位置認識スマートシティソリューションを作成するためのGNSSモジュールの活用方法
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2022-07-28
スマートシティにおける位置認識サービス(LAS)は、行政サービス、輸送、交通管理、エネルギー、ヘルスケア、水・廃棄物などさまざまな分野で展開され、より安全で持続可能な、接続性の向上した都市を作り出しています。このようなアプリケーションでは多くの場合、近くにあるデバイス間の距離を把握する必要があります。LASアプリケーションでは、欧州のGalileo、米国のGPS、ロシアのGLONASS、中国のBeiDouといった航法衛星システムに対する、マルチコンステレーション全地球航法衛星システム(GNSS)レシーバによる位置ベース機能の需要が高まっています。マルチコンステレーションGNSSレシーバを使用する利点には、位置/航法/タイミング(PNT)信号の可用性の向上、精度と整合性の向上、堅牢性の向上などが挙げられます。しかし、マルチコンステレーションレシーバの開発は、複雑で時間のかかる作業です。
この記事では、マルチコンステレーションGNSSレシーバを使用する際のシステム設計における重要な考慮事項についてレビューしてから、位置認識スマートシティアプリケーションの効率的でコスト効率の良い開発のために、u-blox、Microchip Technology、MikroElektronika、Thales、およびArduinoが提供するGNSSプラットフォームと開発環境について説明します。
GNSS技術の向上、特に電力要件の低減は、GNSSの利用拡大やスマートシティアプリケーションにおけるLASの普及に寄与しています。GNSSレシーバの消費電力は、2010年の120mWから2020年の25mWまで削減されています(図1)。実際、GNSSレシーバの電力需要は、他のほとんどのLASシステムコンポーネントの電力ニーズよりも急速に減少しています。従来のGNSS技術は、他のシステム要素に比べて多くの電力を消費していました。今日、GNSSの電力ニーズは多くの場合、パワーバジェット全体の中で1桁の割合に過ぎません。
図1:GNSSレシーバの消費電力は、2010年の120mWから2020年の25mWまで減少しています。(画像提供:u-blox)
消費電力の課題
GNSSレシーバの消費電力が劇的に減少する一方で、最適な電力/性能ソリューションを得るための複雑さは倍増しています。継続的なGNSS位置推定や高レベルの位置精度は、すべてのLAS設計において必要となるわけではありません。設計者には、ハードウェアの最適化やファームウェアベースのアプローチなど、GNSSの性能と消費電力を最適化するためのさまざまなツールがあります。
低電力部品、特に低ノイズRFアンプ(LNA)、発振器、リアルタイムクロック(RTC)を使用することは、エネルギー効率の良いGNSSソリューション開発の第一歩となります。アクティブアンテナとパッシブアンテナの選択は、その好例です。パッシブアンテナは低コストで高効率ですが、すべてのアプリケーションのニーズを満たすわけではありません。アクティブアンテナは、ビルの谷間や建物内など、信号強度の低い場所での使用に適している場合があります。アクティブアンテナに搭載されるLNAは、弱い信号の受信能力を大幅に向上させますが、消費電力も大きくなります。消費電力が重要でアンテナのサイズはそれほど重要でない場合、大型のパッシブアンテナは、小型のアクティブアンテナと同じ性能を提供しながら、高い位置可用性と精度レベルを提供できることが多くあります。
ほとんどのGNSSレシーバは10Hz以上の更新レートを提供しますが、LASアプリケーションの大部分は、より低速で消費電力の少ない更新レートで良好に機能します。最適な更新レートの選択は、消費電力に最も大きな影響を与えます。ハードウェアベースの考慮事項はありますが、設計者は消費電力を最適化する際に、更新レート、同時に追跡するGNSSコンステレーションの数、アシストGNSSおよび、さまざまな省電力モードなどのファームウェアツールを利用できます(図2)。
図2:設計者は、最も効率的なハードウェアソリューションに加え、いくつかのファームウェアツールを使用することで、GNSS性能とエネルギー消費を最適化できます。(画像提供:u-blox)
厳しい環境下では、複数のGNSSコンステレーションを同時に追跡することが必要な場合もあります。さまざまな帯域を使用して信号を受信することで、確実な位置特定を行うことが可能となり、消費電力も増加します。特定の動作環境、特にスカイビューがどの程度開いているかを理解し、特定のLASアプリケーションのニーズに対応するために必要な最小数のGNSS信号を使用することが重要です。
