インダストリ4.0の生産プロセスおよび物流を改善するセンサフュージョンの活用法
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2024-10-09
センサフュージョンにより、複数のセンサからのデータを組み合わせて、システム操作や環境についてより詳細に微妙な違いを理解できます。多くの場合、1つのセンサ技術の弱点は、2つ目のセンサ技術からの情報を加える(融合する)ことで克服できます。人工知能(AI)および機械学習(ML)を加えることによって、センサフュージョンの能力を高めることができます。
センサフュージョンを実装する際には、取り組むべきいくつかの課題があります。たとえば、ある技術を他の技術よりも「優先」することなく、バランスの取れたソリューションを開発するのは難しい場合があります。その結果、スケーラビリティに欠け、パフォーマンスが低下する可能性があります。この課題を解決する1つの方法は、複数のセンサ技術を1つのパッケージに統合することです。センサフュージョンは、複数のディスクリートセンサの使用に限定されるものではありません。
センサの統合レベルにかかわらず、AIやMLを追加することでパフォーマンスを向上させることができますが、トレーニングは複雑で時間がかかります。その代わりに、設計者はAIやML機能を組み込んだ自己学習型センサに目を向けることができます。
この記事ではまず、ディスクリートセンサ、32ビットMCU、MLソフトウェアを使ったセンサフュージョンの実装について検討します。続いて、物流施設、データセンター、プロセスオートメーション、マテリアルハンドリング、農業機器における一連の統合センサフュージョンソリューションと応用例を紹介します。
最後に、AIソフトウェアを統合した統合環境センサフュージョンソリューションを紹介します。説明を通して、Renesas Electronics、Sensirion、TE Connectivity、ACEINNA、Bosch Sensortec、TDK InvenSenseの代表的なデバイスを紹介します。
設計者は、Renesasのリファレンスデザインボードを使用して、センサフュージョンのオプションを検討することができます。このボードは、120MHzのArm®Cortex®-M4コア、最大2MBのコードフラッシュメモリ、640KBのSRAMを備えた32ビットMCUをベースにしており、さらに多数のインターフェースとコネクティビティオプションが用意されています。
関連する評価キットは、マルチセンサおよびセンサフュージョン設計用に最適化されています。空気質センサ、光センサ、温湿度センサ、6軸慣性計測装置(IMU)、マイクロフォン、Bluetooth Low Energy(BLE)コネクティビティ機能を搭載しています(図1)。リファレンスデザインには、エッジデバイスやセンサフュージョンアプリケーションのための自動化されたMLプラットフォームも含まれています。
図1:自動ML開発ソフトウェアとBLEコネクティビティを備えたIoTセンサ統合評価および開発ボード。(画像提供:Renesas Electronics)
安定化傾きセンサ
傾きセンサは、農業機械、オフロード車、マテリアルハンドリング、大型建設機械など、さまざまな用途で使用される特殊なIMUです。安全基準では、安全な作業環境を確保するために傾きセンサが必要となることがあります。傾きセンサは、複数のディスクリートデバイスを使って作ることができますが、複雑になる可能性があります。
ほとんどの傾きセンサの設計の中核はジャイロスコープセンサ(ジャイロ)であり、軸周りの角速度または回転速度を測定します。プラットフォームが動いている場合は良いですが、たとえば20度の角度で傾いて動きが止まると、センサ出力はゼロになります。さらに、ジャイロは時間の経過とともに大きなドリフトを起こすことがあり、誤差が蓄積され、最終的には正確で有用な測定ができなくなります。
ジャイロの限界に対処するため、動的傾きセンサソリューションは加速度センサを追加して動きを測定します。これにより、システムがいつ動きを止めたかを知ることができ、ジャイロからの最後の出力を使って傾斜角を推定することができます。パズルの最後のピースは、ジャイロと加速度センサの温度変化による影響を補正する温度センサです。
カルマンフィルタは傾きセンサのセンサフュージョンによく使われます。センサが直線的な性能領域で動作している場合は、線形二次推定に基づく標準的なカルマンフィルタを使用することができます。カルマンフィルタは、不確かさや累積誤差が内在する傾きセンサのようなシステムでも、比較的正確な状態推定を行うことができます。
