SMD電力分配器と指向性カプラを用いたSWaP-C衛星通信アンテナアレイの実装方法

著者 Steven Keeping(スティーブン・キーピング)

DigiKeyの北米担当編集者の提供

地球周囲の空間は急速に埋まりつつあり、今後10年間でさらに新しい人工衛星が何千機も打ち上げられる予定です。そのため、衛星通信(SATCOM)の設計者は、2つの側面から圧力を受けています。第1に、従来のL、C、X帯の衛星通信用帯域は、急速に使い果たされています。第2に、商業衛星ビルダーは、製品をより軽く、より安く打ち上げられるようにしたいと考えています。

衛星通信の設計者は、RF帯域の不足に対応するため、通信を従来の衛星バンドからKu(12~18GHz)などの高周波RFバンドに移行しています。Kuバンドでは、より高いスループットが期待でき、過密もはるかに少なくなります。サイズ、重量、電力、コスト(「SWaP-C」)の最小化という要求に対し、設計者は高度なパッケージ型面実装デバイス(SMD)を使用して、アンテナアレイのような衛星の主要要素を構築することで対応しています。

この記事では、Kuバンド衛星通信用アンテナアレイに使用される重要な受動素子である、SMD電力分配器と指向性カプラの利点について概説します。さらに、Knowles Dielectric Labsのデバイスの例を紹介し、それらが今日の低SWaPという要件を満たす方法や、設計者がそれらの重要部品の主要性能特性を用いてアンテナアレイの性能を最適化する方法について説明します。

アンテナアレイの進歩

衛星アンテナや地上局アンテナにおける最近の開発では、単体のパラボラアンテナからアンテナアレイへの移行が進んでいます。アンテナアレイは、2つ以上の素子を組み合わせたもので、それぞれが本質的にミニアンテナとして機能します。衛星通信アプリケーションにおいて、従来のアンテナと比較したアンテナアレイの利点は、次の通りです。

  • 高ゲイン
  • 信号対ノイズ比(SNR)の向上
  • 可動型の送信ビームおよび、特定方向からの受信信号に対する感度の向上
  • ダイバーシティ受信の向上(信号のフェーディングを克服するのに貢献)
  • アンテナ放射パターンのサイドローブの低減

従来のアレイ構造は、電子アセンブリを横に並べて複数のコネクタやケーブルで接続した3Dブリックで構成されています。これにより、単体のパラボラアンテナと比較して、アンテナアレイの体積や複雑さが増大します。

この体積と複雑さの問題を解決するために、チップアンドワイヤまたはハイブリッド製造技術によって作られるレンガのような構造を排除できる低SWaP-Cに焦点が当てられました。最近の設計は、SMDパッケージングを使用したプリント基板をベースとする、複数のマイクロストリップ2次元平面素子で構成されています。この平面構造により、多くのコネクタやケーブルが不要となり、SWaPの強化とともに、信頼性の向上や製造の簡素化も実現できます(図1)。

低SWaP-CのSMD部品(右)と従来の3Dブリックアセンブリ(左)を比較した画像図1:低SWaP-CのSMD部品(右)を使用することで、従来の3Dブリックアセンブリ(左)と比較して、衛星通信用アンテナアレイの体積を減らすことが可能になります。(画像提供:Knowles DLI)

SMDにより、アンテナアレイの体積を大幅に減少させるだけでなく、単一の自動組立ラインを使用することも可能となるため、従来のチップアンドワイヤ方式やハイブリッド方式に比べて製造コストを劇的に削減できます。また、SMDアセンブリは、市場投入までの時間を短縮するのにも役立ちます。

このような進化を可能にしたのは、宇宙空間でも高い動作周波数で確実に動作する新世代のSMD部品です。このデバイスは、革新的な誘電体、厳密な許容差、薄膜製造、新しいマイクロストリップライントポロジを特長とし、高い性能/面積比を提供します。

アンテナアレイの主要部品:電力分配器

アンテナアレイに使用される重要な受動SMDが、電力分配器です。個々の電力分配器は、受信信号を2つ以上の信号に分割し、アレイを構成する各アンテナ素子に分配します。最も単純な電力分配器は、入力電力から一部の回路損失を差し引いた電力を各出力レグに均等に分配しますが、他の形態の電力分配器では、入力電力を各出力レグに比例して分配することも可能です。

電力分配器の構成にはいくつかの種類がありますが、高周波アプリケーションでは、マイクロストリップラインのウィルキンソン設計が一般的です(図2)。基本形態では、電力分配器の各レグが、受信するRF信号の波長の1/4を測定します。たとえば、中心周波数が15GHzの受信信号の場合、各レグの長さは5mmとなります。これらのレグは、1/4波長のインピーダンス変換器として動作します。

絶縁抵抗器は、出力ポートを一致させるために使用します。各出力ポート間の電位がゼロであるため、抵抗器に電流が流れず、抵抗損失は発生しません。また、この抵抗器は、デバイスを逆向きに使用した場合(電力結合器として)でも優れた絶縁性を発揮するため、各チャンネル間のクロストークを抑制できます。

