SiC MOSFETとIGBTを高精度、高効率、保護機能で駆動する方法

著者 Kenton Williston氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

電気自動車(EV)、再生可能エネルギー、産業用オートメーションの需要に応えるために電源システムが進化するにつれ、設計者にとって効率、性能、安全性のバランスを取ることがますます難しくなっています。絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)やシリコンカーバイド(SiC)金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)などの高電圧コンポーネントの統合は、このバランスを実現するための重要なステップですが、これらのデバイスには、正確な制御、高速スイッチング、堅牢な保護メカニズムを実現できるゲートドライバが必要です。

この記事では、ハーフブリッジトポロジに重点を置きながら、現代の電源システムの駆動に関連する課題について探ります。また、これらの課題の克服に役立つInfineon Technologiesのゲートドライバと評価ボードをご紹介します。

現代のハーフブリッジトポロジにおける設計上の課題

業界において高スイッチング周波数、高電圧、ワイドバンドギャップ(WBG)半導体の採用が進む中で、電源システムは増大する課題に直面しています。これらの進歩により効率が向上する一方で、ゲートドライバには厳しい要件が求められます。

高まる要件を具体的に理解するために、多くのアプリケーションで標準となっているハーフブリッジトポロジについて考えてみましょう。ハーフブリッジ回路は、EVのDC/DC車載充電器やモータ駆動システムに不可欠です。双方向の電力フローを可能にするこの回路は、通常のモータ動作(順方向の電力フロー)と回生ブレーキ(逆方向の電力フロー)の両方において極めて重要です。新しいEVプラットフォームにおける800Vアーキテクチャへの移行により、スイッチング精度を維持しながら、信頼性の高い絶縁と保護メカニズムの必要性が高まっています。

再生可能エネルギーシステムの場合、ハーフブリッジ設計は、グリッド統合に必要な3相インバータの基盤となります。SiC MOSFETやIGBTで使用されるスイッチング周波数が高いと、効率は向上しますが、ハイサイドスイッチとローサイドスイッチの両方でコモンモード電圧の問題が悪化し、重大な電磁妨害(EMI)の発生につながります。これにより、システム性能が低下し、規制基準に違反する可能性が生じます。

産業用モータドライブは、スプリットコンデンサ構成におけるDCバス電圧のバランス維持など、さらなる課題に直面しています。よりコンパクトで高電力密度の設計への傾向は、熱管理の難しさと電気ノイズの懸念を増大させます。

これらのすべてのアプリケーションにおいて、設計者は、高電圧回路と低電圧回路間の堅牢な絶縁を提供しながら、正確な制御、高速スイッチング機能、包括的な保護機能を提供するゲートドライバソリューションを必要としています。

IGBTおよびMOSFET向けに設計されたデュアルチャンネルゲートドライバ

Infineon TechnologiesのEiceDRIVER 2ED314xMC12Lシリーズ(図1)は、IGBTおよびMOSFETを制御するデュアルチャンネル設計により、これらの課題に対応しています。すべてのシリーズ製品は、デッドタイム制御(DTC)による独立したチャンネル動作を提供しており、2ED314xMC12Lデバイスは、デュアルチャンネルローサイドドライバ、デュアルチャンネルハイサイドドライバ、またはハーフブリッジゲートドライバとして動作します。

図:Infineon 2ED314xMC12Lシリーズ(クリックして拡大)図1:2ED314xMC12Lシリーズは、DTCによる独立したチャンネル動作を特長としており、デバイスをデュアルチャンネルローサイドドライバ、デュアルチャンネルハイサイドドライバ、またはハーフブリッジゲートドライバとして動作させることができます。(画像提供:Infineon Technologies)

ハーフブリッジ構成では、デュアルチャンネルアーキテクチャにより、単一のゲートドライバICでハイサイドスイッチとローサイドスイッチの両方を効率的に制御することができます。この統合により、プリント回路基板(PCB)のレイアウトが簡素化され、部品点数が削減され、チャンネル間のタイミング特性の整合が実現します。この統合は、適切なDTCを維持し、シュートスルー状態を防止するために不可欠です。

