スマートメータにワイヤレス接続を統合する方法

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

電気、水道、ガス、地域の暖房配管網に使われるスマートメータにはワイヤレス接続が不可欠ですが、ワイヤレストランシーバを一から設計するのは困難で時間がかかります。スマートメータアプリケーションでは、米国のFCC part 15およびpart 90、欧州のETSI EN 300 220およびETSI EN 303 131、日本のARIB STD T67およびT108、中国のSRRCなど、さまざまな国際規格を満たす高性能なワイヤレスソリューションが求められます。そのようなソリューションは、500kbpsまでのデータレートをサポートする必要があります。また、安全な暗号化・認証機能を備え、小型であり、+85°Cまでの厳しい環境下で動作することが要求されます。多くのアプリケーションでは、数年間のバッテリ寿命も求められます。

こうした課題に対応するため、設計者はスマートメータアプリケーションのニーズに応じて、RFトランシーバICまたは完全なRFトランシーバモジュールから選択できます。RFトランシーバICの場合、最大+16dBmの出力電力で140dBを超えるRFリンクバジェットを保証し、SIGFOX™、ワイヤレスM-Bus、6LowPAN、IEEE 802.15.4gのネットワーク接続をサポートするものが用意されています。RFモジュールの場合は、ワイヤレスM-BusプロトコルスタックやLoRa、(G)FSK、(G)MSK、BPSKといった複数のワイヤレス変調方式に対応し、適応帯域幅、拡散係数、送信電力、コーディングレートのオプションでさまざまなアプリケーションニーズに応え、ETSI EN 300 220、EN 300 113、EN 301 166、FCC CFR 47 part 15、24、90、101、ARIB STD-T30、T-67、T-108など、幅広い国際規制に準拠するものが用意されています。これらのモジュールは、アンテナのみを必要とする完全なRFシステムであり、安全な暗号化と認証および、バッテリ寿命を延ばすための超低電力モードを備えています。

この記事では、ワイヤレススマートメータの設計者が直面するコネクティビティの課題を検討し、可能な解決策を考察します。その後、STMicroelectronicsMove-XRadiocraftsが提供するRFトランシーバICRFモジュールのさまざまなオプションとともに、アンテナを統合する際の設計上の考慮事項を提示します。

設計者が最初に直面する決断のひとつが、通信プロトコルの選択です。一般的には、近距離無線通信(NFC)、Bluetooth、Bluetooth Smart、モノのインターネット向けWi-Fi(IoT向けWi-Fi)、サブギガヘルツ(SubGHz)などが選ばれます。重要なのは、次の4つの要素です。

  • 必要なデータスループット
  • 低電力モード
  • 必要な送信距離
  • ウェブアクセスの必要性

IoT向けWi-Fiは、最大限のデータ伝送を必要とするアプリケーションに最適な選択肢となり得ますが、必要な電力が最も高くなります。SubGHzは消費電力が少なく、最大限の送信距離を実現しますが、他の通信プロトコルにはさまざまな性能のトレードオフがあります(図1)。

IoT向けWi-Fiはスループットと消費電力が最も大きいことを示すグラフ(クリックして拡大)図1:IoT向けWi-Fiはスループットと消費電力が最大であり、SubGHzは中程度の必要電力で最も広い範囲をカバーします。(画像提供:STMicroelectronics)

スマートメータアプリケーションの多くには、数年間のバッテリ寿命が必要となるため、IoT向けWi-Fiのような技術を用いることは困難です。幸い、これらのアプリケーションはデータスループットの要件も比較的限られており、NFC、Bluetooth Smart、Bluetooth、SubGHzなどの技術を使用することで恩恵を受けられます。NFCの低消費電力は魅力的ですが、データスループットと範囲も同様に小さいため、スマートメータアプリケーションでは検討対象から外れる可能性があります。

また、消費電力を決める上では、スマートメータの全体設計が重要になります。ワイヤレススマートメータのバッテリ寿命を延ばすには、デバイスをできるだけ長く低電力状態に保ち、必要最低限の時間だけ稼働状態にすることが重要な要素となります。モジュールベースの無線周波数(RF)通信を実装するか、ディスクリートで実装するかという選択も、設計を成功に導く要因の一つです。その際は、性能、ソリューションサイズ、フットプリントの柔軟性、認証、市場投入までの時間、コストなどの要件を考慮する必要があります。

RFモジュールを使用する利点

RFモジュールは、完全な通信サブシステムです。RF IC、発振器、フィルタ、パワーアンプ、各種受動部品などを搭載できます。モジュールソリューションを使用するためにRFの専門知識は不要なため、設計者はスマートメータ設計の他の側面に集中することができます。一般的なRFモジュールは、必要な規格に対して較正・認証されて届きます。さらに、このモジュールには、アンテナの組み込みを容易にして信号損失を最小限に抑えるためのネットワーク整合回路が含まれます。モジュールソリューションでは、アンテナを内部または外部に設置できます。

