ファクトリオートメーションのための堅牢な電源・通信・安全システムの構築方法

著者 Steven Keeping(スティーブン・キーピング)

DigiKeyの北米担当編集者の提供

電源・通信・安全システムは、高度に接続された数百万ドル規模の機械の確実な動作を可能にする、現代の工場に欠かせない要素となっています。さらに、これらの重要な要素の配線システムは、熱や振動に加え、変動する入力電源電圧、湿気、高濃度の粒子状物質などの問題に対処しながら、長年にわたって信頼性を確保する必要があります。

工場に大規模な配線を組み入れるのは難しく、コストもかかるため、一度で完成させるのが理想的です。そのため、現在と将来における標準、プロトコル、規制を満たすために、システムの構成に使用されるコードセット、コネクタ、配電ボックスの堅牢性、信頼性、拡張性を確保することが重要になります。

この記事では、現代の工場に求められる要件を簡単に紹介します。その後、Molexが提供する実世界の部品例を用いて、産業用オートメーションのネットワークを構築および進化させるためのモジュラーアプローチを紹介します。この記事では、モジュラーアプローチにより、工場の拡大に合わせて拡張・適応できる十分な柔軟性を保ちながら、いかに展開を簡素化し、環境、運用、安全、信頼性、コストのコア要件を満たせるかを示します。

未来の工場における配線

現代の工場は、産業用オートメーション(IA)によって変革されました。通信は、商品を製造する大型機械の駆動部やサーボモータに使用される電気と同様に重要になりました。また、人間とロボットが接近して作業するため、安全性も重要です。オートメーション技術者の課題は、拡張性の観点から将来を見据えつつ、現在の技術を活用して電源、通信、安全ケーブルの選択と設置を行うことです。

工場は大きな投資であり、長持ちするように建てられているため、これは困難な課題です。工場の耐用期間中に製造技術が進化し、配線システムがわずか数年で満足できないものになってしまう可能性があります。さらに、生産能力が向上すると、システムを追加するたびに独自の接続が必要となり、工場内の再接続は、コストと時間がかかるだけでなく、高価な機械が遊休状態になることも意味します。

技術者の間では、電源用、通信用、安全用の配線を同じシースに収め、予備線によって将来の増設を可能にするモジュラーシステムがますます注目されています。このアプローチの鍵となるのが、M23コネクタシステムです。これは、ケーブルカップリングのネジ径が23mmであることから名付けられました。このシステムは、組み立てやテストが比較的容易で、堅牢かつ信頼性の高い電源・通信インフラの実現に役立ちます(図1)。

23mmレセプタクルを備えたMolexのM23コードセットの画像図1:23mmのレセプタクルと8極のメスインサートを備えたM23コードセット。(画像提供:Molex)

M23コネクタおよびケーブルは、産業用オートメーションに共通する電気駆動部、サーボモータ、エンコーダのサービス用に設計されています。M23システムは、データ用、通信用、電力・データ兼用など、さまざまなインサートやハウジングを備えているため、信号や電力の送信を伴うアプリケーションに適します。M23コードセットは、250、630、800Vの電圧および、9、18、30Aの電流を流すことができます。

M23ケーブルは、国際規格に準拠したものではありません。しかし、各メーカーは一般的に、コードセットの製造に関する推奨事項に従っているため、相互運用が可能となります。そのため、M23はデファクトスタンダードとみなすことができるのです。

M23システムのバリエーションとしては、カップリングのネジ径を12mmにしたM12があります。M12は電源に使用しないため、コードセットが小型になり、コストとスペースを節約できます(図2)。

通信用および安全用のみに使用されるMolexのM12コードセットの画像図2:M12コードセットは通信用および安全用のみに使用され、M23よりも小型のフォームファクタを備えています。(画像提供:Molex)

