スーパーキャパシタ1個を5V電源のバックアップ電源として使用する方法
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2022-12-02
かつてはミッションクリティカルな機器にのみ設置されていたバックアップ電源は、現在では産業用、商業用、消費者用の最終製品における幅広い電子機器アプリケーションで需要が高まっています。いくつかの選択肢がある中で、スーパーキャパシタは主電源が遮断されたときのエネルギー貯蔵装置として、最もコンパクトでエネルギー密度の高いソリューションとなります。たとえば、主電源が切れたときや、電池交換のときなどです。
しかし、スーパーキャパシタは、1つでは2.7Vまでしか供給できないため、設計上問題があります。つまり、5Vの電源レールに安定した電力を供給するには、複数のスーパーキャパシタが必要で、それぞれにセルバランシング機能とステップアップ(昇圧)またはステップダウン(降圧)の電圧コンバータが必要となります。その結果、元の回路とは微妙に異なる複雑な回路となり、コストも比較的高く、基板面積も余分に占めることになります。
そこで本稿では、まず、電池とスーパーキャパシタを比較し、後者が低電圧でコンパクトな電子機器用途においていくつかの技術的優位性を持つ理由を説明します。次いで、コンデンサ1個と昇降圧の反転型電圧コンバータを組み合わせて5Vレールに電力を供給する、シンプルでエレガントなソリューションを設計する方法を説明します。
電池とスーパーキャパシタの比較
無停電電源装置は、現代の電子機器が満足度の高いユーザー体験を提供するには不可欠の要素となっています。定電力が供給されないと、電子製品は動作しなくなるだけでなく、重要な情報が失われる可能性もあります。たとえば、停電になると、主電源に接続されているPCでは、揮発性のRAMに保存されているデータが失われます。また、インスリンポンプでは、電池交換時に揮発性メモリから重要な血糖値の読み取り値が消失する可能性があります。
これらの事態を防ぐ方法の 1 つは、主電源に障害が発生したときに放出するエネルギーを蓄えるバックアップバッテリ(予備電池)を組み込むことです。リチウムイオン(Liイオン)電池は成熟した技術であり、エネルギー密度が非常に高いため、比較的コンパクトなデバイスに組み込むことで、長時間にわたって電源をバックアップすることができます。
しかし、どのような化学物質を使用した電池にも、特定の状況下で問題となりうる固有の特性があります。たとえば、重くなる、充電時間が長くなる(したがって、停電が頻発すると困る)、充電回数に制限がある(メンテナンスコストが増大する)、原料の化学物質に安全性や環境上の問題がある、などです。
バックアップ電源の代替ソリューションとして、スーパーキャパシタ(別称:ウルトラキャパシタ)があります。スーパーキャパシタは、専門的には電気二重層コンデンサ(EDLC)と呼ばれます。このデバイスは、電気化学的に安定した、正と負の対称的な炭素電極を用いて作成されています。これらの炭素電極は、有機塩と溶媒の電解液で満たされた容器に組み込んだ絶縁性のイオン透過性セパレータで分離されています。電解液は、イオン移動度と電極の濡れ性を最大化するように設計されています。高表面積の活性炭電極とわずかな電荷分離の組み合わせにより、スーパーキャパシタは従来のキャパシタよりもはるかに高い静電容量を実現しています(図1)。
図1:スーパーキャパシタは、電解液に浸された絶縁性のイオン透過性セパレータで隔てられた、対称的な正負の炭素電極を用います。高表面積の電極とわずかな電荷分離の組み合わせにより、高い静電容量を実現しています。(画像提供:Maxwell Technologies)
高表面積の炭素電極に電解液が可逆的に吸着することで、電荷が静電的に蓄積されます。電極と電解液の界面で分極化が行われると、電荷分離が起こり、その結果、電気二重層が形成されます。このメカニズムは可逆性が高いので、スーパーキャパシタが何十万回も充放電することができます。ただし、時間の経過とともに静電容量はいくらか減少します。
スーパーキャパシタは、エネルギーを蓄えるのに静電メカニズムに依存しているため、電池よりも電気的性能の予測がしやすくなっています。また、その構造材料から、信頼性が高く温度変化に強いという特長があります。安全面では、スーパーキャパシタは揮発性物質が電池の場合よりも少なく、完全放電が可能なため、安全に輸送できます。
スーパーキャパシタのさらなるメリットは、2次電池よりも充電がはるかに速いことです。そのため、最初の障害の直後に再び電力が失われた場合でも、すぐにバックアップ電源が確保できます。しかも、過充電の心配がないこともメリットです。また、スーパーキャパシタは、より多くの充電サイクルを実行可能なため、メンテナンスコストも低く抑えることができます。
さらに、スーパーキャパシタは、電池よりもはるかに高い電力密度(単位時間にどれだけの電力を貯蔵または供給できるかを示す尺度)を有しています。これにより、高速充電が可能になるだけでなく、必要に応じて大電流を流すこともできるので、より多くの用途でバックアップ電源として使用することが可能になります(図2)。また、スーパーキャパシタは実効直列抵抗(ESR)値が電池よりもはるかに低くなっています。このため、より効率的に電力を供給でき、過熱する危険性もありません。スーパーキャパシタの電力変換効率の標準値は、98%を超えています。
