高度なデジタルアイソレータを使用して絶縁と性能を最適化する方法

著者 Bill Schweber氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

電子システムの設計者は、性能要件を満たしながら、ユーザーとデバイスの安全性に関する規制を遵守するために、電源と信号の絶縁を組み込む必要があります。AC電源経路の絶縁は、トランスを使用することで簡単に実現できます。DC電源レールの絶縁も最終的にはトランスを使用しますが、より多くの回路が必要となります。しかし、デジタル化されたアナログ信号やデジタルシリアルデータストリームの絶縁には、異なる課題や複雑さが伴います。

この場合、絶縁に使用されるエネルギー伝送技術は、システム性能を維持するために、絶縁バリアを超えて信号の完全性を維持する必要があります。絶縁を実装する方法は多数ありますが、設計者はより高速なデータレートや過酷な環境においても、信号の完全性を確保することが求められています。その結果、150メガビット/秒(Mbps)のデータ転送が可能なデジタルアイソレータにますます注目が集まっています。

この記事では、特にセンサベースの回路における絶縁の必要性に焦点を当て、なぜ絶縁が必要なのかを簡単に説明します。その後、Analog Devicesの最先端デジタルアイソレータを使用した絶縁のさまざまな側面について解説し、それらをどのように応用できるかを紹介します。

絶縁の必要性と用途

センサベースの回路で絶縁が必要な理由は複数あります。

  1. 絶縁はコモンモード電圧の変動を排除し、一種の電磁干渉(EMI)を最小限に抑えることができます。これにより、外部ノイズ源による取得信号の破損を防ぎ、よりクリーンで正確な測定を保証します。また、高いコモンモード電圧を持つ小信号の測定も可能になります。
  2. 回路グランド間の電位差により、グランドループが発生し、電圧差での測定信号が歪むことがあります。絶縁を導入することで、このグランドループを遮断できます。
  3. 絶縁は、高感度の測定コンポーネントに、危険な電圧スパイク、過渡現象、またはサージが到達するのを防ぎます。これにより、測定回路、接続されたデバイス、ユーザーを保護できます。
  4. 絶縁は、異なる回路機能間での安全なレベル変換を可能にします。絶縁バリアの片側の回路ではトランスデューサの電圧レベルを維持しつつ、もう片側の回路では3.3Vや5Vの論理レベル信号を使用できます。

たとえば、高電圧バッテリスタックでは多くの場合、システムを安全に動作させながらバッテリ寿命を最大限に延ばすために、各セル電圧を知る必要があります。直列接続されたバッテリスタックには最大数百ボルトものコモンモード電圧が存在するにもかかわらず、単一セルの電圧を測定しなければなりません。

この問題を解決するために、アナログ回路や絶縁アンプを使用することも可能です。しかし、そのようなアプローチでは、システムの精度、直線性、一貫性を維持しながら、より高い帯域幅や分解能で測定するというニーズに応えることはできません。

代わりに、この測定を行うための最も正確で経済的かつ効率的な方法は、A/Dコンバータ(ADC)を含む測定フロントエンド全体を絶縁し、その後、絶縁されたシリアルリンクを介して、デジタル化されたデータをシステムの他の部分に送ることです(図1)。

絶縁されたフロントエンドの図図1:高電圧スタック内の単一セルの電圧を測定する際に、絶縁されたフロントエンドを使用することで、コモンモード電圧の課題を克服できます。(画像提供:Analog Devices)

このアプローチは、バッテリスタックのコモンモード電圧を絶縁すると同時に、障害発生時に危険な高電圧がデータリンク側やユーザーに伝わるのを防ぎます。

信号の絶縁が必要な場合は常に、電源の絶縁も必要になることに注意してください。絶縁されていない電源レールを使用すると、信号の絶縁と矛盾し、無効になるためです。必要な電源の絶縁は、独立した電源絶縁回路を用いるか、または独立した絶縁電源としてバッテリを使用することで実現できます。

絶縁の提供方法

絶縁の性能を定義するパラメータは多数あります。その中に、絶縁バリアが故障されるまで耐えられる最大電圧というパラメータがあります。用途によって異なりますが、必要な最大耐電圧は規制によって定められています(通常は数千ボルト)。

デジタル信号の絶縁を実現するには、いくつかの異なる技術を使用できます。たとえば、容量性カップリング、光学カップリング(LEDとフォトトランジスタ)、「マイクロ」スケールのRF伝送、磁気カップリングなどがあります。