2ED314xMC12Lシリーズの主な利点は、コアレストランス技術によるガルバニック絶縁です。このアプローチにより、EMIに対する高い耐性を備えた高速信号伝送が実現します。この高い耐性は、EVのような電気的ノイズの多い環境では不可欠です。

絶縁機能はUL 1577規格に準拠しています。2ED314xMC12Lは、6.84kVRMSに対して1秒間、5.7kVRMSに対して1分間の保護が可能です。この堅牢な絶縁レベルは、グリッドタイインバータが大規模な電圧サージに耐えなければならない再生可能エネルギーシステムなどのアプリケーションにおいて、高電圧の過渡現象から保護するために不可欠です。

高出力、高精度のスイッチング

2ED314xMC12Lシリーズは、ピーク出力電流6.5Aをはじめ、関連する複数のベンチマークで優れた性能を発揮します。この高出力は、効率的なスイッチングに強力なゲート駆動信号を必要とするSiC MOSFETにとって特に有益です。

もう1つの重要な特性は、39nsの伝播遅延であり、これは正確なタイミング制御を可能にします。これは、モータ速度やトルク制御が高精度スイッチングに依存する産業用オートメーションなどのアプリケーションでは重要な考慮事項です。

部品間の伝播遅延スキューが最大8nsと非常に小さいことから、3相モータ駆動のように複数のドライバICを使用する場合でも、部品間のタイミングの差異は最小限に抑えられます。さらに、チャンネル間の伝搬遅延スキューは最大5nsとさらに小さく、各ハーフブリッジのスイッチ間のシュートスルーを防止します。

最後に、コモンモード過渡耐性(CMTI)定格が200kV/μsを超えているため、電圧過渡現象による誤ったトリガを防ぐのに役立ちます。たとえば、再生可能エネルギーのアプリケーションでは、高い過渡耐性により、グリッドの変動や電力フローの急激な変化時にも安定した動作をサポートします。

安定した動作を実現する信頼性機能

2ED314xMC12Lシリーズは、要求の厳しい電源アプリケーションでも信頼性の高い動作を確保するために、複数の保護機能を組み込んでいます。各機能は、高電圧スイッチング環境で発生する特定の信頼性の問題に対処します。

必要な保護機能として、アクティブシャットダウンと短絡クランプがあります。これらのメカニズムは、DCバス電圧間で2つのパワースイッチが直列接続されているハーフブリッジ構成において、シュートスルー電流から回路を保護します。両方のスイッチが同時にオンになると、短絡回路によって部品が損傷したり、システムがシャットダウンしたりする可能性があります。

また、不足電圧ロックアウト(UVLO)保護も重要な機能です。これは、ヒステリシス「デッドバンド」を形成し、わずかな電圧変動でも状態を安定させ、閾値での発振を防止します。たとえば太陽光発電システムでは、UVLOにより曇天時でも安定した動作が確保され、不必要な中断を回避できます。一部の製品では8.5Vから9.3Vの間でUVLOを提供している一方で、12.5Vから13.6Vの間で保護を提供している製品もあります。

また、イネーブルピン付きのオプションも用意されており、緊急時のシャットダウン状況用に追加の制御レイヤを提供しています。これらの製品では、各デジタル入力ピンにプルダウン抵抗が含まれており、ピンのはんだが外れたり、接続が切れたりした場合、チャンネルのディスエーブルによって安全な状態に戻ることを確保します。この機能は、予期せぬ不具合が発生した場合でもシステムの完全性を維持しなければならない高信頼性アプリケーションにおいて特に重要です。

低消費電流と簡素化された制御を優先するアプリケーション向けに、ディスエーブルピン付きの製品も用意されています。このモデルでは、ゲートドライバはデフォルトでアクティブ状態を維持し、スタンバイ時の消費電力を削減しながらシステム設計を簡素化できます。

利用可能なオプションの例としては、8.5V~9.3Vのヒステリシス付きUVLOとディスエーブルピンを備えた2ED3140MC12Lがあります。これに対して、2ED3146MC12Lは12.5V~13.6VのUVLOとイネーブルピンを備えています。

