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温度係数:敵か味方か?

アナログ回路を詳細に取り扱ったことがある技術者や、システムの専門的な性能分析を実施したことがある技術者なら誰でも、重要なコンポーネントのパラメータにおけるさまざまな温度係数の影響について認識していることでしょう。このような影響のうち最も重要なのは、熱膨張係数(CTE)と抵抗温度係数(TCR)の2つです。

図1:すのこ型振り子の仕組みでは、2種類の金属のロッドが持つCTEの違いが使用されています。ここでは異なる金属のロッドが互いに「反対方向」にスライドするため、振り子の長さにおける変化の大半が相殺されています。Aはこのシステムを外側から見た図、Bは温度が通常の場合のロッドの長さ、Cは温度が高い場合のロッドの長さを示しています。(画像提供:Wikipedia)

温度によるこういった変化は、物理の基本原則と、物質に関する科学の結果ですから避けて通ることはできません。通常、CTEとTCRの値は非常に小さいものですが、高精度または高周波数の設計では、そうした値であっても影響が大きくなる場合があります。設計者は、CTEやTCRが極力低い材料や部品を使用したり、影響を相殺して最小化できるよう工夫したトポロジを使用したりすることによって、仕様におけるこうした変化に対処しています。

技術者、科学者、そして機械工は、何世紀も前からCTEとその影響について認識していました。1700年代中盤に、非常に精度が高い振り子式時計を開発したことによって表彰されたジョン・ハリソンは、誤差の原因が振り子の長さを変えるCTEであることを把握していました。この見識を基に、時計の周期発振器が考案されたのです。金属のCTEはごくわずかで、通常の生活で認識されることはありません。しかし、ハリソンが製作していた航海用の時計では、CTEは誤差の大きな原因でした。

この誤差を克服するためにハリソンが使用したのが、すのこ型(バンジョーとも呼ばれます)の振り子です。この振り子では、亜鉛と鉄などの2つの異なる金属がフレーム型に組み合わされています(図1)。温度が変化すると、ロッドがそれぞれ逆方向にスライドして、CTEの影響の大部分を相殺します。

CTEの変化のもう1の問題点は、寸法の変化自体ではなく、2つの異なる材料が組み合わされている場合に発生する寸法の差異です。極端な場合、こういった変化によって引き起こされた応力が原因で、接合部が割れることもあります。すぐに大きなひび割れが発生しない場合でも、熱が原因で発生するサイクルが繰り返されることによって、接合部が弱くなったり(疲労)、微細なひび割れが発生したりして、最終的には故障の原因となることがあります。多くの場合、CTEを一致させることは、CTEの実際の値と同様に重要視されます。

TCRの影響:影響が及ぶのは物理的な寸法だけではない

精密な電子機器とセンサとをインターフェース接続する場合、TCRは誤差の原因になります。ゲイン設定抵抗やバイアス電流およびオフセットの値などの要素が変化するためです。時計の振り子では、差動回路において、TCRがほぼ同じである共通基板上でペアにされた抵抗器を使用するという工夫が施された設計により、TCRのドリフトの大半がお互いに相殺されています。

しかし、このような仕組みが実用的ではなく、材料科学の基礎についての詳細な検討が必要な場合も多々あります。たとえば、プルアップなどに使用される標準的な抵抗のTCRは、約1000ppm/⁰Cです。この抵抗が電流センシング(シャント)抵抗として使用されている場合は、回避できないI2R効果が原因である自己発熱により、抵抗の値に大きな変化が発生します。その結果、シンプルなI= V/R関係に基づいた電流の測定で、誤差が発生します。

この種の潜在的な問題への解決策としては、熱質量の大きな物理的に大きい抵抗を使用してTCRの影響を低減したり、抵抗の温度を測定して補正率を作成したりすることがあります。ただし、この対策には、コンポーネントのコストが直接発生する、基板のスペースが必要である、複雑である、といった問題があります。これに対してメーカーは、特殊な(プロプライエタリであることが多い)材料や製造技術を基にした電流センス抵抗を開発して、TCRが非常に低い抵抗を実現しています。

たとえば、Vishay DaleLVR03R0100FE70抵抗器のTCRは、0.1オーム(W)~0.2Wの値の場合、わずか±50ppm/⁰Cです。これは、汎用の抵抗器のTCRより1桁以上低く、高精度アプリケーションの場合は、特殊な電流センス抵抗器を使用して、TCRを数ppm/⁰Cまで下げることができます。

欠点を利点に変える

イノベーションの過程では、欠点を有用な特性へと変化させる取り組みがよく行われます。今から何十年も前に、技術者たちは異なる金属におけるCTEの差異を利用して、コンタクトを備えた単純なストリップである温度駆動型のバイメタルスイッチを開発しました(図2)。このストリップが温度変化によって曲がったり伸びたりすることにより、エンドコンタクトは、対応する固定コンタクトに接触したり、このコンタクトから離れたりします。この設計は一部のサーモスタットで使用されました。また、下記のように抵抗ワイヤで巻かれ、過電流の防止に使用される場合もありました。

図2:バイメタルのストリップは単純ですが、効果的な温度駆動型のオン/オフ電気スイッチとして機能します。(画像提供:Chegg Inc.)

