LTEマイクロコントローラとルータを使用して、リモート産業用のIoTセルラーエンドポイントを迅速に実装

著者 Bill Giovino

DigiKeyの北米担当編集者の提供

モノのインターネット(IoT)アプリケーションの拡張にともなって、関連ネットワークの到達範囲も拡張させる必要があります。産業施設付近または内部の便利なワイヤレスネットワークとしてWi-Fi、Bluetooth、およびZigbeeを使用できますが、一部の産業用IoT(IIoT)ネットワークには遠距離または分散した現場でのリモート監視およびシステム制御が必要になります。これらの現場の多くは、メンテナンス技術者が到達するのが困難で時間を要します。このような状況では、セルラーネットワークが最善のワイヤレスソリューションとなります。

この記事では、遠く離れた場所に配置された一部のIIoTアプリケーションにおけるセルラーを介したリモートデータの監視および制御の必要性、およびメンテナンスを最少またはゼロに抑えて電力を節約するリモートIIoTノードの利点について説明します。それから、Phoenix ContactのDINレール実装セルラールータにLETネットワーク経由でデータを送信可能なNordic Semiconductorのセルラーマイクロコントローラを紹介します。

IIoTネットワークの拡張

従来のIIoTネットワークは、製造施設、自動倉庫、または屋外公園など、単一の場所に設定されていました。ハブへのネットワークは、産業用Ethernetのように有線で、またはWi-FiやZigbeeのようにワイヤレスで接続できます。これはIIoTネットワーク上のエンドポイントにすぐにアクセス可能な中央の場所から容易に管理できるため、効率的なメンテナンスや交換が可能になります。

IIoTの拡張にともなって、使用事例も拡大しました。効率性の向上とネットワーク制御の迅速化のために、施設管理者は、リモートシステムと本社のハブ間のレイテンシを最小限に抑えつつ、リモートシステムを積極的に監視および制御する必要があります。電車、地下鉄、州間トラック輸送などの交通システムは、エンジンや電気モータ上のさまざまなセンサに加えて、燃料/エネルギー消費、速度、距離、および位置追跡/到着時間予測用のGPS測位を監視することにより、恩恵を受けることができます。このデータは主要施設または本社に送信されて、分析されます。このデータを使用すれば、効率の向上と故障の防止によって信頼性を高めつつコストを削減できるため、ごく短期間で時間と費用の節約が可能です。

石油およびガスのパイプラインは、パイプライン内の容量や圧力に加えて、温度、気圧、湿度などの環境条件を監視することにより、IIoTネットワークから恩恵を受けることができます。高精度GPSの位置監視や振動/ジャイロスコープセンサは、地震などの外力によって発生するパイプライン上の動きを検知できます。場合によっては、地震などの緊急事態への対応として、パイプライン内の流れをリモートで制限または停止させることができます。装置は自己診断を実行し、結果を工場に送信して分析することができます。 これらのパイプラインは本社から幾千マイルも離れた北極圏などの過酷な環境に配置される場合があるため、エンドポイントに完全に信頼できる通信ネットワークを備えることが重要です。

セルラーIoTの導入

これらのニーズを満たすため、IIoTネットワークは既存のLTE(ロングタームエボリューション)セルラーネットワークを介してデータを送信できるように拡張されました。これにより、電源が供給および維持される限り、LTEコネクティビティが利用可能な世界のほぼすべての場所にIIoTエンドポイントを配置できるようになります。これには、セルラーネットワークのメンテナンスにかかるコストと努力はセルラーキャリアが負担するという付加的な利点もあります。これらのシステムは遠くて監視が届かない到達困難な場所に配置される場合があるため、リモートセルラーIIoTエンドポイントは信頼性が高く、ハッキングや物理的変更に対する耐性を備えている必要があります。

信頼性の高いIIoT用組み込みシステムへの最初のステップは、電力を最小化しつつシステムをシンプルに保つことです。システムをシンプルに保つことにより、故障箇所を減らすことができます。消費電力を削減することにより熱が抑えられ、信頼性が向上します。これにより、ほとんどの半導体デバイスの寿命が延び、電池駆動のIIoTエンドポイントの電池寿命も向上します。

