高精度圧力センサを使用してフィットネストラッカーの精度を向上
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2020-01-07
健康およびフィットネスのトラッキング機能を備えたウェアラブルデバイスの人気が高まっています。通常、こうした用途では、主要なモーションセンサとして加速度計が装備されますが、加速度計は、坂道を上るときに消費されるカロリーなどのパラメータを正確に判定するために不可欠な、垂直運動の正確な推定値を導出する機能に制限があります。高精度気圧センサを追加すると、この垂直運動の測定精度を大幅に向上させることができるほか、他のセンサからの情報の検証に役立ちます。
現在、わずか13cmの高度変化を検知できる感度を備えた、ウェアラブル設計に適したコンパクトかつ低電力の耐久性のあるフォームファクタを採用した気圧センサが利用可能です。
この記事では、フィットネストラッカーでそのようなデバイスが果たす役割について説明し、この用途で使用できるTE Connectivity Measurement Specialties社の気圧センサの例を紹介するとともに、この気圧センサの適用方法を示しています。
フィットネストラッカーにおける高度計の役割
フィットネストラッキング製品の中核となる要素は、加速度計などのデバイスを使用した慣性運動センシングであり、このセンシングを通じて歩数、移動距離、消費カロリーなどのパラメータを計算できます(図1)。ただし、そのようなセンサにとって課題となるのは、垂直運動の測定です。階段を上る活動などは、その加速度プロファイルにおいて、信頼性のある検知が簡単な通常の歩行とは十分に異なりますが、加速度のみに基づいて、坂道を歩いているだけの状態を平地での歩行と区別することは困難です。それにもかかわらず、必要な労力(および消費カロリー)が大幅に異なる場合があります。
フィットネストラッキングの精度に関するいくつかの消費者調査では、一部の初期世代デバイスが提供する推定値に30%程度の誤差がある可能性を示しています。フィットネストラッカーでフィットネスパラメータをより正確に判定するには、垂直運動を正確に測定する簡単で信頼性の高い方法が必要です。
図1:消費者の間ではフィットネスのトラッキング機能を備えたウェアラブルデバイスの人気が高まっています。(画像提供:DigiKey。TE Connectivity提供の原資料に基づく)
気圧センサまたは気圧計によりソリューションが実現します。気圧は、他のすべての要素が同じである場合、大気変数が高度に応じて変化する割合である「減率」と呼ばれる関係性に従い、高度によって決定されます。したがって、気圧センサは、高度について解かれた次の気圧式を適用することにより、気圧高度計として機能できます。
式1 1
式の要素の意味は次のとおりです。
Pは現在の気圧
P0は海面気圧(h=0)
高度(h)はメートル単位
この式は、大気組成や15°Cの周囲温度など、いくつかの要素を前提としているため、絶対高度を正確に計算するには、追加情報が必要です。ただし、この式は異なる大気圧条件の下でも適用でき、温度条件にあまり左右されません。そのため、式1は、連続した2つの気圧測定の結果を比較することにより、高度の変化を正確に導出できます。
海面における標準気圧は約1013ミリバールであるため、1ミリバールの気圧差は、約8mの高度変化に相当します。つまり、式1を使用する場合、人間の垂直運動を検知するには、高い精度の気圧測定が必要です。幸いにも、現在、十分な精度を備えたコンパクトな気圧センサが利用できます。
そのような気圧センサの1つがTE Connectivity Measurement SpecialtiesのMS5840-02BAマイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)圧力センサです(図2)。このデバイスは気圧と周囲温度の24ビット測定を提供し、高度計の用途で13cmの有効な高度分解能を達成しています。この分解能は、階段を1段上るときの高度変化を検知するのに十分な精度です。
図2:コンパクトなMS5840-02BA気圧センサモジュールは3.3 x 3.3mmのフットプリントと1.7mmの高さで高パフォーマンスと高精度を実現しています。(画像提供:TE Connectivity)
MS5840では、MEMS圧力センサとカスタムASIC(アナログセンサ信号をデジタル化して、I2Cバスを介してホストデバイスインターフェースを提供する)を組み合わせているため、MS5840をフィットネストラッカー設計に追加する際に追加コンポーネントは不要です。MS5840はフットプリントが3.3 x 3.3mmで高さが1.7mmのコンパクトな面実装モジュールであり、その小さなサイズはウェアラブルデバイスでの使用に適しています。人間に起因する静電気から保護するために、接地された耐久性の高い蓋を使用したESD保護がオプションで利用可能です。
