産業用通信ネットワークのための高速で堅牢なEthernetコネクタの使用

著者 Steven Keeping(スティーブン・キーピング)

DigiKeyの北米担当編集者の提供

産業用モノのインターネット(IIoT)またはインダストリー4.0は、困難な環境でも動作する通信ネットワークへの需要を促進しています。多くの場合、このようなネットワークの弱みはコネクタです。なぜなら、産業環境は高温で汚れており、一般的には振動する機械が組み込まれているため、機械的な接続部に継続的なストレスがかかり、信頼性が損なわれるためです。現代の工場における接続障害により、状況は悪化します。生産量の減少はすぐに多額の損失につながるため、経済的な大惨事が発生する可能性があり、安全な接続の確保に失敗した場合には深刻な状況を引き起こす可能性があります。そのため、標準的なRJ45コネクタの代替品が必要となります。

設計者は、最初に配置される場所に関係なく、現在の工業規格や侵入保護(IP)等級を満たすのに十分堅牢なEthernetコネクタを必要としています。これらの製品は、最高10ギガビット/秒(Gbps)のCat 6A Ethernet速度で確実に動作し、Power-over-Ethernet(PoE)をサポートし、可能な限り「将来に対応した」製品である必要がありますが、その一方で厳しい設計予算も満たす必要があります。

この記事では、産業用通信システムの要件と適切なIPレベルを検討します。次に、産業用Ethernetコネクタの機能がこれらの要求にどのように対応しているかを説明してから、Amphenolの実際のソリューションを例として紹介し、エンジニアが新しいプロジェクトでコネクタを使用する方法を示します。

産業用ネットワークの要件

現代の産業は、「インダストリー4.0」(「製造業のデジタル化」と表現される)を実現するために、有線ネットワークを広く採用しており、70年代後半から80年代にかけて起こったセクターのコンピュータ化を基盤にしています。経営者にとって、インダストリー4.0は生産性の向上、製品の高品質化、低価格化、安全性の向上を約束するものです。エンジニアにとっての課題は、現代のものづくりを支える堅牢なネットワークを構築することです。

国内および商用のEthernetネットワークのインフラストラクチャは、一般的に安価なケーブルと標準的なRJ45コネクタに基づいていますが、これらのコンポーネントは工場での応用向けに設計されていません。工場環境はより厳しいものであり、ケーブルやコネクタの選定には以下のようなストレス要因を考慮する必要があります。

  • 機械的:衝撃、振動、圧縮、屈曲、ねじり
  • 化学物質:水、油、溶剤、腐食性ガス
  • 環境:極端な温度、湿度、日射量
  • 電気的:静電気放電(ESD)、電磁干渉(EMI)、高電圧過渡現象

産業用ケーブルおよびコネクタは、ネットワークの寿命全体にわたって予想される最も厳しい条件に耐えられるような仕様でなければなりません。例えば、ケーブルを常温用の仕様にした場合、後になって工場が再編成され、温度がはるかに高いプロセスオーブンの近くをケーブルが走るようになったとしたら、あまり意味がありません。

産業用ケーブルには、耐摩耗性、耐薬品性(油を含む)、耐火性に優れたハイグレードのポリウレタン絶縁材が使用されます。ポリ塩化ビニル(PVC)などの絶縁体は安価な反面、油や化学物質によって脆くなったり、低温で割れたりすることがあります。

産業用Ethernetネットワークの構築

電気的ノイズの少ない環境では、シールドされていないツイストペアケーブルを使用しても良いかもしれません。しかし、アーク溶接機のような産業機器や、スイッチングリレー、ACドライブ、ソレノイドなどの工場用電気機器は、シールドされていないケーブルに干渉したりデータ障害を引き起したりする可能性があります。疑わしい場合は注意を怠らず、シールドケーブルを使用して、コストのかかるシステムエラーが後から発生することを防ぐ必要があります。工場の成長にともない、制御ケーブルや電源ケーブルに対して、これまでEthernet通信専用だったダクトを使用するのが一般的になっています。シールドされていないEthernetケーブルがもともと指定されていた場合は、データが破損する可能性があります。