M23/M12の成功の鍵は、その柔軟性にあります。まず、設計者はケーブル、カップリング、レセプタクル、インサート、コネクタハウジング、さらには嵌合ピンの直径まで指定して、独自にカスタマイズしたシステムを構成することができます。カップリングにはストレート設計とアングル設計があり、インサートはさまざまなピン数とパターンで調達できます。その結果、ほぼすべてのアプリケーションに対応できるカスタマイズ可能な幅広いバリエーションが実現しました。

また、設計者は、工場から供給されるケーブル/カップリングやケーブル/レセプタクルのさまざまなアセンブリから選択することもできます。あらかじめ構築された製品を選択する利点は、組み立て時間の短縮および、ケーブルとコネクタの整合性がすでに工場でテストされているという安心感です。弱点は、ゼロから構築するのに比べて、ソリューションの範囲が比較的狭いことです。しかし、あらかじめ構築される範囲は依然として広く、回転機械、溶接ロボット、自動組立装置など、ほとんどのファクトリオートメーションに対応したコネクタの選択肢とケーブル長がカバーされています。

汚染、振動、EMCに対する保護

食品、医薬品、ハイテク電子機器の製造など一部の例外を除き、工場の環境は一般的に、湿気、埃、油脂など電気システムの敵となる汚染物質で溢れています。その他のアプリケーションでは、ケーブルおよびコネクタソリューションに製造や洗浄に使用する酸やアルカリ溶液への耐性が必要な場合もあるため、あらゆる液体、粒子、その他の物質の侵入を保護することが重要になります。

必要とされる具体的な汚染物質耐性は、工場の要件によって変わります。各メーカーは、IP分類システムに従って製品を分かりやすく分類しています。IP定格は、製品が提供する保護等級を示すもので、国際規格EN 60529で定義されています。

この方式は、2つの数字で構成されています。1桁目は、電気伝導体に接触すると危険な工具や指、回路を損傷する可能性がある空気中の塵や埃など、固形物からの保護レベルを表します。2桁目は、さまざまな液滴、噴霧、水没に対する保護を定義します。IP00(埃や水に対する保護なし)からIP69(埃や強力な高温水噴射に対する完全な保護)まで、広い範囲に対応しています。

設計が不十分な工場の電気システムにとって、問題を引き起こすのは汚染物質だけではありません。ケーブルアセンブリも、熱ストレス、振動、機械的曲げなどを受ける可能性があります(特に、ケーブルが常に動いているようなロボットアプリケーションに使用される場合)。さらに、工場には通常、大きな起動電流が流れる大型電気モータがあり、電力サージや電圧サージに加え、デリケートな通信システムを狂わせる電磁干渉(EMI)も発生します。

M23およびM12ケーブルアセンブリは工場環境に特化して設計されており、そのスクリューカップリングは、振動や機械的負荷に耐えられます。厳しいEMI環境に対しては、ケーブルセットのメーカーがシールドを内蔵したオプションを提供するのが一般的です。

たとえば、Molexは、Brad® 120480 M23電源用オーバーモールドコードセットで、特に堅牢な電源ケーブルのラインアップを提供しています。これらのケーブルアセンブリは、ケーブル/コネクタの接合部を保護するプラスチック製オーバーモールドシースやオプションのEMIシールドといった機能を備えており、厳しい環境向けに設計されています。長さは1m~20mで、色は視認性の高いオレンジ色となっています(図3)。

オーバーモールディングを特長とするMolexの120480 M23コードセットの画像図3:120480 M23コードセットは、オーバーモールディングによる追加保護とさまざまなインサートを備えています。ここでは、6極と8極のバリエーションを示します。(画像提供:Molex)

ケーブルは、6極または8極(ワイヤ)バージョンで入手可能です。最大電圧が800V、最大電流は18Aで、接触抵抗が3Ω、絶縁抵抗は100MΩとなっています。このコードセットは、25℃~85℃の温度範囲で動作し、嵌合すればIP67の防塵・防水定格を提供します。

