ソフトウェア無線の基礎を学ぶ

著者 Art Pini

DigiKeyの北米担当編集者の提供

ソフトウェア無線(SDR)の良さは、軍事および航空宇宙産業からホビーに至るまで、1つのハードウェアで幅広い無線周波数のRF信号をキャプチャ、復調、利用ができることです。その幅広さはハードウェアのRFフロントエンドに依存し、利用できる信号のタイプと数はソフトウェアとその基礎となる処理能力に依存します。これらはどちらもアプリケーション要件および関連するコストと電力バジェットで決まります。軍事および航空宇宙産業用では、コストは数万ドルにおよぶこともあります。短波放送のリスナ、アマチュア無線愛好家、DIY愛好者の場合、必要なものは容易に利用できるデスクトップコンピュータかノートPCを使った、シンプルでコストのかからない無線電波の取り扱い手段です。

この記事では、SDRを簡単に紹介してから、Adafruit Industries社の低価格USBベースSDRモジュールを紹介します。この製品は、シンプルな連続波(CW)モールス符号から最も複雑なデジタル変調形式まで、幅広い信号を受信、復調できます。ユーザーがこのモジュールと関連ソフトウェアを使用して、無線受信、無線周波数スペクトラム、スペクトログラム解析をコンピュータに追加する方法を紹介します。

SDRとは?

SDRは、デジタル技術を使用して、ミキサや変調器、復調器、関連アナログ回路など、従来の無線ハードウェアを置き換えるものです。SDRでは、相応のA/Dコンバータ(ADC)で無線信号を直接デジタル化することにより、これらの機能をすべてソフトウェアで実装できるため、AM、FM、CW、SSB(抑圧搬送波単側波帯)、DSB(抑圧搬送波両側波帯)を問わず、複数の無線モードに同一のハードウェアを使うことができます。その結果、すばやく再構成して異なる信号送信技術に対応できる、きわめて柔軟性の高い無線デバイスになっています(図1)。

従来のアナログレシーバ(上)とSDRベースのレシーバ(下)の比較図図1:従来のアナログレシーバ(上)とSDRベースのレシーバ(下)の比較。SDRレシーバにおけるADCより後の全機能は、プログラム可能なデジタル回路で実装されているため、変更および更新がプログラム可能(画像提供:Digi-Key Electronics)

スーパーヘテロダインレシーバ(図1、上)のような従来の無線機は、ハードウェアベースで、アナログ部品で実装されています。SDRレシーバはRFチューナを使用し、目的の周波数帯をADCの対象範囲内の中間周波数(IF)にダウンコンバートします。それよりも後は、すべての回路がデジタルです。デジタルダウンコンバータは信号周波数をベースバンドに変換し、ローパスフィルタ機能を実行します。デジタル信号プロセッサ(DSP)は、復調、デコード、および関連タスクを実行します。これらの回路は一般に、ASIC(特定用途向け集積回路)、FPGA(フィールドプログラム可能ゲートアレイ)、プログラム可能DSPデバイスがベースになっています。これらのデジタル回路は、しかるべきソフトウェアにより幅広い変調方式を受信できるきわめて柔軟な無線機能を提供します。

低価格SDRハードウェア

Adafruit Industries社の1497は、24MHz~1.85GHzの周波数範囲をカバーする低価格SDRレシーバであり、別個のチューナICによる地上波デジタルテレビ放送(DVB-T)の符号化直交周波数分割多重(COFDM)復調器がベースです。

DVBコンソーシアムは、欧州に拠点を置く地上波デジタルテレビ放送送信の標準機関です。このシステムは、MPEG伝送ストリームを使用して、圧縮されたデジタルオーディオ、デジタルビデオ、その他のデータを、COFDMまたはOFDM変調で送信します。これらのデバイスはプログラミングにより他のアプリケーションに再利用でき、愛好家やDIY愛好者が、VHF、UHF、低周波数マイクロ波の無線信号を受信して調査するのに最適です。

このAdafruit製SDRのすべての信号処理能力に対して、物理的サイズはきわめて小さく、わずか22.24mm x 23.1mm x 9.9mmです(図2)。ホストコンピュータとUSBポートでインターフェース接続し、すぐに入手可能なSDRソフトウェアによりコンピュータやノートPCでユーザーインターフェースが使用できます。同社は、その入門ガイドの中でAirspy社のSDR Sharp(SDR#)を推奨しています。ソフトウェアのインストールは5分もかからず、十分な説明があります。

