ガルバニックアイソレータによる産業用高電圧アプリケーションの安全性と信頼性の向上

著者 Bill Giovino

DigiKeyの北米担当編集者の提供

特に製造設備などの産業用オートメーションシステムの多くは、数百から数千ボルトの範囲の高電圧を使用する装置とインターフェース接続する必要があります。通常、半導体ベースのアイソレータを使用して、ほとんどの制御システムで使用されている5Vの非常に低いデジタル論理電圧からこれらの高電圧を分離します。たとえば、単一パッケージのデュアルチップ光アイソレータは、過渡高電圧に対する高い耐性と環境磁場に対するイミュニティを備えているので、この目的のために幅広く使用されています。ただし、設計者は、長期的に極端な温度に対してより安定していて、製造の観点から見てより単純な技術を必要としています。

この記事では、最新の産業、医療、および電気自動車(EV)システムで使用される高電圧を安全に絶縁するために、単一パッケージのガルバニックアイソレータを使用する理由と方法について説明します。次に、Texas Instrumentsが提供する、信頼性の高い高電圧システムを対象としているシリコーンベースの2つのガルバニックアイソレータを紹介します。また、これらのガルバニックアイソレータをプリント基板に適切に取り付けて、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)やヒューマンインターフェースで使用されるデジタル論理電圧から高電圧を安全に絶縁する方法について説明します。

低電圧と高電圧を分離する理由

多くの産業用システムは、PLC、コンピュータ、またはヒューマンマシンインターフェース(HMI)を使用して制御されます。これらの制御システムは、5V以下の標準のデジタル制御電圧を使用して動作します。これらのシステムをインターフェース接続して120V以上の高電圧を管理する場合は、高電圧の装置から低いデジタル電圧を物理的に分離および電気的に絶縁することが重要です。また、パワーコンバータ、DC/DCコンバータ、電気自動車(EV)の場合でも、システムで使用される数千ボルトに上る可能性がある高電圧からデジタル制御電圧を注意深く絶縁する必要があります。

パワートランジスタはこれらのアプリケーションを簡単に処理できますが、安全に処理することはできません。これらのアプリケーションでは、トランジスタは、同じ半導体基板上でデジタル制御と高電圧制御を行っています。パワートランジスタの故障や物理的損傷により、デジタル論理電圧に数千ボルトの電圧が瞬時に流れ込む可能性があります。その結果、制御装置が破壊されることに加えて、ユーザーがリスクにさらされます。

光絶縁は、歴史的に見て、低電圧システムと高電圧システムを物理的に分離および電気的に絶縁するための推奨方法でした。単一パッケージの標準の2チップ光アイソレータは1つのチップ上にLEDを備えており、その放射光(通常は赤外線)は、透明な絶縁バリアから2番目のチップ上のフォトダイオードレセプタにかけて放出されます。フォトダイオードは、この放射光を、高電圧回路の制御に使用される低電圧信号に変換します。

光アイソレータが数千ボルトの電圧を安全に制御できるようにするために、LEDチップとフォトダイオードチップは両方とも、光アイソレータの定格電圧に耐えられる物質で作られた透明な絶縁バリアに封入されています。

光アイソレータは過渡電子雑音に対する耐性と環境磁場に対する完全なイミュニティを持っているため、高電圧のモータ制御アプリケーションに最適です。ヘビーデューティアプリケーション向けの光アイソレータは、10,000V以上の非常に高いサージ電圧に耐えることができます。

ただし、光アイソレータは、非常に高温の条件下では適切に動作しません。また、光アイソレータのLEDは経年劣化します。光アイソレータは2チップデバイスであり、シングルダイ半導体に比べると、製造プロセスがより複雑です。

ガルバニック絶縁

温度が極端になる可能性があったり、長寿命が優先事項であったりするアプリケーションでは、単一パッケージのガルバニックアイソレータを使用できます。絶縁は、LEDとフォトダイオードを備えた2つの回路を分離しますが、ガルバニック絶縁は、電気的に二酸化ケイ素(SiO2)に基づいたコンデンサまたはインダクタを使用した電荷結合コンポーネントを備えた2つの回路を分離します。絶縁の効力は、SiO2 誘電体の作用に起因します。

ガルバニックアイソレータは、ほとんどのマイクロコントローラに簡単にインターフェース接続できる高速の長寿命デバイスです。最近導入されたガルバニックアイソレータの例では、6,000Vもの電圧に耐え、150°Cの高温で動作し、35年以上長持ちするかどうかテストされています。こうしたテストにより、全体的なシステムの安全性と信頼性が向上し、保守費用が削減されます。