一般的に使用されているサーモスタットの設計では、バイメタルストリップは渦巻き状に巻かれ、終端に水銀スイッチが取り付けられています(図3)。これにより、接点バウンス、スパークの発生、腐食、経時的な摩耗、およびオン/オフサイクルを回避することができます。このシンプルかつ効果的なアプローチを基盤として、昔ながらのHoneywellサーモスタットを代表とする、多数のサーモスタットが家庭向けに製造されました。この設計は実際に幅広く利用されており、30~40年以上も問題なく稼働することが実証されているため、この完全に機械化された設計の信頼性について心配する必要はありません。

図3:バイメタルストリップを渦巻き状に巻き、露出したコンタクトではなく水銀スイッチ(矢印)を終端で使用することにより、このサーモスタットの設計は、信頼性が高く低コストな一般使用向けユニットであることが実証されています。(画像提供:Parallax Forum Inc)

通常は有害と考えられているTCRですが、設計者は、役立つコンポーネントを作成するためにTCRも活用しています。サーミスタは抵抗を利用した温度センサであり、大きなTCRと、公称抵抗値およびTCR値が一定の材料を作成する能力に依存しています。たとえば、Texas InstrumentsTMP6131DECRは、2端子でシリコンベースの受動デバイスで、正温度係数(PTC)と、25°Cで6400ppm/°Cという高いTCRの特性を備えています。このデバイスの抵抗は、温度が上昇すると著しく増加します。反応がわずかに線形からずれているのは、主にTCRが温度の係数であることが原因です(図4)。多くのサーミスタでは、このデバイスよりも線形からの逸脱が大きくなります。

図4:TMP6131DECRの温度に対する抵抗のカーブは、感度が高いこと、そしてわずかに線形から逸脱していることを示しています。(画像提供:Texas Instruments)

よく知られた理想ダイオードの法則も、各種ダイオードのパラメータ間の関係で定義されているとおり、温度の影響を強く受けています(図5)。回路の設計において、温度は多数の問題の原因となる場合がある一方で、ソリッドステート温度センサの基盤としても利用されています。

図5:理想ダイオードの式は、飽和ダイオードの電流フローにおける、主要なパラメータ値の意義を示しています。(画像提供:PV Education)

たとえば、Analog DevicesのTMP36GT9は、3端子TO-92パッケージの使いやすいアナログ出力温度センサです(図6)。このセンサで核となっているのは、電流出力が絶対温度(K)の線形関数である電流源です。このICは、電流を電圧に変換して-40°C~125°Cで10mV/°Cを出力する内部バッファを備えています。

図6:使いやすく精度の高い、Analog Devicesの3端子温度センサであるTMP36GT9は、明確に定義された10mV/°Cのアナログ出力を創出します。(画像提供:Analog Devices)

CTEおよびTCRのさらに先へ

些細な事項、あるいは当然とも考えられているのが、プリント回路基板(プリント基板)には温度に関連した考慮事項があるということです。非常に広範に使用されているFR4ラミネートのCTE値は、x、y、およびz軸のそれぞれに対し、14、12、および7ppm/⁰Cです。これらは非常に小さい値ですが、RFの多くの設計のように基板が回路素子である場合は、過剰な値になり得ます。したがって、基板の材料として使用できるのは、CTEが約20%~30%低いものになります。

CTEは温度駆動型のプリント基板における最も顕著な変化の兆候ですが、マルチギガヘルツの領域では、その他のパラメータに対する温度関連の性能も考慮する必要があります。基本的なパラメータである比誘電率εr(Dkと表記されることもあり、相対誘電率と緊密な関連があります)について見てみましょう。この指標は、指定された材料で充填されたコンデンサの静電容量と、誘電体である物質が存在しない真空における同じコンデンサの静電容量の比率を定義するものです。

高周波数のRF設計の多くでは、プリント基板が、LCフィルタ、マイクロストリップ伝送線などを形成する容量性回路素子として使用されています。比誘電率が回避できない寄生要素であることは明らかであるため、温度の安定性と同様に、εrの公称値は非常に重要です。温度の変化が原因の水分吸収と寸法の変動により、一般的なFR4ラミネートの安定性は中程度です(当然ですが、安価なフェノールの場合は安定性が低下します)。

この問題に対処するために、回路基板材料のベンダーは、εrの仕様がより一定であるラミネートを開発しています(図7)。このグラフでは、2つのセラミック充填されたPTFE(テフロン)ベースのラミネートと、PTFEのみの基板を比較しています。

図7:3つの高度な非FR4ラミネートの比誘電率εrのグラフ。各ラミネートにおける、このパラメータと温度の変化を示しています。この変化はマルチギガヘルツの設計では大きな影響があります。(画像提供:Rogers Corp.)

-50⁰C~+150⁰Cの場合、R03003バージョンのεrの変化はごくわずかですが、低いリーク電流など、誘電体プロパティが非常に優れていることで知られるPTFEのみの基板では、変動が大きく、非線形です。R03035ラミネートはR03003よりも性能が劣りますが、PTFE素材よりは大幅に優れています。

結論

精密なアナログのフロントエンドからRF発振器まで、温度係数は常に設計における考慮事項です。温度制御オーブンでの水晶発振器の安定性を考えてみてください。設計者は2つのタイプに分かれます。温度変化の悪影響への対応、このような影響の最小化、または相殺のための技術に取り組む者と、こういった変化を新しい革新的な手法で利用しようとする者です。

温度とその影響について検討すると、「温度係数は敵か味方か?」というシンプルな質問に対する答えは明確です。それは、「どちらでもある」と「場合による」という2つの答えです。

 

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参照資料:

1 – Dava Sobel、『経度

2 – Wikipedia、「すのこ型振り子

3 – ジョージア州立大学、Hyperphysics、「20⁰Cにおける抵抗率および温度係数

4 – Cirris Systems、「銅の温度係数

5 – Wikipedia、「FR-4

6 – Rogers Corp.、「RO3035™ラミネート

7 – Sierra Circuits、「PCB基板:誘電体材料のプロパティを把握する

8 – Fineline Ltd、「テフロンとFR4

9 –Nanotech Elektronik、「プリント回路基板用の材料

著者について

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エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

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