自動車産業・製造業用パワーコンバータ向けに堅牢な小型EMI制御ソリューションを実現する方法

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

機器とユーザーの安全を確保することは設計者にとって非常に重要であり、コンデンサは大きな要素です。さらに、同様の重要な要素として、電気自動車(EV)充電器などのシステムでは部品のサイズ・重量・信頼性、また、可変周波数ドライブ(VFD)、LEDドライバ、および、容量性電源やパワーコンバータなどの高エネルギー密度アプリケーションにおいては電磁干渉(EMI)フィルタがあります。

これらのアプリケーションに共通する課題は、-40~+125℃で動作するようにTHB(温度/湿度/バイアス)グレードIIIBに適合し、IEC(国際電気標準会議)60384-14およびAEC(自動車エレクトロニクス会議)Q200の要件を満たす、小型かつ堅牢な高電圧安全コンデンサX1、X2とY2コンデンサを、それぞれライン間用とライン~グランド間EMIフィルタリング用に供給することです。

これらの要件を満たすには、設計者は小型のポリプロピレンフィルム製X1、X2、Y2 EMI抑制安全コンデンサを使用することができます。これらの安全コンデンサは、IEC 60384-14の要件を満たし、AEC-Q200への準拠が認定され、過酷な環境条件下で高い信頼性と長寿命を必要とするアプリケーションに適したIECの最高の堅牢性分類を有しています。これら小型の自己回復コンデンサは、旧型のX1、X2、Y2安全コンデンサよりも大幅に小型化されており、プリント(回路)基板面積の縮小、軽量化、低コスト化を実現しています。

本稿では、まず安全コンデンサの回路アプリケーションと、IEC 60384-14およびAEC-Q200のテスト要件と環境要件について説明します。次いで、X2ポリプロピレンフィルムコンデンサの並列構造と直列構造を比較します。さらに、IEC 60384-14の要件を満たしてAEC-Q200準拠を認定された、Y2、X1アプリケーションとX2安全アプリケーションに適したKEMETの小型コンデンサの例を示します。また、これらのコンデンサのはんだ付けに関する推奨事項も記載しています。

要素としての安全コンデンサ

安全コンデンサには、安全に関する2つの機能があります。配電網で発生するノイズをフィルタリングして抑制し、雷やモータ転流などのノイズ源により発生する電圧スパイクから機器を保護します。また、機器のユーザーを怪我から守るという機能もあります。安全コンデンサは、これら2つの機能によって分類されたり仕様分けされたりします。

ラインから中性線間への差動モードのEMIはXコンデンサで処理されます。Yコンデンサはコモンモードの干渉を処理します(図1)。Xコンデンサが故障すると、火災が発生する恐れがあります。Yコンデンサが故障した場合は、ユーザーが感電する危険性があります。Xコンデンサは、短絡状態で故障するとヒューズまたは回路ブレーカが作動し、電源電圧をシャットダウンすることで、火災を引き起こす危険性を排除するように設計されています。Yコンデンサは開路状態で故障して感電からユーザーを守るように設計されているため、故障しても火災の危険性は非常に低くなっています。

図:Xコンデンサ(青色)は、ライン間干渉によるEMIをフィルタリングするように設計されています図1:Xコンデンサ(青)はライン間干渉によるEMIを、Yコンデンサ(オレンジ)はライン~グランド間干渉をそれぞれフィルタリングするように設計されています。(画像提供:KEMET)

EMIフィルタコンデンサは、「X」「Y」として分類されるだけでなく、定格動作電圧および処理できるピークインパルス電圧によっても仕様分けされます。Yコンデンサの場合は、さらに基礎絶縁か強化絶縁かで分類されます。これらのコンデンサに適用される規格としては、IEC 60384-14、Underwriters Laboratories (UL) 1414、UL 1283、Canadian Standards Association(CSA) C22.2 No.1、CSA 384-14など多くのものが策定されています。IEC 60384-14では、X コンデンサのサブクラスをインパルスピーク電圧によって、Y コンデンサを定格電圧と絶縁カテゴリによって定義しています。また、クラスごとに異なる形式の耐久テストを行うことが規定されています。X1、X2、Y2が最も多く使用されている安全コンデンサです(表1)。

  • Xコンデンサのサブクラス
    • X3コンデンサ:ピーク電圧パルス定格が1.2キロボルト(kV)以下のもの
    • X2コンデンサ:ピーク電圧パルス定格が2.5kV以下のもの
    • X1コンデンサ:ピーク電圧パルス定格が2.5kVを超えており、かつ4.0kV以下のもの
  • Yコンデンサのサブクラス
    • Y4コンデンサ:定格電圧が150VAC未満のもの
    • Y3コンデンサ:定格電圧が150〜250VACのもの
    • Y2コンデンサ:定格電圧が150~500VACで、基本絶縁のもの
    • Y1コンデンサ:定格電圧が最大500VACで、二重絶縁のもの