ウィルキンソン電力分配器の図図2:基本的なウィルキンソン電力分配器は、2つの1/4波長インピーダンス変換器と絶縁抵抗器を使用して、出力ポートを一致させます。ポート2と3はそれぞれ、ポート1の入力電力の半分を供給します。(画像提供:Knowles DLI)

電力分割時の損失を抑えるため、電力分配器の2つの出力ポートをそれぞれ、2 Zoのインピーダンスにする必要があります。(2 Zoを並列にすると、全体のインピーダンスがZoとなります。)

R = 2 Zoの均等な電力分配の場合:

式1

式の要素の意味は、次のとおりです。

R = 2つのポート間に接続された終端抵抗の値

Zo = システム全体の特性インピーダンス

Zmatch = 電力分配器のレグにある1/4波長トランスのインピーダンス

散乱行列(S行列)には、ウィルキンソン電力分配器のようなRF線形ネットワークの電気的性能を説明するために使用される散乱パラメータが含まれます。図3は、図2に示した単純な形の電力分配器のS行列を示しています。

ウィルキンソン電力分配器の散乱行列( S行列)の画像図3:図2に示したウィルキンソン電力分配器の散乱行列(S行列)。(画像提供:スティーブン・キーピング氏)

S行列の主な特長は、次の通りです。

  • Sij = Sji(ウィルキンソン電力分配器が結合器としても使用できることを示す)
  • 各端子が一致している(S11、S22、S33 = 0)
  • 出力端子が絶縁されている(S23、S32 = 0)
  • 電力が均等に分割されている(S21 = S31

ポート2と3の信号が同位相かつ同じ大きさであれば、損失は最小となります。理想的なウィルキンソン電力分配器は、S21 = S31 = 20 log10(1/√2)=(-)3dB(すなわち、各出力ポートで入力電力の半分) を実現します。

マイクロストリップラインのウィルキンソン電力分配器は、低SWaP-Cのアンテナアレイアプリケーションのための優れたソリューションとなります。Kuバンドの市販品としては、Knowles Dielectric Labsの PDW06401 16GHz 2ウェイウィルキンソン電力分配器があります。Knowlesが持つ誘電体および薄膜製造のノウハウにより、Kuバンド衛星通信アンテナアレイを備えた低損失で小型のSMDを製造することが可能となりました。

PDW06401のサイズは3 × 3 × 0.4mmで、低損失材料を使用することにより、広い温度範囲にわたって性能のばらつきを最小限に抑えています。このパッケージの特性インピーダンス(Z0)は、高周波RFシステムで電圧定在波比(VWSR)とリターンロスを最小化するために必要な50Ωの要件に適合します。このデバイスは、公称位相シフトゼロ、振幅バランス±0.25dB、位相バランス±5°を提供します。過剰挿入損失は、0.5dBです。図4は、PDW06401電力分配器の周波数特性を示しています。

Knowles DLIのPDW06401電力分配器の周波数特性を示すグラフ図4:PDW06401電力分配器の周波数特性。RLは端子整合(S11、S22など)、Isoは各出力ポート間の絶縁(S23、S32)、ILは出力電力(S21、S31)を表しています。(画像提供:Knowles DLI)

電力分配器のリターンロス、絶縁、振幅バランス、および位相バランス特性は、以下のようにアンテナアレイの性能にとって重要です。

  • ロスが大きいと最大送受信ビームエネルギーが直接損なわれるため、製品のリターンロスを低くする必要があります。
  • 製品の絶縁は、アンテナアレイの信号経路間の絶縁に影響を与えてそのゲインを向上させるため、高くする必要があります。
  • デバイスの振幅バランスは、アンテナの振幅性能と実効等方放射電力(EIRP)に影響を与えるため、0 dBに近づける必要があります。
  • デバイスの位相バランスは、最大限の電力伝達を促進し、ネットワーク上のすべてのブランチに対して意図した位相長を確保するため、0°の差に近づける必要があります。位相のアンバランスが大きいとEIRPが悪化し、ビーム形成アンテナアレイの放射パターンが変化する可能性があります。

アンテナアレイの主要部品:指向性カプラ

指向性カプラは、アレイ素子の送受信電力を一貫して測定することにより、アンテナアレイの中で重要な役割を果たすもう一つの部品です。指向性カプラは、既知の量の送信電力または受信電力を別のポートに結合し、そこから測定できるようにする受動デバイスです。結合は通常、2つの導体を近接して配置し、一方のラインを通過するエネルギーが他方のラインに結合されるようにすることで実現します。

デバイスには、入力、送信、結合、絶縁という4つのポートがあります。主要な伝送ラインは、ポート1と2の間に位置しています。絶縁ポートは内部または外部の整合負荷(通常は50Ω)で終端し、結合ポート(3)は結合エネルギーをタップするために使用されます。通常、結合ポートは主要ラインのエネルギーの数分の1しか供給せず、多くの場合、主要ラインのポート1および2と区別するための小型コネクタを備えています。結合ポートは、システムの主電源フローを中断することなく、信号のパワーレベルや周波数情報を取得するために使用できます。送信ポートに入った電力は絶縁ポートに流れ、結合ポートの出力には影響を与えません(図5)。

