環境発電およびBluetooth® Low Energy:電池不要ビーコンの設計
2015-11-24
常時オン、ゼロメンテナンスのデータトランスミッタの概要
スマートフォンは、私たちの日常生活に大きな変化をもたらしています。 それらは、私たちの健康、環境、そして購買に関連するオンデマンドの情報へのゲートウェイです。 残念なことに、今日ほとんどの場合に、ユーザーはデータを希望する時にアクションを始める必要があります。 これは、ユーザーが情報(例:店舗の製品に関する提案)の検索方法を知らない可能性があるため、非効率である可能性があります。
その解決策は、適切な情報がユーザーに提示可能になるように、状況特定のデータをスマートフォンで利用可能にするシステムを持つことです。 このデータは、センサからのものかもしれません。または、物体または場所と関連する一意識別子かもしれません。 ここで、ビーコンが役割を果たします。
ワイヤレス用語で、ビーコンは、近くで他のデバイスによって受信できるデータをブロードキャストするデバイスです。 ユーザーの介入なしでブロードキャストデータを受信し、伝送をシームレスに行うのが理想的です。 Bluetooth Low Energyはこの機能を有しており、したがって、ビーコン通信向けに普及している選択肢となっています。
Bluetooth® Low Energy(BLE)は、通常10メートル未満の比較的小さな半径内におけるデータ伝送を必要とするアプリケーションでの低電力ワイヤレス通信に広く使用されています。 ワイヤレスセンサノード(WSN)について考えてみましょう。 WSNによってデータを収集し、スマートフォンに送信することができます。 図1は、これらのタイプのセンサノードの一般的なアプリケーションフローを示しています。
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図1:BLEセンサデバイスの一般的なフローの図。
ビーコンおよびセンサは、デバイス全体のサイズやフォームファクタを依然として維持しながら、連続して機能することを可能にするソースから給電される必要があります。 有線のソースからこれらのデバイスに給電することは、それらが人の体に位置しているかまたは遠隔配置されているため、めったに実行可能ではありません。 したがって、電力にワイヤを必要とするユースケースは一般的に、理にかなっていません。 電池駆動のアプローチをとると、限られた動作寿命、頻繁に電池を充電する必要性、最終的な電池廃棄から生じる環境へのマイナスの影響などの問題が生じます。
あらゆる種類のメンテナンスが不要のビーコンを本当に希望する場合は、光、モーション、圧力、または熱などの周辺環境から未利用のエネルギーを利用する必要があります。 これにより、ビーコンおよびセンサがデバイスの寿命にわたって給電され続ける「取り付けて忘れられる」アプローチが実現します。
環境発電
環境発電は、周辺環境から微量の未利用のエネルギーを収集して蓄積する方法です。 十分なエネルギーが保存されると、センサは、データを収集し、BLE上で他のデバイスにデータを伝送するなどのタスクを実行することができます。
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図2:環境発電WSNデバイスのブロック図。
環境発電システム(EHS)は、環境発電デバイス(EHD)、環境発電電源管理集積回路(PMIC)、およびエネルギー蓄積デバイス(ESD)を含む回路です。 PMICは、エネルギー蓄積デバイス(一般的にコンデンサ)を、太陽電池、振動センサ、または圧電デバイスなどのEHDが供給するエネルギーで「トリクル」充電します。 それから、EHSは、この蓄積電荷を使用して、エネルギーを別の組み込みデバイスに供給します。 センサの状態に応じて、EHSの出力電力が変化します。 アクティブな時は、エネルギーが消費され、EHSからの電圧は降下し始めます。 低電力状態の時は、エネルギー蓄積デバイスが消耗されるよりも速く充電されるため、EHSの電圧は上昇します。 図3は、一定期間にわたって組み込みデバイスのアクティビティに応じて変化するEHS出力電圧の例を示しています。
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図3:一定期間にわたるデバイスのアクティビティに応じたEH出力変動。
EHSが給電するデバイスで、アクティブ状態の間に消費されたエネルギーは、EHSで利用可能なエネルギーを超えることはできません。 図4は、アクティブ状態の間のエネルギー消費が、EHSが供給できる量よりも多いEHS給電システムを示しています。 EHSの出力電圧は、消費によりゆっくりと降下し、最終的に出力を完全にシャットダウンします。
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図4:不十分な電力によるWSNシャットダウン。
環境発電が給電する堅牢なシステムを設計するには、EHSによって給電されながらシームレスに動作するように、組み込みシステムのあらゆる面を、エネルギーの観点から最適化する必要があります。 このようなシステムには、多くの電力を必要とし、EHの出力を引き下げないことを確保するために最適化する必要がある多くのサブシステムがあります。 電力を最適化する際に目標とすべき主要な分野のいくつかを下記に記載します。
1. CPUクロック周波数
