過渡電圧サプレッサを用いたESD保護強化の方法
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2022-08-10
インダストリ4.0、モノのインターネット(IIoT)、5Gテレフォニの普及により、より高度な電子機器が、より過酷な環境に配置されるようになってきています。このため、産業用ロボット、IO-Linkインターフェース、産業用センサ、IIoTデバイス、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)、Power over Ethernet(PoE)などのアプリケーションにおいて、静電気放電(ESD)や電気的オーバーストレス(EOS)イベントからの、再現可能で決定的な保護が必要とされています。これらのアプリケーションが、IEC 61000の過渡保護要件を満たすことが要求されているからです。過渡電圧抑制(TVS)ダイオードは設計者によって大いに活用されてきました。ところが、アプリケーションで求められることが多くなったのは、それをはるかに上回って決定的・直線的・安定的でかつ小型のESDおよびEOS保護です。
このような性能とフォームファクタへの要求の高まりに対応するため、設計者は、より確実な性能レベルを得るために、優れたクランプ性能、直線性、温度安定性を兼ね備えた過渡電圧サプレッサ(TDS)デバイスを利用することができます。TDSデバイスは、TVSダイオードのようにサージエネルギーを放散するのではなく、その進路をグランドに向けるものです。TDSデバイスは、エネルギーを放散しないため、TVSダイオードよりも小型にすることが可能であり、ソリューションの小型化に寄与します。さらに、TDSデバイスのクランプ電圧はTVSダイオードより30%低くすることができるので、システムのストレスを軽減し、安定性を向上させることができます。
本稿では、TDSデバイスの動作とそれらが主要アプリケーションにもたらすメリットについて解説します。また、SemtechのTDSデバイスの実例と、それをうまく利用するためのプリント基板レイアウトガイドラインを紹介します。
TDSサージ保護の仕組み
TDSデバイス内の主な保護素子は、サージ定格の電界効果トランジスタ(FET)です。EOSイベントが発生し、過渡電圧が精密トリガ集積回路の降伏電圧(VBR)を超えると、駆動回路が作動し、過渡エネルギー(IPP)を接地するFETを駆動します(図1)。
図1:TDSデバイスでは、EOSイベントが検出されると、精密トリガ回路(左)がFET電圧制御スイッチ(右)を作動させ、エネルギースパイク(IPP)の進路を直接グランドに向けます。(画像提供:Semtech)
パルス電流がIPPに向かって上昇すると、FETのオン抵抗(RDS(ON))が数ミリオーム(mΩ)となり、クランプ電圧(VC)がトリガ回路のVBRとほぼ同じ値になります。その結果、TDSデバイスのVCがIPPまでの範囲全体にわたってほぼ一定となります。これと異なり、一定にはならないTVSデバイスにおけるクランプ動作は、次の式で与えられます。

ここで、Rdynは動的抵抗です。
TVSデバイスでは、Rdynは固定値であるため、クランプ電圧は、定格電流範囲においてIPPが高くなると、直線的に増加します。TDSデバイスの場合、VCは、動作温度範囲においてだけでなく、IPPまでの範囲においても安定しているので、決定的なEOS保護が可能です(図2)。
図2: TDS2211PのようなTDSデバイスでは、クランプ電圧は動作温度範囲全体とIppまでの範囲全体にわたって一定(実線)のため、決定的なEOS保護が可能です。(画像提供:Semtech)
TDSデバイスはVCが比較的低いため、保護対象部品へのストレスが少なくなるので、安定性が向上します(図3)。
図3:TDSデバイスの低VC(ここではVClampとして示す)(緑色のトレース)は、保護対象部品へのストレスを軽減することで安定性を向上させます。(画像提供:Semtech)
TDSデバイスの性能は、IEC 61000-4-2のESD耐性要件、IEC 61000-4-4のバースト電磁波耐性/電気的高速過渡現象(EFT)耐性要件、およびIEC 61000-4-5のサージ耐性要件を満たすシステム設計をサポートします。このため、TDSデバイスは過酷な環境下でのさまざまなアプリケーションに適しています。以下のセクションでは、22VのTDSデバイスを使用したロードスイッチ保護、33VのTDSデバイスを使用したIO-Linkトランシーバ保護、58VのTDSデバイスを使用したPoE設備の保護など、TDSのアプリケーション例をご紹介します。
