接着ペアEthernetケーブルによる過酷な環境下でのコネクティビティの確保
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2023-09-26
産業用モノのインターネット(IIoT)への移行に伴い、センサやアクチュエータが豊富な産業環境における信頼性と性能の向上に対する要求は、堅牢なコネクティビティソリューションを求める開発者にとってますます大きな課題となっています。ノイズの多い電気環境ではワイヤレス方式が制限され、過酷な物理環境では従来のケーブル配線による方法が複雑になります。設計者は、信頼性と性能を保ち、より効果的なコネクティビティソリューションを求めています。
1つの選択肢としては、信号の完全性を維持するためにツイストワイヤペアの分離を防ぐ接着ペアEthernetケーブルを使用することです。
この記事では、設計者が過酷な環境用のケーブルオプションを検討する際に直面する課題について説明します。次に、従来のEthernetケーブルと比較した場合のこの技術の特性と性能を Beldenの例を用いて説明し、接着ペアEthernetケーブルでこれらの課題にどのように対処できるかを示します。
進化する産業環境によるネットワークの信頼性とパフォーマンスへの挑戦
進化を続けるIIoTでは、センサやアクチュエータの種類や数を増やす必要があるため、産業用ネットワークの設計者が直面する課題が複雑化しています。信頼性の高いコネクティビティの継続的なニーズとともに、ビジョンベースのシステムが高精度のセンサに加わり、製造プロセスの複数の段階で重要な役割を果たすようになったため、産業用ネットワークはリアルタイムの性能とより高いスループットの両方を提供する必要があります。IEEE 802.1 TSN(Time-sensitive networking)規格などのネットワーク技術は、設計者が決定論的なEthernet性能の要件を満たすのに役立ちますが、産業環境ではデータ量、速度、多様性が増すにつれて、10ギガビット(Gbit)Ethernetネットワークが標準になりつつあります。
一般的な工場の電気的および物理的環境の性質上、産業環境におけるネットワークの信頼性と性能の確保は依然として困難な状況にあります。このような環境では、機械が発生させる電気ノイズや電力障害が、さまざまな電磁妨害(EMI)源や無線周波妨害(RFI)と組み合わさって、通信信号の完全性を損ないます。工場の現場は、燃料、油、溶剤、その他の化学物質、湿気、高温、機械の稼働による急激な温度変化、工業プロセス、溶接の飛散など、物理的に大きな問題を抱えています。
通信ネットワークの構築において、工場のネットワーク設計者は、商業ビルへの設置を目的としたケーブルと表面上の類似性しかない通信ケーブルを利用しています。商業ビルと同様、ライザー定格ケーブルは、通信用多目的ケーブル、ライザー(CMR)として知られ、産業プラントのライザーまたは垂直シャフトを通るケーブル敷設に使用されます。同様に、プレナム定格ケーブルは、CMP(Communications Multipurpose Cable, Plenum)として知られ、床や天井の下の空間を通る水平ケーブルの火炎伝播や煙を制限するために必要な、より高定格のケーブルです。
しかし、ほとんどの商業ビルの設備とは異なり、産業環境でのケーブル配線は、継続的な振動、屈曲、摩耗、および通常の工場作業による破砕による機械的ストレスの影響を特に受けやすくなっています。産業用ネットワークの設計者は、ネットワークに要求されるコストと性能のバランスを達成するために、長い間、多様なケーブル外被絶縁材料に依存してきました。
産業用ケーブル特性
ケーブルの絶縁材料は、特殊な要件を満たすためにさまざまありますが、フッ素化エチレンポリマー(FEP)およびポリ塩化ビニル(PVC)の2種類は、産業用ケーブル外被に一般的に使用される材料です。CMP規格のケーブルでは、その発煙および難燃特性からFEPがよく使用されます。通信ケーブル外被にFEPを使用することで、炎を抑えるだけでなく、ダクトを通して火災による激しい煙の拡散を抑えることができます。強力な耐薬品性とともに、FEP ケーブルは通常、広い周囲温度範囲に耐えることができます。たとえば、BeldenのCMP定格4ペアFEP被覆付きDataTuff 7931A Ethernetケーブル(7931A 0101000) は、動作温度範囲が-70~+150°Cに指定されています。
CMR規格のケーブルは、一般的にPVCで絶縁されており、化学薬品、熱、水に対して適切な耐久性と耐性を持ちながら、低コストを実現しています。PVCは一般的に、ライザーでの典型的な用途の範囲内では、より制限された使用温度を示します。たとえば、BeldenのCMR定格4ペアPVC被覆付きDataTuff 7953A Ethernetケーブル(7953A 0101000) は、動作温度範囲が-40~75°Cに指定されています。
FEPおよびPVCの他にも、特定の要件を満たすために他の材料が個別で、あるいは併用されることが多くあります。たとえば、2ペアDataTuff 7962A Ethernetケーブル(7962A 1SW1000) では、Beldenは熱可塑性エラストマ (TPE) 外被、ポリエチレン (PE) 内被、およびポリオレフィン (PO) ワイヤ絶縁を組み合わせ、危険な環境に適した強靭で難燃性、耐油性のケーブルを提供しています。