システムクロック周波数は、特定のルーチンがいかに速く処理されるか、そしてその間にどのくらいのエネルギーが消費されるかを決定します。 より高速のクロックは、より速い処理であるものの、より高い電流消費を意味します。 また、各デバイスには、違反するべきではない特定の最小および最大クロック周波数要件があります。
EHSベースの設計向けに、次の2つの要因に関して、最適化されたクロック周波数を選択する必要があります。
- 平均消費電流
- ピーク消費電流
EHS容量は、これらの要因の両方を考慮に入れる必要があります。 平均電流は、特定のアクティブ状態の間に必要とされる電流の時間平均です。 しかし、ピーク電流は、アクティブ状態の瞬時最大電流要件であり、多くの場合、平均電流よりもはるかに高くなります。 必要とされる平均電流がEHSの容量内であるものの、ピーク電流がEHSの突然のエネルギー消耗を引き起こし、電圧がカットオフ電圧を下回る可能性があります。 処理時間は、平均電流消費の計算の一部であることにご留意ください。
図5は、48MHzのシステム周波数で処理される特定のルーチンの電力対時間のプロットを示し、図6は、12MHzでの同じルーチンの電力対時間のプロットを示しています。
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図5:48MHzでのルーチン処理中の消費電流。
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図6:12MHzでのルーチン処理中の消費電流。
この例では、48MHzで処理されるルーチンは、完了するのに約300μsを要し、この時間中に約10mAピークを消費します。 12MHzで処理されるルーチンは、完了するのに1.1msを要しますが、消費するピーク電流はわずか4mAです。 処理中に消費される平均電流は、12MHzよりも大きくなりますが、ピーク電流要件は低減されます。 EHS容量に応じて、短い48MHzクロックセットアップ、より長い12MHzクロックセットアップ、またはクロック周波数が1つの処理から別の処理に切り替わる両方の混合を選ぶことができます。 このような電流プロファイルを、最適化されたシステム周波数を選択しながら考慮に入れる必要があります。
2. 低電力デバイスの起動
組み込みデバイスがパワーオンすると、アプリケーションコードを実行できる前に起動手順を完了する必要があります。 一般的な起動シーケンスには、次の事項が含まれます。
- メモリの初期化
- 割り込みベクタの設定
- ペリフェラルおよび共有レジスタの構成
- 外部クロックの初期化(外部クロックがある場合)
これらの各ステップは、完了するのにCPU処理時間を要し、これがエネルギーを消費します。 消費されるエネルギー量は、使用されるデバイスのタイプ、システムクロック周波数、初期化されるメモリ/レジスタセットのサイズ、外部クロックのセットアップに要する時間により異なります。 したがって、起動処理は電力集約型のアクティビティであり、EH出力から過度な量のエネルギーを消費しないように最適化される必要があります。 起動コードを書き込みながら考慮すべき要因は次の通りです。
- 使用されるメモリおよびレジスタのセクションのみを初期化する。 その他はデフォルト値のままとする。
ほとんどのワイヤレスシステムは、高精度の外部クロックを必要とします。 外部クロック発振器または時計水晶発振器などのこれらのクロックには、起動後に長い安定化時間があります。 クロックが安定化するのにアクティブモードで待機するのではなく、システムを低電力モード(スリープ/ディープスリープ)にして、クロックが使える状態である時にのみアクティブにする必要があります。 この目的で内部タイマを使用します。
3. 低電力システムの起動
デバイスがアプリケーションコードの実行を開始したら、通常、システムで個々のペリフェラルを開始する必要があります。 これらのペリフェラルは、ADCなどのようにデバイスの内部にあるか、またはセンサなどのようにデバイスの外部にある可能性があります。 ペリフェラルの個々の起動時間は長くないかもしれませんが、一方で、合計した全体のセットアップ時間には、EHSで蓄積されたエネルギーを消耗してしまうほど長い処理時間が必要となる可能性があります。 まず最初に、特定のCPU周波数で個々のペリフェラルの起動時間を計算してください。 次に、すべてのペリフェラルをまとめて開始する(より高速)ためのエネルギーバジェットが実行可能かどうか、または起動手順を段階的に実行する(より低速)必要があるかどうかを判断してください。
4. 段階的アプリケーション処理
デバイスには、自身のCPU帯域幅を必要とするさまざまなアプリケーションルーチンがあります。 これらのルーチンには、ペリフェラルの構成、センサからのデータ受信、計算の実行、イベントおよび割り込みの管理などのタスクが含まれます。 この処理に必要なエネルギーが、EHSの容量を超えないことを確かめてください。 もし超える場合は、ルーチンをより小さなサブルーチンに分割して、それらを段階的に管理してください。 これにより、EHSでの負荷を、アクティブCPU処理間でEHSの再充電を可能にする、管理可能な電流パルスに分割することができます。
さらに、各段階間で、カウンタまたはウォッチドッグタイマからの割り込みとしてウェイクアップソースを設定した状態で、システムを低電力モードにします。 大部分の時間でシステムが低電力モードにある中で、これらのモード中の電流要件は可能な限り低減される必要があります。 システムがこれらのモードにあり効率的であればあるほど、段階間での再充電にシステムが要する時間が少なくなり、システムのタスク実行時間が速くなります。