現在の平均値と共分散を使用して推定値を線形化する拡張カルマンフィルタは、非線形領域で動作する傾きセンサにとって、とても有用です。
TE ConnectivityのAXISENSE-G-700やACEINNAのMTLT305Dのような傾きセンサは、ジャイロと加速度センサから3つずつ、合計6つの自由度(6 DoF)のモーションセンシングを持ち、センサフュージョンのためにカルマンフィルタリング技術を採用しています(図2)。
図2:AXISENSE-G-700傾きセンサは、加速度、回転、温度センサからのデータを融合し、動的環境において正確な傾き情報を提供します。(画像提供:TE Connectivity)
9-in-1の融合
多くの場合、6自由度で十分ですが、9自由度を使用することで提供される追加情報は、ドローン、乗り物、バーチャルリアリティデバイスのような一部のモーショントラッキングアプリケーションにとって有用なものになります。
ACEINNAのOPENIMU300RIモジュールは、12Vおよび24Vの自動車、建設車両、農業車両用に設計されています。ジャイロと加速度センサに加えて、このIMUには3DoFの異方性磁気抵抗(AMR)地磁気センサが搭載されています。
ARMプロセッサがセンサデータを収集し、IMU、全地球測位システム(GPS)、慣性航法システム(INS)開発のためのオープンソーススタックであるOpenIMUを実装します。このスタックには、センサフュージョン用にカスタマイズ可能なカルマンフィルタが含まれています。
TDK InvenSenseは、9軸モーショントラッキングデバイスも提供しています。モデルICM-20948の動作温度範囲は-40°C~85°Cであり、産業オートメーションや自律システムのような厳しい環境における様々なアプリケーションに適しています。マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)ベースの3軸ジャイロ、MEMSベースの3軸加速度センサ、MEMSベースの3軸地磁気センサ/コンパスが搭載されています。
ICM-20948は、9自由度のモーションセンサに加えて、各センサに独立したA/Dコンバータ(ADC)、シグナルコンディショニング回路、デジタルモーションプロセッサ(DMP)を搭載しています(図3)。
図3:この統合センサプラットフォームは、 3軸ジャイロと3軸加速度センサ(左側)に加え、3軸地磁気センサ/コンパス(右下)を使用して9自由度をサポートします 。(画像提供: TDK InvenSense)
ICM-20948の詳細は以下の通りです。
3つの独立した振動MEMSレートジャイロ。ジャイロが3軸のいずれかに回転すると、コリオリ効果によって容量性ピックアップが振動を検出します。ピックアップからの出力は、角速度に比例した電圧を生成するように処理されます。
3軸MEMS加速度センサは、各軸に別々の質量を持ちます。軸に沿った加速度が対応する質量を変位させ、それを容量性ピックアップが検出します。ICM-20948を平面に置くと、X軸とY軸は0g、Z軸は+1gとなります。
地磁気センサはホールセンサ技術に基づいています。X軸、Y軸、Z軸の地磁気を検出します。センサ出力は、センサドライバ回路、アンプ、16ビットADC、および得られた信号を処理するための演算回路で生成されます。各軸のフルスケール範囲は±4900μTです。
ICM-20948のDMPは、差別化要因です。その特徴やメリットの一部を以下に紹介します。
- モーション処理アルゴリズムの計算をホストプロセッサから解放することで、消費電力を最小限に抑え、タイミングとソフトウェアアーキテクチャを簡素化します。DMPは、モーション処理アルゴリズムを約200Hzのハイレートで実行し、低レイテンシで正確な結果を提供することを保証します。アプリケーションの更新速度が5Hzなどかなり遅い場合でも、200Hzでの動作を推奨します。DMPの処理レートをアプリケーションの更新レートから切り離すことで、よりロバストなシステムパフォーマンスを実現します。
- DMPは、超低消費電力のランタイムとセンサのバックグラウンドキャリブレーションを可能にします。キャリブレーションは、個々のセンサとセンサフュージョンプロセスの最適な性能をデバイスの寿命を通じて維持するために必要です。
- DMPは、ソフトウェアアーキテクチャを簡素化し、ソフトウェア開発を迅速化することで、市場投入までの時間を短縮します。
統合型環境センサ