図2:充電式電池は、適度な電流で長時間の電力供給が可能ですが、充電には長い時間がかかります。一方、スーパーキャパシタ(またはウルトラキャパシタ)は、大電流で素早く放電しますが、急速充電も可能です。(画像提供:Maxwell Technologies)
スーパーキャパシタの主な欠点は、エネルギー密度(単位体積あたりに蓄えられるエネルギー量)が2次電池と比べて相対的に低いことです。現在の技術では、リチウムイオン電池は、同じ体積のスーパーキャパシタに比べて20倍のエネルギーを蓄えることができます。このギャップは、スーパーキャパシタが新しい材料で改良されるにつれて縮まりつつありますが、まだまだ何年も見過ごせない状況が続きそうです。また、スーパーキャパシタのもう1つの目立った欠点は、リチウムイオン電池と比較してコストが高いことです。
スーパーキャパシタの設計上の留意点
特定の電子製品がスーパーキャパシタをバックアップ電源として使用する場合には、設計者は、信頼性の高いエネルギー貯蔵・供給と長寿命のために最適なコンポーネントの選択方法を理解しておくことが極めて重要です。
データシートで最初に確認すべき点の1つは、温度が静電容量や抵抗に与える影響です。バックアップ電源が必要な場合に、供給電圧が安定していて、かつエネルギーが効率的に供給されるようにするため、最終製品の所期の動作温度範囲でほとんど変化を示さないデバイスを選択することを、設計方法としておすすめします。
スーパーキャパシタの寿命は、動作電圧と温度の複合的な影響によって大きく左右されます(図3)。スーパーキャパシタに壊滅的な障害が発生することはめったにありません。それよりもむしろ、静電容量や内部抵抗が時間とともに変化するので、徐々に性能が低下していき、最終製品の仕様を満たすことができなくなります。性能の低下度合いは、一般に最終製品の寿命の初期の方が大きく、最終製品が古くなるにつれて徐々に小さくなっていきます。
図3:高い温度と高い印加電圧が、スーパーキャパシタの寿命を縮める可能性があります。(画像提供:Elcap、CC0。Wikimedia Commonsより転載。筆者による一部修正あり)
スーパーキャパシタは、バックアップ電源用に使う場合、長期間にわたって動作電圧に維持されるので、蓄えたエネルギーを放電するよう求められるのはごくまれです。これは最終的に性能に影響します。データシートには、標準的な動作電圧およびさまざまな温度での静電容量の経時的減少が示されています。たとえば、2.5Vで88,000時間(10年間)、25°Cに維持した場合は、静電容量が15%減少し、内部抵抗が40%増加します。このような性能の低下は、長寿命の最終製品のバックアップデバイスを設計する際に考慮しておくべき点です。
コンデンサの時定数とは、デバイスがフル充電の63.2%に達する時間(=フル充電の36.8%まで放電するのにかかる時間)です。スーパーキャパシタの時定数は約1秒であり、電解コンデンサ時定数よりもはるかに短くなっています。このため、損傷が発生する可能性があるので、設計者はバックアップ電源としてのスーパーキャパシタが連続リップル電流にさらされないようにする必要があります。
スーパーキャパシタは、0Vから最大定格容量までの範囲で動作させることができます。スーパーキャパシタの利用可能なエネルギーと電力貯蔵の効率的な利用は、最も広い電圧範囲で動作するときに達成されますが、ほとんどの電子部品には最小電圧の閾値があります。この最小電圧要件により、コンデンサから取り出せるエネルギー量が制限されます。
たとえば、コンデンサに蓄えられるエネルギーは、E=½CV2です。この関係式から、「コンデンサの定格電圧の半分(たとえば2.7Vの半分である1.35V)でシステムを動作させた場合、利用可能なエネルギーの約75%を取り出せる」と計算できます。
複数のスーパーキャパシタを使用する場合の設計上の問題
スーパーキャパシタはその優位性によって広範な電子製品のバックアップ電源に適していますが、設計者としてはスーパーキャパシタがもたらす設計上の問題に注意する必要があります。バックアップ電源回路の実装は、経験の浅いエンジニアにとっては大変な作業となります。この大変さの核心は、市販のスーパーキャパシタの定格電圧は約2.7Vなので、一般的な5Vの電源レールを作成するには、2つのスーパーキャパシタを直列に使用しなければならないことにあります(図4)。
図4:市販のスーパーキャパシタの定格電圧は約2.7Vなので、一般的な5Vの電源レールを作成するには、2つのスーパーキャパシタを直列に使用しなければならないため、設計プロセスが複雑になります。(画像提供:Maxim Integrated)
これは満足のいく実用的なソリューションですが、アクティブまたはパッシブなセルバランシング機能が必要なため、追加のコストと面倒な作業が発生します。完全に充電された2つ以上の公称同一コンデンサの両端間の電圧は、静電容量の許容誤差、リーク電流の違い、ESRの違いにより、変化する可能性があります。この電圧不平衡により、バックアップ回路の一方のスーパーキャパシタが他方より大きな電圧を供給することになります。この電圧不平衡は、1つのスーパーキャパシタの両端間の電圧がそのデバイスの定格閾値を超え、動作寿命に影響を与えるポイントまで、温度上昇やスーパーキャパシタの経年劣化によって増加する可能性があります。