5. ワイヤレス伝送
データが収集されたら、そのデータをBLE上で伝送する必要があります。 この伝送は、BLE接続またはBLEブロードキャストで行うことができます。 環境発電対応のビーコニングは、BLEアドバタイズメントに限られることにご留意ください。 これは、データ伝送に接続が使用できる前に、BLE接続のセットアップにより多くの量のエネルギーが必要となるためです。 一般的に、送信(TX)または受信(RX)の無線アクティビティが、ワイヤレスデバイスで最もエネルギー消費が高い動作です。 EH出力がそれだけ多くのピーク電流を提供できる場合のみに、別の処理とグループ化される独立した処理としてBLEアクティビティが発生することを確かめてください。
CypressのPMICおよびBLEソリューションを使用した効率的な設計
Cypress Semiconductorの環境発電電源管理IC(PMIC)は、ワイヤレスセンサおよびネットワーク向けの電池不要のソリューションを実現します。 効率的なパワー変換を使用した出力電力の高精度制御により、それらは、ビーコンおよびワイヤレスセンサノードなどの小型の低電力BLEアプリケーションに優れた選択肢となります。 それらは、電池不要のソリューションで、または電力のバックアップソースとしてLiイオン電池などの電池とともに使用することができます。 S6AE101A(ソーラーまたは光EHD最適化)などの最適化されたPMICは、極めて低い起動および静止消費電力を提供し、全体のフォームファクタを最小化する小型の太陽電池の使用を実現します。 MB39C831などのEH PMICは、低電圧で起動し、最大電力点追従(MPPT)機能と呼ばれる機能を使用してアプリケーションの電力要件に適応することができます。 MPPTにより、内部DC/DCコンバータは、入力電力に従うことで出力充電を制御できるため、電力出力を最大化します。
Cypressの環境発電PMICは、さまざまなアプリケーションに適合します。 たとえば、MB39C8xxファミリ PMICは、ソーラー、振動、およびサーマルベースのEHデバイスをサポートします。 より複雑なシステム向けに、ソーラー最適化されたPMICのS6AE10xAファミリは、複数の出力およびストレージデバイスを制御することができます。
電池不要のワイヤレスビーコンの別の側面には、MCUの選択があります。 さまざまな低電力モードのサポートを備えた、システムオンチップ(SoC)デバイスなどのプログラム可能システムとして統合されたMCUは、このようなアプリケーションに良好に適合します。 たとえば、Cypressのプログラム可能システムオンチップ(PSoC)は、センサとのインターフェースに使用できるさまざまなタイプのペリフェラルとの密接な統合を提供します。 特に、PSoC 4 BLEは、BLE無線および統合型BLEスタックとともに、低電力ペリフェラルを含み、シングルチップBLEセンサノードの設計を実現します。 また、超低電力モードのサポートにより、システムは、環境発電機やコイン電池などの制約のある電源を使用して確実に動作することができます。 このような発電機は、PSoCとともに、電池不要のBLEセンサノードアプリケーション向けに最適化された設計であることを実証しています。
環境発電アプリケーション向けの効率的なワイヤレスシステムの設計に関する詳細については、アプリケーションノート「Bluetooth Low Energyを用いて始めよう」をご覧ください。 環境発電向けのBLEサブシステムの最適化に関する詳細情報については、「BLEベースのアプリケーションにおける低電力用設計および電池寿命の推測」をご覧ください。 さらに、こちらをクリックして、電源管理集積回路の概要をご覧ください。
付録
A1:EHから給電されるBLEセンサノードでのさまざまな処理を示した、オシロスコープのスクリーンショット
この図は、一定期間にわたるCPU処理に関するEHS出力電圧の変動を示しています。 黄色の信号はEHS出力電圧を、緑色の信号は組み込みデバイスによる消費電流を表します。 緑色のピークは、CPUアクティブ処理中の消費電流を表します。 フラット信号は、デバイスの低電力モード中に発生します。 CPUが消費するエネルギーにより、各CPUアクティビティ(緑色の信号でのピーク)でEHS出力電圧が降下することにご留意ください。 また、エネルギー蓄積デバイスをEHSが再充電すると、低電力状態中に電圧が回復することにもご留意ください。
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この図は、EHSでのエネルギー蓄積デバイスの再充電なしでの、CPUアクティビティに関するEHS出力電圧を示しています。 エネルギーが消耗され、電圧がカットオフ電圧を下回り、その時点でEHS出力がシャットダウンすることにご留意ください。
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デバイス起動での消費電流(緑色の信号):
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環境発電により給電されるビーコンでのBLE伝送アクティビティ:
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