たとえば、Texas InstrumentsのISO7762FDWR 6チャンネル汎用デジタルアイソレータは、5,000VものRMS(VRMS)に耐えることができ、12,800Vの絶縁サージ電圧に対応しています(図1)。ISO7762では、2つのオプションが利用可能です。ISO7762Fにはデフォルトの出力がロジックローである出力ピンOUT[A:F]があり、末尾にFがない場合、デフォルトの出力ロジック状態はロジックハイです。

Texas InstrumentsのISO7762F 6チャンネルガルバニックアイソレータの図図1:Texas InstrumentsのISO7762Fは、4つのフォワードチャンネルと2つのリバースチャンネルを備えた6チャンネルガルバニックアイソレータです。(画像提供:Texas Instruments)

ISO7762Fには2つの電源ドメインがあり、1つは左側に、もう1つは右側にあります。これらのドメインは、SiO2絶縁層によって電気的および物理的に分離されています。各電源ドメインには独立した電源およびアースピンがあります。

このデバイスは、4つのフォワードチャンネルと2つのリバースチャンネルを備えています。2つのリバースチャンネル(入力EおよびF)では、高電圧システムからの情報をデジタル制御システムに送信できるほか、2つの電源ドメインの安全な絶縁が引き続き維持されます。どちらかの方向に送信されるデータはシンプルなデジタルオン/オフデータであるか、UARTまたは2線式I2Cを使用したシリアルデータです。

各チャンネルに対して、ISO7762Fは2つの直列SiO2コンデンサを使用して、2つの電圧ドメインを分離します。デジタルデータは、オン/オフキーイング(OOK)変調を使用して送信されます。この変調では、入力IN[A:F]のロジック1はコンデンサから他の電源ドメインに至るAC信号で表され、ロジック0は0Vで表されます。対応するOUT[A:F]のデータは、入力ピンのロジック状態を反映しています。コンデンサのSiO2誘電体は2つの電源ドメインを分離して、デジタル制御システムから高電圧制御エレクトロニクスを安全に絶縁します。

ISO7762Fの設計者は、安全を最大限に高める高絶縁耐性を強調しています。25°Cでの絶縁耐性の定格は、1テラオーム(TΩ)を上回っています。ISO7762Fの150°Cでの絶縁耐性は、1ギガオーム(GΩ)を上回っています。これを大局的に見ると、この耐性は、ISO7762Fの周囲の空気の耐性を超えています。

Texas Instrumentsによると、ISO7762Fは少なくとも37年間持ちこたえると評価されていますが、ガルバニック絶縁の絶縁層は135年以上の定格寿命があります。通常、装置がこの期間を超えて動作することを保証する必要はありませんが、これらの数値は、デバイスの信頼性と耐久性を示しています。

Texas Instrumentsがさらに高い耐電圧のために提供しているISO7821LLSDWWRは、定格が5700VRMSであり、12,800Vの絶縁サージ電圧に対応しているデュアルチャンネル差動絶縁バッファです。2つの各チャンネルは、反対方向に向かっています。各チャンネルは、速度が150メガビット/秒(Mbps)に達する低電圧差動信号(LVDS)データ通信に使用される差動ペアトランスミッタです。

Texas InstrumentsのISO7821LLSデジタルアイソレータの図図2:Texas InstrumentsのISO7821LLSデジタルアイソレータは、それぞれが反対方向を向いた2つの差動チャンネルを備えています。各出力バッファには、高インピーダンス状態への出力を無効にできる出力イネーブルがあります。(画像提供:Texas Instruments)

ISO7821LLSのガルバニック絶縁に使用されるSiO2は、各チャンネルに2つの直列コンデンサを使用する代わりに、各チャンネルに1つのコンデンサを使用することを除いて、ISO7762Fと同じです。また、同じOOK変調を使用して、SiO2コンデンサ全体にデジタルデータを送信しています。

ISO7821LLSガルバニック絶縁ドライバは、Beldenの88723-002500ヘビーデューティデュアルツイストペアケーブルなどの産業用グレードケーブルを介してLVDSデータを送信できます。このケーブルは、赤いジャケットで22 AWG線の2つのツイストペアを覆った高品質の産業用ケーブルです。また、屋内外で使用するように設計されており、地中に埋めることもできます。このケーブルは-70°C~+200°Cの極端な動作温度に対応できるため、非常に高温または低温の環境でのソーラーパワーインバータなど、過酷な高電圧産業用アプリケーションに適しています。制御ユニットは、このBeldenケーブルを介してLVDS制御データをソーラーインバータボックス内のISO7821LLSに向けて両方向に送信できます。コンバータボックス内の故障に起因する高電圧サージはアイソレータで停止されるため、低電圧制御ユニットやユニットの近くで作業しているオペレータが保護されます。

