車載市場向けF-RAM™

著者 James Tomasetta

はじめに

自動車の電子機器への依存度は年々高まっています。 かつて機械的だったシステムは、電子制御ユニット(ECU)に移行しました。 自動車の安全性およびユーザーのエンターテイメントに対応する新しいシステムは、ますます複雑になり、リソースへの高まるニーズを生み出しています。

車載用電子サブシステムの概要

車載用電子機器は、互いに接続されていながらも独立したサブシステムに分けられます。 各サブシステムが特定のタスクを担当し、そのスコープと複雑さは、単純な無線制御インターフェースから複雑な衝突回避システムまでさまざまに異なります。 しかし、これらのサブシステムは、CAN、OBD2、最近ではイーサネット形式を取るシステムバスインターフェースや、マイクロコントローラユニット(MCU)、入力センサ、出力制御ロジックなどのいくつかの基本構造を共有しています。 また、多くのサブシステムが即座に、かつ途切れることなくデータを保存する必要があるため、これが性能および耐久性の設計要件につながり、ここでCypressのFerroelectric RAM(FRAM)が重要になってきます。

随所に搭載された車載用電子サブシステムの画像

図1:随所に搭載された車載用電子サブシステム

F-RAMを使うと、システムは最大バス速度で途切れることなくデータを保存できるようになります。メモリを追加する必要もなく、メモリの耐久性を管理するオーバーヘッドも発生しません。 これは、F-RAMが即時の不揮発性を備えており、情報を保存するための追加ソーク時間も必要ないためです。また、ほとんどのEEPROMとFLASHが106を下回るのに対して、1014という高い書き込み耐久性を提供します。

データ保存が必要なシステムは数多くありますが、この記事ではF-RAMが持つ利点を活用できるシステムに焦点を合わせて説明します。 たとえば、単純な無線ECUはユーザープリセットデータと現在の状態を保存する必要があります。 ユーザープリセットが頻繁に変更される可能性は低く、実際、一度設定された後はほとんどROMと見なされます。 その一方で、現在の状態は頻繁に変更されますが、復元することはそれほど重要ではないため、単純な無線システムに非揮発性メモリを追加しても意味はありません。 より高度なエンターテイメントおよびナビゲーションシステムであれば、F-RAM機能を活用できる事例があるでしょう。

この記事では5つの車載用サブシステム(バッテリマネジメント、タイヤ空気圧監視、アンチロックブレーキ、エアバッグ展開、イベントデータレコーダ)について確認した後で、CypressのF-RAM製品を活用できる各サブシステムの主要機能を明らかにします。

バッテリマネジメント

バッテリマネジメントシステム(BMS)は、電気自動車とハイブリッド自動車のバッテリシステムを監視および制御する電子制御システムです。 このユニットの主要機能はバッテリセルが損傷しないように保護し、セル寿命を延ばし、車両にリアルタイムで電力を分配することです。

BMSは各バッテリセルの動作パラメータを個別に監視します。 パラメータにはセル電圧、セル電流(充電とドレインの両方)、セル温度が含まれます。 最近のリチウムイオンバッテリは、非常に高い電荷密度(エネルギー貯蔵)と高い電流ドロー(低い内部抵抗)を備えていますが、極めて厳格な動作制御を必要とします。 リチウムイオンセルの故障を引き起こす主な原因の1つは、過充電または充電不足です。 このため、リチウムイオンセルを使用するシステムにとってBMSが重要になります。

最近の電気自動車とハイブリッド自動車では、BMSは他の自動車サブシステムとの橋渡しをします。たとえば、エンジンマネジメントシステムと接続して電力供給を制御し、ブレーキサブシステムと接続して回生制動を実現し、安全サブシステムと接続して電源を切り、通信やインフォテイメントなどのキャビンサブシステムとつなぎます。

図2にBMSと接続されたサブシステムの配置図を示します。 基本システムには、各セルへの適切な充電を維持するイコライザとセルを監視するECUが含まれています。 ECUは、各セルの温度および電圧情報とともに他のサブシステムからの電気的要求を収集し、バランスの取れたセル充電を維持するようにイコライザに指示します。 非力なセルは高頻度で充電され、より強力なセルは電力要求を満たすために使用されます。 これにより、バッテリパック全体の寿命が長くなります。

