大気質監視設計にガスセンサを統合する際の重要な事項

著者 Majeed Ahmad

DigiKeyの北米担当編集者の提供

大気質の監視は岐路にあります。従来のソリューションというと、大半が行政の出資による監視ステーションですが、大型で価格も高く、通常は限られた大気サンプルしか分析しません。一方、家庭用および産業用の大気監視システムはどうかというと、以前から現行のガスセンシング技術を活用しながら環境品質の監視と漏れ検出の両方を行ってきました。

しかし、これらのガスセンサは比較的設置面積が大きく、一般的に消費電力も大きくなります。また、自己診断やレポートを定期的に行うためのアップグレードに必要な処理機能、コネクティビティ、およびセキュリティなどの性能にも乏しいと言えます。これらは、最新のモノのインターネット(IoT)および産業用IoT(IIoT)アプリケーションでは基本的な機能です。

これらの問題に対処する、高度に統合化され柔軟性にも優れたガスセンサソリューションが、Cypress Semiconductor、Gas Sensing SolutionsIDTRenesasSensirionなどのベンダーから登場しています。このソリューションは、より高度な統合、処理能力、セキュリティ、コネクティビティを実現しており、環境変化を検出する非常に正確な測定が、家庭、ビル、自動車、病院、工場などの幅広い場で可能になります。

この記事では、いくつかの最新例を取り上げ、事前較正済みの設計および事前コンパイル済みのファームウェアを使用して設計者のニーズにどのように対応するかについて解説します。また本記事では、リファレンス設計とハードウェアのキットを活用して、較正およびメモリ機能により各種のセンサ構成がいかに利用しやすくなるかについても取り上げます。

IoTのガスセンサに求められるもの

マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)の進化は、小型で低コストのガスセンサを実現するイネーブラ手段となっています。MEMS技術の向上にともない、センサの精度および信頼性も向上しています。高速応答時間とともに、これらはガスセンサの環境監視能力の決め手になる重要な特性でもあります。

しかし、ガスセンシングの基礎的な技術も重要ですが、これらの特性がセンサ性能を決定する唯一の基準というわけではありません。むしろ、較正機能が向上したことで、ガスの種類、濃度範囲、コストに関する選択肢の幅が広がっています。ファームウェアの向上も、較正機能と足並みを揃えながら、ガスセンサの多様なIoTアプリケーションへの迅速な統合に貢献しています。

また、シングルチップ上のガスセンサも、事前較正済みセンシングデバイスをコンパイル済みのファームウェアとともに利用することで、大気質監視のIoT設計に短期間で統合できます。このような小型センサは、ロットごとの一貫性を保つため、ガスで電気的に較正されます。さらに、センサデバイスに内蔵される不揮発性メモリ(NVM)には構成データが保存され、他のデータ用の容量も確保されます。

事前に較正済みなことに加え、コンパイル済みファームウェアによって統合と精度がさらに強化され、ガスセンサの消費電力が大幅に低減されます。またコンパイル済みファームウェアにより開発作業全体が簡素化され、設計者はハードウェアを変更せずに新しいセンシング機能を追加し、デプロイ後にシステムを更新できるようになります。

較正済みガスセンサ

次に、IDTのZMOD4510IA1Rガスセンサモジュールの例を取り上げます。このセンサは、20ppb(10億分の1)の低濃度を定量化できます。窒素酸化物(NOx)やオゾン(O3)などの大気中の微量ガスの検出に最適化されています。この2種類のガスは大気汚染の2大要因でもあります。このデジタルガスセンサは、米国環境保護庁(EPA)の大気質指標(AQI)に準じて、外気の大気質を監視するように設計されています。センサモジュールの寸法は3.0mm x 3.0mm x 0.7mmで、ガスセンシング素子と信号調整ICで構成されています(図1)。

IDTのZMOD4510IA1Rガスセンサモジュールの図図1:ZMOD4510IA1Rガスセンサモジュールは、アルゴリズムを使用して外気の濃度を計算します。(画像提供:IDT)

ZMOD4510IA1Rでは、センシング素子は、シリコンベースのMEMS構造上のヒータ素子と金属酸化物(MOx)化学抵抗から成ります。信号調整ICはセンサの温度を制御し、ガス濃度の関数であるMOx伝導率を測定します。

較正以外の機能については、ZMOD4510IA1Rガスセンサは実績あるMOx素材に基づいており、シロキサンへの高い耐性を備え、過酷な環境でも信頼性を維持します。迅速な試作および開発を可能にするために、同センサはZMOD4510-EVK-HCガスセンサ評価キット(EVK)がサポートし、同ガスセンサモジュールをWindows® PCとの双方向USB接続によりテストおよび評価できます。EVK上に設置されたマイクロコントローラベースのモジュールによってI²C通信インターフェースを制御し、オゾンおよび窒素酸化物の測定出力が表示されます(図2)。