Texas InstrumentsのISO7821LLSの2つの出力には、高インピーダンス状態にすることにより各出力を無効にできる独立したイネーブルピンがあります。この操作は、1つ以上のドライバがあるLVDSバス上にデバイスがあり、バスを別のバスマスターに引き渡す必要がある場合に役立ちます。これは、異なる場所にある1つ以上の制御ユニットによって高電圧装置を操作する必要がある産業用環境に適用されます。

設計者によるISO7821LLSの評価を支援するために、Texas InstrumentsはISO7821LLSEVM評価ボードを用意しています(図3)。この評価ボードは最小限の外部コンポーネントを必要とし、ISO7821LLSの動作と性能を評価するために使用できます。また、テストとベンチマーキングの目的のためにLVDSバス通信を監視できます。

Texas InstrumentsのISO7821LLSEVM評価モジュールの図図3:Texas InstrumentsのISO7821LLSEVM評価モジュールは、ISO7821LLSデュアルチャンネル差動絶縁バッファのLVDSデータ通信性能をテストおよび評価するために使用できます。(画像提供:Texas Instruments)

高電圧アプリケーションはそれぞれ特性が異なるため、ISO7821LLSEVMは、ISO7821LLSの高電圧絶縁動作のテストに使用することを目的としていません。

ガルバニックアイソレータのレイアウト

高電圧ガルバニックアイソレータのレイアウトは、効果的な絶縁を確保するために非常に慎重に行う必要があります。低電磁干渉(EMI)プリント基板の設計の場合は、上部に高速トレース、下に堅牢なグランドプレーン、さらにその下に電源プレーンがある少なくとも4層のプリント基板を使用することなど、標準のレイアウトルールが適用されます。低速の制御信号は、一番下のプレーンに配置する必要があります。

プリント基板上で低電圧コンポーネントと高電圧コンポーネントを物理的に分離することが重要です。その目的のため、ここで説明したアイソレータは、パッケージの左側と右側に個別の電源ドメインを備えています。また、信号の干渉を防止するために、1つのドメインのトレースをもう一方のドメインのトレース近くに配線してはなりません。

アイソレータが高電圧セクションに配置されている場合、アイソレータの低電圧側をプリント基板のエッジに向けて配置するとより安全です。このように配置すると、高電圧が低電圧側にアークすることを防ぐのに役立ちます。アークすると、アイソレータのもう一方の端にある低電圧エレクトロニクスに重大な損傷が及ぶ可能性があります。

まとめ

数千ボルトの電圧が流れる産業用装置には、これらの高電圧を5V以下のデジタル制御ロジックから安全に絶縁して、装置とユーザーを保護できるコンポーネントが必要です。産業用装置の特質として、長期にわたって極端な温度変動がある環境で、そのような絶縁の安定性と信頼性が確保されていることが求められます。

この記事で説明したように、ガルバニック絶縁に基づいたデジタルアイソレータは、そのようなアプリケーションに適した絶縁特性と動作温度仕様を備えています。デジタルアイソレータのレイアウトと構成に適切に注意することにより、損傷や傷害を防ぐことができます。

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著者について

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Bill Giovino

Bill Giovino氏は、シラキュース大学のBSEEを持つエレクトロニクスエンジニアであり、設計エンジニアからフィールドアプリケーションエンジニア、そしてテクノロジマーケティングへの飛躍に成功した数少ない人の1人です。

Billは25年以上にわたり、STMicroelectronics、Intel、Maxim Integratedなどの多くの企業のために技術的および非技術的な聴衆の前で新技術の普及を楽しんできました。STMicroelectronicsでは、マイクロコントローラ業界での初期の成功を支えました。InfineonでBillは、同社初のマイクロコントローラ設計が米国の自動車業界で勝利するように周到に準備しました。Billは、CPU Technologiesのマーケティングコンサルタントとして、多くの企業が成果の低い製品を成功事例に変えるのを手助けしてきました。

Billは、最初のフルTCP/IPスタックをマイクロコントローラに搭載するなど、モノのインターネットの早期採用者でした。Billは「教育を通じての販売」というメッセージと、オンラインで製品を宣伝するための明確でよく書かれたコミュニケーションの重要性の高まりに専心しています。彼は人気のあるLinkedIn Semiconductorのセールスアンドマーケティンググループのモデレータであり、B2Eに対する知識が豊富です。

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