Adafruitの低価格SDRレシーバ1497の画像図2:1497は、25セント硬貨サイズのパッケージに収まる低価格SDRレシーバで、アクセサリアンテナとリモコンが付属。このレシーバは24MHz~1.85GHzにチューニングし、USB経由でホストコンピュータと接続(画像提供:Adafruit Industries)

このレシーバのアンテナ接続にはMCXコネクタを使います。レシーバのMCXジャックには、アンテナケーブルに取り付けられたプラグを挿すか、付属アンテナはユーザーが所持しているアンテナで置き換えることも可能です。

付属アンテナの代わりに別の物を使う場合、MCXプラグで接続できます。同軸アダプタを使用して、このSDRのMCX入力コネクタをSMAコネクタまたはBNCコネクタと嵌合させることができ、こちらの方がよく使われています。Amphenol RF社はSMAジャック用MCXプラグ(242127)とMCXプラグ用BNCジャック(242204)の両方を販売しており、どちらのコネクタインターフェースも一般によく使用されています。

SDRのサポートソフトウェア

SDR#というソフトウェアは、このレシーバと接続してユーザーインターフェースと視覚的表示を提供します(図3)。

Airspy社のSDR#によるユーザーインターフェースの画像(クリックして拡大)図3:Airspy社提供のSDR#のユーザーインターフェースでは左側のドロップダウンメニューでSDRレシーバを制御。上のグリッドにスペクトラムアナライザ(スペアナ)、その下にスペクトラム履歴の表示(画像提供:Digi-Key Electronics)

SDR#のデフォルトのユーザーインターフェースには、主要な要素が3つあります。

  • 左の列には、SDRデバイス用のコントロールがあります。SDRレシーバのすべての側面を制御する、14個のプルダウンメニューがあります。主なコントロールは、無線、オーディオ、表示のためのものです。
  • 上のグリッドは、スペアナを表示しています。横軸は周波数で、縦軸はデシベル単位の対数目盛で信号パワーが表示されています。スペアナは、RF技術者がRFデバイスの測定および解析に使う主なテストツールです。画面上部の数値表示はスペアナの中心周波数の表示・制御用です。表示される周波数の最大範囲はこのレシーバの帯域幅で、約2MHzです。表示の右側に水平ズーム用スライダコントロールがあります。ズームすると、中心周波数まわりの表示を水平方向に拡大できます。
  • スペアナの表示の下には、スペクトラムの履歴表示があり、スペクトラムの時間的履歴を表示します。この履歴はスペクトログラムと呼ばれることもあります。横軸はスペアナ表示の場合と同じく周波数です。縦軸は時間です。図には、日時を示すタイムマーカーがあります。3つ目の次元が信号パワーで、色で示されます。デフォルトのカラースケールは、パワーの最小レベルを示す黒から最大レベルを示す赤までです。表示コントロールでさまざまなスタイルおよび色の割り当てを選択できます。

図3に表示されている信号は、105.1MHzのFM放送局のものです。これは帯域幅が200kHzの広帯域FM信号です。これは、このSDRレシーバで使用できる8つの復調器の内の1つです。他の復調器は、狭帯域FM、AM、上下SSB、DSB、CW、生信号の同相成分および直交成分に対応しています。これらは表示の左上にある無線コントロールで選択します。

この信号スペクトラムは、中心周波数周辺のアナログ信号で構成されています。これはアナログラジオ番組を伝送します。その外側は、他の番組内容およびデジタル情報を含むデュアルサブバンドです。番組情報の内容はデコードされて、スペアナ表示の上にすぐに表示されます。スペクトラム表示だけでなく、ラジオ局のオーディオ成分もホストコンピュータを介して聞くことができます。

広帯域FMは、高品位のステレオ音楽を伝送することが求められるため、大きな帯域幅を持っています。アメリカ国立気象局などの無線サービスは音声のみを伝送するため狭帯域FMを使用しています(図4)。

アメリカ国立気象局による162.471MHzの気象放送の画像(クリックして拡大)図4:アメリカ国立気象局の気象放送(162.471MHz)。狭帯域FMを使用している放送局(画像提供:Digi-Key Electronics)