表:IEC 60384-14によるXコンデンサの分類例表1:IEC 60384-14によるXコンデンサのピークインパルス電圧による分類と、Yコンデンサの定格電圧と絶縁タイプによる分類の例。(表データ提供:KEMET)

安全コンデンサの代用品

X、Yコンデンサの定格電圧と性能には様々なものがあるため、同等以上の定格電圧を持つコンデンサの代用品としては、X、Yコンデンサのうち特定タイプのものだけが使用できます。たとえば、Y1コンデンサは、Y2コンデンサと比べて定格電圧は同じですが絶縁定格が高く、Y2コンデンサの代用品として使用することができます。Yコンデンサはフェイルオープン(故障時開)となるように設計されているので、Xコンデンサの代用品とすることができます。これに対し、Xコンデンサは短絡して故障するように設計されているので、Yコンデンサの代用品とすることはできません(表2)。Xコンデンサは、EMIを十分に除去することは可能ですが、Yコンデンサのようなライン~グランド間の安全基準には対応できません。

代替品のクラス
X1 Y1またはY2
X2 X1、Y1、またはY2
Y2 Y1
Y1 なし

表2:Xコンデンサの代用品にできるYコンデンサはありますが、Yコンデンサの代用品にできるXコンデンサはありません。(表データ提供:KEMET)

自己回復

自己回復とは、メタライズド(金属)コンデンサが絶縁破壊による瞬間的な短絡にさらされても、すぐに回復できる機能のことです。ポリプロピレンは、自己回復能力が最も優れた素材だと言われています。表面の酸素含有量が高いため、故障部周辺の電極材料が燃き払われます(除去されます)。故障部が除去されれば、静電容量の損失はわずかとなり、コンデンサの他の電気的特性は公称値にまで回復します。自己回復のためには、ポリプロピレンフィルムの使用に加えて、金属の材質とその厚みが重要なファクタとなります。コンデンサは綿密に設計しておかないと、自己回復のための最適化によって極端な環境条件の影響を受けやすくなってしまう場合があります。綿密に設計しておけば、THBのような高いレベルの認定テストで認定されるのです。

THB認定

THB認定テストは、自動車、エネルギー産業、製造業用アプリケーションにおいて、部品の長期信頼性を評価するためによく使用されています。THBテストは、指定されたACまたはDCバイアス条件下で部品の劣化を規定期間の間加速させた後で、電気的パラメータを測定します。IEC 60384-14、AMD1:2016では、THBグレードとしてI(AおよびB)、II(AおよびB)、III(AおよびB)の3つが規定されています(表3)。最高グレードのIIIBを満たす要件としては、85℃、RH 85%への1,000時間暴露に耐えることがあります。このテストに合格するには、フィルムコンデンサは以下の性能を発揮できる必要があります。

  • 静電容量変化率 ≤ 10%以下
  • 定格が1マイクロファラッド(µF)を超えるコンデンサにおける1キロヘルツ(kHz)での散逸率の変化(∆tan δ) ≤ 150 * 10-4
  • 定格が1µF以下のコンデンサにおける10kHzでの散逸率の変化(∆tan δ) ≤ 240 * 10-4
  • 絶縁抵抗 ≥ 初期制限の50%、または200メガオーム(MΩ)
グレード テスト条件A テスト条件B
I +40°C / RH 93%
21 日間
+85°C / RH 85%
168時間
II +40°C / RH 93%
56日
+85°C / RH 85%
500 時間
I +60°C / RH 93%
56日
+85°C / RH 85%
1,000時間

表3:IEC 60384-14の最新版では、THBテストについて6つの選択肢を用意しています。(表データ提供:KEMET)

小型X2コンデンサ

X2コンデンサが必要な場合には、KEMETのR53Bシリーズ ラジアルポリプロピレンフィルムコンデンサをご利用いただけます。これは、容量値が0.1~22µFで、UL 94 V-0の難燃性要件を満たす成形プラスチックケース内の自己消火性樹脂にカプセル封止されています(図2)。これらの小型コンデンサは、リード間隔が15~37.5mmで、標準的なX2コンデンサに比べて平均60%の体積削減を実現しているので、ソリューションの小型軽量化を可能にします。これらのコンデンサは、AEC-Q200認定とIEC 60384-14 THBテストのクラスIIIB定格を取得しています。

たとえば、モデルR53BI31505000Kは直流800V(VDC)および0.15μF±10%、R53BI322050S0Mは800VDCおよび0.22μF±20%の定格をそれぞれ有しています。

画像:KEMET R53B X2コンデンサは自己消火性樹脂にカプセル封止されています(クリックして拡大)。図2:R53B X2コンデンサは、UL規格の難燃性要件を満たす成形プラスチックケース内の自己消火性樹脂にカプセル封止されています。(画像提供:KEMET)