このモジュールでは、設計者がセンサの未加工読み取り値の1次および2次補正を実行して、デバイスと温度の変化を考慮に入れることができるため、そのような高精度が実現します。各デバイスは工場で2つの温度および2つの圧力で較正済みであり、1次計算で使用する次の較正パラメータが提供されます。
- 参照温度 - TREF
- 参照温度での圧力感度 - SENST1
- 圧力感度の温度係数 - TCS
- 参照温度での圧力オフセット - OFFT1
- 圧力オフセットの温度係数 - TCO
- 温度の温度係数 - TEMPSENS
設計者は、1次補正のために、デバイスの較正パラメータを取得し、センサの補正なしの24ビットデジタル圧力(D1)および温度(D2)の値を読み取る必要があります。次に、実際の温度と参照温度の差異(dT = D2 - TREF)を計算し、この差異を使用して、デジタル温度読み取り値(TEMP = 2000 + dT x TEMPSENS)をスケールし、0.01°Cの精度でセ氏温度(2000 = 20.00°C)を取得します。
その後、設計者は補正された温度を使用して、最初に現在の温度で圧力オフセット(OFF = OFFT1 + TCO x dT)と圧力感度(SENS = SENST1 + TCS x dT)を計算することにより、圧力読み取り値を補正する必要があります。0.01ミリバールの精度(110002 = 1100.02ミリバール)で温度補正されたミリバール単位の気圧は、P = ((D1 x SENS/221) - OFF)/215として計算されます。
1次補正された読み取り値は、暖気に対して有効ですが、より低い温度では、図3に示すように、センサに2次補正が必要です。1次補正の結果を使用して、低い温度(中央のボックス。>10°C)または非常に低い温度(左端のボックス。10°C以下)に対して温度と圧力を別に再計算する必要があります。
図3:1次計算は暖気に対して使用できますが、温度が20°C以下および10°C以下になると、センサ読み取り値の2次補正が必要です。(画像提供:R.・クィネル氏。TE Connectivity提供の原資料を使用)
図4に示すように、1次補正と2次補正の両方を実行すると、広範な温度において圧力と温度の精度の高い読み取り値が得られます。
図4:設計者はMS5840圧力センサで1次補正と2次補正の両方を実行して、幅広い温度範囲で高い精度を実現できます。(画像提供:TE Connectivity)
MS5840は、その小さなサイズと高精度に加えて、ウェアラブルの用途に特に適したいくつかの特長を備えています。このセンサは1.5~3.3Vの供給電圧で動作し、1.8Vと3.3Vの両方の論理設計と互換性があります。また、低電力であり、スタンバイ消費電流は0.1µA未満です。
動作電流は、センサ読み取り値の周波数と分解能によって決まります。内蔵A/Dコンバータ(ADC)は、オーバーサンプリング率(OSR)が選択できるシグマデルタ変換方式を使用しています。これにより、開発者は、変換速度と消費電力の間のトレードオフを最適化できるようになります。通常、変換中のピーク消費電流は1.25mAですが、OSRを最大(8192)に設定すると、変換が17ms間続き、1サンプル/秒で読み取るときの平均消費電流は20µAになります。最小のOSR設定(256)では、0.63µAの平均消費電流で変換が0.54ms間だけ実行されます。
センサの分解能もOSR設定の影響を受けるため、トレードオフに関して決定する際に考慮に入れる必要があります。最大のOSR設定では、モジュールの分解能は0.016ミリバールであり、わずか13cm以下の高度差に相当します。最小OSR(25)では、分解能は0.11ミリバールであり、約90cmの高度差です。
圧力センサの設計に関する考慮事項
圧力センサを気圧高度計として使用したいと考えている開発者が留意する必要がある、システム設計に関する考慮事項がいくつかあります。基本的にMEMS圧力センサは、参照圧力でガスが封入された(または真空の)チャンバの蓋として実装される薄いシリコーンプレートです。このプレートの上面は、センサパッケージの開口部またはポートを通じて気圧に曝されます。チャンバの圧力と周囲の気圧の差異によりプレートが曲がり、力学的ひずみが生じて、それに比例する電気信号が生成されます。MS5840に組み込まれたASICがその信号を検知してデジタル化します。