ロードスイッチの保護
産業用機器、ロボット、リモートメータ、USB Power Delivery(PD)、IIoTデバイスにおけるロードスイッチやe-fuse入力は、22VのTDS2211Pを使用してEOSイベントから保護することができます。このTDSデバイスのEOS保護定格は以下の通りです。
- ESD耐電圧定格:±30kV(キロボルト)(接触時および空気中)(IEC 61000-4-2準拠)
- ピークパルス電流定格:40A(アンペア)(tp = 8/20 μs(マイクロ秒))(IEC 61000-4-5準拠)、±1kV(tp = 1.2/50μs、シャント抵抗 (RS) = 42 Ω)(IEC 61000-4-5準拠)(非対称ライン用)
- EFT耐電圧:±4kV(100kHz(キロヘルツ)および5kHz、5/50ns(ナノ秒))(IEC 61000-4-4準拠)
この構成で使用すると、TDS2211Pは雷やESDなどのEOSイベントから下流の部品を保護するとともに、VCをロードスイッチのスイッチングFETの損傷閾値未満に保つことができます(図4)。
図4:TDS2211Pは、ロードスイッチ(HS2950P)と下流の部品を雷やESDなどのEOSイベントから保護するために使用することができます。(画像提供:Semtech)
IO-Linkの保護
IO-Linkトランシーバは、産業環境で見られる一般的なESDやEOSの危険イベントだけでなく、IO-Linkマスターデバイスへの接続時や取り外しの際に、数千ボルトの電圧スパイクに遭遇する可能性があります。IO-Linkトランシーバの保護に通常使用されるTVSダイオードをTDSデバイスで補うことで、保護性能を向上させることができます。一般的な回路保護アプリケーションでは入力電源の少なくとも115%に定格されたデバイスを使用するため、IO-Linkのような24VのアプリケーションではTDS3311P TDSのような33Vの保護デバイスが適しています。TDS3311Pの主な仕様は以下の通りです。
- ESD耐電圧(接触時および空気中):±30kV(IEC 61000-4-2準拠)
- ピークパルス電流耐量:35A(tp = 8/20 μs)、 および 1 kV(tp = 1.2/50μs、RS = 42 Ω)(非対称ライン用。IEC 61000-4-5準拠)
- バースト/EFTイミュニティ規格 IEC 61000-4-4に準拠
IO-Linkの2大ポート構成として3ピンと4ピンがあり、これらには互いに微妙に異なる保護方式が必要です。いずれの場合も、TDSデバイスに加え、VBUS(L+(24V))ラインにTVSダイオードµClamp3671Pを搭載することで、逆極性保護が可能です(図5)。
図5:3ピンIO-Linkポート(上)と4ピンIO-Linkポート(下)におけるTDSデバイス(緑の長方形)によるESD保護の比較。(画像提供:Semtech)
3ピン実装の場合、TDSデバイスは3個必要です。必要に応じて、2つのTDS3311Pを向かい合わせにして双方向の保護を行うことも可能です。4ピン構成を使用する場合、IO-Linkポートの4つのピンはすべて正負両方のサージに耐える必要があります。IO-Link トランシーバのサージ保護性能を確認するテストは、コネクタのすべてのピンペア間に対して必要であり、ESD に対してはIEC 61000-4-2で、バースト/EFTに対してはIEC 61000-4-4で、サージに対してはIEC 61000-4-5で要求されるレベルで実施する必要があります。
PoE用保護
PoE保護方式は、EOS イベントがコモンモード(グランドの場合)または差動モード(ライン間の場合)である可能性を考慮する必要があります。PoEは48ボルトで電力を供給するため、TDS5801Pのような58ボルトのTDSデバイスを使用すれば、RJ-45コネクタ側でEOS保護を行うことができます。TDS5801Pの仕様は以下の通りです。
- ESD耐電圧:±15kV(接触時)または±20kV(空気中)(IEC 61000-4-2準拠)。
- ピークパルス電流耐量:20A(tp = 8/20μs)、1kV(tp = 1.2/50μs、RS = 42Ω)(IEC 61000-4-5準拠)
- EFT耐電圧:±4 kV(100kHz および5kHz、5/50ns)(IEC 61000-4-4準拠)