磁気カップリングは利点が多く信頼性の高い技術ですが、これまでは比較的大型で高価な信号トランスを必要としていました。しかし、この状況はAnalog DevicesのiCoupler技術の導入によって一変しました。この技術では、チップスケールの1次および2次トランスコイルを使用し、ポリイミド絶縁層で分離することで、絶縁バリアを形成しています(図2)。高周波キャリヤにより、絶縁バリアを越えて2次コイルへとデータが伝送されます。

高周波キャリヤを使用してデータを伝送するiCoupler技術の画像図2:iCoupler技術は、高周波キャリヤを使用して1次コイルから2次コイルにデータを伝送します。これは厚いポリイミド絶縁体を介して行われます。(画像提供:Analog Devices)

動作中、1次トランスは1次コイルを流れるパルス電流によって駆動され、局所的かつ小さな磁場を生成し、2次コイルに電流を誘導します。この電流パルスは約1ナノ秒(1ns)と短いため、平均電流が低く抑えられ、低消費電力を実現できます。また、パルス変調に使用されるオン/オフキーイング(OOK)技術と、差動アーキテクチャにより、非常に低い伝播遅延と高速処理を可能にしています。

iCouplerに使用されているポリマー材料は、ほぼすべての用途で適格性が認められているため、堅牢な絶縁性能を発揮します。医療機器や重工業機器など、極めて厳しい要件を持つアプリケーションでは、その性能が大きな利点となります。

ポリイミドは、代替のバリア材料である二酸化ケイ素(SiO2)よりも応力が小さく、必要に応じて厚みを増やすことができます。対照的に、SiO2の厚み、ひいては絶縁性能には限界があります。15マイクロメートル(μm)を超える厚さに応力がかかると、処理作業中にウェハーにひびが入ったり、アイソレータの寿命中に層間剥離が発生したりする可能性があります。ポリイミドを使用したデジタルアイソレータでは、26μmもの厚さの絶縁層を使用できます。

Analog Devicesは、トランスベースのiCouplerデジタルアイソレータを幅広く提供しています。その中でも、ADUM340E0BRWZ-RLADUM341E0BRWZ-RLADUM342E1WBRWZは3,000V rmsの耐電圧と150Mbpsのデータレートを備え、CAN、RS-485、SPIなどの通信インターフェース向けに設計されたアイソレータです。

これら3つのデジタルアイソレータは総称してADuM34xEデバイスと呼ばれ、それぞれチャンネルの方向性が異なります。ADuM340Eは4つの順方向チャンネル、ADuM341Eは3つの順方向チャンネルと1つの逆方向チャンネル、ADuM3421は2つの順方向チャンネルと2つの逆方向チャンネルを持っています(図3)。

Analog DevicesのADuM34xEシリーズの3つの4チャンネルデジタルアイソレータの図(クリックして拡大)図3:ADuM34xEシリーズの3つの4チャンネルデジタルアイソレータは、仕様が似ていますが、チャンネルの方向性が異なります。(画像提供:Analog Devices)

この3つのアイソレータは、それぞれ2種類のフェイルセーフモードから選択できます(図4)。ローフェイルセーフでは、入力側がオフまたは動作していない場合に出力状態がローに設定され、ハイフェイルセーフでは、入力側がオフまたは動作していない場合に出力状態がハイに設定されます。この機能により、重要なアプリケーションで使用する際に、アイソレータが既知の状態に戻ることができます。

Analog DevicesのADuM34xEデバイス、シングルチャンネルの動作ブロック図(クリックして拡大)図4:ADuM34xEデバイスのシングルチャンネルの動作ブロック図で、上図がローフェイルセーフ、下図がハイフェイルセーフを示しています。(画像提供:Analog Devices)

入力側電源(図3のVDD1ピン)と出力側電源(VDD2)には関係性がないことに注意してください。これらの電源は、指定された動作範囲内であれば任意の電圧で同時に動作でき、どの順番でも問題ありません。この機能により、アイソレータは2.5V、3.3V、5Vなどの論理レベルの電圧変換を行うことができます。

ADuM34xEの性能特性における細かな利点

ADuM34xEアイソレータの高絶縁電圧、高速動作、低消費電力、低伝播遅延といった特性は、直接的に応用することができます。しかし、そのアーキテクチャには、設計者にとって役立つ、より細かな利点があります。たとえば、総消費電力は動作周波数に応じて変化し、必要となる電力はデバイスの動作速度にほぼ比例します。そのため、アイドル状態のチャンネルや、非常に低速でスイッチングするチャンネルは、ほとんど電力を消費しません。その結果、代替の絶縁技術と比較して、相対的に1~2桁の消費電力を削減できます。

また、設計者がアプリケーションの最大シリアルクロックレートを決定すれば、対応する絶縁型電源の中から、そのレートをサポートするのに十分な電流を供給できるものを選定できます。そのため、アイソレータの最大値を超える過剰な仕様にする必要がなくなります。