センサを周囲の気圧に曝す必要があるということは、ウェアラブルデバイスの設計では、センサのポートから外気に通じる明確な経路を設ける必要があるということを意味します。ただし、そのような経路により空気がデバイスに入りますが、水やほこりもデバイスに侵入する可能性があります。したがって、開発者は、ウェアラブルデバイス内のセンサの配置に注意して、空気経路に障害物が入り込まないようにし、デバイスの筐体を慎重に設計して、水が侵入する可能性を最小限にする必要があります。
MS5840は、そのような問題を回避できるように設計されています。このモジュールは層構造を使用してセンサを保護しています(図5)。最下部の層は、アセンブリを機械的に安定させるSMTはんだ付けパッドを備えたアルミナ基板です。この基板は、信号調整、デジタル変換、I2Cインターフェースを提供するASICにスタッキングされたMEMSセンサを支えています。この電子機器アセンブリとステンレス鋼キャップ(デバイスの空気ポートとして機能する)の間の空間は、不透明なゲルで充填されます。
図5:MS5840圧力センサモジュールには、電子機器を光、ほこり、湿気から保護するための不透明なゲル層(ポート(上部)とセンサアセンブリ(下部)の間にある黒い物質)が含まれています。(画像提供:DigiKey。TE提供の原資料に基づく)
このゲルはいくつかの目的のために機能します。その主な機能は、気圧の力をセンサの表面に伝えることです。ゲルはセンサと空気を機械的に結び付け、ほこりと湿気が電子機器に侵入しないようにします。また、ゲルは不透明であるため、光子が誘発する電子ノイズを防止するための追加遮光として機能します。キャップはゲルを格納し、モジュールの剛性を高めます。また、接地オプションを使用すると、モジュールのESD耐性が向上します。
開発者はこの層構造を活用して、Oリングをセンサの蓋に取り付け、ステンレス鋼ポートとウェアラブルデバイス筐体の通気孔が整合するにように筐体内にセンサを配置することにより、ウェアラブルデバイスの耐水性を高めることができます。デバイスが完全に組み立てられると、筐体とセンサキャップ間のOリングにより筐体が密閉されて、ほこりや水分がデバイスに侵入しなくなると同時に、ゲルによってセンサが保護されます。
気圧高度計をフィットネスアプリケーションに使用するときに留意する必要のあるもう1つの考慮事項は、測定誤差の潜在的な原因となる風です。移動する空気によってかかる圧力は静止している空気の圧力よりも低くなるため、タイミングの悪いときに発生する突風により、センサで測定中の気圧が一時的に低下する可能性があります。気圧信号のこの「ノイズ」が原因で、高度が突然変化したように見える場合があります。しかし、フィットネス監視デバイスの開発者は、加速度計の読み取り値に反する見かけの高度変化を検証するだけでそのような誤差を軽減できます。対応する加速度がない場合、高度の「ジャンプ」は合理的に無視できます。
そのような軽減策は逆の場合も有効です。でこぼこの道を走っている自転車が階段を上っているような加速度プロファイルを示す場合があります。その階段を上っているような加速度から高度変化が発生しない場合、こうした加速度計の読み取り値も環境ノイズとして無視できます。
まとめ
ウェアラブルフィットネストラッカーが急増している中、健康データを正確に測定する機能がますます重要な差別化要因になっています。圧力に基づいた気圧高度計は、特に消費カロリーなどに関して、ウェアラブルフィットネスデバイスの精度を多くの点で向上させます。そのようなセンサは、他のセンサからの情報の検証にも役立ちます。ただし、フィットネス監視ウェアラブルデバイスの用途に使用する場合、圧力センサは高精度であるだけでなく、非常に小さなフットプリントで低電力で動作する必要があります。この記事で紹介したとおり、TE ConnectivityのMS5840-02BAは、次世代のウェアラブルフィットネストラッカーに適した精度、低電力、小型サイズを実現しています。
リファレンス
- A Sensor Fusion Method for Tracking Vertical Velocity and Height Based on Inertial and Barometric Altitude Measurements, Sabatina and Genovese(慣性高度および気圧高度の測定に基づいて垂直速度をトラッキングするためのセンサ融合方法:サバティーニおよびジェノヴェーゼ)(式27)
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