効率的で信頼性の高いパッケージ

このシリーズは、PG-DSO-14-71パッケージで提供されます(図2)。この面実装パッケージは、10.3 x 7.5mmというサイズで、高電力デュアルチャンネルドライバとしては非常にコンパクトな寸法です。EVアプリケーションでは、このパッケージによりパワートレインの貴重なスペースを節約できます。

画像:Infineonの2ED314xMC12Lシリーズ図2:2ED314xMC12Lシリーズは、小型のPG-DSO-14-71パッケージで提供されます。(画像提供:Infineon Technologies)

小型にもかかわらず、すべての製品は安全動作に必要な十分な間隔を確保しています。すなわち、入力と出力の間隔は8mm、チャンネル間の沿面距離およびクリアランス距離は3.3mmです。これらの寸法は、スペースに制約のある設計に必要なコンパクトなフォームファクタを維持しながら、絶縁要件を満たしています。

評価ボードで素早くスタート

テストと開発を効率化するために、Infineon TechnologiesはEVAL-2ED3146MC12L評価ボード(図3)を提供しています。このハーフブリッジボードは、2ED3146MC12L絶縁ゲートドライバICの機能と性能を実証するために設計されています。

画像:InfineonのEVAL-2ED3146MC12L評価ボード図3:EVAL-2ED3146MC12L評価ボードは、2ED3146MC12Lを評価するためのハーフブリッジ構成を提供します。(画像提供:Infineon Technologies)

ゲートドライバ以外に、この評価ボードには、Infineon Technologies IMZA120R020M1HXKSA1 CoolSiCトレンチMOSFETが2つ搭載されており、さらにオンボード電源用にInfineon Technologies 2EP130RトランスドライバICも搭載されています。これらのコンポーネントは評価用に適しており、実際の設計にも実用的な選択肢となります。

SiC MOSFETは、1,200Vのドレインソース間電圧定格を特長としており、600V〜2,300Vのパワーデバイスを駆動する2ED314xMC12Lの能力に十分適合しています。これらのMOSFETのゲート駆動電圧要件は18Vであり、2ED314xMC12Lの35Vの絶対最大出力電源電圧で安全に駆動できます。また、MOSFETのオン状態抵抗は+25°Cで19mΩと低く、伝導損失を最小限に抑えます。

+25°Cでの最大電力損失能力は375W、動作温度範囲は-55°C~+175°Cであり、これらのMOSFETは高性能パワーエレクトロニクス用途の要件を満たしています。ゲートドライバの39nsの高速伝播遅延と、200kV/μsを超える高CMTIにより、MOSFETの全温度範囲にわたって信頼性の高い動作を維持しながら、効率的な高周波スイッチングを実現します。

2EP130Rトランスドライバは、50~695kHzの幅広いスイッチング周波数範囲でゲートドライバを補完し、2ED3146MC12Lの高速伝播遅延と効果的に動作します。トランスドライバの高精度デューティサイクル調整(10%~50%)は、ゲートドライバの正確なタイミング特性と連携し、ハーフブリッジ構成で最適なデッドタイムを維持する上で重要な組み合わせとなります。

まとめ

Infineon TechnologiesのEiceDRIVER 2ED314xMC12Lシリーズは、EV、再生可能エネルギー、産業用オートメーションにおける高電圧アプリケーションに必要な効率、性能、および安全機能のバランスを提供します。コンパクトなPG-DSO-14-71パッケージはスペースに制約のある設計をサポートし、EVAL-2ED3146MC12L-SiC評価ボードは迅速なテストを可能にします。

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著者について

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Kenton Williston氏

Kenton Williston氏は2000年に電気工学の学士号を取得し、プロセッサベンチマークアナリストとしてキャリアをスタートさせました。その後、EE Timesグループの編集者として、エレクトロニクス業界を対象とした複数の出版物やカンファレンスの立ち上げや指導に携わりました。

出版者について

DigiKeyの北米担当編集者