温度コントローラとマイクロPLCを使用して、小規模な自動化プロジェクトを加速させる

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

熱。それは、包装シール機、プラスチック成形作業、はんだリフロー炉、半導体加工など、多くの産業プロセスで重要な要素です。各プロセスは温度レベルと温度制御の精度に対し、それぞれに異なる要件を持っています。

自動化は、インダストリ4.0の運用における生産性の最大化と持続可能性の達成を支援します。小型機械や加熱処理も例外ではありません。しかし、すべての状況で大規模かつ包括的な解決策が必要とは限りません。多くのアプリケーションでは、比較的シンプルな専用温度コントローラや小型のプログラマブルロジックコントローラ(PLC)を使用することで、性能を向上させることができます。

機械設計者はシンプルな自動化プロジェクトのために、単相および3相電源環境用のヒータコントローラ、さまざまな高度な制御アルゴリズムを備えたヒータコントローラ、小規模~中規模の自動化環境向けに最適化されたPLCなど、さまざまなオプションから選択することができます。比較的単独で動作する小型機械もあれば、より大きな運用システムとの連携によって利点をもたらす機械もあります。

この記事では、ハードウェアとソフトウェアの考慮事項を含む、電力コントローラとヒータコントローラのオプションについてレビューします。最後に、温度測定のためのセンサ技術と、小型~中型の機械向けに最適化されたPLCに関連するシステム統合の問題に触れ、Omronの典型的な製品を紹介します。

熱硬化性樹脂や接着剤による材料の硬化から、食品や飲料製品の製造まで、産業プロセスでは効率維持と品質確保のために温度制御が必要になることが多々あります。産業用ヒータが必要なのはもちろんですが、重要なのは温度コントローラです。

産業用ヒータの温度を制御する方法は1つだけではありません。制御方法の選び方は、システム運用上の優先順位によって決まります。単純な電圧制御は、運用コストが優先され、温度制御にはそれほど厳密な精度が求められない場合に用いることができます。

発熱体に電力を供給する電圧を調整することで、ヒータの消費電力を制御し、熱出力を変化させることができます。電圧の変化は素早く実行されますが、それに応じた温度変化がもたらされるまでにはタイムラグがあり、その長さはシステム設計によって異なります。電圧を下げると、エネルギーコストを削減でき、温度を下げることができます。それでも、単純な電圧制御では、多くのプロセスにとって温度低下の応答時間が長すぎる可能性があり、正確に温度を制御することは困難です。

基本的な電圧制御以上の制御

多くのアプリケーションにとって、基本的な電圧制御では不十分です。そうした場合、設計者はオン/オフ制御、サイクル制御、最適サイクル制御、または位相制御を使用できます(図1)。これらの各方式は、それぞれに異なる性能特性を持っています。

  • 位相制御は、優れたソリューションサイズとコストで、最良の制御応答を提供します。また、ノイズ性能はほとんどのアプリケーションで許容可能なレベルです。
  • サイクル制御は、優れたソリューションサイズとコストで、良好な制御応答を提供し、卓越したノイズ性能を備えています。最適サイクル制御では、出力のオン/オフが半サイクルごとに決定されます。
  • ソリッドステートリレー(SSR)を使用したオン/オフ制御は、最小のソリューションサイズとリーズナブルなコストで、良好な制御応答を提供します。また、卓越したノイズ性能を備えています。

産業用ヒータ制御の電源スイッチングオプションの画像(クリックして拡大)図1:産業用ヒータ制御の電源スイッチングオプション。(画像提供:Omron)

位相制御と最適サイクル制御の実装

Omronは、オン/オフ制御、位相制御、最適サイクル制御を実装するためのいくつかのオプションを設計者に提供しています。その1つがG3PW-A245EU-Sで、定格動作電圧は100VAC~240VACです。他のモデルは、400VAC~480VACの動作電圧範囲を備えています。

このコントローラには、システムの稼働時間を向上させるヒータ断線検知機能が搭載されています。RS-485通信ポートは、変数の設定や負荷電流の監視に使用されます。

G3PWコントローラは、全稼働時間の監視に対応し、定抵抗負荷および可変抵抗負荷での使用に適しています。

多点パワーコントローラ

G3ZA多点パワーコントローラシリーズには、3相ヒータに対応した3相用最適サイクル制御が追加されています。ゼロクロスSSRと組み合わせて使用すると、低ノイズの電力動作が可能になります。1台のコントローラで最大8台のSSRを制御できます。さらに、ランプヒータ用のソフトスタート機能も組み込まれています(図2)。

OmronのG3ZA多点パワーコントローラの画像図2:G3ZA多点パワーコントローラは3相用最適サイクル制御に対応しています。(画像提供:Omron)

3相用最適サイクル制御は、3相ヒータ用に追加されました。G3ZA-4H203-FLK-UTUモデルは、定格電圧100VAC~240VACで、RS-485接続を備えています。他にも、400VAC~480VACの動作電圧範囲を持つモデルもあります。