金属箔と銅編組の両方を使用した二重シールド設計は、データの破損を防ぐための最も効果的なソリューションです。シールドが正しく機能するように、エンジニアはシールドコネクタを使用し、シールドをグランドに終端する必要があります。シールドを終端しないままにしておくと、実際にはアンテナとして機能して干渉問題を悪化させる可能性があります。

シールドケーブルを使用していても、信号は通信距離が長くなると劣化します。単線の導体は性能が良く、最大100mまでの長さを提供できますが、曲げやねじれによる損傷を受けやすくなります。撚り線ケーブルは、ねじれや曲がりには優れていますが、85mを超える長さのケーブルには使用しないでください(図1)。

単線の導体を使用したEthernetケーブルの図図1:単線の導体を使用したEthernetケーブルの長さは100mまでに制限し、撚り線ケーブルの場合は85mまでに制限します。(画像提供:Amphenol)

ネットワークを構築する場合、静的最小曲げ半径はケーブル外径(OD)の4倍とします。これは、撚り線ケーブルであれ単線ケーブルであれ、シールドケーブルと非シールドケーブルに適用されます。屈曲が必要な場合は、導体が単線のケーブルを使用しないでください。撚り線ケーブルのデータシートには通常、最大屈曲サイクルが規定されていますが、これは曲げ半径によって通常100万回から1000万回の間となります。

ケーブルは、ケーブルタイの下でケーブルを自由に動かせる程度の緩みを残した状態で固定してください。締め付けすぎると、導体の不具合の原因となるストレスポイントが作られます。また、複数のケーブルを束ねる場合も、ケーブルタイ内でケーブルを緩めておく必要があります。

ほとんどのコミッショニングエラーは現場での配線によって発生するため(ツイストペアを維持し、シールドを正しく終端することは難しく時間のかかる作業であるため)、工場出荷時に装着されたモールドコネクタの使用をお勧めします。

将来を見据えた設計

有線ネットワークには、速度、信号の完全性、セキュリティなどの重要な利点がありますが、設置や保守にはコストがかかります。したがって、ネットワークを規定することを任務とする設計者は、インフラが可能な限り長持ちし、最小限の修理で済むように、将来に目を向けなければなりません。

Ethernetの歴史の中で、ネットワーク速度の上昇は避けられませんでした。産業用ネットワークは将来的に、400Gbps またはテラビット/秒(Tbps)の速度を提供する光インフラストラクチャが多数になるでしょう。今日使用されている銅線向けに、高品質のツイストペアケーブルとコネクタを慎重に選択することで、ネットワークは現在の1Gbpsレートだけでなく、今後の10Gbps接続にも対応できるようになります(表1)。

Ethernetケーブルの速度および関連するEthernet動作周波数の表表1:Ethernetケーブルの速度および関連するEthernet動作周波数(通常はスループットに比例)。(画像提供:DigiKey)

工場ネットワークでも、Ethernetケーブルを使用して接続された機器に電力を供給する技術であるPoEの活用が始まっています。PoEは、単一の標準Ethernetインフラストラクチャを使用しながら、数十ワットの電力を処理します。この技術の一元性と柔軟性により、ネットワーク上の各電源デバイスのローカル電源供給が不要になるため、電源デバイスをどこにでも配置でき、必要に応じて後で簡単に再配置することができます。

PoE+と呼ばれるPoEの強化形態では、接続されたデバイスに最大25.5ワットのDCを供給できるため、防犯カメラなどの高電力使用機器を接続することができます。(DigiKeyの技術記事『高い要求に合わせてPower-over-Ethernetを適合』を参照。)

