高度な農業用灌漑で水不足問題を解決
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2023-03-23
ここ10年、農業用灌漑の制御はますます高度化しています。現在、多くの生産者は、従来の灌漑用タイマや油圧レギュレータを、プログラマブルロジックコントローラー(PLC)や産業用PC、一般的な産業用通信プロトコルとの接続や活用が可能な、ますます経済的になった自動化コンポーネントを採用したシステムなど、産業用途向けの高度な制御・接続コンポーネントに置き換えています。これらのコントローラやコンポーネントは、土壌水分センサ、気象観測所、凍結センサなどからの入力を受け、デジタル農業に適応した対応をリアルタイムで促すことができます。
しかも、灌漑を最適化するためのデータ利用がますますインテリジェントになりながらも、こうした高機能な灌漑制御システムは現在、より手頃な価格で購入できるようになっています。
図1:用地管理および農業用栽培装置メーカーのToroは、4G/Wi-Fi/LoRa/Bluetooth接続を活用した農業用灌漑システム「Tempus Automation」を販売しています。基地局を利用することで、最大1.6kmの範囲にあるバルブや監視装置の制御が可能になります。基地局を追加して範囲を広げることも容易で、すべて太陽光発電または配線接続で駆動できます。(画像提供:The Toro Co.)
気候の温暖化、各地域の乾燥化、人口の増加、帯水層の枯渇などにより、水の保全はますます必要になっています。実際に、21世紀の地政学的に重要な資源は、石油よりも水になる可能性があり、未来の戦争を引き起こす可能性すらあります。水に関する問題は、中東ではすでに古くから存在しています。この地域は、文明が誕生して以来、徐々に乾燥化が進んでおり、現在は、世界の淡水のわずか1%で世界の人口の5%を支えています。
図2:マイクロスプレーシステムなどの点滴方式による温室灌漑や屋外での条植え作物用灌漑には、高度な灌漑制御が有効です。(画像提供:Getty Images)
ビジネスの観点から見ると、水不足は食料品や農産物の価格上昇に反映され、過去10年間、水の価格はエネルギーよりも速く上昇しています。つまり、大規模な商業活動でも新興の農業活動でも、水の消費を最小限に抑え、作物の収穫量を最大化することが不可欠になっているのです。
制御可能な灌水・栽培機構
灌漑用コントローラの要件は、スプリンクラー、点滴灌漑、水耕栽培用の散水回路など、用途やシステムのタイプによって異なります。
図3:T3000シリーズ 二酸化炭素センサは、屋内の垂直農法における湿気や汚れ、肥料の付着に耐えるIP67定格のハウジングを備えています。そのフィードバックは、自動水耕栽培の灌漑や施肥の作業に反映されます。(画像提供:Amphenol Telaire)
ハウスで栽培される作物の灌漑では、屋外環境の変化がないため、最適な光、水、肥料、土壌組成を常に許容範囲内に保つことができ、非常に厳密にコントロールすることが可能です。灌漑では、常にポンプを設置してリザーバとトレイを使った灌漑回路を採用し、蒸発による水の損失がほとんどなく、流出による水の損失もないのが特徴です。植物種の成長サイクルや好みの栽培条件など、業界の知見を取り入れたソフトウェアのオプションが、特定の作物向けに数多く提供されています。
図4:IP67ハウジングを採用したWILライトは、特に屋内のデジタルファーミング用途に適しています。(画像提供:Weidmüller)
伝統的な屋外農業で最も広く使われている灌漑装置はスプリンクラーであり、家庭の芝生に使われるような小型の芝生用スプリンクラーから、電気モータやディーゼルポンプで駆動する高圧の産業用スプリンクラーまで、さまざまな設計があります。産業用スプリンクラーには、何ヘクタールにも及ぶ広大な土地を大型スプリンクラーで灌漑する巨大なリニアムーブシステムもあります。
また、大規模事業用の自動灌漑システムでよく見られる設計として、インパクトスプリンクラーというものがあります。これらを簡略化したものも、民生用の芝生用灌漑製品として販売されています。簡単に言うと、インパクトスプリンクラーは、メカニカルアームを通して噴流を送るヘッドアセンブリで構成されています。この水をアームで繰り返し打ち、栽培している作物の上に散水します。その結果、圧力とメカニカルアームの動きによって、ヘッドがピボットを中心に押し出され、スプリンクラーが円や部分的な弧を描いて水を撒くのです。