電力分配器の結合ポート(P3)の図図5:電力分配器の結合ポート(P3)は、入力ポート(P1)に供給される電力の一部を引き渡し、残りは送信ポート(P2)を通過させます。絶縁ポート (P4) は、内部または外部の整合負荷で終端されます。(画像提供:WikipediaのSpinningspark)

カプラの主な特性は、結合係数です。

これは、次のように定義されます。

式2

最もシンプルなカプラは、入力信号の波長の1/4(例:15GHz信号の場合は5mm)だけ結合ラインが隣接する直角のトポロジを特長としています。このタイプのカプラは通常、ポート3で入力電力の半分を発生させ(すなわち、結合係数が3dB)、送信ポートの電力も3dB減少します(図6)。

最もシンプルな形の指向性カプラの図図6:最もシンプルな指向性カプラは、入力信号周波数の1/4波長分だけ結合ラインが隣接しているのが特長です。(画像提供:WikipediaのSpinningspark)

電力分配器と同様に、アンテナアレイの性能に影響を与える指向性カプラの重要な特性がいくつかあります。それらの特性は、以下の通りです。

  • アンテナアレイのゲインを向上させるためには、主要ラインの損失を最小限にする必要がある。この損失は、主要ラインの抵抗加熱によるもので、結合損失とは別物です。総主要ライン損失は、抵抗加熱損失と結合損失を合わせたものとなります。
  • 結合損失とは、結合ポートと絶縁ポートに伝達されるエネルギーによる電力低減である。適度な指向性があると仮定すれば、意図せず絶縁ポートに伝達される電力は、意図して結合ポートに伝達される電力と比較して、無視できるほど小さいはずです。
  • リターンロスを最小限にする必要がある。これは、指向性カプラによって返送または反射される信号の量を示す指標です。
  • 挿入損失も最小限にする必要がある。これは、指向性カプラが存在しない試験構成での信号レベルと、存在する場合の信号レベルの比を示すものです。
  • 絶縁を最大限にする必要がある。これは、入力ポートと絶縁ポートの電力レベル差です。
  • 指向性を最大限にする必要がある。これは、指向性カプラのポート3とポート4の電力レベル差で、絶縁と関係しています。また、結合ポートと分離ポートの独立性を示す指標となります。

RF指向性カプラはさまざまな技術を用いて実装できますが、マイクロストリップラインタイプは小型であるため、低SWaP-Cの衛星通信アプリケーションで好評を得ています。その1例が、KnowlesのFPC06078指向性カプラです。このデバイスは、2.5 x 2.0 x 0.4mmのSMDマイクロストリップラインデバイスです。-55°C~+125°Cの動作温度範囲と、50Ωの特性インピーダンスを備えています。

結合係数は周波数に依存しますが、高品質の指向性カプラは比較的平坦な結合周波数特性を示します。以下の図7から、Knowlesデバイスの公称結合係数は20dBであり、12~18GHzの動作範囲ではわずか2dBの違いしかないことがわかります。FPC06078指向性カプラは、挿入損失0.3dBと、最小リターンロス15dBを特長としています。デバイスの指向性は、14dBです(図8)。

KnowlesのFPC06078指向性カプラの周波数特性を示すグラフ図7:FPC06078指向性カプラの周波数特性を示しています。このデバイスは、-20dBの公称結合係数と、0.3dBの低挿入損失を示します。(画像提供:Knowles DLI)

Knowles DLIのFPC06078指向性カプラの指向性を示すグラフ図8:FPC06078指向性カプラの指向性のグラフを示しています。アンテナアレイの性能を向上させるには、絶縁に関係する指向性を最大限にする必要があります。(画像提供:Knowles DLI)

まとめ

設計者は、小型のSMD受動部品を採用することで、衛星通信アプリケーションにおける低SWaP-Cの要求に応えています。その例として、衛星のアンテナアレイの製造に使用される電力分配器や指向性カプラがあります。

設計者は、マイクロストリップライン構造と高誘電性機能を備えたセラミック材料によって優れた性能を発揮する高品質の小型SMD受動デバイスを選択することで、衛星通信アプリケーションの高周波RFバンドを活用できるようになります。さらに、この新世代のSMD電力分配器と指向性カプラにより、アンテナアレイの小型化・軽量化を実現しながら、アンテナのゲインとビーム形成機能を向上させることができます。

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著者について

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Steven Keeping(スティーブン・キーピング)

スティーブン・キーピング氏はDigiKeyウェブサイトの執筆協力者です。同氏は、英国ボーンマス大学で応用物理学の高等二級技術検定合格証を、ブライトン大学で工学士(優等学位)を取得した後、Eurotherm社とBOC社でエレクトロニクスの製造技術者として7年間のキャリアを積みました。この20年間、同氏はテクノロジー関連のジャーナリスト、編集者、出版者として活躍してきました。2001年にシドニーに移住したのは、1年中ロードバイクやマウンテンバイクを楽しめるようにするためと、『Australian Electronics Engineering』誌の編集者として働くためです。2006年にフリーランスのジャーナリストとなりました。専門分野はRF、LED、電源管理などです。

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