モジュールは、設計に組み込むのが簡単です。複雑なディスクリートRFデバイスがなく、標準的なプリント回路基板(PCB)ベースのモジュールであるため、設計統合のシンプルさが製造プロセスのフローにも及びます。モジュールメーカーは、RFシステムを統合する際のすべての相違点にあらかじめ対応しています。モジュールを使用することで、認証の取得、必要な効率と全体的な性能レベルの達成、市場投入までの時間短縮など、ディスクリートRF設計に伴うリスクを軽減できるのです。

ディスクリートICを実装する利点

ディスクリートICの設計はより複雑ですが、コスト、ソリューションサイズ、フォームファクタの面で重要な利点を提供できます。モジュールは、ほとんどの場合、ICベースのソリューションよりも高価になります。RFサブシステムの設計が大量に行われる場合は、ICベースのソリューションの設計にかかる追加コストが低い製造コストで補われます。また、ワイヤレススマートメータの複数のプラットフォームで共通のRFサブシステムを使用できるため、全体の生産量を増加させ、長期的なコストをさらに削減することができます。

ディスクリートICベースの設計は、ほとんどの場合、モジュールベースのソリューションよりも小型になります。これは、スペースに制約のあるアプリケーションでは重要な検討事項になり得ます。ディスクリートICは、フットプリントが小さいだけでなく、利用可能なスペースにさらに合わせた形状にすることも可能です。

Sub GHz RFトランシーバIC

SubGHz帯のディスクリートICベースのソリューションを必要とする設計者は、動作温度範囲が-40°C~+105°Cの高性能超低消費電力RFトランシーバICで、4 x 4mmのQFN24パッケージであるS2-LPを検討できます(図2)。基本設計は、ライセンスフリーISM(産業科学医療用)周波数帯と、433、512、868、920MHzのSRD(短距離デバイス)帯で運用されます。また、オプションとして、S2-LPは413~479、452~527、826~958、904~1055MHzなど、他の周波数帯で動作するようにプログラムできます。2(G)FSK、4(G)FSK、OOK、ASKなど、さまざまな変調方式を実装することが可能です。S2-LPは、長い通信距離を実現するために140dBを超えるRFリンクバジェットを保証し、米国、欧州、日本、中国の規制要件に適合しています。

+105°Cまで動作する仕様のSTMicroelectronics製RF ICの画像図2:このRF ICは+105°Cまで動作する仕様で、4 x 4 mmのQFN24にパッケージングされています。(画像提供:STMicroelectronics)

S2-LPを使用する際の統合プロセスを簡素化するために、設計者は公称入力50Ωの超小型バランBALF-SPI2-01D3を使用し、S2-LPと共役整合して860~930MHzの周波数動作に対応させることができます。これにより整合ネットワークと高調波フィルタを統合し、非導電性ガラス基板に集積受動デバイス(IPD)技術を採用することで、最適なRF性能を提供します。

S2-LPを使用して868MHz ISM帯で動作する設計は、X-NUCLEO-S2868A2拡張ボードを使用して開発できます(図3)。X-NUCLEO-S2868A2は、シリアルペリフェラルインターフェース(SPI)接続と汎用入出力(GPIO)ピンを使用して、STM32 Nucleoマイクロコントローラと接続します。ボード上の抵抗を追加または削除することで、一部のGPIOを変更できます。また、このボードはArduino UNO R3コネクタやST morphoコネクタに対応します。

STMicroelectronicsのX-NUCLEO-S2868A2拡張ボードの画像図3:X-NUCLEO-S2868A2拡張ボードにより、868MHz ISM帯を使用する設計の開発を加速することができます。(画像提供:DigiKey)

RFモジュールで統合を簡素化

迅速な市場投入と低消費電力が求められるアプリケーションでは、MAMWLE-00モジュールを使用することでシステムの統合を簡素化できます。RF出力には50ΩのU.FLコネクタを使用し、48MHzのArm® Cortex® M4 32ビットRISCコアを16.5 x 15.5 x 2mmのパッケージに搭載しています。このRFモジュールでは、低電力動作の状態をいくつか選択することが可能です。LoRa、(G)FSK、(G)MSK、BPSKといった複数の無線変調方式を実装し、帯域幅、拡散係数(SF)、電力、コーディングレート(CR)の異なるオプションを設定できます(図4)。組み込まれたハードウェア暗号化/復号化アクセラレータは、高度な暗号化規格(AES、128ビットと256ビットの両方)や、Rivest-Shamir-Adleman(RSA)、Diffie-Hellmann、ガロア体上の楕円曲線暗号(ECC)用の公開鍵アクセラレータ(PKA)など、さまざまな規格を実装できます。

Move-XのMAMWLE-00モジュールの画像図4:MAMWLE-00モジュールは、省電力モードやさまざまなRF変調規格の選択肢を設計者にもたらします。(画像提供:DigiKey)

