スーパーキャパシタをベースにしたシンプルな小型UPSの設計
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2024-03-15
無停電電源装置(UPS)は、RAID(Redundant Array of Independent Disks)ストレージのデータ保護、安全運転のための車載用テレメトリ、ヘルスケアにおけるインシュリンポンプなどの投薬装置といった用途に不可欠です。
しかし、特にスペースが限られている場合、UPSの設計は困難な場合があります。さらに、蓄電システムから電源に戻るエネルギーフローを許容できない多くの用途では、慎重な設計が求められます。
このような設計上の課題は、複数のコンバータと充電回路を単一の部品に置き換える統合型アプローチを検討することで緩和できます。この統合型アプローチで回路設計が簡素化され、バックアップ動作中に電流が電源に逆流しないようにすることが容易になります。
この記事では、UPS設計の課題を概説し、従来型のソリューションを示します。そして、Analog Devicesの降圧/昇圧スイッチングレギュレータをベースとする簡素化された統合型代替ソリューションを紹介します。
エネルギー貯蔵器としてのスーパーキャパシタの使用
図1は、UPS設計に対する従来型のアプローチを示しています。この例で、UPSは24V DC(VDC)センサに電力を供給します。センサ回路には、3.3Vと5Vの入力が必要です。UPSは、システム電圧が利用可能な場合、スーパーキャパシタを充電するためにリニアレギュレータを使用します。システム電圧が低下すると、コンデンサ内のエネルギーは昇圧レギュレータによって必要な電源電圧レベルまで昇圧されます。
図1:このUPSは、システム電圧が正常なときにスーパーキャパシタを充電し、システム電圧が低下したときにそのエネルギーを引き出します。(画像提供:Analog Devices)
24V電源がセンサ以外の回路素子への電力供給にも使用される場合は、センサ回路のみに電力を供給し、24Vラインに関連する他の電子機器には電力を供給しないようにスーパーキャパシタを組み込む必要があります。ダイオード「D」は、回路がバックアップモードのときにこれが発生するのを防ぎます。
このシステムはうまく機能しますが、複数の電圧コンバータを使用するため、実装が難しい場合があります。また、スペースが限られている場合も困難になります。図2は代替アプローチを示しています。このアプローチでは、図1に示す回路の複数のレギュレータを1つのバックアップレギュレータで置き換えることで、スペースを節約して設計を簡素化します。
図2:統合型バックアップレギュレータにより、UPSの設計はより簡単で小型になります。(画像提供:Analog Devices)
統合型バックアップソリューション
図2に示した設計コンセプトは、Analog DevicesのMAX38889降圧/昇圧スイッチングレギュレータを使用して実現できます。これは、蓄積エレメントとシステム電源レールの間で電力を効率的に伝送するための柔軟な小型蓄積コンデンサまたはコンデンサバンクのバックアップレギュレータです。寸法は3 × 3mmで、0.5~5.5Vのスーパーキャパシタ入力(VCAP)から3Aの最大電流(ISYSMAX)で2.5~5.5V(VSYS)を出力します(図3)。このレギュレータの動作温度範囲は-40°C~+125°Cです。
図3:MAX38889をベースとしたUPSの場合、特定のVSYSに対するISYSMAXは、VCAPに依存します。(画像提供:Analog Devices)
主電源が存在し、その電圧がシステム電源電圧の最低閾値を超えている場合、レギュレータは、最大ピーク電流3A、平均インダクタ電流1.5Aでスーパーキャパシタを充電します。スーパーキャパシタが完全に充電されると、レディ状態を維持しながら、わずか4μAの静止電流を消費します。バックアップ動作を有効にするには、スーパーキャパシタを完全に充電しておく必要があります。
主電源が取り除かれ、スーパーキャパシタが完全に充電されると、レギュレータは設定されたシステムバックアップ動作電圧(VBACKUP)を下回るのを防ぎます。これは、スーパーキャパシタの放電電圧を、安定化されたシステム電圧であるVSYSへ昇圧することによって行われます。バックアップ動作中、MAX38889は適応型でオン時間の電流制限パルス周波数変調(PFM)制御方式を使用します。
レギュレータの外部ピンにより、スーパーキャパシタの最大電圧(VCAPMAX)、VSYS、インダクタのピーク充放電電流など、さまざまな設定を制御できます。
MAX38889はTrue Shutdown機能を実装しており、SYSをCAPから切り離し、VCAP > VSYSの場合にSYSのショートから保護します。充電とバックアップは、それぞれENCピンとENBピンをローに保つことで無効にできます(図4)。
図4:MAX38889の外部ピンにより、スーパーキャパシタの最大電圧VCAPMAX、VSYSおよび、インダクタのピーク充放電電流を設定できます。バックアップシステムのステータスは、RDYフラグを通して監視できます。(画像提供:Analog Devices)
バックアップシステムのステータスは、スーパーキャパシタの充電完了を示すレディステータス(RDY)フラグと、バックアップ動作を示すバックアップステータス(BKB)フラグという2つのステータス出力で監視できます。
スーパーキャパシタの選択
図5は、MAX38889をベースにしたUPSの簡略化されたアプリケーション回路です。充電中のVCAPMAXは、FBCHピンを駆動する抵抗分圧器によって決定されます。この例では、R1 = 1.82MΩ、R2 = 402kΩ、R3 = 499kΩの抵抗値により、VCAPMAXが2.7Vに設定されます。スーパーキャパシタは、最大3Aのピーク電流と1.5Aの平均インダクタ電流で充電されます。放電時のピークインダクタ電流は3Aです。