これらの要件を満たすため、Nordic Semiconductorは、nRF9160 LTEセルラーIoTマイクロコントローラを発売しました。nRF9160は、最新のセルラーIoTおよびマシンツーマシン(M2M)データ規格に準拠した完全なオンチップLTEモデムを組み込むことにより、セルラーIIoTエンドポイント開発を簡素化します(図1)。

Nordic SemiconductorのnRF9160 LTEセルラーマイクロコントローラの図(クリックして拡大) 図1:Nordic SemiconductorのnRF9160 LTEセルラーマイクロコントローラは、Arm® Cortex®-M33コアをベースにしています。これには、LTEモデムやGPSモジュールなど、セルラーIoTエンドポイントを構築するのに必要な周辺機器がすべて備わっています。(画像提供:Nordic Semiconductor)

Nordic SemiconductorのnRF9160は、低電力IoTアプリケーションに特化した64MHzのArm Cortex-M33プロセッサコアをベースにしています。Cortex-M33は、シングルサイクルの積和(MAC)演算をサポートし、単精度浮動小数点ユニット(FPU)命令、ハードウェア除算、および単一命令多重データ(SIMD)処理を備えています。これは、センサフュージョン計算の場合のようにセンサデータを迅速に処理するために役立ちます。Cortex-M33は、低電力モードに入ったり出たりする場合でも高度に確定的で、リアルタイム演算をサポートしています。

nRF9160マイクロコントローラは、1メガバイトのアプリケーションファームウェア用オンチップフラッシュと、256キロバイトの低リークRAMを搭載しています。このマイクロコントローラは、AES暗号化を含む暗号化処理用のArm TrustZoneサブシステム、真の乱数発生器(TRNG)、および安全なパスワード管理を備えています。これは、暗号化されたデータ通信の検証やファームウェア不正変更の検出に役立ちます。標準のオンチップシリアルインターフェースには、外部センサやアクチュエータにインターフェースするためのSPI、I2C、およびUARTポートが含まれます。8チャンネル、ネイティブ12ビット(オーバーサンプリングの場合14ビット)のA/Dコンバータ(ADC)は、アナログセンサの読み取りに役立ちます。

nRF9160には、低電力IoTエンドポイントに最適化されたオンチップGPSレシーバも搭載されています。これは、トラックや電車などのモバイルエンドポイントで特に役立ちます。また、地震活動によって意図されずに位置が移動するシステムや、エンドポイントがロボット装置などの移動可能なデバイスに実装された場合の意図的な移動の検出にも役立ちます。GPSレシーバは、オンチップRFトランシーバをLTEモデムと共有しています。LTEモデムとGPSレシーバの両方がアクティブである場合、共有されたRFトランシーバはGPSモジュールとLTEモデムで時間多重化されますが、LTEモデムのほうが優先されます。

nRF9160上のLTEモデムは、専用フラッシュおよびRAMメモリを備えたホスト制御プロセッサ、ベースバンドプロセッサ、50Ωの外部アンテナピンを備えたRFトランシーバ、およびSIMカードインターフェースで構成されています。通信の信頼性を高めるため、LTEモデムには独自の診断および故障検知機能が備えられています。LTEモデムは、Cat-M1、Cat-NB1、Cat-NB2などの低電力M2MおよびIoTデータ通信プロトコルをサポートしています。

LTEネットワークを介してデータを送信するために、LTEモデムにはワイヤレスネットワーク、電話番号、および加入者情報を含む標準SIMカードが必要です。nRF9160 LTEホストプロセッサには、LTE-Mまたは狭帯域IoT(NB-IoT)データ送信規格に準拠するアクティブ化されたSIMカードに接続するための外部UICC(Universal Integrated Circuit Card)インターフェース(SIMカードインターフェースとも呼ばれる)があります。