被覆素材の選択は、産業用Ethernetネットワークのケーブル選択におけるいくつかの重要な決定ポイントの一つに過ぎません。先に述べたように、産業用通信ケーブルは大きな機械的ストレスを受けることがあり、その結果、従来のツイストペアケーブルでは信号ノイズが増加します。この馴染みのあるケーブルタイプは、一対のワイヤを撚り合わせたときに見られるクロストークと干渉の影響の軽減に依存しています。しかし実際には、設置時のストレスや産業環境での典型的な日常運転により、対になったワイヤが離れてしまうことがあります(図1)。
図1:従来のツイストペアケーブルは、ペアとなるワイヤが密着している間はクロストークとノイズを低減しますが(上)、繰り返し曲げたり、屈曲したり、引っ張ったりするとワイヤが離れてしまいます(下)。(画像提供:Belden)
曲げたり、屈曲したり、引っ張ったりし続けることによって導体間の間隔、つまり中心部分が大きくなると、ツイストペアのノイズキャンセリング効果は著しく低下します。時間の経過とともに、信号の完全性は損なわれ、ネットワーク全体の伝送の信頼性に影響を与えます。従来のツイストペア通信ケーブルに代わるBeldenのケーブルは、設置や継続的な使用の厳しさにもかかわらず、信号の完全性を維持するように設計されています。
接着ペア技術によるストレス耐性の強化
Beldenの特許取得済み接着ペア技術は、各ペアのワイヤ間に実際の結合を作成し、通信ケーブル内の全ツイストペアの最適な中心性を維持し、信号の完全性を損なうギャップを無くします(図2)。
図2:従来のツイストペア技術(左)とは異なり、Beldenの接着ペア技術(右)は、曲げ、屈曲、引っ張りにもかかわらず、ケーブル内のペアワイヤ間の間隔を確実に固定します。(画像提供:Belden)
Beldenの接着ペア技術は、従来のEthernetケーブルよりも通常40%強い引張抵抗のケーブルを実現します。同時に、Beldenの接着ペアケーブルは、ケーブル外径の4倍の曲げ半径に沿って安全に曲げたり屈曲させることができます。一方、通常のEthernetケーブルの曲げ半径は、通常、外径の10倍が限界です。
接着ペア技術による強度の向上は、設置時や通常運転時のたわみによる継続的なストレスにもかかわらず、信頼性を維持する能力につながります。業界には屈曲に耐える能力を測定する標準がありませんが、Beldenは一般的な産業用動作条件をシミュレートするために設計された屈曲試験を作成しました。
Beldenのエンジニアはまず、15フィート(ft)の長さの接着ペアケーブルを3インチ(in.)のきつい曲げにかけた後、毎秒10フィート(ft./s)の多軸運動を1日あたり28,800サイクル行いました。Beldenのエンジニアリングチームは、ケーブルの長さに沿った8つのポイントで、短絡、電圧降下、その他の問題がないか、テスト中のケーブルを継続的に監視しました。1,007万5,000回の屈曲サイクルの後、物理的あるいは電気的な故障は検出されませんでした。
接着ペアケーブルの堅牢な性能は、その電気的性能を従来のケーブルと比較することで明らかになります。回線マージンを指標としたテストでは、Beldenの接着ペアケーブルは敷設前後で性能を維持することが示されました(図3、左)。これとは対照的に、従来のツイストペアケーブルは、リール上の性能テストには合格していても、敷設時に通常の引っ張り、曲げ、屈曲応力を受けた後、ペアの分離により、敷設後に故障することがありました(図3、右)。
図3:Beldenの接着ペアケーブルでは、個々のデータペア(青/黄/緑/赤)の回線マージンが、敷設前と敷設後(左)で高い状態を維持しているのに対し、従来のツイストペアケーブルでは、リール上では良好なテスト結果が得られても、敷設後のストレスによるペア分離で、回線マージンが劇的に減少します。(画像提供:Belden)
従来のツイストペアケーブルは、接着ペアケーブルに比べ、敷設時や取り扱い時にワイヤペア間に生じる隙間により、周波数に依存したインピーダンスの不安定な変動が見られることがあります(図4)。
図4:Beldenの接着ペアケーブル(左)のインピーダンスは、従来の産業用ケーブル(右)の取り扱い方によって誘発されるインピーダンスの変化と比較して、敷設前後で安定しています。(画像提供:Belden)
通常の運用では、非シールド接着ペアケーブルはノイズ保護を維持することができ、多くの場合、従来のシールドケーブルよりも低コストです。産業用ネットワーク設計者にとって、接着ペアケーブルのノイズ保護機能は、従来のシールド付き産業用ケーブルに比べて配線上の制約が緩和されやすくなります。たとえば、ODVA(旧Open DeviceNet Vendors Association)のガイドラインでは、干渉を避けるために、従来のシールドケーブルを電磁波源から5フィート(約1.5m)以内に配線することを推奨しています。対照的に、非シールド接着ペアケーブルのノイズ保護機能により、ネットワーク設計者は、信号の完全性を損なうことなく、このケーブルを電磁波源から6インチ以内に配線することができます。
まとめ
過酷な電気的および物理的産業環境は、IIoTのデータレートが上昇するにつれて、必要な信号の完全性を維持できるケーブルの選択を複雑にしています。このように、Beldenの特許取得済み接着ペア技術は、従来の産業用Ethernetケーブルよりも接続性能を維持できる効果的なソリューションを提供します。
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