図5:MAX38889をベースにしたUPSの簡略化されたアプリケーション回路を示しています。スーパーキャパシタは、最大3Aのピーク電流と1.5Aの平均インダクタ電流で充電されます。放電時のピークインダクタ電流は3Aです。(画像提供:Analog Devices)
バックアップ動作用のスーパーキャパシタを選択する際には注意が必要です。主電源が故障した場合、負荷電力は、スーパーキャパシタをエネルギー源としてバックアップモードまたはブーストモードで動作するMAX38889によって供給されます。スーパーキャパシタが最小安定化電源電圧で供給できる電力は、システムが必要とする電力よりも大きくなければなりません。
MAX38889は、スーパーキャパシタに一定の電力負荷を与え、VCAPMAX付近で動作するときにスーパーキャパシタから引き出される電流を少なくします。しかし、負荷への電力を一定に保つために、スーパーキャパシタから引き出される電流は、放電(および電圧降下)するにつれて増加します。バックアップモードで必要なエネルギーは、バックアップ動作時間(TBACKUP)に対する連続バックアップ電力(VSYS x ISYS)の積です。
スーパーキャパシタ(CSC)で利用可能なジュール(J)単位のエネルギー量は、式1を使用して計算されます。
式1
バックアップ動作を完了するのに必要なエネルギー量は、式2を使用して計算されます。
式2
ここで、ISYSはバックアップ時の負荷電流です。
バックアップ時の負荷に必要なエネルギーはスーパーキャパシタによって供給されるため、変換効率(η)を仮定し、必要なTBACKUPを所与とすると、ファラッド(F)単位の必要なCSC値は式3を使用して決定されます。
式3
図5に示すアプリケーション回路を例として使用し、システム負荷を200mA、平均効率を93%、バックアップ時間を10秒と仮定すると、必要なスーパーキャパシタの最小値は次のようになります。
式4
図6は、図5に示したアプリケーション回路の充放電曲線を示しています。
図6:図5に示したアプリケーション回路の充放電曲線。VSYS = 3.6V、VCAP = 2.7V、VBACKUP = 3V。(画像提供:Analog Devices)
評価ボードの使用方法
MAX38889AEVKIT#コンデンサチャージャ電源管理評価ボードは、降圧/昇圧バックアップレギュレータの評価およびMAX38889とスーパーキャパシタをベースにしたUPSのテストを行うためのフレキシブル回路を提供します。外付け部品により、幅広いシステム電圧とスーパーキャパシタ電圧および、充放電電流に対応できます。
このボードには、ENC(充電有効)、ENB(バックアップ有効)、LOADという3つのシャントが組み込まれています(図7)。ENCシャントが1-2の位置に設定されている場合、VSYSが充電閾値を上回ると充電が有効になります。ENBシャントを1-2の位置に設定した場合、VSYSがバックアップ閾値を下回るとバックアップが有効になります。LOADシャントを1-2の位置に設定すると、VSYSとグランドの間に4.02Ωの負荷が接続され、放電シナリオをシミュレートするテストモードに入ることができます。シャントが1つのピンのみに接続されている場合、ボードは通常動作モードに入ります。
図7:MAX38889AEVKITは、MAX38889降圧/昇圧スーパーキャパシタバックアップレギュレータを評価するためのフレキシブル回路を提供します。(画像提供:Analog Devices)
メインバッテリが充電に必要な最小システム電圧以上を供給する場合、MAX38889レギュレータは平均電流1.5Vでスーパーキャパシタを充電します。VFBCH = 0.5V、抵抗R1 = 499kΩ、R2 = 402kΩ、R3 = 1.82MΩの場合、VCAPMAX = 2.7Vとなります。
EVKITのVBACKUPは、抵抗R5(1.21MΩ)とR6(1.82MΩ)によって3Vに設定され、VFBS = 1.2Vとなります。これにより、メインバッテリが取り外されてVFBSが1.2Vに低下すると、MAX38889はスーパーキャパシタから電力を引き出し、VSYSをVBACKUPに安定化させます。
MAX38889A EVKITは、スーパーキャパシタの充電状態を監視するためのRDYテストポイントを提供します。RDYテストポイントは、FBCRピンの電圧が0.5VのFBCR電圧閾値(R1、R2、R3により設定)を超えるとハイになります。つまり、VCAPが1.5Vを超えるとRDYがハイになります。同様に、スーパーキャパシタがバックアップを提供する場合、スーパーキャパシタの供給電圧が1.5V未満になるとRDYフラグがローになります。
EVKITは、システムのバックアップ状態を監視するためのBKBテストポイントも提供します。BKBは、システムがバックアップ電力を供給しているときはローにプルされ、システムが充電中またはアイドル状態のときはハイにプルされます。
抵抗(R4)により、ISETとグランド(GND)の間のピークインダクタ電流が設定されます。33kΩの抵抗値により、次の式に従ってピークインダクタ電流が3Aに設定されます。ピーク充電電流(ILX_CHG)= 3A x (33kΩ/R4)(図8)。
図8:MAX38889評価ボードの回路図を示しています。11Fのスーパーキャパシタを使用して動作し、VCAP、VSYS、RDY、BKBを監視するためのテストポイントを提供します。(画像提供:Analog Devices)
まとめ
スーパーキャパシタは、UPSのエネルギー貯蔵素子として使用できます。従来型のUPSトポロジは、大きなスペースを必要とする複数の電圧レギュレータを使用しているため、設計が困難でした。統合型降圧/昇圧レギュレータによるアプローチにより、複数のコンバータと充電回路を単一の小型部品に置き換えることで、こうした設計上の課題が緩和されます。

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