バッテリマネジメントシステムの画像

図2:バッテリマネジメントシステム

ECUは、異なるバッテリテクノロジ(主にリチウムイオンとニッケル水素)に応じてプログラミングできる必要があります。 また、短期(直前の数回の充電サイクル)と長期(寿命)の両方のセル性能を監視できる必要があります。 これは最大限のバッテリ寿命を実現するために極めて重要であり、最大で1秒あたり60回の短期監視はユニークな要件で、耐久性の優れたCypressのF-RAMは、このようなアプリケーションにとって理想的なメモリテクノロジとなります。

タイヤ空気圧の監視

タイヤ空気圧監視システム(TPMS)はすべてのタイヤの内部空気圧を監視して、空気圧が不足している場合はこれを通知します。 2012年現在、ヨーロッパおよび米国では、すべての新車にこのサブシステムを搭載することが義務付けられています。 このシステムは、ワイヤレス圧力センサとワイヤレスレシーバ/データロガーという2つの主要モジュールで構成されています。 圧力センサに対する主要要件は、電源内蔵型であることと、タイヤによる環境的な影響に対する耐性があることです。 CypressのF-RAMが満たす低消費電力要件は、センサモジュール上のデータストレージの役割を果たすために最適です。

ワイヤレスレシーバ/データロガーは、すべてのセンサから取得したデータを保存し、トリガポイントに達したらユーザーにアラームを通知する必要があります。 高い耐久性を誇るCypressのF-RAMにより、より精密なリーク検知が可能です。

タイヤ空気圧監視の画像

図3:タイヤ空気圧監視

より多くの空気圧履歴を保存することで、TPMSは低圧イベントをトリガするだけでなく、時間とともに生じるスローリークをユーザーに通知することができます。 このタイヤ空気圧の履歴は、装置の故障や事故の調査にも有用です。 図3に、TPMSの基本的なシステム設計を示します。

アンチロックブレーキ

アンチロックブレーキシステム(ABS)は、ブレーキ操作中のホイールロックを防止するために使用されます。 ABSは自動車の安全システムには欠かせない要素であり、濡れた道路や凍結した道路でのブレーキおよびステアリング操作の性能向上に貢献します。 このシステムは各ホイールへの制動圧力を個別に調整することで機能します。 ABSは、従来のブレーキシステムに液圧モジュレータとモジュレータの制御に使用されるECUを加えたものです。 システム自体が動作するために大量の非揮発性メモリは必要ありませんが、TPMSサブシステムと同様に、イベント追跡ログの保持機能が、事故につながるイベントを特定するために極めて貴重なリソースになります。

直前の数秒または数分のシステムイベントを記録するために使用されるローリングバッファには、非揮発性と高速書き込み、高い耐久性が必要です。 CypressのF-RAMは、これら3つのシステム要件のすべてを満たします。 遅延なしの高速書き込みには、もっとも重要な部分の履歴を失うリスクがありません。 また、1014という書き込み耐久性を持つメモリはシステムのライフサイクル要件を満たすことができます。 図4に基本的なABS設計を示します。

アンチロックブレーキの画像

図4:アンチロックブレーキ

エアバッグの展開

エアバッグ展開サブシステムは、「補助拘束装置(SRS)」として知られるサブシステムクラスのメインシステムです。 SRSは、シートベルトなどの従来型拘束システムと組み合わせて使用され、 前面の展開可能なバッグとクラッシュ/加速度計という2つの主な要素で構成されます。 事故発生時のバッグ展開に必要な性能を得るため、1本の加圧ガスキャニスタが使用されています。 このため、エアバッグは1回だけ使用できるシステムになり、自動車内のその他の部品を破損させる可能性があります。 その結果として、エアバッグの展開は高くつきます。

エアバッグ展開の画像

図5:エアバッグの展開

安全性を求める声と交換にかかるコストのため、メーカーは、座席に座っている人物を監視して記録するための各種補助センサを追加してきました。 これらのセンサには、さまざまな位置センサと併せてエアバッグサブシステムを有効化するために使用される同乗者専有圧力センサが含まれ、エアバッグシステムの有効性を向上します。 位置データは絶えず更新され、システム展開時まで、さらにはその後も保存されている必要があります。 位置データを常時記録し、非揮発性メモリに保存するという要件に対して、高性能かつ低消費電力で耐久性の高いCypressのF-RAMは理想的なソリューションです。