PoEシステムの電源は、トランスのセンタータップ接続を使用して供給されます。PD(RJ-45)側は、モードA(データペア1と2および3と6を使用して電源供給)とモードB(ピン4と5および7と8を使用して電源供給)の両方を保護する必要があるため、センタータップ接続全体で双方向の保護を行うにはTDS5801Pが2組必要になります(図6)。
図6:バックツーバックのTDSデバイス(緑色、TDS5801P)は、PoEシステムにおいてEOSイベントからの双方向保護を提供します。(画像提供:Semtech)
トランスは、コモンモードの絶縁を行いますが、差動サージからの保護を行うことはできません。差動EOSイベントが発生すると、ライン側のトランス巻線が充電されて、サージが終了するかトランスが飽和するまでエネルギーが二次側に伝達されます。PD側のTDSデバイスは、差動EOSイベントから保護するために、トランスのEthernet物理層(PHY)側に配置された4つのESD保護デバイスRClamp3361Pで補完することができます。
TDSデバイス
TDSデバイスSurgeSwitchは、動作電圧から設計者が選択可能で、具体的には22ボルト(TDS2211P)、30ボルト(TDS3011P)、33ボルト(TDS3311P)、40ボルト(TDS4001P)、45ボルト(TDS4501P)、58ボルト(TDS5801P)があります(表1)。これらのデバイスは、IEC 61000の要件を満たしているので、5Gテレフォニや産業界の過酷な環境で動作するシステムで使用できます。
表1:サージスイッチのデバイスは、さまざまなアプリケーション要件に対応するため、22~58ボルトの電圧定格で提供されています。(画像提供:Semtech)
TDSデバイスは損失ゼロであり、サージエネルギーの進路を低インピーダンス経路で直接グランドに向けるため、1.6 x 1.6 x 0.55mmの小型パッケージに収容できます。このため、他のサージ保護デバイスの収容によく使われるSMAおよびSMBパッケージよりも大幅に基板面積を削減することができます。6ピンDFNパッケージには、3つの入力ピンと、サージエネルギーの進路をグランドに向けるための3つのピンがあります(図7)。
図7:TDSデバイスは、6本のリード線(右)を持ちますが、そのうち、ピン1、2、3はグランドに接続し、ピン4、5、6はEOS/ESD保護入力となっています。1.6 x 1.6 x 0.55mmのDFNパッケージに収納されています。(画像提供:Semtech)
基板レイアウトガイドライン
TDSデバイスSurgeSwitchをPCボードに配置する場合、すべてのグランドピン(1、2、3)を単一のトレースに接続し、かつ、すべての入力ピン(4、5、6)を単一のトレースに接続することで、最大のサージ電流耐量を得ることができます。グランドがTDSデバイスとは異なる基板レイヤにある場合は、さらに複数のビアを介してグランドプレーンと接続することを推奨します(図8)。このような基板レイアウトガイドラインに従うことで、寄生インダクタンスを最小化し、デバイスの性能を最適化することができます。また、TDSデバイスSurgeSwitchは、保護対象のコネクタやデバイスのできるだけ近くに配置する必要があります。これは、隣接するトレースへの過渡エネルギーのカップリングを最小限に抑えることができるので、特に立ち上がりの速いEOSイベント時に必要となります。TDSデバイスはエネルギーを放散しないので、熱エネルギーを伝導させるための熱パッドを下に敷く必要はありません。
図8:グランドプレーンがTDSデバイスとは異なる基板レイヤにある場合、最適なパフォーマンスを得るには、複数のビアを介した接続を行うことを推奨します。(画像提供:Semtech)
まとめ
過酷な環境で動作する産業用機器および5Gテレフォニ機器の設計者は、TDSデバイスを利用することで、ESDおよびEOSイベントからの安定的・決定的な保護を提供することができます。TDSデバイスのVCは比較的低いため、部品への電気的オーバーストレスが軽減されるので、システムの安定性が向上します。これらのデバイスは、IEC 61000の過渡保護要件を満たしているほか、特定のアプリケーションの要件に合わせて22~58ボルトの電圧範囲から選択可能です。そのコンパクトなサイズは、ソリューション全体のサイズを縮小するのに役立ちますが、設計者はTDSデバイスの性能を最大化するために、いくつかの簡単な基板レイアウト要件に従う必要があります。
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