ドローンモータ制御の開発

著者 ヨーロッパ人編集者

DigiKeyのヨーロッパ担当編集者の提供

世界の人口は2050年までに100億人に近づく見通しです。国連(UN)の食糧農業機構(FAO)の『食糧と農業の未来』報告書(2017年)によると、世界人口に十分な食糧を供給するには、農産物を約50%増産する必要があります。

UN FAOは、食糧供給の維持のために解決が必要ないくつかの課題を指摘しています。これらの課題には、農村地域の経済状況の改善、フードシステムの改善、農業生産性の向上が含まれます。先進技術は、これらの問題解決を支援する役割を担っています。スマート農業は、作物収量と畜産管理の向上を支援する手段として登場しました。その一例として、モノのインターネット(IoT)技術を利用した作物収量と家畜衛生の改善が挙げられます。

作物の背の高さ、植栽密度、葉の状態、家畜の体温などのデータを収集することで、農業者は作物と家畜のケアを最適化し、収穫高を予測して最大化できるようになります。データ分析が完了したら、収集した情報に基づく意思決定を実行に移す効果的な手段が必要です。主な問題は、広大な農場の規模が数千エーカーに上ることです。大規模な農場では、作物や家畜の状態の確認に非常に長い時間がかかります。また、作物や家畜の衛生状態の全体像を把握し、特定のエリアで局地的な下草の繁茂、乾燥、病虫害などの問題を特定することも難しくなります。

ドローンはこの問題の解決に貢献します。テクノロジ企業は、農業者がドローンを使用して広大な面積を迅速に調査し、可視波長および非可視波長で詳細な情報を収集できるようにする技術をすでに開発しています(図1)。また、無人航空機(UAV)によって支援される精密農業の登場は、UAVが飛行中に収集したデータを解釈して適切な対応を決める、クラウドベースの分析ツールの開発需要を高めています。これらのツールは、灌漑、施肥、病虫害管理の最適化による収量の向上と、農薬散布の効率化によるコスト削減を支援します。

空中撮影画像のクラウド分析の画像

図1:空中撮影画像のクラウド分析により、作物と土壌の状態を監視できます。(画像提供:PrecisionHawk)

農業用UAVの役割は、データ収集にとどまりません。10kg、20kg、またはそれ以上の荷重に対応するマルチローターUAVによる農薬散布には、トラクターまたは軽飛行機を使用する従来の方法に比べていくつかの利点があります。UAVの操縦者の訓練は、航空機操縦士の訓練に比べてはるかに短期間、低費用ですみます。機体それ自体もはるかに低コストで購入、運用できます。農薬散布用UAVはトラクターよりも高速で、作物を傷めません。さらに、雨で地面がぬかるんでいても、飛行の妨げにはなりません。

精密農業用UAV技術

精密農業分野のUAV市場はまだ歴史が浅く、急速な進化の途上にあり、規制の内容が固まるのはまだまだ先のことです。現時点では商用UAVの飛行は承認されていません。アメリカ連邦航空局(FAA)が個別に許可を出している状況です。

UAV技術に関する適切な機体の要件は、基本的なモータ制御および飛行制御機能、センサ、テレメトリに加え、バルブアクチュエータや液面センサなどの農薬散布用システムを搭載していることです。レーダベースの衝突回避機能も提案されています。

データ収集に関して、軽量で低消費電力のハイパースペクトルセンサは、可視スペクトルで動作する従来のカメラよりも、作物の状態に関する多くの情報をもたらします。ハイパースペクトルセンサの起源は、衛星アプリケーションで実績を積んだ分光器技術にあります。ハイパースペクトルセンサは、それぞれ超近赤外線(VNIR、380~1000nm)、近赤外線(NIR、900~1700nm)、または短波長赤外線(SWIR、950~2500nm)などの狭い波長域で動作するように調整された複数のディテクタを使用して、可視スペクトルを超える波長のデータをキャプチャします。これらの波長域では、作物の病害やその他の病虫害の化学的兆候を、可視スペクトル波長域のみで観察するよりも明確に観察できます。現在手ごろな価格で市場に提供されているハイパースペクトルセンサは、低歪みと広視界に加え、ノイズ除去およびキャプチャ画像の精度維持用のオンボード処理機能を備えています。

UAVの飛行

精密農業用UAVのプラットフォームは、小型固定翼航空機から、マルチロータークアッドコプタードローン型まで多岐にわたります。農薬散布用UAVには、十分な揚力を得るために荷重に応じて6ローター以上が搭載されます。

ドローン型UAVのリフトローターを駆動するDCモータは、ブラシ付きまたはブラシレス(BLDC)タイプモータです。小型の機体には、軽量で簡素なブラシ付きモータを使用できます。一方、特に大型のUAVには、信頼性の向上と電磁ノイズの軽減のためにBLDCが採用されています。

機体の中心部には、ナビゲーションの管理、離陸時のモータ制御、飛行中の高度と方向の維持のためのフライトコントローラが必要です。GPSベースのナビゲーションと、3軸加速度計、3軸ジャイロスコープ、気圧センサなどの軽量小型MEMSセンサにより、正確な位置決め、モーション制御、高度認識が可能になります。飛行中の安定性の確保については、最新のマルチローターUAV用フライトコントローラは、アンチトルクテールローターの制御によって機体がその軸を中心として旋回することを防ぐモデルヘリコプターコントローラの技術を共有しています。このUAVコントローラは、MEMSセンサフュージョンに基づく慣性測定によって個々のモータ速度を調整し、意図した方向に機体を固定します。