GNSS機能をオフにすると最も省エネになりますが、オンにするたびにコールドスタートとなります。コールドスタートの初期位置算出時間(TTFF)は、GNSS信号の有無や強度、アンテナのサイズや配置に応じて、30秒、あるいはそれ以上になることがあります。アシストGNSSは、正確な情報を提供しつつ、TTFFを低減します。アシストGNSSは、現在および予測される衛星の位置とタイミングのパラメータ(「エフェメリスデータ」と呼ばれる)、アルマナックおよび、正確な時刻と衛星システムに対する衛星状態の補正データをリアルタイムまたは最大数日の間隔でインターネットからダウンロードするなど、いくつかの方法で実装できます。一部のGNSSレシーバは、GNSS軌道予測を内部で計算する自律モードを備えており、外部データや接続の必要性を排除しています。しかし、自律モードを使用すると、現在のエフェメリスデータをダウンロードするために、定期的にレシーバの電源を入れる必要が生じます。
省電力モード
多くのGNSSレシーバでは、アシストGNSSなどの接続オプションに加え、連続トラッキング、周期的トラッキング、オン/オフ操作、スナップショット位置決めなど、設計者が更新レートと消費電力のさまざまなトレードオフを選択することができます(図3)。また、最適なトラッキングモードの選択も、特定のアプリケーションの性能を定義する際の重要な考慮事項となります。動作条件が変化し、最適な省電力モードが使用できなくなった場合、システムは次に最も省電力なモードに自動的に切り替え、機能を継続させる必要があります。
図3:GNSSシステムの性能を最適化するためには、省エネ動作モードを必要な更新レートと一致させる必要があります。(画像提供:u-blox)
連続トラッキングは、1秒間に数回の更新が必要なアプリケーションに適しています。GNSSレシーバはこのモードで位置を取得し、位置固定を確立し、アルマナックやエフェメリスデータをダウンロードしてから、トラッキングモードに切り替えて消費電力を削減します。
周期的トラッキングは、それぞれの位置更新の間に数秒を要するため、信号やアンテナが十分に大きく、必要に応じて位置信号にアクセスできる場合に有用です。トラッキングのために新しい衛星を取得する必要がなければ、さらなる省電力化も可能です。
オン/オフ操作では、取得/トレース動作とスリープモードが切り替わります。スリープ中の時間は通常数分間で、オン/オフ操作には、TTFFおよび各スリープ期間後の消費電力を最小化するために、強いGNSS信号が必要となります
スナップショット位置決めは、ローカル信号処理用のGNSSレシーバと、より計算集約型の位置推定処理のためのクラウドコンピューティングリソースを併用することで、消費電力を削減します。インターネット接続が可能な場合は、スナップショット位置決めにより、GNSSレシーバの消費電力を10分の1に削減できます。このソリューションは、位置の更新が1日に数回しか必要でない場合に、効果的な省電力戦略となります。
組み込みアンテナでGNSS補強をサポート
設計者は、GPS、Galileo、GLONASSのGNSS信号の同時受信の恩恵を受けるシステム向けに、u-bloxのSAM-M8Qパッチアンテナモジュールを利用できます(図4)。3つのコンステレーションを同時に使用することで、ビルの谷間や弱い信号を受信するような厳しい環境下でも、高い位置精度を実現します。SAM-M8Qは、位置決めの速度と精度を向上させるため、準天頂衛星システム(QZSS)、GPS支援GEO補強航法(GAGAN)、屋内メッセージングシステム(IMES)などの補強機能に加え、広域補強システム(WAAS)、欧州静止衛星ナビゲーションオーバーレイサービス(EGNOS)、MTSAT衛星補強システム(MSAS)もサポートしています。
図4:SAM-M8Qモジュールは、最大3つのGNSSソース(GPS、Galileo、GLONASS)の同時受信をサポートしています。(画像提供:u-blox)
また、SAM-M8Qモジュールでは、エフェメリスデータ、アルマナック、さらには時間や概略位置も含むGNSS放送のパラメータを提供するu-bloxのAssistNow支援サービスも使用でき、TTFFが大幅に削減されます。AssistNow Offlineデータ(最大35日)、AssistNow Autonomousデータ(最大3日)の有効期限を延長すれば、延長後も高速なTTFFがサポートされます。