システム統合用温度コントローラ

EJ1N-TC4A-QQなどの温度コントローラは、G3ZAシリーズの多点コントローラのようなパワーコントローラに接続できます。温度センサ用の入力だけでなく、システムPLC用の接続も備えています。入力部は、熱電対、白金測温抵抗体(RTD)、アナログ入力に対応しています。

機能には、PID(比例、積分、微分)制御の実行を支援するオートチューニング(AT)機能が含まれています。また、セルフチューニング機能により、ステップ応答法を用いてPID定数を手動で決定できます。1台のDeviceNet通信ハブで、最大16台の温度コントローラを接続できます。

熱管理ソフトウェア

EJ1N温度コントローラをEST2-2C-MV4熱サポートソフトウェアパッケージと使用することで、さまざまな利点があります。このソフトウェアを使用すると、パソコンでパラメータを編集して一括ダウンロードできるようになり、設定や性能検証のスピードアップにつながります。

また、最大31台のコントローラのトレンドモニタにも対応しています。監視できるパラメータには、現在値(PV)、目標値(SV)、操作量(MV)、PIDパラメータ、アラームのオン/オフステータスなどがあります。

論理演算機能では、外部入力(イベント入力)や温度ステータスからの入力設定、外部制御出力や補助出力への値の送信、オン/オフ遅延による動作状態の変更などに対応しています。

改良型PID

PID制御は、温度制御アプリケーションに非常に有用です。高速スイッチングSSRを搭載した、G3ZAシリーズの多点コントローラなどのパワーコントローラと、PIDアルゴリズムを用いる温度コントローラと組み合わせると、きめ細かな制御を実現できます。この制御は必要な温度公差を維持するために不可欠です。

基本的なPID制御では、測定可能な程度のオーバーシュート量で操作のSVを迅速に達成するか、SVへの立ち上がりの時間はかかってもオーバーシュートを最小限に抑えるかというトレードオフを伴います。さらに、SVの達成を優先させるか、センサで測定される実際のPVの外乱に対する応答を優先させるかというトレードオフもあります。PVの変化に対する応答を優先させると、多くの場合、SVの立ち上がり性能が悪くなります。

このような性能のトレードオフに対処するため、Omronは2自由度PID(2-PID)と呼ばれる強化されたPIDアルゴリズムを開発しました。工場出荷時のPIDプリセットはほとんどの加熱アプリケーションに適しており、オーバーシュートを最小限に抑えた応答特性を備えています。一方、2自由度PIDを使用すると、設計者はSVの変化に対する応答速度を設定できるほか、コントローラはPIDアルゴリズムを自動的に調整して、PVの外乱に対する最適な応答を提供します(図3)。

Omronの2自由度PID温度制御グラフの画像図3:Omronの2自由度PID温度制御(一番下のグラフ)は、良好な外乱応答性(右側)と良好なステップ応答(左側)を兼ね備えています。(画像提供:Omron)

2自由度PID制御はE5CC-QX3A5M-003など、OmronのE5CC温度コントローラに搭載されています。このコントローラは、それほど要求の高くない用途で基本的なオン/オフ制御を実装することもできます。

大きな白色の数値はPVを示し、小さな緑色の数値はSVを示します(図4)。オプションのCX-Thermo制御ソフトウェアを使用すると、プログラミング時間の短縮につながります。シンプルなアプリケーションの場合、このコントローラはPLCを介してタイマ機能や基本的な論理演算を実装できます。

OmronのE5CC温度コントローラの画像図4:E5CC温度コントローラはPV値とSV値を明確に表示します。(画像提供:DigiKey)

RS-485インターフェースは、Modbus通信やOmron独自のCompoWay/Fプロトコルに対応しています。また、以下のようなさまざまな入力タイプを受け入れることができます。

  • 12種類の熱電対
  • Pt100/JPt100のRTD
  • 4~20mA/0~20mAの電流入力
  • 1~5V/0~5V/0~10Vの電圧入力

外乱抑制に適した適応型PID

NX-TC適応型温度コントローラは、高度なPID制御でリアルタイムの動作条件に適応できます。適応制御により、プロセスの変化に応じた制御設定の自己最適化が可能になります。さらに、包装機のシーリングアプリケーション向けの機能や、水冷式プラスチック押出機向けの機能が組み込まれています。シンプルなアプリケーションの場合、基本的なオン/オフ制御を実装できます。

外乱抑制機能(DSF)は、PID制御と連動して、以下のようなアプリケーションで日常的な外乱や予測可能な外乱によって引き起こされる温度低下を抑制します。

  • 成膜装置:ガスの注入や材料の追加・取り出しによる扉の開閉により、チャンバー温度が低下
  • ウェハープローバ:ウェハーに電流が流れると温度が上昇
  • モールド装置:樹脂注入時に金型温度が低下