IDTのZMOD4510-EVK評価キットの画像図2:ZMOD4510-EVKにより、設計者は内蔵の評価ソフトウェアを使用してZMOD4510ガスセンサをすばやく評価できます。(画像提供:Digi-Key Electronics)

IDTのHS300xシリーズの湿度および温度センサも、統合型の較正および温度補償ロジック機能を備えており、完全補正済みの相対湿度(RH)値および温度値が標準I2Cを介して出力されます。RHは、所定の温度における水蒸気の分圧と平衡蒸気圧の比です。

ユーザーが出力データを較正する必要はなく、測定データは内部で補正され、広範な温度および湿度レベルでの正確な動作のために補償されます。HS3001HS3002HS3003HS3004の各MEMSセンサは、寸法が共通で3 x 2.41 x 0.8mm、違いは相対湿度および温度の測定精度です。

クラウドベースの大気監視

設計者は、ガスセンサを使用して大気質を記録できます。これには、データをローカルで処理するか、IP接続経由でクラウドベースプラットフォームを使用して継続的に状態を明らかにしていきます。ここで、ハードウェアキットを使用すると、セキュアなクラウドコネクティビティとダッシュボードによる監視の制御を容易に実現できます。

たとえば、RenesasのYSAECLOUD2 AE-Cloud2キットは、同社のSynergy S5D9マイクロコントローラを中心に構築されたリファレンス設計です。これにより、開発者はZMOD4510IA1RガスセンサやHS3001湿度センサなどのデバイスを、W-Fi、セルラーなどの通信チャネル経由で、クラウドサービスに接続できます。また、このIoTキットにより、開発者はセンサデータをダッシュボード上でリアルタイムに可視化できます。

屋内外の大気質監視をクラウドベースプラットフォームをし使用して行う必要がある開発者は、さまざまな代替手法を利用できます。Digi-Key独自の次世代スマート大気質監視

クラウド対応ガスセンサプラットフォームは、Cypress SemiconductorのPSoC 6マイクロコントローラとSensirionのガス/ダストセンサを組み合わせています(図3)。このPSoC 6マイクロコントローラでは、Sensirionセンサとインターフェース接続するプログラム可能な周辺機器を利用できます。

スマートホームの大気質監視設計の図図3:スマートホームおよびビルの大気質監視設計の図。ダッシュボードで表示するデータをWi-Fiリンク経由でクラウドに送信します。(画像提供:Digi-Key Electronics)

重要な注意点として、大気質を監視する大半のIoTノード(屋内外の両方)はエネルギーに制約があるため、電池駆動がよく用いられます。このアプリケーションの場合、PSoC 6は消費電力が低いため、電池の寿命は長くなります。同コントローラは、40ナノメートル(nm)プロセス技術で作成されたデュアルコアArm® Cortex®-Mアーキテクチャをベースにしています。有効電力の消費電力は、M4コアで22μA/MHz、M0+コアで15μA/MHzです。さらに、このマイクロコントローラは、データセキュリティとユーザーのプライバシーが懸念されるスマートホームおよび産業環境で、ガスセンサのセキュアブート、セキュアファームウェアアップデート、さらにハードウェアアクセラレーション暗号化をサポートします。

PSoC 6マイクロコントローラは、Sensirionのガスセンシングソリューションとともに、空気清浄機、デマンド制御換気などの屋内大気質監視用途向けのアプリケーション開発に役立ちます。ネット接続された監視デバイスは、環境的なフィードバックにすばやく応答することで、環境を緻密に制御できます。

たとえば、SensirionのSGP30ガスセンサを取り上げます。このセンサは、複数の金属酸化物センシング素子またはピクセルを1つのチップ上で組み合わせており、総揮発性有機化合物(TVOC)およびCO2等価信号(CO2eq)の両方を測定します。VOCは、新しい製品および建築材料、たとえばカーペット、家具、塗料、溶剤などから生じます。tVOCは、空気中に存在するVOCの総濃度を表し、屋内大気質を迅速に評価するための方法です。

SGP30は、寸法2.45 x 2.45 x 0.9mmの小型パッケージ内の一般的な膜で、tVOCおよびCO2eqを測定できます。さらに、従来のガスセンサでは化合物(シロキサン)が原因で数か月後には安定性、精度を損ないますが、それとは対照的にこのマルチガスセンサのセンシング素子にはこの種の汚染に耐性があります。この特長によりドリフトが低減され、長期間、安定性が確保されます。

