントローラなどの関連部品の要件を決定するため、インターフェースのタイプ(デジタルまたはアナログ)も考慮してください。
臨床グレードの精度を実現するには
ASTM E112に準拠した臨床グレードの精度を達成するには、適切なセンサを選ぶことから始めます。たとえば、Maxim IntegratedのMAX30208デジタル温度センサは、+30°C~+50°Cで±0.1°Cの精度、0°C~+70°Cで±0.15°Cの精度を備えています。デバイスのサイズは2 x 2 x 0.75mm、薄型10ピンLGAパッケージで提供されます(図1)。このICは、1.7~3.6Vの電源電圧で動作し、動作時の消費電力は67μA未満、スタンバイ時の消費電力は0.5μAです。
図1:MAX30208デジタル温度センサは、スマートウォッチや医療用パッチなどの電池駆動式デバイスで±0.1°Cの臨床グレードの測定精度を実現(画像提供:Maxim Integrated)
前述のように、臨床グレードの精度を目指す設計で重要な課題は、センサ自体の温度がウェアラブルデバイスの測定値に影響を与えないようにすることです。
センサICの熱は、プリント基板からパッケージリードを通ってセンサダイに伝わり、温度測定値の精度に影響する場合があります。温度センサIC内部では、この熱がパッケージ下部にある金属製のサーマルパッドを介して伝達することで寄生加熱が生じます。これは、他のピンを出入りする熱伝導の原因になり、必然的に温度測定に支障をきたします。
寄生加熱の対策として設計者が採用できる手法には、薄いトレースを使用して熱伝導性を最小化してセンサICへの影響を遠ざけるなど、複数あります。また、パッケージ下部のサーマルパッドを使用する代わりに、ICピンからなるべく離れたパッケージ上部で温度を測定する方法もあります。MAX30208CLB+に代表されるMAX30208デジタル温度センサの場合、パッケージ上部で温度が測定されます。
熱の影響を緩和するもう1つの手法には、温度モニタリングシステムの温度上昇に寄与する可能性がある他の電子コンポーネントを、センシング素子からできるだけ遠ざけて配置し、温度測定データへの影響を最小限にする方法があります。
システムとユーザー間の熱設計の考慮事項
設計者は、熱源からの断熱を確保しながら、温度センシング素子とユーザーの皮膚の間で熱が伝わる適切な経路も保証しなければなりません。パッケージ下の場所では、身体との接触点からプリント基板への金属製経路を確保するのが難しくなります。
そのため、まず第1に、センサが測定ターゲット温度に可能な限り近づくようにシステムを設計する必要があります。第2に、MAX30208センサで可能になるように、ウェアラブルデバイス設計と医療用パッチにはフレックスまたはセミリジッドのプリント基板を使用できます。MAX30208デジタル温度センサは、フラットフレキシブルケーブル(FFC)またはフラットプリンタケーブル(FPC)を使用してマイクロコントローラに直接接続できます。
これらのケーブルを使用する場合、温度センサICをプリント基板のフレックス側に配置する必要があります。これにより、皮膚の表面とセンサ間の熱抵抗が減少します。また、フレックス基板の厚さを可能な限り薄くする必要があります。基板が薄いほど効率的に曲がり、より適切な接触が可能になります。
デジタル温度センサは一般的に、I2Cシリアルインターフェースを介してマイクロコントローラに接続しています。これは、温度データ用にFIFOを使用するMaximのMAX30208CLB+の場合にも当てはまり、マイクロコントローラのスリープ期間を延長し節電することができます。
図2:医療用体温計やウェアラブルの体温モニタ向けのMAX30208デジタル温度センサ(画像提供:Maxim Integrated)
MAX30208CLB+デジタル温度センサは、32ワードFIFOを使用して温度センサ設定レジスタを形成し、最大32の温度計測値に対応し、各値は2バイトで構成されています。これらのメモリマップされたレジスタにより、センサは高閾値および低閾値のデジタル温度アラームを発生します。
さらに2本の汎用I/O(GPIO)ピンがあります。GPIO1は、温度変換をトリガするように構成できます。またGPIO0は選択可能なステータスビットの割り込みを生成するように構成できます。
工場出荷時較正済みの温度センサ
現在、多くのデジタル温度センサは工場で較正されており、使用場所での較正や年1回の再較正の必要がなくなります。従来の多くの温度センサではこれらが必要でした。さらに工場出荷時の較正では、出力を線形化したり、回路をシミュレートして微調整するためのソフトウェアを開発する必要がありません。また、多数の精密部品が不要になり、インピーダンス不一致のリスクを最小化できます。
たとえば、amsのAS621xファミリ 温度センサは工場出荷時に較正され、線形化は統合済みです(図3)。また8つのI2Cアドレスがあるので、設計者は単一のバスを使用して8箇所の潜在的なホットスポットで温度を監視できます。
図3:工場出荷時に較正済みで、完全なデジタル温度システムを構成できるAS621xセンサ(画像提供:ams)
また8つのI2Cアドレスを持つシリアルインターフェースにより、ヘルス関連のモニタリングシステム開発者にとって試作と設計検証が容易になります。