DSFは、予測可能なイベントによるプラスおよびマイナスの温度逸脱を自動的に抑制します。DSFは外乱が発生する前にトリガ信号によって起動し、MVを加算または減算します。このオートチューニングにより、フィードフォワード(FF)MV、FF動作時間、FF待ち時間が調整され、温度が安定するまでの時間を最大80%短縮できます(図5)。

DSFで強化されたPID制御のグラフ図5:DSFで強化されたPID制御は、温度が安定するまでの待ち時間を最大80%短縮できます。(画像提供:Omron)

SSR駆動用に設計された2チャンネルのNX-TC2405などのNX-TCユニットは、スケーラビリティに最適化されています。設計者はOmronのSysmac studioソフトウェアを使用して、多段加熱/冷却プロセスを実装する際に、複数の加熱回路や加熱箇所のプログラミング制御を行うことができます。

DSF PIDに加えてオン/オフ制御にも対応し、ヒータ断線検知機能を備えています。また、ネットワーク接続用のEtherNet/IPとEtherCATを搭載し、さまざまな熱電対やRTDセンサの入力を受け入れることができます。

最適化には測定が不可欠

電源スイッチング設計、温度コントローラ、温度制御ソフトウェアは、情報がなければ最適なパフォーマンスを発揮することはできません。温度センサは、コントローラやソフトウェアが役目を果たすために必要な温度データを提供します。設計者は、以下のような幅広い温度センサ技術を利用できます。

  • サーミスタは温度に敏感な抵抗器として機能します。通常、再現性と安定性は約±0.1°Cです。E52-THE5A-0/100Cモデルの動作温度範囲は-50°C~300°Cです。
  • Kタイプ温度センサは、クロメル導体とアルメル導体を含む熱電対です。浸漬型センサ、表面センサ、またはその他の方式でシステムに組み込むことができます。E52-CA1GTY 2Mモデルの動作温度範囲は0°C~300°Cです。
  • RTDセンサは高精度で電気ノイズに強いため、過酷な産業環境に適しています。E52-P6DY 1M白金測温抵抗体Pt100センサは、-50°C~250°Cの定格動作温度範囲を備えています。
  • ES1-LW100-Nなどの非接触赤外線(IR)センサは、直径35mmの対象領域の温度を距離1,000mmで測定できます。規定の最高温度は1,000°Cです。

組み合わせにより完全なシステムソリューションを実現

最大入出力が320点の小型~中型機械の設計者には、OmronのCP2Eシリーズ PLCという選択肢もあります。この小型PLCの通信機能は、マシンツーマシン(M2M)データ転送と産業用モノのインターネット(IIoT)への統合に対応しています。

CP2E PLCは動作温度範囲が-20°C~+60°Cで、包装機、シール機、充填機、キャッピング機、金属またはプラスチック加工ツール、プラスチック成形機、小型部品アセンブリなど、さまざまな産業アプリケーションに適しています。CP2E-N30DR-Dモデルは18点の入力と12点の出力を備え、100~240VACまたは24VDCの電源で動作します。NB7W-TW01B 7インチカラータッチスクリーンHMIと組み合わせることで、完全なシステムソリューションとなります(図6)。

OmronのCP2E-N30DR-DコントローラとNB7W-TW01B 7インチカラータッチスクリーンHMIの画像図6:OmronのCP2E-N30DR-DコントローラとNB7W-TW01B 7インチカラータッチスクリーンHMI。(画像提供:Omron)

まとめ

熱管理は、多くの産業プロセスに欠かせない要素です。そのため、最適化されたアルゴリズムを持つパワーコントローラとヒータコントローラを選択し、統合する必要があります。温度センサは、熱管理というパズルを構成するもうひとつの重要なピースです。最後に、設計者は、M2M通信とIIoTへの統合に対応した小型PLCの使用を検討することができます。

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著者について

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Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

ジェフ氏は、パワーエレクトロニクス、電子部品、その他の技術トピックについて30年以上にわたり執筆活動を続けています。彼は当初、EETimes誌のシニアエディターとしてパワーエレクトロニクスについて執筆を始めました。その後、パワーエレクトロニクスの設計雑誌であるPowertechniquesを立ち上げ、その後、世界的なパワーエレクトロニクスの研究グループ兼出版社であるDarnell Groupを設立しました。Darnell Groupは、数々の活動のひとつとしてPowerPulse.netを立ち上げましたが、これはパワーエレクトロニクスを専門とするグローバルなエンジニアリングコミュニティで、毎日のニュースを提供しました。また彼は、教育出版社Prentice HallのReston部門から発行されたスイッチモード電源の教科書『Power Supplies』の著者でもあります。

ジェフはまた、後にComputer Products社に買収された高ワット数のスイッチング電源のメーカーであるJeta Power Systems社を共同創設しました。ジェフは発明家でもあり、熱環境発電と光学メタマテリアルの分野で17の米国特許を取得しています。このように彼は、パワーエレクトロニクスの世界的トレンドに関する業界の情報源であり、あちこちで頻繁に講演を行っています。彼は、定量的研究と数学でカリフォルニア大学から修士号を取得しています。

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