ケーブルとコネクタは、機械的、化学的、環境的、電気的ストレスに対する抵抗力を同等にする必要があるように、機能的な性能も同等であるように適合させる必要があります。動作特性の最大値は、ネットワークで最も能力が低いコンポーネントによって決定されます。例えば、Cat 6aケーブルとCat 6コネクタを合わせた場合、システムの最大スループットは、ケーブルの公称最大スループットである10Gbpsではなく、1Gbpsになります。

産業用ネットワーク用コネクタ

産業用ネットワークを構築する際には、ケーブルの選択、ルーティング、Ethernet周波数を慎重に検討することが重要ですが、Ethernetネットワーク内ではコネクタが最大の設計課題となります。コネクタは、水や汚れが侵入する可能性があるだけでなく、Ethernetペアが撚られていない短い電線部分も含まれているため、電気的ノイズの影響を受けやすいからです。

工場環境が大きく異なるため、設計者はコネクタの使用場所を考慮する必要があります。例えば、IEC規格60529で定められたIPコードでは、コネクタを形成する機械的なケーシングと電気的なエンクロージャによって提供される保護の程度が分類されます。コードの1桁目は、固体粒子に対する保護の程度(0(保護なし)~6(防塵密閉))を示し、2桁目は液体の侵入に対する保護の程度(0(保護なし)~9K(強力な高温のウォータージェット))を示しています。

クリーンで乾燥した工場環境で使用されるコネクタは、多くの産業用コネクタに共通してIP20(指などからの保護あり、湿気からの保護なし)の評価を受けています。例えば、Amphenolのix Industrial IP20コネクタは、一般的なRJ45よりも70%小さいパッケージに収められた、高速で堅牢な10極のコンポーネントです。

コネクタメーカーは一般的に、より汚れて湿った環境で使用する場合のために、より高い保護機能を備えたオプションを提供していますが、Amphenolも例外ではありません。ix Industrial IP20シリーズは、標準製品用のIP20から、非標準製品用のIP67(防塵密閉、水深1mまでの浸漬)まで幅広く揃っています。

ネットワーク設計者は、特に両端にオス型コネクタを備えたコードセットなどで、接続数を最小限に抑えることを目標にする必要があります。これらは、エンジニアリング以外の従業員が非常に簡単に延長できますが、ネットワークの残りの部分のパフォーマンスに悪影響を及ぼす結果となります。また、固定コネクタはすべてメスタイプが標準となっています。

他のメーカーと同様に、Amphenolのコネクタにはケーブル用のオス型コネクタと、固定設置用の3種類のメス型コネクタがあります。3種類とは、バルクヘッド用の垂直型レセプタクル、直角垂直型(ND9AS1200)、プリント基板実装用の水平型(ND9BS3200)レセプタクルです(図2)。プリント基板実装向けは、基板へのはんだ付けが容易な面実装技術(SMT)またはスルーホールのフォームファクタで提供されています。

Amphenolのix Industrialコネクタの画像図2:Amphenolのix Industrialコネクタは、ケーブル、バルクヘッド、およびプリント基板アプリケーション用の各種プラグおよびレセプタクルとして提供されています。(画像提供:Amphenol)

オス型は個別に供給(ND9AP5200)、または長さ500~2000mmのケーブルセット(ND9ACB250A)の一部として供給することができます。

コネクタの品質に関する有用な指針は、それがIEC 60512やIEC 61076といった規格の要件を満たしているかどうかをチェックすることです。IEC 60512には、電気・電子機器で使用する際にコネクタが満たすべきしきい値および、機械的・電気的試験の詳細が記載されています。規格の対象となるのは、挿抜力、耐振動性、最大嵌合回数などの機械的要素と、接触抵抗、遮蔽、絶縁などの電気的要素です。

Amphenolのix Industrialコネクタは、堅牢で小型化されたEthernetインターフェース(関連するIEC規格に準拠)を提供するように設計されており、標準的なRJ45コネクタと比較して最大75%の省スペース化を実現しています。10mmのコネクタピッチと堅牢な2点メタルラッチングを備えたこのコネクタは、最大10GbpsのEthernet通信に対応するCat 6a性能、PoE/PoE+機能、および電磁干渉(EMI)耐性のための360°遮蔽を提供します。

