完全ワイヤレスフィットネスヒアラブルの構築 - 第2部:オーディオ処理
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2020-01-14
編集部より:フィットネスヒアラブルには大きな可能性がありますが、生体計測、オーディオ処理、ワイヤレス充電の3つの主要分野に設計上の重大な課題があります。3部構成のこの記事では、これらの各課題を1つずつ説明し、超低電力デバイスを利用してフィットネスヒアラブルをより効果的に作成する方法を紹介します。第1部では、心拍数とSpO2の生体計測を取り上げました。この第2部では、オーディオ処理について説明します。第3部では、フィットネスヒアラブル設計のためのワイヤレス充電と電源管理のソリューションについて解説します。
第1部で説明したように、オーディオ再生デバイスとしてインイヤー型のスマートワイヤレスオーディオイヤホン(完全ワイヤレスヒアラブルとも呼ばれる)が人気を博しており、特に動きや装置にワイヤが干渉する可能性があるフィットネスアクティビティで活用されています。このような設計に健康指標測定を追加することで、開発者はオーディオ再生と健康データの両方を提供する「フィットネスヒアラブル」を作成できます。
生体計測機能の追加により有望な進展が実現しますが、設計者は高品質のオーディオ再生というヒアラブルのコア機能を見失ってはなりません。ここで、十分なバッテリ寿命を備えたそのような小さいフォームファクタに新しい機能を追加すると同時に、高品質のオーディオ再生をどのように維持するかが問題となります。
この記事では、オーディオコーデックとプロセッサの役割について説明し、ヒアラブル用のオーディオシステムアーキテクチャのコア要素ついて概説します。次に、Maxim Integratedの高度なオーディオコーデックを紹介し、設計者がこのオーディオコーデックを使用して、長いバッテリ寿命を備えたコンパクトなフォームファクタで高品質サウンドを求めているユーザーの期待に応える方法を示します。
オーディオコーデックとプロセッサ
オーディオコーデックと専用オーディオプロセッサは、長年にわたり高性能オーディオの設計を支援してきました。コーデックとプロセッサは、それぞれがオーディオ信号をサンプリング、変換および調整するための完全な信号チェーンを組み合わせるものです。コーデック(コーダ/デコーダから派生した)では、これまで、物理的に組み込まれたファームウェアを使用してオーディオ信号エンコーディングおよびデコーディングを行う機能が制限されていましたが、オーディオプロセッサでは、通常、この機能はプログラム可能なデジタル信号プロセッサ(DSP)を中心にして作成されています。 機能が物理的に組み込まれた再プログラム可能なコーデックやオーディオプロセッサの登場に伴い、これらのクラスの製品間の違いはますますあいまいになっています。いずれの場合も、開発者は、最も耳の肥えたオーディオファンの要求を満たせる強力なオーディオ信号処理デバイスを見つけることができます。
インイヤー型の小さなオーディオイヤホンの幅広い人気により、これらのオーディオ信号処理デバイスの進化が加速しており、チップ上に完全なオーディオサブシステムを実装することに向かっています。これらのデバイスとワイヤレス通信やワイヤレス充電技術を併用することにより、わずらわしいケーブルを使用せずに、ユーザーに非常に豊かなサウンドを提供できる完全ワイヤレスのイヤホンが実現します。
ヒアラブルの進化
ただし、従来型の有線イヤホンとは異なり、完全ワイヤレスのイヤホンでは、開発者が直面する課題が大幅に増えます。これらの製品は、オーディオ性能に対するリスナーのニーズを満たすと同時に、利便性やユーザビリティに対するモバイルユーザーの期待にも応える必要があります。そのため、設計では、並外れたサウンド品質と全体的な機能を提供することに加えて、最小限のフォームファクタと最大限のバッテリ寿命も実現する必要があります。幸い、開発者は、この一連の幅広い要件を満たすことを可能にする、広範なオーディオコーデックとオーディオプロセッサを見つけることができます。
いわゆるスマートイヤホン(ヒアラブル)は、完全ワイヤレスのイヤホンの自然な進化を体現しています。他の高度な機能に加えて、ヒアラブルには、生体計測、動作検知、およびユーザーの周囲認識を強化するために設計された機能のためのセンサが追加されます。
フィットネスヒアラブルの設計は、機能的に複雑ですが、これらの低電力アプリケーション向けに特化して設計された、すぐに利用可能なシステムオンチップ(SoC)デバイスのハードウェアプラットフォーム上に構築することができます。本シリーズの第1部で説明したように、Maxim IntegratedのMAXM86161バイオセンサは、これらの製品に必要なすべての生体計測機能を提供します。同様に、Maxim IntegratedのMAX98090オーディオコーデックは、新しく出現しているフィットネスヒアラブル向けに設計されたさまざまなオーディオ機能をサポートできる完全なオーディオサブシステムを提供します。開発者は、これらのデバイスをBluetooth(BT)の無線周波数(RF)コントローラや電源管理集積回路(PMIC)と一緒に使用して、フィットネスヒアラブルの高度な設計の基礎となるハードウェア基盤を実装できます(図1)。