農作物への自動散水の最後の選択肢として、点滴灌漑があります。点滴灌漑は、いわゆるリーキーパイプやマイクロスプレーヘッドに基づくもので、植物の根元に直接水を届けるため、水の使用量(特に蒸発による損失)を減らすことができます。
センターピボットとリニアムーブ農業用灌漑の詳細
センターピボット灌漑は、スプリンクラーを使った作物への散水を発展させたものです。広大な屋外農地の灌漑を行う最も効果的な方法の1つであり、業界の標準的なシステムは、最大50ヘクタール(125エーカー)程度の広さのエリアで半径400mを灌漑できます。センターピボット灌漑システムは、固定されたピボットを中心に灌漑パイプ(多くのスプリンクラーヘッドを搭載)を回転させることで、円形または部分的な弧を描くように灌漑を行います。灌漑パイプは、動力付き車輪で地面を移動する複数のタワーで運ばれます。
図5:タイミングコントロールは、基本的な散水スケジュールを指令するために、センターピボット灌漑システムで使用されます。また、センターピボット灌漑システムのタワーでは、3相システムのうち1つのレグを不足電流モニタで監視することが多くあります。このような不足電流モニタは、タワーの失速や停止を検知し、過剰な散水を防止します。(画像提供:Littelfuse)
タワーとタワーの間では、吊り橋の支柱と同じように、ケーブルで引っ張られたトラスで水道管を支えています。1940年代に開発された当初のセンターピボット灌漑システムは、水の流れを利用して車輪を駆動させるものでした。現在では、電気モータで車輪を回して推進する装置がはるかに一般的です。この車輪のスピードはかなり遅く、システム制御で車輪を1回転させるのに数日かかることもあります。
図6:AgSenseソフトウェア(モバイル機器やノートパソコンからアプリとしてアクセス可能)は、GPSとフィードバック技術を活用することで、農家が灌漑ポンプや補助コンポーネント、流量や圧力の状態、土壌の水分レベル、天候、タンクのレベル(該当する場合)、盗難の証拠などを追跡できるようにしています。これは、自動ピボット灌漑システムの主要なオプションです(リニアマシンにも対応)。リアルタイムの情報とアラームを提供し、油圧式と電気式のピボットをあわせて管理することも可能です。このソフトウェアは基本的に、デジタルパネルの機能を実現すると同時に、あらゆるブランドや年代の機械式パネルとの互換性も維持しています。(画像提供:Valmont Industries Inc.)
ピボット灌漑システムは、驚くほど複雑で大規模な機械であり、区域制御の課題があります。各タワーは一体となって動くのではなく、個別に停止・起動することで、パイプのおおよそのアライメントを保ちます。パイプとそれを支えるトラスの大きな柔軟性により、タワーの不規則な動きや地面の自然な起伏に対応することができます。
ピボット灌漑システムでは、タワー部分が個別に制御されます。従来は、シンプルな機構やリミットスイッチでこれを実現していました。各セクションは、次のセクションに取り付けられたレバーの位置を監視することで、次のセクションに対する自身の角度を容易に感知することができます。そして、次のタワーセクションの相対的な角度位置に応じて、簡単なリミットスイッチで車輪の起動、停止、逆転を行います。このようなアプローチは、油圧で動く車輪を使った単純な油圧制御に適しています。
一番外側のセンターピボットタワーの先端にスプレーガンを設置すると、物理的な構造を超えて灌漑面積を広げることができます。これが連続して動作すると、エリアはやはり円形になります。しかし、スプレーガンを制御すれば、センターピボット灌漑システムでほぼ正方形の領域を灌漑することも可能です。
(動画提供:UNL Biological Systems Engineering)
スプリンクラーを使用するリニアムーブ灌漑システムも、センターピボットシステムに似ています。しかし、タワーセクションは固定されたピボットを中心に弧を描いて駆動するわけではありません。その代わり、直線的に前後します。つまり、リニアムーブ灌漑システムは、円形ではなく、長方形のエリアをカバーします。このようなカバーエリアは、既存のフィールドシステムに適しており、より完全に土地をカバーすることができます。しかし、駆動されたタワーの制御や供給水の制御が難しくなるのも事実です。