プリント基板コネクタは、固定するための頑丈なはんだタブを備えており、信頼性の高い接続を維持しながら、衝撃や振動に耐えるのに十分な堅牢性を備えています。また、5000回の嵌合サイクルに耐えることができます。

表2と表3は、IEC 60512規格の主要な要素に対して、ix Industrialシリーズがどのように機能するかを詳細に示しています。

Amphenolのix Industrial Ethernetコネクタの電気的特性を示す表表2:電気的な観点から見ると、ix Industrial Ethernetコネクタは最大1.5Aの電流を処理でき、IEC 60512の要件を満たしています。(画像提供:DigiKey)

Amphenolのix Industrialコネクタの機械的性能を示す表表3:ix Industrialコネクタの機械的性能により、IEC 60512および60068の要件を満たしています。(画像提供:DigiKey)

IEC 61076はより焦点を絞っており、最大500MHzまでの周波数に対応した、データ送信用の10ウェイ、遮蔽、フリーおよび固定の長方形コネクタを対象としています。この文書には、産業用ネットワークの共通寸法、機械的特性、電気的特性、伝送特性、および環境要件が規定されています。

特に、IEC 61076には、コネクタの極性キーとキーウェイの位置を決定するコードが特定されています。タイプAコネクタは、100Mbpsから10GbpsのEthernet通信用です。タイプBコネクタは、シグナリング、シリアル、その他の産業用バス通信システムなど、その他すべての非Ethernetアプリケーションを対象としています(図3(a)、(b))。

データ送信用コネクタの極性およびキーウェイの図図3:IEC 61076では、データ送信用コネクタの極性とキーウェイが規定されています。タイプA(a)は、レセプタの右下に位置する45°の角を使用しています(嵌合面を見た場合)。タイプB(b)の場合、レセプタの左上隅に45°にカットされた角が位置しています。(画像提供:Amphenol)

結論

現代の工場は、生産性向上とコスト削減を実現するために製造業のデジタル化を行えるよう、通信ネットワークを備えています。これらのネットワークを構成するコネクタやケーブルには、過酷な産業環境に耐える堅牢性だけでなく、将来の高速通信やPoEの必要性にも対応できることが求められています。

Amphenolなどの企業は、これらの課題と工場の予算を正確に満たすように設計された産業用グレードのケーブルとコネクタを提供しています。これらの製品は厳格な産業用コネクタ規格に準拠しており、高いネットワーク性能と長寿命をサポートし、最小限のメンテナンスで済む機能を備えています。しかし、上述のとおり、設計者はコネクタを適切に応用してIIoTまたはインダストリー4.0ネットワークの設計に成功できるよう、適用される規格とコネクタの電気的・機械的制限の両方を理解しておく必要があります。

DigiKey logo

免責条項:このウェブサイト上で、さまざまな著者および/またはフォーラム参加者によって表明された意見、信念や視点は、DigiKeyの意見、信念および視点またはDigiKeyの公式な方針を必ずしも反映するものではありません。

著者について

Image of Steven Keeping

Steven Keeping(スティーブン・キーピング)

スティーブン・キーピング氏はDigiKeyウェブサイトの執筆協力者です。同氏は、英国ボーンマス大学で応用物理学の高等二級技術検定合格証を、ブライトン大学で工学士(優等学位)を取得した後、Eurotherm社とBOC社でエレクトロニクスの製造技術者として7年間のキャリアを積みました。この20年間、同氏はテクノロジー関連のジャーナリスト、編集者、出版者として活躍してきました。2001年にシドニーに移住したのは、1年中ロードバイクやマウンテンバイクを楽しめるようにするためと、『Australian Electronics Engineering』誌の編集者として働くためです。2006年にフリーランスのジャーナリストとなりました。専門分野はRF、LED、電源管理などです。

出版者について

DigiKeyの北米担当編集者