図1:フィットネスヒアラブルでは、バイオセンシング能力を備えた完全ワイヤレスのオーディオイヤホンの機能が拡張されますが、同時に、高品質サウンド再生と長いバッテリ寿命という要件に直面することになります。(画像提供:DigiKey。Maxim Integrated提供の原資料に基づく)
包括的なオーディオサブシステム
モバイルアプリケーション向けに特化して設計されたMAX98090オーディオコーデックでは、超低電力性能と高度に構成可能なオーディオ信号処理機能が統合されています。アナログ信号とデジタル信号のさまざまな組み合わせを使用して、デバイスのコアにあるMaxim IntegratedのFlexSoundデジタル信号プロセッサ(DSP)に信号を入力できます。次に、デバイスは、FlexSoundで変換したオーディオを、さまざまなタイプのオーディオスピーカ向けに最適化された別々の出力信号パスに供給できます(図2)。
図2:インイヤー型ウェアラブル向けに特化して設計されたMaxim IntegratedのMAX98090オーディオコーデックでは、入力、出力および処理機能が包括的に統合されており、ヒアラブルの電源およびサイズの制限に対応できる完全なオーディオサブシステムを提供します。(画像提供:Maxim Integrated)
MAX98090デジタルオーディオインターフェース(DAI)サブシステムは、さまざまな標準パルス符号変調(PCM)形式で、8kHzの音声オーディオから96kHzの高解像度オーディオまでのサンプルレートをサポートします。通常の設計では、デジタルオーディオ入力は、入力源からDAIサブシステムに直接渡されます。アナログ入力源に対しては、MAX98090は、入力マルチプレクサ、ミキサ、プリアンプ、プログラマブルゲインアンプ(PGA)で構成されるマルチチャンネルアナログフロントエンドを提供します。すべてのアナログ入力とデジタル入力は別々の左右のチャンネルミキサに接続され、各ミキサは専用のA/Dコンバータ(ADC)に信号を入力します。次に、左右のチャンネルのADCの出力はDAIサブシステムに渡され、最終的に、DAIサブシステムはデジタルオーディオをFlexSound DSPコアに供給します。
DSPコアは、オーディオ再生製品に必要な基幹的な信号処理機能を提供しますが、通常は、従来のオーディオコーデックでサポートされていません。ユーザーは、インイヤー型ウェアラブルがジムなどのノイズの多い環境でも聞こえる十分なボリュームを提供しつつ、なおかつすべてのボリュームレベルでクリーンなオーディオ信号が提供されることを求めています。MAX98090 FlexSound DSPコアは、別個の7バンドパラメトリックイコライザ、自動レベル制御(ALC)、左右のチャンネル用の複数のフィルタなど、複数のステージで構成される再生サブシステムによりこれらの要件を満たします(図3)。
図3:Maxim IntegratedのMAX98090オーディオコーデックの中心には同社のFlexSound DSPコアがあり、別々の左右のオーディオチャンネルを処理するための専用マルチステージパスを提供します。(画像提供:Maxim Integrated)
これらの機能は、各アプリケーションのさまざまな要件を満たすことができる非常に柔軟なオーディオ処理機能を提供します。たとえば、イコライザは、その7バンドモードに加えて、よりシンプルなユーザーインターフェースを備えた製品で必要になる場合がある3~5バンド動作向けにも有効にできます。同様に、ALCでは、ハイエンドでのオーディオ信号のクリッピングとローエンドでのバックグラウンドノイズの増幅の両方を防止できるプログラム可能なダイナミックレンジ制御(DRC)を統合しています。デジタルオーディオデータをクリーンアップするために、デバイスのデジタルフィルタセットには、音楽と高レートオーディオ用の有限インパルス応答(FIR)フィルタに加えて、8kHzまたは16kHzの音声アプリケーション用の無限インパルス応答(IIR)フィルタが含まれています。また、低周波サウンドを減衰するために、DCブロッキングハイパスフィルタステージをFIRの音楽フィルタとIIRの音声フィルタに含めることができます。
DSPコアの出力で、左右のチャンネル向けの専用D/Aコンバータ(DAC)は、結果のアナログ信号をMAX98090の出力ミキサに渡します。MAX98090は、その入力サブシステムと同様に、統合クラスDスピーカ出力ドライバ、クラスHヘッドフォン出力ドライバ、構成可能なクラスABドライバによって、幅広いオーディオ出力構成とスピーカタイプをサポートします。各出力タイプに対して、関連するレジスタを設定するだけで、左または右のチャンネルから個々の設計に適した出力ドライバに向けてステレオまたはモノラル出力を駆動するようにMAX98090を構成できます。
強化された低電力ヒアラブル
フィットネスヒアラブル製品の場合、開発者は、通常、クラスHヘッドフォン出力を使用して、マイクロスピーカや、インイヤー型アプリケーション向けに特化して設計されたUsoundのUT-P 2017などの新しいマイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)スピーカを駆動するようにMAX98090を構成します。フィットネスヒアラブルでは、デジタルオーディオはBluetooth接続を介してMAX98090のデジタルオーディオ入力サブシステムに直接ストリーミングされます。その結果、ベース構成ではアナログおよびライン入力オプションが要求されないため、ヘッドフォンサブシステムの組み込みミキサをバイパスするようにMAX98090を構成することにより、電力を節約できます(図4)。