イベントデータレコーダ

イベントデータレコーダ(EDR)は、衝突前後の自動車の運転に関する情報を監視し、記録するサブシステムです。 「ブラックボックス」とも呼ばれるこのシステムは、イベントの追跡時間記録でその他のサブシステムに接続してデータを監視するスタンドアロンシステムです。

EDRサブシステムは、ネットワークインターフェースと非揮発性メモリという2つの主要ブロックで構成されています。 2014年現在、米国内のほとんどの自動車にはEDRの内蔵が義務付けられています。 非常に多くの車両サブシステムから取得したデータを保存する必要があるため、非揮発性メモリの書き込み性能とメモリの直接アドレッシングが極めて重要になります。

大半のEEPROMとフラッシュメモリでは5ミリ秒の書き込み遅延が発生し、その間デバイスにはアクセスできないため、電源障害によってデータが失われる可能性があります。 CypressのF-RAMは書き込み遅延がありません。具体的に言うと、インターフェース上の次のバスクロックの前にデバイスがレディ状態になります。 また、その他多数の非揮発性メモリは、1バイトのデータを保存するためにページレベルの読み取り-変更-書き込み手順を必要としますが、CypressのF-RAMは直接的なバイトアドレス指定が可能であるため、いったん書き込まれたデータは変更されません。

ナビゲーションとインフォテイメント

ナビゲーションシステムを使用すると、ドライバは目的地を見つけてそこまでの経路を知ることができます。 ほとんどのナビゲーションシステムは全地球測位システム(GPS)信号と電子地図を使用して、ドライバが目的地まで運転できるように支援します。

建物やその他の障害物によってGPSが一時的に使用できなくなった場合、ナビゲーションシステムは、自動車の位置を特定するために以前のパワーサイクルで取得した位置データを使用して動作する必要があります。 この場合、システムは把握している自動車の出発点と速度や方向などのセンサにもとづいて、その位置を計算します。

ナビゲーションの画像

図6:ナビゲーション

ナビゲーションシステムはたいてい、エンターテイメントシステムと一体化されており、自動車のオーディオシステムとディスプレイにアクセスできます。 この複合システムは「インフォテイメントシステム」と呼ばれています。 システムを組み合わせる主な利点は明白です。 両システムには少なからぬドライバとの対話、特に音声が含まれています。 システムが一体化されているため、ナビゲーションシステムは容易にオーディオシステムにアクセスして割り込み、重要なドライバ情報を伝えることができます。

インフォテイメントの画像

図7:インフォテイメント

エンジン制御モジュール

エンジン制御モジュール(ECM)は、最近の自動車においてもっとも高性能で高価なサブシステムです。 一般に、ECMは車内での動力の生成および分配をあらゆる側面から制御します。 ECMは通常、100MHz以上の速度で動作する32ビットのマイクロコントローラと数MBのシステムメモリ、他のサブシステムにアクセスするための各種ネットワークインターフェース、多数の入力および出力制御システムで構成されます。 ECMは各種の制御装置からユーザー入力を受け取り、エンジンの現在の状態とともに、その情報をエンジン部品を管理するエンジン制御モデルに入力します。

電子的なECMが登場するまで、エンジン設計者は設計の一部としてエンジンの動きのバランスを取る必要がありました。しかし、近代的なECMの導入に伴い、エンジンの動きが状況に合わせてリアルタイムで適応するようになったため、ユーザーは異なる性能プロファイルを適用することができます。 ECMがリアルタイムで適応することで、エンジンの性能と効率が大幅に向上します。

エンジン制御モジュールの画像

図8:エンジン制御モジュール

CypressのF-RAMの利点は、システムが現在の状態を記録する方法にあります。 一部の部品は摩耗するため、現在の状態を非揮発性メモリに保存することで、システムが起動時から効率的に動作できるようになります。また、いつ電力が切断されるかをシステム側で把握することができないため、絶えずシステムの状態を保存する必要があり、F-RAMの高い書き込み耐久性が求められます。

自動運転支援システム

自動運転支援システム(ADAS)は、自動車のドライバが事故を起こさないようにするために設計された一連の安全システムです。 自動緊急ブレーキ(AEB)、車線逸脱警報(LDW)、適応走行制御(ACC)を含む安全システムでは、リアルタイムデータを記録して保存する必要があります。