センサと特定のアプリケーション要件を適合させるために、AS621xセンサには3種類の精度バージョンとして、±0.2°C、±0.4°C、±0.8°Cが用意されています。ヘルス関連のモニタリングシステムでは、±0.2°C以内の精度があれば十分なので、AS6212-AWLT-Lが適切な選択肢になります。AS621xデバイス全モデルには16ビットの分解能があり、動作温度範囲-40°C~+125°Cの全域で温度のわずかな変動を検出します。
AS621xはサイズが1.5mm2で、ウェハレベルチップスケールパッケージ(WLCSP)で提供され、ヘルスケアデバイスへの組み込みが容易になります。1.71Vの電源電圧で動作し、動作中は6μA、スタンバイモードでは0.1μAを消費します。小さなフットプリントと低消費電力により、AS6212-AWLT-Lに代表される温度センサは電池駆動のモバイルデバイスおよびウェアラブルデバイスの用途に特に適しています。
非接触温度センサ
赤外線温度計は、物理的な接触が必要な温度センサICとは異なり、非接触で温度を測定できます。このような非接触型センサは2つのパラメータ、すなわち周囲温度と対象物の温度を測定します。
このような温度計は、デバイスの真前にある物体から放出される0ケルビン(絶対ゼロ)を超えるあらゆるエネルギーを検出します。次に検出器は、そのエネルギーを電気信号に変換してプロセッサに送り、周囲温度により生じる変動を補正した上でデータを解釈し表示します。
たとえば、MelexisのMLX90614ESF-BCH-000-TU赤外線温度計は、赤外線サーモパイル検出器チップと信号調整チップで構成され、TO-39パッケージに統合されています(図4)。MLX90614ファミリに統合された低ノイズアンプ、17ビットA/Dコンバータ(ADC)、デジタル信号プロセッサ(DSP)により、高い精度と分解能が保証されます。
図4:室温で0.5°Cの標準精度を備えるMLX90614赤外線温度計(画像提供:Melexis)
MLX90614赤外線温度計は、温度範囲-40°C~85°Cの周囲温度、-70°C~382.2°Cの対象物温度に対して工場出荷時に較正されています。また室温で0.5°Cの標準精度を備えます。
この非接触温度センサには2つの出力モードとして、2線式インターフェース(TWI)またはI2Cリンクを介したパルス幅変調(PWM)とSMBusがあります。センサは工場出荷時にデジタルSMBus出力で較正されており、温度範囲全域で0.02°Cの分解能を発揮します。一方で、設計者は10ビットPWMデジタル出力を0.14°Cの分解能で構成できます。
温度センサを使用した開発
MAX30208センサ製品ラインはMaxim IntegratedのMAX30208EVSYS#評価システムによりサポートされ、このシステムにはMAX30208温度センサICを保持するフレックスプリント基板が含まれています(図5)。評価システムは、MAX32630FTHRマイクロコントローラボードとMAX30208インターフェースボードの2つの基板から構成されており、これらはヘッダにより接続されています。設計者は、付属のUSBケーブルを使用してこの評価ハードウェアをPCに接続するだけです。接続すると、必要なデバイスドライバが自動でシステムにインストールされます。ドライバインストールの完了後に、EVキットソフトウェアをダウンロードする必要があります。
図5:付属のUSBケーブルを使用してこの評価ハードウェアをPCに接続可能。必要なデバイスドライバを自動的にインストール(画像提供:Maxim Integrated)
さらに特筆すべきなのは、モバイルデバイス/ウェアラブルデバイスが複数の場所で体温を測定できることです。たとえばスポーツウェアで、複数のMAX30208温度ICをデイジーチェーン構成で複数のI2Cアドレスを介して1つのバッテリとホストマイクロコントローラに接続できます。この場合、各温度センサがマイクロコントローラによって定期的にポーリングされ、局所的および全身両方の体温プロファイルを作成できます。
MLX90614赤外線センサの場合、医療機器の開発者はMikroElektronikaの小型MIKROE-1362 IrThermo Clickボードを使用して開発に着手できます。これにより、MLX90614ESF-AAAシングルゾーン赤外線温度計モジュールを、mikroBUS I2CラインまたはPWMラインのいずれかを介して、マイクロコントローラボードにリンクできます(図6)。
図6:MIKROE-1362 IrThermo Clickボードを使用して、MelexisのMLX90614センサを搭載した開発を開始可能(画像提供:MikroElektronika)
MikroElektronikaの5Vボードは、温度範囲-40°C~85°Cの周囲温度、-70°C~+380°Cの対象物温度に対して較正されています。
結論
設計者は、臨床レベルの温度センシングをより多くマスマーケットに流通させることを迫られ、しかも電力、サイズ、コスト、信頼性、精度などの課題にも対応しなければなりません。現在では、接触/非接触型センサを、それらに対応する評価キットとともに利用できるようになり、設計者は前述の課題や要求にすばやく効率的に応えることができます。この記事で述べたように、これらのセンサは臨床での体温測定に必要な性能特性を持つだけでなく、次世代の設計への容易な統合に欠かせない工場出荷時の較正やデジタルインターフェースも備えています。
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