郊外地域でのスマートグリッド通信の実現
Electronic Products の提供
2015-09-02
スマートグリッドでは、電力の使用と投資対効果を最適化するため、データを交換するための信頼性の高い通信フレームワークが不可欠です。 郊外地域では、人口密度の低さ、距離、地形の組み合わせの関係で、多くの場合に他の通信手法が制限されるため、パワーライン通信(PLC)ソリューションがデータ通信の現実的な方策となります。 スマートメータやグリッド直結の環境発電システムに通信の実装を検討しているエンジニアは、PLC設計を使用するとAtmel、Cypress Semiconductor、STMicroelectronics、Texas Instrumentsなどの製造業者から利用可能なデバイスを活用できます。
郊外地域では多くの場合、信頼性と投資対効果の高いスマートグリッド通信を保証するため最良の選択肢はパワーラインです。 このような地域では、ユーザーエンドポイントは一般に地理的に広く分散しており、ワイヤレスなど他の方法では範囲が不十分で、有線リンクやセルラーブロードバンドはすぐに利用できないか、信頼性が不十分です。 これら他の手法とは異なり、PLCは電力会社と消費者のスマートメータとの間でデータを交換するための、投資対効果と信頼性の高い機構を提供できます。
PLCの設計
標準的なPLCモデムの設計では、アナログフロントエンド(AFE)とプロセッサが主要な機能を提供します(図1)。 AEFは信号の送信と受信などアナログ動作を処理し、プロセッサは特定のPLCプロトコルに関連付けられた通信ソフトウェアスタックを実行します。

図1: PLCモデムには、カップリング、バンドパス、回路保護とともに、信号の送信と受信を行うアナログフロントエンド(AFE)と、通信スタック処理用のMCUが組み込まれています。 (Texas Instruments提供)
PLCソリューションを構築するために、設計者はTexas InstrumentsのAFE030やAFE031などのスタンドアロンAFEと、Texas InstrumentsのC2000 C28x Piccolo MCUなどの外部MCUを組み合わせて使用できます。 この手法では、設計者はPLCモデムの性能拡張のため、Texas InstrumentsのConcertoマルチコアMCUなどの高性能MCUを選択できます。このMCUには、C2000 C28xコアとARM Cortex-M3が搭載されています。 実際に、以下で言及する直交周波数分割多重化(OFDM)などの高度な変調スキーマを使用する場合は、より複雑な通信ソフトウェアスタックを処理するために高性能のマルチコアプロセッサが必要になることがあります。
または、PLC通信スタックのさらに多くの部分を単一のチップに統合した、広範な種類のPLCソリューションも採用できます。 たとえば、Cypress SemiconductorのCY8CPLC10は、ネットワークプロトコルスタックのPHYレイヤと下層レイヤとを統合したもので、CY8CPLC20ではCY8CPLC10の機能に加えてさらに、より複雑なPLCスタックを実行可能なCypress PSoCコアが統合されています(図2)。

図2: 製造業者は、さまざまなレベルの機能が統合されたPLCソリューションを提供しています。 たとえば、Cypress SemiconductorのCY8CPLC10はPHYとネットワークプロトコルスタックを統合したもので、Cypress CY8CPLC20にはCY8CPLC10の機能に加えて完全なスタック処理を行うPSoCコアが統合されています (Cypress Semiconductor提供)
周波数帯域
PLCの動作周波数は、特定の帯域幅への地域的な規制による制約を受けます。 北米およびカナダでは、PLCはFCC(Federal Communications Commission)セクション15で指定されている10kHz~490kHzの周波数帯で動作します。 アジアおよび日本では、ARIB(電波産業会)で指定されている10kHz~450kHzの周波数帯で動作します。 欧州では、Cenelec(European Committee for Electrotechnical Standardization)EN50065により、PLC通信用のAバンド(3kHz~95kHz)とBバンド(95kHz~122kHz)、および関連アプリケーション用のCバンド(125kHz~140kHz)とDバンド(140kHz~148.5kHz)を含む低周波数帯の範囲が定義されています。 中国では、EPRI(Electric Power Research Institute)で3kHz~500kHzの帯域が指定されています。
スタンドアロンAFEまたは統合PLCデバイスのどちらでも、製造業者は各種のデバイスファミリにおいて特定の周波数帯と変調スキーマをサポートしています。 たとえば、TI製のAFE030およびAFE031は、Cenelec EN50065のバンドA、B、C、Dをサポートしており、Cypress製のCY8CPLC10およびCY8CPLC20はCenelec EN50065およびFCC Part 15の動作をサポートしています。 同様に、STMicroelectronics自身のPLCデバイスのシリーズも、特定の地域的な周波数帯をサポートしています。 たとえば、STMicroelectronics製のST7538QおよびST7540はCenelec EN50065をサポートするよう設計されており、STのST7580はARIB、Cenelec EN50065、FCC Part 15をサポートしています。
パワーラインのノイズ
割り当てられた周波数帯の中で、PLCシステムは非常にノイズの多い電気環境で動作する必要があります。 パワーラインは、瞬間的なノイズ、モータのノイズ、および消費者が各種の器具、工具、機器の電源をオン/オフするときに発生する電源や他のノイズ源からの高調波など、変動し続けるノイズに常にさらされます(図3)。