クラスX1/Y2の安全コンデンサ

KEMETのX1/Y2安全コンデンサシリーズR41Bは、容量0.0022~1.2µF、最大1,500VDCの電圧定格、±20%または±10%の公差のものをご用意しています。R41Bは、R53Bと同様のパッケージで、リード間隔10~37.5mm、小型の体積、THB性能グレードIIIBを有しています。R41BF122050T0K(2200ピコファラッド(pF)、1,500VDC)などのR41Bコンデンサは、125℃で2,000時間の動作定格を有しています。

R53BとR41Bの両安全コンデンサは、EV車載充電器、風力・太陽光発電用パワーコンバータ、VFDなどの産業用アプリケーションでの使用に適しているほか、SiCやGaNベースのパワーコンバータの設計での使用にも適しています。

はんだ付けの要件

メタライズドポリプロピレンフィルム製の安全コンデンサは、電気的に堅牢で、かつ耐環境特性を有し、オペレータを高いレベルで保護することができますが、プリント基板にはんだ付けする際には特別な注意が必要です。ポリプロピレンの融点が160℃~170℃だからです。液相温度が183℃の従来の錫鉛(SnPb)はんだを使用する場合、これらのコンデンサをプリント基板に確実に取り付けるための簡単なテクニックがあります。

というのも、ポリプロピレンフィルムコンデンサのはんだ付けは、RoHS指令と部品の小型化が相まって複雑化しているからです。この指令では、錫銀銅(SnAgCu)または錫銅(SnCu)合金を使用するよう求めています。これら新合金の一般的なはんだ付け温度は217℃から221℃のため、部品への熱ストレスが増加し、部品の劣化や永久的な損傷を引き起こす可能性があります。予熱や噴流はんだ付けの温度が高いと、小型のポリプロピレンフィルムコンデンサなどの小型部品にとっては有害な温度条件となります。KEMETでは、ポリプロピレンフィルム安全コンデンサを使用する場合、IEC 61760-1 Edition 2の噴流はんだ付け曲線の通りに行うことを推奨しています(図3)。

グラフ:IEC 61760-1 Edition 2の噴流はんだ付け曲線図3:ポリプロピレンフィルム製安全コンデンサのはんだ付け時の熱による損傷を防ぐため、KEMETではユーザーにIEC 61760-1 Edition 2の噴流はんだ付け曲線の通りに行うことを推奨しています。(画像提供:KEMET)

手動はんだ付けが必要な場合は、KEMETでは、はんだごての先端温度を350℃(最高+10℃)になるように設定することを推奨しています。手動はんだ付けは、部品の損傷を避けるため、3秒以内で行ってください。

スルーホールのポリプロピレンフィルムコンデンサには、一般的なリフローはんだ付けを行うことは推奨されていません。KEMETでは、これらのコンデンサを面実装部品の取り付けに使用される接着剤硬化オーブンに通さないよう注意しています。コンデンサは、面実装部品の接着剤が硬化した後に、プリント基板に実装してください。スルーホール部品に接着剤硬化プロセスを施す必要がある場合、またはリフローはんだ付けが必要な場合は、使用可能なオーブン温度プロファイルの詳細を工場にお問い合わせください。

まとめ

設計者は、機器とユーザーの安全性を確保しつつ、重要な設計要件を満たす必要があります。X、Y安全コンデンサは、機器を過剰なEMIから、またユーザーを危険から保護するために、使用されます。堅牢で信頼性の高いKEMETのメタライズドポリプロピレンフィルム製小型安全コンデンサを使用することにより、設計者はIEC 60384-14のグレードIIIBのHTB要件とAEC-Q200を満たすことができます。これらのコンデンサは、製造業用、EV用、WBG用など、様々なパワーコンバータアプリケーションにおけるソリューションの小型・軽量・低コスト化を実現します。

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著者について

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Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

ジェフ氏は、パワーエレクトロニクス、電子部品、その他の技術トピックについて30年以上にわたり執筆活動を続けています。彼は当初、EETimes誌のシニアエディターとしてパワーエレクトロニクスについて執筆を始めました。その後、パワーエレクトロニクスの設計雑誌であるPowertechniquesを立ち上げ、その後、世界的なパワーエレクトロニクスの研究グループ兼出版社であるDarnell Groupを設立しました。Darnell Groupは、数々の活動のひとつとしてPowerPulse.netを立ち上げましたが、これはパワーエレクトロニクスを専門とするグローバルなエンジニアリングコミュニティで、毎日のニュースを提供しました。また彼は、教育出版社Prentice HallのReston部門から発行されたスイッチモード電源の教科書『Power Supplies』の著者でもあります。

ジェフはまた、後にComputer Products社に買収された高ワット数のスイッチング電源のメーカーであるJeta Power Systems社を共同創設しました。ジェフは発明家でもあり、熱環境発電と光学メタマテリアルの分野で17の米国特許を取得しています。このように彼は、パワーエレクトロニクスの世界的トレンドに関する業界の情報源であり、あちこちで頻繁に講演を行っています。彼は、定量的研究と数学でカリフォルニア大学から修士号を取得しています。

出版者について

DigiKeyの北米担当編集者