それぞれのnRF9160 LTEエンドポイント用に、セルラーキャリアの適切なデータプランを備えたSIMカードを購入する必要があります。ネットワーク化されたIoTデバイス用のSIMカードおよびセルラーデータプランは、DigiKeyから手軽に購入できます。毎月300キロバイトから最大5ギガバイトのデータ容量を提供するプランが利用可能です。

nRF9160は3.0~5.5Vで動作可能なため、3.7Vのリチウム電池を搭載した電池駆動IIoTエンドポイントでの使用に適しています。大部分のデバイス仕様において供給電圧は3.7Vであるため、3.7Vでの動作が推奨されています。nRF9160の周辺機器およびプロセッサモジュールのパワードメインのほとんどは構成可能であり、電源はファームウェア制御によってオン/オフにできます。これにより、開発者は電流消費を微調整して、特定のアプリケーション要件を満たすことができます。

nRF9160には電力節約モード(PSM)があります。このモードでは、コアがアイドル状態(コアのレジスタ状態を保存)、LTEモデムがオフ、大部分の周辺機器がオフになります。常に時間の経過を追う必要のあるIIoTエンドポイントであっても、PSMでRTCを実行するnRF9160は2.35µAしか消費しません。これは、電池駆動デバイスにとって驚くほど低い電流消費です。

GPSモジュールは、継続的に追跡すると47mAという多くの電流を消費します。その代わり、12mAしか消費しないPSMでGPSを実行するほうがより実際的です。これは、継続的なリアルタイムの位置追跡を必要とする電車やトラックに適しています。さらに経済的なモードでは、2分ごとに1回シングルショット修正を実行するようにGPSを構成します。この場合は1.3mAしか消費しません。これは、時々動作を検出するだけでよい固定ノードに適しています。

LTE-Mプロトコルを使用して通信する場合、nRF9160は375キロビット/秒(kbps)でデータを送信できます。低データレートのNB-IoTプロトコルは、60kbpsです。これらの低データレートにより、エンドポイントとハブの間で信頼性の高い通信を維持しつつ電力を節約します。LTEモデムは、トランスポート層セキュリティ(TLS)もサポートします。これにより、マンインザミドル攻撃または送信済みデータの不正傍受を防止するのに役立つ、安全で暗号化された通信を実現します。

nRF9160は-40~+85°Cで動作するため、極度の低温環境や大抵の高温環境に適しています。

LTE無線は、1mWの出力電力に対して最大23dBをアンテナに供給します。これはIPv4および最新のIPv6と互換性があるため、IPv4の制約なしで新しいIPアドレスに容易に拡張できます。LTEモデムは、SMSテキストメッセージもサポートしています。これにより、IIoTエンドポイントは携帯電話に似たテキストデータを送受信できます。とはいえ、このメッセージは「こんにちは」のようなテキストではなく、センサデータを受信したり、動作コマンドを送信したりするのに使用されます。

LTEエンドポイント開発

nRF9160の開発をサポートするため、Nordic SemiconductorはnRF6943 Nordic Thingy:91セルラー開発ボードを提供しています(図2)。このボードは、迅速な実装を容易にするため、ほとんどそのまま展開可能なキットとして明るいオレンジ色のボックスにパッケージ化されています。

Nordic SemiconductorのnRF6943 Thingy:91フル機能セルラー開発キットの画像図2:Nordic SemiconductorのnRF6943 Thingy:91は、外部デバイスに接続するための大量のセンサとピンを備えたフル機能のセルラー開発キットです。これには、加入者SIMカード用のSIMカードソケットがあります。(画像提供:Nordic Semiconductor)

nRF6943開発キットには、再充電可能な1400mAhのリチウムポリマー電池が搭載されており、使用可能なUSBポートを通して充電できます。USBポートは、ファームウェア開発、プログラミング、およびデバッギング用に、nRF6943をPCへ接続するのにも使用されます。

nRF6943 Thingy:91開発キットには、低電力加速度計、高G加速度計、光/カラーセンサ、電流測定ポートを含む多くのオンボードセンサが搭載されています。環境センサは、温度、湿度、空気質、および気圧を検出します。個別のポートピンは、追加の外部センサに接続するために使用できます。さらに、nRF9160は、小型DCモータまたは高電流LEDを駆動するのに使用可能な4個のパワーMOSFETを駆動します。磁気ブザーと3個のRGB LEDは、開発中にオーディオおよびビジュアルフィードバックを提供します。また、アプリケーションファームウェアによってプログラム可能な2個の押ボタンもあります。