これら3つのシステムは何らかの前方画像処理(視覚またはレーダ)を使用して、自動車が安全基準内にあるかどうかを検知します。 ACCでは、レーダを使用して車両の前方に最小限の時間差が維持されます。 AEBでは、レーダを使用して、速すぎる速度で障害物に近付いた場合にこれを検知し、ブレーキをかけます。 LDWでは、前方カメラを使用して車両前方の車線を見付け、車線を逸脱しているかどうかを判断します。

F-RAM自動車部品マトリクス

EEPROMおよびフラッシュと比べた場合、CypressのF-RAMには3つの主な利点があります。この利点を使用して具体的なアプリケーションを明確にします。

  • F-RAMは即時の非揮発性を備えているため、もっとも重要なデータがシステム障害のリスクにさらされることが多く、精密なタイミングを必要とする、データロガーなどのアプリケーションに最適です。
  • F-RAMは1014という書き込み耐久性を持つため(EEPROMは106、フラッシュは105)、絶え間なくデータを書き込む追跡データロガーに最適です。
  • F-RAMの書き込み電力要件は低いため、バッテリやコンデンサなどの独立電源を持つアプリケーションに適しています。
また、F-RAMは外部温度に対してより柔軟であるため、動作温度が高くなった場合も優れた書き込み耐久性とデータ保持を維持します。 多くのEEPROMの耐久性仕様は85°Cを基準としているため、125°Cに対応する必要のある車載用アプリケーションには適しません。125°Cでは、EEPROMの耐久性が105に低下します。

表1にCypressが提供するF-RAM製品と主要パラメータを示します。

部品番号 メモリサイズ I/O 電圧 温度 I/O速度 耐久性 85°Cでの保持期間
CY15B128J-SXA 128Kb I²C 2V~3.6V –40°C~85°C 3.4MHz 1014 100年
CY15B256J-SXA 256Kb I²C 2V~3.6V –40°C~85°C 1MHz 1014 100年
FM24CL64B-GA 64Kb I²C 3 V~3.6V -40°C~125°C 1MHz 1014 100年
CY15B102Q-SXE 2048Kb SPI 2V~3.6V –40°C~125°C 20MHz 1014 100年
CY15B128Q-SXA 128Kb SPI 2V~3.6V –40°C~85°C 40MHz 1014 100年
CY15B256Q-SXA 256Kb SPI 2V~3.6V –40°C~85°C 40MHz 1014 100年
FM25040B-GA 4Kb SPI 4.5V~5.5V –40°C~125°C 14MHz 1014 100年
FM25640B-GA 64Kb SPI 4.5V~5.5V –40°C~125°C 4MHz 1014 100年
FM25C160B-GA 16Kb SPI 4.5V~5.5V –40°C~125°C 15MHz 1014 100年
FM25CL64B-GA 64Kb SPI 3V~3.6V –40°C~125°C 16MHz 1014 100年
FM25L04B-GA 4Kb SPI 3V~3.6V –40°C~125°C 10MHz 1014 100年

表1:Cypressの車載用F-RAM製品ライン

F-RAMに適した主なアプリケーション

要約すると、F-RAMは書き込み耐久性が高く、バイトアドレス指定が可能で、書き込み遅延のない、低消費電力の非揮発性メモリテクノロジです。 F-RAMに最適なアプリケーション候補は、非揮発性メモリを必要とし、F-RAMの書き込み耐久性または書き込み速度を活用できるシステムです。

書き込み耐久性が重要になるアプリケーションは、イベント前後のデータを記録して保存する必要のある時間ベースのデータロガーです。 例として、事故記録、ACC、エアバッグロガー、AEB、バッテリマネジメント、エンジン制御、EDR、タイヤ空気圧監視が挙げられます。

書き込み速度が重要になるのは、システム障害が発生する場所にもっとも重要なデータがあるアプリケーションです。 例には、事故記録、バッテリマネジメント、タイヤ空気圧監視、ナビゲーション、エンジン制御が含まれます。

 

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著者について

James Tomasetta

Article provided by James Tomasetta, Applications Engineer Principal, Cypress Semiconductor Corp.