低デューティサイクルの用途でセルバランスを実現するには通常、バイパス抵抗を各セルと並列に配置します。この抵抗の値には、どのような電流の流れでもスーパーキャパシタの総リーク電流を制御できる値が選択されます。このテクニックにより、スーパーキャパシタ間での等価並列抵抗の変動が事実上無視できるようになります。たとえば、バックアップ回路のスーパーキャパシタの平均リーク電流が10マイクロアンペア(μA)の場合、1%の抵抗で100μAの電流バイパスが可能になり、平均リーク電流が110μAに増大します。こうすることで、複数のスーパーキャパシタのリーク電流変動を、数十%からわずか数%に速やかに低減することができます。
電圧の高い複数のスーパーキャパシタは、すべての並列抵抗の一致度がかなり高ければ、各自の並列抵抗を通して、電圧の低いスーパーキャパシタよりも高速に放電することになります。これにより、一連のすべてのスーパーキャパシタに総電圧が均等に分配されます。高負荷の用途では、スーパーキャパシタ間のバランスをより高くすることが必要となります。
5V電源にスーパーキャパシタ1個を使用する場合
スーパーキャパシタを2個以上使用せず、1個にすれば、バックアップ電源回路がよりシンプルになり、スペースを節約することができます。このような配置にすることで、スーパーキャパシタ間のバランス調整が不要になります。ただし、1つのデバイスからの2.7Vの出力は、ダイオードの電圧降下を克服してシステムに5Vを供給するのに十分な電圧を生成しなければならないため、昇圧電圧レギュレータを使用して増加させる必要があります。スーパーキャパシタは、充電器によって充電され、必要に応じて昇圧コンバータを介して放電します。ダイオードにより、1次電源またはスーパーキャパシタのいずれかがシステムに電力を供給できるようにします(図5)。
図5:電源バックアップ回路で単一のスーパーキャパシタを使用すると、セルバランスは必要なくなりますが、代わりに、スーパーキャパシタの出力電圧を昇圧するステップアップ(昇圧)レギュレータが必要になります。(画像提供:Maxim Integrated)
よりエレガントなソリューションは、Maxim Integratedの昇降圧反転型電圧レギュレータMAX38888またはMAX38889のような特殊な電圧コンバータで補完された単一のコンデンサを使用することです。前者は2.5V〜5V、最大2.5A出力のデバイスで、後者は2.5V〜5.5V、3A出力のデバイスです(図6)。
図6:スーパーキャパシタの電源バックアップ回路にMAX38889(またはMAX38888)反転レギュレータを使用すると、別の充電器や昇圧器、ダイオードが不要になります。(画像提供:Maxim Integrated)
MAX38889は、スーパーキャパシタとシステム電源レールの間で電力を効率的に伝送するエネルギー蓄積コンデンサまたはコンデンサバンクの柔軟なバックアップレギュレータです。主電源が存在し、その電圧がシステム電源電圧の最低閾値を超えている場合、レギュレータは充電モードで動作し、最大ピーク電流3A、平均インダクタ電流1.5Aでスーパーキャパシタを充電します。バックアップ動作を有効にするには、スーパーキャパシタを完全に充電しておく必要があります。スーパーキャパシタの充電が完了すると、電源バックアップ回路は4μAの電流しか消費しないことで、スーパーキャパシタの準備完了状態を維持します。
主電源を取り外すと、レギュレータは、プログラムされたピークインダクタ電流(最大3A)でスーパーキャパシタの電圧を必要なシステム電圧まで昇圧することにより、システムが設定されたシステムバックアップ動作電圧を下回るのを防ぎます。この反転型レギュレータは、最小でわずか0.5Vのスーパーキャパシタ電源電圧で動作することで、蓄積されたエネルギーを最大限に活用します。
バックアップの持続時間は、スーパーキャパシタのエネルギー貯蔵量とシステムの消費電力によって異なります。Maxim Integrated製品の特長は、2.7Vのスーパーキャパシタ1個から最大のバックアップ電力が得られること、および別の充電器、昇圧機器、ダイオードが不要になるので回路部品点数を削減できることです。
まとめ
スーパーキャパシタは、頻繁に電池交換が必要な用途など、特定の用途におけるバックアップ電源として、2次電池よりも優位な点をいくつか持っています。スーパーキャパシタは、充電式電池と比較して、充電が速い、サイクル回数が多い、電力密度がはるかに高いという特長があります。しかし、最大出力が2.7Vであるため、一般的な5V電源をバックアップする場合は、設計上の問題が生じます。
ご説明してきたように、ステップアップ(昇圧)/ステップダウン(降圧)の反転型電圧レギュレータは、単一のスーパーキャパシタがスペースや必要な部品点数を最小限に抑えながら5Vラインをバックアップできるようにするので、エレガントなソリューションとなります。
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