図7:リニアムーブ灌漑の設計です。この機械装置を使った自動システムにより、屋外灌漑の難題に対処しています。(画像提供:Getty Images)
一部の設計では、灌漑エリアの一辺に沿った開水路や、(別の配置では)フレキシブルホースで水を供給します。ただし、このようなリニアムーブ灌漑システムのタワーでは、パイプを適度にまっすぐに保つために速度を調整する必要があり、また、システムが軌道を外れることなくフィールド上を継続的に前進・後退するように各タワーを揃えて操縦する必要もあります。これらの要件を満たすために、一部のタワーは埋設ケーブルに追従するようにプログラムされています。
農業用灌漑コントローラ
最もシンプルな灌漑コントローラは、あらかじめ設定した時間に水を自由に流すことができるタイマです。このようなタイマは、民生用の芝生用スプリンクラーにも搭載されています。
もう少し高機能なのが、産業用の灌漑コントローラです。これは従来、油圧制御システムという形で、センターピボット式の灌漑装置と組み合わせて使用されることが多くありました。
現在では、より高度な産業用灌漑制御の多くで標準的なPLCが使用されています。PLCベースの電子機器は、リニアムーブ灌漑装置などをベースとした大型灌漑装置の動きを制御するだけでなく、土壌水分センサ、流量センサ、気象観測所、凍結センサからの入力を受け付けるように構成することができます。Arduinoのようなコントローラを使って植物や温室への水やりを自動化するような一部のシステムは、現在、果樹産業や屋内スマート農業のようなごく小規模な農業経営でも簡単に手に入るようになっています。
図8:NETBEAT NetMCUは、商用グレードの灌漑コントローラを統合した例であり、この堅牢な製品は実際、完全なデジタル農業ソリューションのために肥料、灌漑、作物のモデリング、予測のタスクを実行します。(画像提供:Netafim)
自動灌漑コントローラは流量計測を行うため、あらかじめ設定した時間内に任意の量の水を供給するのではなく、計測した量の水を確実に供給できます。土壌の特定エリアに対して既知の量の水を供給するため、水を無駄にすることなく、理想的な生育状態を実現できます。また、流量制御によって詰まりや漏れを検知し、農作物の被害や水の損失が大きくなる前に、オペレータに問題を知らせることができます。IoTプロトコルを利用する最新のコントローラは、そのような事象が発生した際に、オペレータの携帯電話にアラートを送ることも可能です。
図9:RevPi自動制御・I/Oコンポーネントは、シングルボードRaspberry Pi SoM/CPU/GPUミニコンピュータのCompute Moduleバリエーションを中心に構築されています。最新のRevPi製品は、特定の農作物の灌漑制御などに役立つアナログ信号にも対応しています。(画像提供:KUNBUS)
また、一部の農家では、蒸発散量(ET)コントローラという最先端の選択肢もあります。これらは、土壌水分収支の原理に基づいて必要な水量を推定するものです。
水収支は農業水利で研究されていますが、最も基本的なことは、水の流入量が流出量と貯留量の変化の合計に等しくなければならないということです。流出は、表流水(水流)と蒸発散(蒸発と植生による蒸散によって水が大気中に移動すること)で構成されます。
ETコントローラは、灌漑流量や降雨などの流入量および、温度、湿度、日射量など蒸発散に影響を与える環境パラメータをリアルタイムに把握する必要があります。ETコントローラ(多くの場合、自動化されたコントローラ)を使って厳密に制御する必要がある主なパラメータには、作物係数と土壌の保水能力があります。作物係数は、気象条件や水の有無によって蒸散速度を決定するものです。ETコントローラを使用することで、水の使用量を最大63%削減できます。これは、他の多くのアプローチとは比較にならないほど大幅な節約です。
まとめ
今日の大規模工業型農業事業者が利用できる洗練された灌漑ソリューションが数多く揃っています。実際、自動化技術により、小規模農家および、野菜やデリケートな作物を専門に扱う食品生産者など、利益率の厳しい農家でも高度な灌漑手法を安価で導入できるようになりました。

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