アメリカ国立気象局の放送局はわずか11.2kHzの帯域幅で受信できます。これは番組の内容が音声のみだからです。この場合も、スペクトラム表示だけでなく番組の音声内容も聴くことができます。このSDRレシーバはこれらのサービスをすべてホストコンピュータに付加します。

スペクトラム履歴(スペクトログラム)の表示は受信信号スペクトラムの経時変化を見るのに便利です。簡単な例として、連続波(CW)モールス符号信号を見てみましょう(図5)。

連続波モールス符号信号のスペクトログラム表示の画像(クリックして拡大)図5:連続波モールス符号信号のスペクトログラム表示(画像提供:Digi-Key Electronics)

CW信号は、RFキャリアをオン/オフ(オンオフキーイング)することでデータをエンコードします。キーが押下されている(キャリアが送信されている)期間が、スペクトログラム表示に明るい青灰色のトラックで示されています。テストを示すモールス文字「V」(トントントンツー)が信号トラックに確認できます。このソフトウェアは、符号送信を聴くためのユーザー制御オーディオトーンを出す、「CW shift」と表示されたビート周波数発振器(BFO)を提供し、CW信号受信ができるようにしていることに注意してください。CW送信は狭帯域であるため、無線コントロールのプルダウンメニューで分かるようにレシーバの帯域幅を300Hzにせばめています。常にレシーバの帯域幅を受信しているモードに必要な最小の値にしておくと、チャンネルのノイズレベルが最小になります。

SDRレシーバの測定アプリケーション

ますますつながりつつある世界では、確認しサービスを受ける必要があるRFソースが多数あります。1つの例が遠隔気象ステーションの送信機モジュールの更新周期の確認です(図6)。

スペクトログラムが遠隔送信機のキャリア周波数433.93MHzでの2回のRFバーストを示しています。スペクトログラムのタイムスケールはそのFMバーストが約50秒の間隔をおいて発生していることを示しています。

遠隔気象ステーションの送信機の433.92MHzにおけるスペクトログラムの画像(クリックして拡大)図6:データをバースト送信する遠隔気象ステーションの送信機の433.92MHzにおけるスペクトログラム。スペクトログラムが約50秒間隔でのバースト送信を捕捉し、表示しています。(画像提供:Digi-Key Electronics)

車載用リモートキーレスエントリ(RKE)システムは、車両の使用場所および管理規制により315MHzまたは433MHzで動作します。この場合、ユーザーはキーフォブをアンテナの近くで持ってボタンの1つを押すだけで、使われている変調方式が分かります(図7)。

RKEキーフォブのスペクトラムは433.9MHz付近で2つのピークを示しています。このデバイスはデータのエンコーディングに周波数偏移変調(FSK)を使います。FSKは、デジタルの1または0を表す2つの周波数間でキャリアをシフトさせます。他のRKEフォブは振幅偏移変調(ASK)を使います。ASKは、CW信号と大きく違わない2つのレベル間でキャリアの振幅をシフトさせます。

リモートキーレスエントリ用デバイスが433.9MHzのキャリアのFSKを使っていることを示すスペクトラムの画像(クリックして拡大)図7:リモートキーレスエントリ用デバイスが車両の入口を制御するデジタルデータをエンコードするために433.9MHzのキャリアのFSKを使っていることを示すスペクトラム(画像提供:Digi-Key Electronics)

結論

Adafruit 1497 SDRレシーバは、VHF、UHF、および低マイクロ波周波数帯の領域を、愛好家にも専門家にも開放するものです。これを使用すると、パソコンでFM、テレビ、アマチュア無線、CB無線、気象無線、短波放送に合わせることができます。また、スペアナとして使用し、幅広いポータブルRFデバイスの動作を検証できます。また、1497は、きわめて低価格で電波天文学用の干渉計を作成する場合にも使用されています。

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著者について

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Art Pini

Arthur(Art)PiniはDigiKeyの寄稿者です。ニューヨーク市立大学の電気工学学士号、ニューヨーク市立総合大学の電気工学修士号を取得しています。エレクトロニクス分野で50年以上の経験を持ち、Teledyne LeCroy、Summation、Wavetek、およびNicolet Scientificで重要なエンジニアリングとマーケティングの役割を担当してきました。オシロスコープ、スペクトラムアナライザ、任意波形発生器、デジタイザや、パワーメータなどの測定技術興味があり、豊富な経験を持っています。

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