M-Bus RFモジュール

設計者は、ワイヤレスM-Busプロトコルを使用する場合、12.7 x 25.4 x 3.7mmのシールド表面実装パッケージで提供されるRadiocraftsのRC1180-MBUS RFトランシーバモジュールを検討できます(図5)。このRFモジュールは、1ピンのアンテナ接続および、設定とシリアル通信のためのUARTインターフェースを備えています。また、ワイヤレスM-Bus仕様のS、T、R2モードに対応し、868MHzの周波数帯で12チャンネル動作し、欧州の無線規制のもと、ライセンスフリーで使用できることが事前に認可されています。

RadiocraftsのRC1180-MBUS RFトランシーバモジュールの画像図5:ワイヤレスM-Busプロトコルは、RadiocraftsのRC1180-MBUS RFトランシーバモジュールを使用して実装できます。(画像提供:DigiKey

M-Bus無線モジュール開発キットのRC1180-MBUS3-DKセンサボードにより、オンボードのセンサモジュールを迅速に評価し、アプリケーションを調整し、プロトタイプを構築することが容易になります。SMAオスコネクタ付きで50Ω、4分の1波長のモノポールアンテナ2本、USBケーブル2本、USB電源が含まれています(図6)。この開発キットは、センサボードのコンセントレータ、ゲートウェイ、またはレシーバとなります。

RadiocraftsのM-Bus開発キットの画像図6:このM-Bus開発キットには、SMAオスコネクタ付きで50Ω、4分の1波長のモノポールアンテナ2本、USBケーブル2本、USB電源(図示せず)が含まれています。(画像提供:DigiKey)

アンテナ統合

RFモジュールにアンテナを接続する場合、Radiocraftsでは、50Ωに整合されたRFピンに直接接続することを推奨しています。RFピンにアンテナを接続できない場合は、RFピンとアンテナコネクタの間のPCBトレースを50Ωの伝送線路にする必要があります。比誘電率4.8の2層FR4 PCBの場合、マイクロストリップ伝送線路の幅はボードの厚さの1.8倍にする必要があります。また、伝送線路はPCBの上面に、グランドプレーンはPCBの下面に設置する必要があります。たとえば、厚さ1.6mmの標準的な2層FR4 PCBを使用する場合、マイクロストリップ伝送線路の幅は2.88mm(1.8 x 1.6mm)にしなくてはなりません。

4分の1波長のホイップアンテナは最も簡単な実装方法で、グランドプレーンの上で使用すると37Ωのインピーダンスとなり、一般的に50Ωの整合回路は必要ありません。また、PCB裏面からグランドプレーンを取り除き、銅トレースを用いてPCBアンテナを作製することも可能です。PCBの残りの部分には、カウンターウェイトとして機能するように、アンテナと同じ大きさのグランドプレーンを設置するのが最適です。PCBアンテナが4分の1波長より短い場合は、50Ωの整合ネットワークを追加する必要があります。

まとめ

ワイヤレススマートメータに使用するワイヤレスプロトコルを選択する際は、データスループット、消費電力、送信距離、ウェブアクセスの必要性など、いくつかの要因を考慮する必要があります。さらに、RF ICとモジュールの選択には、ソリューションのサイズ、コスト、柔軟性、市場投入までの時間、法規制への準拠などのトレードオフが関係します。適切なRFプロトコルを特定し、ICやモジュールを選択して、基本的なRFシステムを設計した後、アンテナを統合することが、ワイヤレススマートメータの開発を成功させるために重要となるのです。

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著者について

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Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

ジェフ氏は、パワーエレクトロニクス、電子部品、その他の技術トピックについて30年以上にわたり執筆活動を続けています。彼は当初、EETimes誌のシニアエディターとしてパワーエレクトロニクスについて執筆を始めました。その後、パワーエレクトロニクスの設計雑誌であるPowertechniquesを立ち上げ、その後、世界的なパワーエレクトロニクスの研究グループ兼出版社であるDarnell Groupを設立しました。Darnell Groupは、数々の活動のひとつとしてPowerPulse.netを立ち上げましたが、これはパワーエレクトロニクスを専門とするグローバルなエンジニアリングコミュニティで、毎日のニュースを提供しました。また彼は、教育出版社Prentice HallのReston部門から発行されたスイッチモード電源の教科書『Power Supplies』の著者でもあります。

ジェフはまた、後にComputer Products社に買収された高ワット数のスイッチング電源のメーカーであるJeta Power Systems社を共同創設しました。ジェフは発明家でもあり、熱環境発電と光学メタマテリアルの分野で17の米国特許を取得しています。このように彼は、パワーエレクトロニクスの世界的トレンドに関する業界の情報源であり、あちこちで頻繁に講演を行っています。彼は、定量的研究と数学でカリフォルニア大学から修士号を取得しています。

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DigiKeyの北米担当編集者