図4:オーディオイヤホンなどの再生デバイスの場合、Maxim IntegratedのMAX98090オーディオコーデックは、デジタルオーディオをデバイスの統合ヘッドフォン出力サブシステムに直接ストリーミングする低電力構成で動作できます。(画像提供:Maxim Integrated)
この構成では、MAX98090が消費する電力は約6mWのみです。消費電力をさらに削減する場合は、消費電力を約3.85mWにまで低下させる特別な低電力モードで動作するようにMAX98090ヘッドフォン出力サブシステムを構成することができます。
また、開発者は、インイヤー型ウェアラブルの一般的に限られたパワーバジェットに対応するために、MAX98090の個々の入力および出力ブロックを選択的に無効にすることができます。デバイスをアイドル時に、プログラムで、数マイクロアンペアしか消費しないシャットダウンモードにすることができます。このモードでは、デバイスのI2Cシリアルインターフェースはアクティブなままであるため、開発者は、シャットダウンレジスタにビットを設定することで、デバイスを再起動する前に、新しい構成をロードできます。この時点で、デバイスはほんの10ms後に完全なアクティブモードに戻り、ほぼ瞬時オンのエクスペリエンスをユーザーにもたらします。
フィットネスヒアラブルのシステム設計の場合、I2Cシリアルインターフェースを介してMAX98090を、ON SemiconductorのRSL10(「電池駆動のBluetooth 5認証マルチセンサIoTデバイスの迅速なデプロイ」を参照)などのBluetooth対応超低電力マイクロコントローラに接続します。MAX98090には入力、処理、出力ブロックの包括的なセットが統合されているため、このシステム統合のために必要な追加コンポーネントはわずかです(図5)。
図5:開発者は、わずかな追加コンポーネントを使用するだけで、Maxim IntegratedのMAX98090オーディオコーデックハードウェアインターフェース設計を実装できます。(画像提供:Maxim Integrated)
前述した基本的な再生設計を拡張して、Bluetoothで接続された音声アシスタントインターフェースや携帯電話の会話のためにオーディオ入力を使用するなどの追加機能をサポートするには、最小限の労力ですみます。そのような設計では、ユーザーの音声を捕捉するために、KnowlesのFGシリーズ 50μAマイクロフォン、あるいはTDK InvenSenseの25μA ICS-40310やVesper Technologiesの5μA VM1010といったMEMSアナログマイクロフォンなどの低電力エレクトレットマイクロフォンが使用される場合があります。
開発者は、少しの追加レジスタ設定を使用して、必要に応じて、これらのアナログマイクロフォンやデジタルマイクロフォンからのサウンド入力を受け入れるようにMAX98090を構成できます。別個のアナログおよびデジタルマイクロフォン入力ステージにより、アナログ信号調整またはデジタル制御のために必要なフロントエンドステージが提供されます(図6)。
図6:Maxim IntegratedのMAX98090オーディオコーデックは、アナログマイクロフォンとデジタルマイクロフォンをそれぞれ接続するための完全なアナログフロントエンド(A)とデジタルインターフェース(B)を提供します。(画像提供:Maxim Integrated)
入力ステージの後、デジタル化されたデータストリームは、前述のDSP再生サブシステムの前にある、FlexSound DSPコアの別個の録音サブシステムに入ります。再生機能と同様に、録音機能は、処理の複数のシーケンシャルステージを提供します。この場合、処理は、IIR音声フィルタ、FIR音楽フィルタ、DCブロッキングフィルタなどの一連のデジタルフィルタで構成されます(図7)。
図7:Maxim IntegratedのMAX98090オーディオコーデックは、アナログおよびデジタル入力のサポートに加えて、同社のFlexSound DSPコア内にマルチステージ録音パスを含んでいます。(画像提供:Maxim Integrated)
次に、DSP再生システムは、以降の処理とMAX98090出力サブシステムへの受け渡しのために、この録音された側音とプライマリデジタルオーディオ音楽ストリームを統合します。
まとめ
完全ワイヤレスフィットネスヒアラブルは、最新機能を求めるユーザーの期待に応えるために必要な幅広い機能を提供すると同時に、電力とサイズの厳しい制約内で動作できる必要があります。オーディオ再生に関しては、Maxim IntegratedのMAX98090オーディオコーデックは、アナログおよびデジタル入出力サブシステムと高度なオーディオデジタル信号プロセッサを組み合わせて、フィットネスヒアラブル設計に必要な包括的なオーディオ機能を提供しています。この記事で紹介したとおり、開発者は、MAX98090と、同じように最適されているSoCデバイスを併用して、高度なフィットネスヒアラブルのための柔軟性のあるハードウェア基盤を構築できます。
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