図3: 低電圧のパワーラインには、消費者の使用状況によって変化する多数のノイズ源が含まれます。瞬間的なノイズ(A)や、電動歯ブラシの充電スタンドのような小さな家庭用機器から発生する広帯域のノイズ(B)もあります。 (Aは Texas Instruments、Bは Echelon Corporation提供)
実際のところ、パワーラインのノイズは激しく変動します。 特定のバンドが、ある期間において通信用の明瞭なチャンネルであっても、その後の期間ではユーザーの家屋、オフィス、農園のノイズ源から発生する断続的なノイズで充満する可能性もあります。 その結果、PLCレシーバは多くの場合、非常に好ましくない信号ノイズ比特性を示すソースから、信号を抽出する必要に迫られます。
ST製のST7538Q、ST7540、ST7580などの利用可能なPLCデバイスは、バイナリ周波数シフトキーイング(B-FSK)を採用しており、振幅の変動や近接帯域の干渉に耐性があります。 FSK変調は信号ノイズ比の低い環境における適切なソリューションですが、多くのパワーラインに影響を及ぼす広帯域のノイズに対しては、より強固な通信スキーマが必要です。
ノイズ耐性のある変調
パワーラインの激しく変動するノイズ源がPLC信号の伝送に与える影響を低減するため、STMicroelectronics製のST7570などのPLCトランシーバは、需給計器に使用されるPLC用の規格であるIEC 61334で指定されている、分散周波数シフトキーイング(S-FSK)変調を提供しています。 さらに要求の厳しい用途では、設計者はST製のST7590やTI製のAFE030/31などのPLCデバイスのOFDMサポートを活用できます。 OFDMは複数のチャンネルを使用するため、パワーライン通信のようなノイズの多い用途での使用に特に適しています。
主な2つのPLC規格にPRIME(Power line Intelligent Metering Evolution)とG3があり、ノイズの多いパワーラインでの通信を改善するためにOFDMが指定されています。 実際に、G3には適応型手法があり、これに準拠したPLCデバイスはノイズによる干渉の激しいサブバンドでの通信をオフにできます。 ノイズの多い環境で安定した性能が得られるため、民生用機器に電力を供給する低電圧のラインだけではなく、電力会社の電力サブステーションへトランスを接続する中電圧ラインで一般的にホストされるデータコンセントレータへのトランスを経由して通信を提供するためにも適しています。
これらのプロトコルは複雑なため、これらに準拠するPLCモデムには、同様に複雑なPLCデバイスが必要となります。 たとえば、TI AFE031 PLC ICはPRIMEとG3をサポートしていますが、対応する通信ソフトウェアスタックを実行するために必要なプロセッサとして、TIは同社のデュアルコアConcertoファミリに搭載されているような高性能のMCUを使用することを推奨しています。
利用可能な統合PLCデバイスの中で、Atmel製のATPL230AおよびATPL250AはそれぞれPRIMEとG3に準拠したPLCモデムICです。 どちらのデバイスも、Atmel SAM4C MCUファミリのような高性能MCUとともに動作するよう設計されています。 シングルチップのソリューションを求める設計者向けには、Atmel製SAM4CP16BデュアルコアARM Cortex-M4ベースPLC MCUが同様に、PHYと、Atmelの提供するPLC通信スタックが統合されている単一のICでPRIMEとG3の両方をサポートしています(図4)。

図4: 設計者は、Atmel製のATPL2x PLCデバイスとSAM4C MCUで構成されるデュアルチップセット、またはシングルチップでこのデュアルチップセットと同等の機能を提供するSAM4CP16Bを使用して、PRIMEおよびG3のPLC設計を構築できます。 (Atmel提供)
開発キット
PLC設計の複雑性を解決するため、設計者はPLCの主要なIC、プロセッサ、ソフトウェアを組み合わせた多くの開発キットを利用できます。 Cypress Semiconductor Corp製のCY3274開発キットを使用すると、開発者はCypress CY8CPLC20統合PLCデバイスを活用して、作業を迅速に始められます(図2を参照)。
STMicroelectronics製のSTEVAL-IPP004V1開発キットは、ST7590 PLCデバイスと、ST製のSTM32F103 MCU(高性能STM32 F1 ARM Cortex-MベースMCUファミリのメンバー)を中心に構築された完全なPRIME互換のモジュールを提供します。
最後に、TI製のTMDSPLCKIT-V3 C2000パワーラインモデム開発者キットは、AFE031およびTMS320F28069 C28x Piccolo MCUを、S-FSKおよびOFDMをサポートするPLCソフトウェアスイートと組み合わせたもので、PRIMEやG3準拠のPLCソリューションの開発に使用できます。
結論
郊外地域では、PLCを使用してスマートメータ、家電機器、および装置をスマートグリッドへ接続するための効果的なソリューションを提供できます。 ただし、規制による制約、国際的な標準、およびパワーラインの特性から、PLC設計者に大きな課題が負わされることがあります。 利用可能なPLC ICやMCUを活用すると、設計者は低電圧ラインや、中電圧パワーグリッドへのトランス上で動作する、堅牢なPLCソリューションをより簡単に実装できるようになります。
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