M23のようなモジュラーシステムの利点は、工場の拡大に合わせて工場配線を構築し、迅速に適応できることです。このシステムにより、技術者は配線ネットワークを簡単に結合し、M23ソケットを装備した機械にケーブル端を直接嵌合することができます。この配線は、ファクトリオートメーションに必要な高電圧・高電流を提供するだけでなく、Ethernet、EtherCAT、Modbus、PROFINETなどの工場通信システムにも対応します(図4)。

M23ケーブルで工場の有線ネットワークを簡単に拡張できることを示す画像図4:M23ケーブルにより、新しい製造セルが追加されても工場の有線ネットワークを簡単に拡張できます。(画像提供:Molex)

工場の安全性を確保

現代の工場では、コネクティビティが重要な役割を担っています。装置の制御や更新はネットワークの大きな仕事ですが、特に人間とロボットが近接する場合は、ファクトリオートメーションの安全性も重要になります。ロボットは通常、作業範囲に人が入ると動きを停止させるために複数のセンサを備えており、安全セルは、インターロックゲートとアクセスパネルによって完成します。このようなシステムにはすべてコネクティビティが求められるため、各センサが工場のメインネットワークのブランチに接続される場合、有線ネットワークはすぐに複雑で扱いにくいものになってしまいます(図5)。

重要な安全システムを必要とするロボットワークセルの画像図5:ロボットワークセルには、ファクトリオートメーション環境で働く人を保護するために、重要な安全システムが必要となります。(画像提供:Molex)

そこで、技術者は工場のメインネットワークに接続されたマルチポート相互接続システム(MPIS)の配電ボックスを使用することで、簡素化を図っています。そこから、M12制御ケーブルがボックスの出力に接続され、製造セルの安全システムが配線されます。一例として、Molexが提供するIP67定格の頑丈な1202480510安全MPIS配電ボックスは、機械周辺に設置された安全装置の管理を支援します(図6)。

安全配線を簡素化するMolexの安全MPIS配電ボックスの画像図6:安全MPIS配電ボックスは、スペースとコストを節約しながら、安全配線を簡素化します。(画像提供:Molex)

1202480510では、工場のメインネットワークに接続するための5mの内蔵ケーブル、4つのM12 8ピンポート、4つのM12 4ピン/5ピンポートが1つのハウジングに収納されています。この配電ボックスにより、限られたスペースに標準的なI/O配線システムを設置しつつ、安全設計の柔軟性を最大化できるようになります。各ポートは、最大電圧30V DC、最大電流4A(配電ボックスの合計電流12A)に対応します。この配電ボックスは、Molexの1m、M12、8極の1200652383 Micro-Changeシリーズや、1m、M12、4極の1200652378バージョンなどのコードセットに使用できるよう設計されています。

まとめ

ファクトリオートメーションには、堅牢で信頼性が高く、拡張性のある電源・通信・安全配線ネットワークが必要です。デファクトスタンダードのM23とM12に基づくモジュラーシステムは、初期設置を簡素化し、これらの要件を満たします。使用するコードセットや配電ボックスは、工場環境の厳しさを考慮して構築されているため、汚れや湿気に強く、極端な温度、振動、機械的応力にも対応できます。

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著者について

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Steven Keeping(スティーブン・キーピング)

スティーブン・キーピング氏はDigiKeyウェブサイトの執筆協力者です。同氏は、英国ボーンマス大学で応用物理学の高等二級技術検定合格証を、ブライトン大学で工学士(優等学位)を取得した後、Eurotherm社とBOC社でエレクトロニクスの製造技術者として7年間のキャリアを積みました。この20年間、同氏はテクノロジー関連のジャーナリスト、編集者、出版者として活躍してきました。2001年にシドニーに移住したのは、1年中ロードバイクやマウンテンバイクを楽しめるようにするためと、『Australian Electronics Engineering』誌の編集者として働くためです。2006年にフリーランスのジャーナリストとなりました。専門分野はRF、LED、電源管理などです。

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