本社ハブへの接続

IIoT nRF9160エンドポイントは、LTEコネクティビティが利用可能な世界のあらゆる場所に配置できます。IIoTセルラーエンドポイントは、本社ハブと接続されたワイヤレスキャリアのセルラーネットワークを介して、Phoenix Contactの1010464 4G LTEルータのようなセルラールータにデータを送信できます(図3)。

Phoenix Contactの1010464セルラールータの画像図3:Phoenix Contactの1010464セルラールータは、統合ファイアウォールと仮想プライベートネットワーク(VPN)をサポートする産業用4G LTEルータです。(画像提供:Phoenix Contact)

Phoenix Contactの1010464 4G LTEルータは、過酷な産業環境用に設計され、AT&T U.S.A.のセルラーネットワークに接続します。加入者SIMカード用のSIMスロットは、背面にあります。このルータには、既存のDINレールシステムに最小限のハードウェア構成で簡単に統合するために、DINレールが実装されています。ルータは、セルラー信号をクリアに受信できるような位置に設置する必要があります。IIoTエンドポイントファームウェアとこのセルラールータは、安全かつ効率的に通信できるよう、両方とも各SIMの電話番号で設定する必要があります。LTEルータはさらなるセキュリティのためにファイアウォールを備えているため、認証されていない電話番号からの不正なLTEアクセスだけでなく、認証済みの電話番号からの不審なパケットも簡単に遮断できます。VPNのサポートにより、さらに安全なデータ通信が可能になります。LTEセルラールータには前面に4ポートのスイッチがあり、Ethernetを介してローカルネットワークと通信します。

低電力IIoTエンドポイントとLTEセルラールータのこのような組み合わせにより、本社ハブと産業用エンドポイントの間の通信が容易になります。その通信速度は、セルラーネットワークの利用可能な帯域幅によってのみ制限されます。

まとめ

上記で説明したように、IIoTネットワークを容易に拡張して、世界のあらゆる場所にエンドポイントを配置することができます。低電力マイクロコントローラを統合されたLTEセルラーモデムと組み合わせて使用することにより、時間と設計コストを節約できます。また、適切に構成した後は、本社ハブのセルラールータに1日24時間いつでもデータを送信できるようになります。

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著者について

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Bill Giovino

Bill Giovino氏は、シラキュース大学のBSEEを持つエレクトロニクスエンジニアであり、設計エンジニアからフィールドアプリケーションエンジニア、そしてテクノロジマーケティングへの飛躍に成功した数少ない人の1人です。

Billは25年以上にわたり、STMicroelectronics、Intel、Maxim Integratedなどの多くの企業のために技術的および非技術的な聴衆の前で新技術の普及を楽しんできました。STMicroelectronicsでは、マイクロコントローラ業界での初期の成功を支えました。InfineonでBillは、同社初のマイクロコントローラ設計が米国の自動車業界で勝利するように周到に準備しました。Billは、CPU Technologiesのマーケティングコンサルタントとして、多くの企業が成果の低い製品を成功事例に変えるのを手助けしてきました。

Billは、最初のフルTCP/IPスタックをマイクロコントローラに搭載するなど、モノのインターネットの早期採用者でした。Billは「教育を通じての販売」というメッセージと、オンラインで製品を宣伝するための明確でよく書かれたコミュニケーションの重要性の高まりに専心しています。彼は人気のあるLinkedIn Semiconductorのセールスアンドマーケティンググループのモデレータであり、B2Eに対する知識が豊富です。

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