精密農業の支援ツールとしてのこのフライトコントローラの真の威力は、UAVの飛行経路の定義用のユーザーインターフェースと機能に発揮されています。UAVの飛行経路を事前に正確に指定しなければ、特定の畑から漏れなく画像をキャプチャし、最小限の時間と労力で意図した範囲全体に(必要以上の散布を最小限に抑えて)農薬を散布することはできません。

ドローンモータ制御の開発を加速

モータドライブを簡単に開発できるように、さまざまなメーカーが各種の評価キットを提供しています。ホールセンサを使用した磁界方向制御(FOC)や、ローター位置検出用のバックEMF測定などの制御アルゴリズムは、通常は無償で利用可能です。これらのキットにはアプリケーション開発を有利にスタートできるサンプルソフトウェアが付属するため、技術者は短時間で各種のモータの使用を開始できます。

これらのキットを使用する場合でも、速度とトルクの正確な制御を実現するには、技術者にモータ設計の専門知識が多少必要です。難しいのは、選択したモータ用のソフトウェアのセットアップと、その後でパラメータを調整して速度およびトルクコマンドへの応答を最適化する手順です。技術者は、モータの電圧定数(Ke)、摩擦係数、慣性モーメントを計算する必要があります。コントローラがバックEMF測定を利用する場合は、センサレス状態観測と速度調整をセットアップする必要があります。近年、TISTMicroelectronicsなどのベンダはモータの特性評価とチューニングの簡略化に成功し、開発者がモータの特性を理解した上でモータを駆動するのに要する時間を短縮しました。これらのメーカー2社は多少異なる手法を採用しています。

STは、同社のMC Workbenchモータ制御開発環境に識別機能とチューニング機能を組み込みました(図2)。このモータプロファイラは、静的な開ループテストと閉ループテストを使用して、モータのパラメータを自動的に検出します。それぞれのテストは数秒で完了します。パワー段、ドライバ、制御段を記述するその他のパラメータは、MC WorkbenchのGUIを使用して入力されます。これでプロジェクトが生成およびコンパイルされ、モータのチューニングと制御が可能になります。MC Workbenchのワンタッチチューニング機能により、簡単な方法で設定値を調整し、速度とトルクのスムーズな制御を実現できます。

STMicroelectronicsのMC Workbenchの画像(クリックでフルサイズ画像を表示)

図2:STのMC Workbenchはセットアップを支援します。モータプロファイラツールが未知のモータパラメータを取り込みます。

この機能がMC Workbenchに実装されたことで、開発者は、STM32 MCUの幅広い選択肢など、各種のマイクロコントローラから最適な製品を選択できます。また、STM32のエコシステムを利用して、低コストの開発プラットフォームを作成できます。異なるアプローチとして、先頃STはSTSPIN32F0を発表しました。STSPIN32F0は、完全なSTM32F0マイクロコントローラと3相ハーフブリッジゲートドライバを同じパッケージに統合し、過電流/過電圧/過熱保護機能と、ホールセンサデコーディング用の一連のオペアンプを搭載したパッケージです。STSW-STM32100モータ制御ライブラリと組み合わせて使用されるSTEVAL-SPIN3201評価ボードは、STSPIN32F0 ICと電源管理機能を組み合わせた製品です。サンプルファームウェア(STSW-SPIN3201)をダウンロードし、MC Workbenchと組み合わせて使用すれば、短時間でモータを駆動して開発を開始できます。

TIの手法は、TMS320F28069MなどのC2000 Piccolo™シリーズ マイクロコントローラのROMに組み込まれた、同社のInstaSPIN™-MOTIONソフトウェアソリューションに基づくものです。InstaSPIN-MOTIONには、TIのFAST™(磁束、角度、速度、トルク)ソフトウェアベースのローターフラックスセンサが含まれます。InstaSPIN-MOTIONは、モータタイプの識別用に、モータプロファイリング、シングルパラメータチューニング、および外乱除去用コンポーネントを搭載しています(図3)。

Texas InstrumentsのInstaSPIN-MOTIONの図

図3:TIのInstaSPIN-MOTIONは、マイクロコントローラに組み込まれたファームウェアを使用してモータの特性評価を行います。

開発者は、TIのMotorWare™ソフトウェア環境を使用してInstaSPIN-MOTIONの機能を実行できます。DRV8312-69M-KITは、TMS320F28069M搭載の制御ボードとDRV8312 IC搭載の電源モジュールベースボードを組み合わせたキットです(DRV8312 ICは、ブラシレスDCモータの駆動に必要な回路を含む統合型3相インバータです)。55Wモータも付属しています。

まとめ

精密農業は、注目すべき新たなチャンスをドローンテクノロジ市場にもたらします。農業者はコスト効率の良い方法で食糧生産を最適化しなければなりません。この要請が、この市場の成長を促しています。フライトプログラミングを簡略化するソフトウェア、キャプチャしたデータを解釈するソフトウェアや、ただちに利用可能なモータ制御のノウハウの活用により、制御可能な安定した機体を短期間で開発することが、この市場での成功のカギとなるでしょう。

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