高速シリアルリンクにおけるタイミングと伝播遅延の重要性を考えると、デジタルアイソレータの性能が時間と温度によって劣化または変動しない点に注意することが重要です。波形周期に対する誤差が小さい低信号レートでは、ジッタはそれほど問題になりませんが、データレートが高いほど信号間隔に対するタイミングジッタの割合が大きくなります。ジッタが極めて少ないアイソレータを選択することで、絶縁回路の信号対ノイズ比(SNR)と効率の向上につながります。

前述したiCouplerアーキテクチャの特性により、デバイスのデータシートには、-40°C~+125°Cの全動作温度範囲にわたって保証された最小および最大の消費電力、伝播遅延、パルス歪みの仕様が定義されています。これらの完全な仕様が提供されることで、設計者は最悪のケースを想定したシステム性能に関する計算が簡単に行えるようになります。

デジタルアイソレータの伝播遅延(最大10ns、図5)、スキュー、チャンネル間マッチングに関する保証値があるため、他のデジタルICと同様に、システム全体としてのタイミング仕様をモデル化して評価できます。

伝播遅延が非常に小さく、完全に特性化されたiCoupler技術のグラフ図5:iCoupler技術により、全動作温度範囲にわたって伝播遅延が10ns以下と非常に低く、完全に特性化されています。(画像提供:Analog Devices)

コモンモード過渡耐性(CMTI)はあまり知られておらず、見落とされやすい仕様です。電気自動車(EV)やハイブリッドEV(HEV)の充電回路、太陽光発電システム、モータドライブなどの高電圧アプリケーションでは、スイッチングが絶え間なく発生すると、リンギングやノイズなどのコモンモード過渡現象が発生します。ADuM34xEデバイスの絶縁技術は、バックトゥバックのセンタータップ付きトランスアーキテクチャを活用し、絶縁バリアの両側のノイズに対してグランドへの低インピーダンス経路を提供します。これにより、CMTIの最小定格100キロボルト/マイクロ秒(kV/µs)を達成でき、絶縁信号の完全性が大幅に向上します。

磁気に詳しい設計者は、これらのアイソレータが磁気干渉の影響を受け、絶縁バリアを越える送信パルスに乱れが生じ、エラーが発生するのではないかと懸念するかもしれません。しかし、その懸念は当てはまりません。トランスの半径が小さく、エアコア構造のため、障害を誘発するには非常に大きな磁場または非常に高い周波数が必要となります。デバイスからわずか5mm離れた場所に1メガヘルツ(MHz)で500アンペア(A)の電流を流すワイヤがあっても、デジタルアイソレータは影響を受けません。

デジタルアイソレータの評価

これらのアイソレータの機能はシンプルですが、高電圧絶縁機能と高速動作が損なわれないようにするには、ボードレイアウトなどの細部に注意を払う必要があります。

設計者がデバイスを使用および評価しやすいように、Analog DevicesはiCouplerデジタルアイソレータインターフェース評価ボードのEVAL-ADUM34XEEBZ(図6)を提供しています。このボードには、異なるそれぞれのアイソレータが挿入されたスペースおよびレイアウトが備わっており、さらに未挿入の4つ目のスペースも用意されています。ボードの各コンポーネント(U1~U4)の間にはV字型の溝があるため、ユーザーはボードを複数のセクションに分割して、ブレッドボードまたは同様のテスト器具上の特定のデバイスを調べることができます。

Analog DevicesのEVAL-ADuM34XEEBZ評価ボードの画像図6:EVAL-ADuM34XEEBZ評価ボードは、3つのADuM34xEデバイスすべてをサポートしており、ユーザーがピン配列互換のデバイスを自由に選択できるスペースも1つ用意されています。(画像提供:Analog Devices)

EVAL-ADuM34XEEBZボードは、絶縁バリアの両側にグランドプレーンを設けるなど、適切なプリント基板(PCB)の設計手法に従っています。このボードを使用したiCouplerデバイスの評価に必要なのは、オシロスコープ、信号発生器、2.25V~5.5Vの電源のみです。

まとめ

信号の完全性を維持して、ユーザーとデバイスの安全を確保し、規制要件を満たすには、多くの設計で絶縁が必要です。Analog DevicesのiCoupler磁気カップリング技術に基づくデジタル絶縁デバイスは、使いやすくて信頼性に優れた高速ソリューションを提供します。また、コア仕様で時間と温度による劣化が最小限に抑えられているため、長期的に優れた性能が保証されます。

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著者について

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Bill Schweber氏

エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

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