モノのインターネット(IoT)Google Cloud開発プラットフォームは、PIC MCUベースのアプリケーションを接続および保護する簡単な方法をもたらします。MikroElektronikaのGNSS 4 clickは、SAM-M8Qモジュールを搭載し、Microchip TechnologyのPIC®-IoT WG開発ボードを念頭に置いて設計されているため、LASスマートシティアプリケーションの開発を迅速に行えます(図5)。PIC-IoT WG開発ボードは、Google Cloud IoTのユーザーに対し、安全なクラウド接続アプリケーションの開発を加速するための方法を提供します。さらに、PIC-IoT WGボードは、分析ツールと機械学習ツールも提供します。
図5:u-bloxのSAM-M8Qパッチアンテナモジュールを搭載したGNSS 4 clickボード。(画像提供:DigiKey)
マルチコンステレーションGNSS+ワイヤレス接続
Release 14の第2世代カテゴリM1/NB1/NB2を活用した単一モジュールからマルチコンステレーションGNSSサポート(GPS/Galileo/GLONASS)とグローバルLPWAN LTE接続の恩恵を受けられるトラッカーなどの小型LASデバイスに対し、設計者は、ThalesのCinterion TX62モジュールを利用できます(図6)。また、ホストプロセッサや内蔵プロセッサを使用してアプリケーションの実行をサポートするモジュール内の柔軟なアーキテクチャにより、ソリューションのサイズをさらに最適化することも可能です。TX62は、電力に敏感なアプリケーションに向けて、3GPPの省電力モード(PSM)と拡張不連続受信(eDRx)をサポートしています。PSMのスリープ時間は、eDRXに比べてかなり長くなる傾向があります。この長いスリープ時間により、デバイスはeDRXよりも深く、低電力のスリープモードに入ることができます。PSMのスリープ電力は10μA未満で、eDRXのスリープ電力は最大30μAです。
図6:TX62 IoTモジュールは、LTE-M、NB1、NB2通信およびマルチコンステレーションGNSSに対応しています。(画像提供:Thales)
TX62のセキュリティ機能には、デバイスとデータを保護しながらクラウドプラットフォームへの信頼できる登録をサポートするための安全な鍵ストレージと証明書の取り扱いおよび、製造時にTX62のルートにあらかじめ統合された信頼できるIDが含まれます。設計者は、必要に応じてオプションの統合eSIMを指定することで、物流や製造プロセスを簡素化し、動的なサブスクリプション更新とリモートプロビジョニングによって現場での柔軟性を向上させることができます。
ArduinoのPortenta H7アプリケーションにおけるLAS開発は、Portenta Cat.M1/NB IoT GNSSシールドを使用することで簡素化できます(図7)。このシールドは、Portenta H7のエッジコンピューティング能力とTX62のコネクティビティを組み合わせることで、スマートシティアプリケーションだけでなく、産業、農業、ユーティリティなどの分野において、LAS資産の追跡や遠隔監視を可能にします。基本的なPortenta Cat.M1/NB IoT GNSSシールドには、GSM/UMTSアンテナが含まれていません。設計者は互換性のあるアンテナを探す代わりに、Arduinoのダイポールペンタバンド防水アンテナを使用できます。
図7:Portenta CAT.M1/NB IoT GNSSシールドには、TX62-W IoTモジュール(黄色の大きな四角)が含まれています。(画像提供:Arduino)
Portenta CAT.M1/NB IoT GNSSシールドには、さらに以下のような利点があります。
- 基板を変更せずにコネクティビティを変更可能
- NB-IoT、CAT.M1のPortentaベース設計に位置決めを追加
- IoTデバイスの通信帯域幅要件を大幅に削減
- 66 mm x 25.4 mmの小型形状
- -40°C~+85°C (-104°F~185°F)で動作
まとめ
低電力で高性能なGNSS技術の進歩は、LASスマートシティアプリケーションの成長を促進する要因となっています。しかし、単純に最もエネルギー効率の良いハードウェアを使うだけでは出発点に過ぎず、ファームウェアを最適化してエネルギー効率の良いソリューションに到達することも同様に重要となります。GNSSベースのLASアプリケーションを開発する際には、利用可能なハードウェアとファームウェアの組み合わせが数多くあり、設計者はさまざまな評価ツールを利用することで、開発プロセスを短縮できます。
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