SGP30ガスセンサのセンシング素子は、MOxナノ粒子の加熱されたフィルムでできています。また、Sensirionは、チップ内に他のセンサ部品(ヒータと電極)を埋め込んでいるため、センサのフットプリントが縮小されています(図4)。

SensirionのSGP30マルチガスセンサの図図4:SGP30マルチガスセンサは、温度制御マイクロプレートとI2Cインターフェースを備えた単一のチップに、4つのセンシング素子、またはピクセルを統合しています。(画像提供:Sensirion)

統合レベルの引き上げを目指し、SensirionはSGP30ガスセンサとSHTC1湿度および温度センサを組み合わせて、センサコンボモジュールのSVM30を作成しました。このモジュールには、複数のセンシング要素に加えて、アナログおよびデジタル信号処理、A/Dコンバータ(ADC)、較正およびデータメモリ、およびI2C標準モードをサポートするデジタル通信インターフェースが含まれています。

ガスセンシング速度

もう1つ障害になるのはセンシング速度です。これは、呼気分析などのリアルタイム大気監視アプリケーションで目まぐるしく変わるCO2レベルで問題になります。とりわけ電池駆動の屋内大気質センサでは、ガスセンサのサンプリングレートを大幅に高める必要があります。

Gas Sensing Solutions社では、アンチモン化インジウムLED技術と光学設計に基づくSprintIR-WF-20ガスセンサを開発しました。これにより、このガスセンサは可動部品(MEMS)と加熱フィラメント(図5)の両方を回避できます。1秒あたり20の読み取り値を捉えるほか、オプションのフロースルーアダプタが付属しています。さらに、SprintIR-WF-20には、0~5%、0~20%、0~100%の3つのCO2濃度の測定範囲があります。その精度は±70ppm(読み取り値の+5%)となります。

Gas Sensing SolutionsのSprintIR-WF-20 CO2センサの画像図5:SprintIR-WF-20 CO2センサは、オプションでフロースルー構造または拡散構造のいずれかをサポートします。(画像提供:Digi-Key Electronics)

このセンサは、シンプルなUARTインターフェース経由で、Zigbee、LoRaWAN、Sigfox、EnOceanなどの各種ワイヤレスIoTネットワークと通信します。SprintIR-WF-20に必要な電力は35ミリワット(mW)と、通常の非分散型赤外線(NDIR)CO2センサよりもはるかに少ない電力で済み、3.25~5.5Vで動作し、平均電流は15mA(100mA、ピーク)未満です。これらの数値により、SprintIR-WF-20はウェアラブルなどの電池駆動デバイスに適しています。ファームウェア更新により、電池寿命がさらに向上し、CO2センシング精度も上がります。

このガスセンサには評価キットのEVKITSWF-20が付属しているので、設計者は、CO2センサをUSBスティックでコンピュータに接続し、センサデータの記録を開始するだけで済みます。USBスティックには、自己インストール型の評価ソフトウェアが含まれています。重要な点として、大半の大気質監視アプリケーションで自動較正が通用しますが、評価キットを使用すると特定の環境でゼロ較正を行うことができます。

まとめ

IoT/IIoTデバイスおよびシステム向けのガスセンシングデバイスの設計者は、従来的な大型スタンドアロンの設計から移行しつつあります。移行にあたり設計者が求めるガスセンシングソリューションは、検出精度、信頼性、反応時間の向上、さらに低コストおよび低消費電力を実現できる必要があります。またこれらの各要素は、IoTおよびクラウドベースのデータ収集/分析プラットフォーム機能をフルに活用することで可能になります。その他、着目すべきコアとなる特長には、インターフェース設計、センシング速度、濃度範囲などが挙げられます。

これまで述べたように、利用可能な多くのソリューションは、設計者のニーズを満たすだけでなく、上述の強化されたセンシング機能を、電池駆動デバイスに不可欠な小型フォームファクタにも統合しやすくします。またこれらのソリューションには較正機能および更新可能なファームウェアが含まれており、大気質監視設計を効率的に構成(および再構成)するために欠かせない機能でもあります。このようなガスセンサをクラウドコネクティビティと組み合わせて使用することで、設計者は充実したサポートが提供されるハードウェアおよびソフトウェアエコシステムの枠内で開発作業を行い、現在および将来のIoT/IIoT設計要件に対応することができます。

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著者について

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Majeed Ahmad

Majeed Ahmad氏は、B2Bテクノロジメディアで20年以上の経験を持つ電子エンジニアです。彼は、EE Timesの姉妹誌であるEE Times Asiaの前編集長です。

Majeedは、電子に関する本を6冊書いています。彼はまた、All About Circuits、Electronic Products、およびEmbedded Computing Designを含むエレクトロニクス設計の出版物に頻繁に寄稿しています。

出版者について

DigiKeyの北米担当編集者