環境モニタリングは、食品加工、貯蔵、化学工場、物流業務、データセンター、温室作物生産、暖房、換気および空調(HVAC)システム、その他の分野で不可欠です。相対湿度(RH)と温度の測定値を融合して露点を計算することができます。
Sensirion のSHTC3 シリーズは、エッジおよび大量生産 の民生用電子機器におけるバッテリ駆動アプリケーション 向けに最適化されたデジタル湿度および温度センサです。CMOSセンサプラットフォームには、静電容量式湿度センサ、バンドギャップ温度センサ、アナログ/デジタル信号処理、A/Dコンバータ、較正データメモリ、I²C高速モード通信インターフェースが含まれています。
小型の2 x 2 x 0.75mm DFNパッケージは、スペースに制約のあるアプリケーションに対応します。SHTC3は、1.62V~3.6V の幅広い電源電圧と、1 回の測定で 1μJ を下回るエネルギーバジェットにより、バッテリ駆動のモバイル機器やワイヤレス機器に適しています(図 4)。たとえば、品番SHTC3-TR-10KSは、Digi-Reel、テープ&リール、またはカットテープで10,000個単位で納品されます。設計者はSHTC3評価ボードを使用することで、システム開発をスピードアップできます。
図4:この環境モニタリングデバイスには、デジタル湿度および温度センサが含まれています。(画像提供:Sensirion)
気圧の追加
コンテキストと位置認識は、ホームオートメーション制御、HVACシステム、フィットネス機器、屋内ナビゲーションアプリケーションにおいてますます重要になっています。これらのシステム設計は、湿度および温度センサに加え、気圧センサも搭載しているBosch SensortecのBME280統合環境ユニットを使用することで改善できます。
センサは、低ノイズ設計で、高精度および高分解能です。圧力センサは絶対気圧を測定します。内蔵された温度センサは、湿度センサと連動してRHと露点を測定するように最適化されています。また、気圧計の温度補正にも使われます。設計とシステム統合をスピードアップするために、開発ボードが用意されています。
環境センシング向けAI
Bosch Sensortecは、AIを組み込んだ4-in-1環境センサも提供しています。BME688には、ガスセンサ、高直線性で高精度の圧力、湿度および温度センサが搭載されています。モバイルやその他のスペースに制約のあるアプリケーションに適した、頑丈な3.0mm x 3.0mm x 0.9mmのパッケージで提供されます(図5)。
図5:Bosch SensortecのBME688は、ガスセンサに加え、圧力、湿度、温度センサを搭載しており、すべて統合AIでサポートされています。(画像提供:Bosch Sensortec)
このガスセンサは、揮発性有機化合物(VOC)、揮発性硫黄化合物(VSC)、一酸化炭素や水素などのガスを10億分の1(ppb)の範囲で検出できます。BME688には、感度、選択度、データレート、消費電力をカスタマイズできるガススキャナ機能が搭載されています。
BME AI-Studioソフトウェアは、他の混合ガスやアプリケーション用にガスセンサを最適化することもできます。BME688評価ボードは、BME AI-Studioソフトウェアで設定できます。BME AI-Studioは、工場、物流施設、スマートホーム、IoTデバイス向けアプリケーションソリューションのセンサ設定、データ解析、ラベリング、トレーニング、最適化をサポートします。
実験室ではなく、現場でガスをサンプリングし、システムをトレーニングすることで、実際の運転条件下でより優れた性能を発揮し、より高い信頼性を提供する、より現実的なアルゴリズムを設計することができます。ガスだけでなく、湿度、温度、気圧を同時に測定できるBME688の能力を活用することで、より包括的で高精度なAIモデルを開発することができます。
まとめ
インダストリ4.0、ロジスティクス、その他のアプリケーション向けのセンサフュージョンシステムは、一連の個別のセンサを使用して開発することも、複数のセンサを1つのパッケージに収めて統合ソリューションとして使用することもできます。統合デバイスは、モバイルおよびエッジアプリケーション向けに、より小型で低消費電力のソリューションを生み出すことができます。個別のセンサを使うにしても、また統合されたセンサスイートを使うにしても、AIとMLを加えることでパフォーマンスを向上させることができます。

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